リアクション
(・対クルキアータ戦3)
(指揮官機を狙う?)
御剣 紫音が訝しそうな反応を返した。
(闇雲に突っ込んでいっても落とされるのは分かっている。だが、あの青いイコンを超えるには、今の自分の限界を知っておきたい。そのためにも、多少無茶だが強敵と戦っておきたい)
紫色の機体に挑もうと言い出したのは、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)だ。
だが、一般機相手でさえ、ブルースロートがいなければ一瞬で全滅させらていたかもしれないと思わされたほどだ。
未だその機体は眼前に健在であり、何とか互いに距離を保っている状態である。
その後ろで、紫色のクルキアータが状況を窺っている。
(どうやって、あそこまで辿り着く?)
(一般機の足止めをブルースロートに行ってもらう。干渉能力の度合いにも寄るが……)
ひとまず、小隊間で作戦を立てる。
(……やってみます。だけど、オレ達だけで抑えるのは厳しいです)
蘇芳 秋人から伝わってくる。
(私のコームラントカスタムなら、一般機の射程外から砲撃が出来るわ。それに、位置取り次第じゃ四機ともカバー出来るはず)
と、コンクリート・モモ。
(ならば、俺達が前衛で一般機を引き付けよう)
(ちょっと、アール!?)
(大丈夫だ。策はある)
アール・エンディミオンと村主 蛇々も一般機だ。
(現在の戦場データ及び戦況を報告しますぇ)
綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)から、この訓練の現在の状況がアルファ小隊全機に送られてくる。
現時点で、一般機が三機撃墜されている。
が、小隊長と交戦したらしいドラッヘン小隊が壊滅。
(真司、本当にやるんですか?)
ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が不安そうに真司を見やる。
今二人が乗っているのは、いつもの【ヴァイスハイト】ではない。レイヴンTYPE―Eである。
シンクロ率が10%までしか出せないものの、今のところ二人とも特に悪い兆しはない。10%ではそこまで意識が混濁するようなこともないようだ。
それでも送られてくる情報は多い。そのため超人的精神である程度情報圧に耐えつつ、必要なものを半ば無意識下で選択している。
(――作戦を開始する)
(いけそうかい、蕾?)
(はい)
ブルースロートがそのための始める。
(私は壊れてもいい……エネルギーシールドを張りながら、クルキアータに干渉を……試みる……少しでも……秋人様の負担がなくなるなら)
一般機に向かって、干渉を行う。
(皆さん……今です……)
一般機の動きが鈍ったのを見計らい、【コームラントカスタム】からビームが放たれる。
干渉で自由を失ったクルキアータは機体を傾けるようにして、なんとかそれを避けた。
が、そこでアルファ小隊の攻撃は終わらない。
(アール、今よ!)
【ライネックス】から射出型ワイヤーが発射される。敵はアサルトライフルでそれを撃ち落とそうとしてくる。
それがアールの狙いだ。
銃口がワイヤーに向いている間に覚醒して急接近。
そのままビームサーベルでライフルを持つ右腕側に入り込み、腕を落とそうとした。
(速い!)
が、刃は空を切る。
そこへ二発目のビームキャノンが来る。咄嗟に距離を取るクルキアータ。
それに合わせて、その射程から一旦外れる【ライネックス】。
敵機はまだ指揮官機へとアルファ小隊のうち二機が突撃したことに気付いていない。
(ジャミングは上手くいってるようです)
小隊長機と目の前の一般機間での通信は行えないようだ。それだけでなく、おそらく敵のレーダーは支障をきたしていることだろう。
攻撃目標が「目視」可能なこちらの三機に定められているようだったからだ。
指揮官機へと向かっていくのは、【ゲイ・ボルグ アサルト】と【ヴァイスハイト】の二機だ。
「第一世代機だと思ってなめてもらっちゃ困るぜ!」
加速、高速機動で距離を詰め、不動の指揮官機へと大型ビームキャノンを放つ。
相手は避けようとはしない。ただ、ランスを薙ぎ払っただけでそれを裂いた。
(対ビームコーティングか。だったらこっちはどうだ?)
肩部に搭載されたマジックカノンで指揮官機を狙う。
さすがに、あの盾でも防ぎきれないと思ったのか、敵機は回避行動を取った。
(さあ、どれだけこのレイヴンを扱えるか……)
【ヴァイスハイト】が指揮官機に向かって、ワイヤーを巻きつけた実体剣を射出する。それを敵は弾くが、
「それで終わりだと思うな」
サイコキネシスでワイヤーを誘導する。機体から直接超能力を送れるため、10%でもある程度は問題なく操れる。
そちらに引き寄せるようにして、別方向からもう一方の手に握ったビームサーベルで斬撃を繰り出す。
が、敵はわずかな動きだけでそれをかわした。
それどころか、カウンターでランスを突き出してくる。
ブルースロートが覚醒を行い、エネルギーシールドを展開する。それによって、敵からの攻撃を止めるはずが、
(シールドが……破られる!)
サイコキネシスによる速度向上だけでは間に合わない。【ヴァイスハイト】も覚醒を使用し、緊急回避を行う。
どうやら実体のランスは対ビームコーティングだけではなく、同じようにエネルギーによるシールドは突破出来るらしい。
回避のための覚醒だったが、一瞬だけに留めたのが、彼の失敗だった。
(何っ!)
敵は態勢を立て直すどころか、そのまま飛び込んできたのである。
(味方は落とさせない!)
【ゲイ・ボルグ アサルト】も覚醒。マジックカノンを最大火力でクルキアータの指揮官機に向けて放つ。
敵の対応は的確だった。
(――――っ!!)
盾をマジックカノンの前に投げ捨て、そちらを振り返ることなく【ヴァイスハイト】を串刺しにする。
そのまま勢いよく振るい、シールドで殺しきれなかった分の火力を【ヴァイスハイト】を盾にすることで防いだ。
敵はAI。
感情はない。だからこそ、躊躇いなく最も確実な方法を取っただけである。
そして、シミュレーターであるがゆえの最大の弊害がある。
AIに殺気はない。感情を持つほどの高度なプログラムではないのだ。それが、【ゲイ・ボルグ アサルト】の反応をわずかに遅らせた。
(いつの間に!)
そう、【ヴァイスハイト】を盾にしたままマジックカノンの射線を辿ってきたのである。
紫音の駆る【ゲイ・ボルグ アサルト】は射撃戦向きに改造された機体だ。
回避上昇、覚醒でランスの突きをかわす。
ビームサーベルを引き抜き、今度は接近戦を挑む。
だが、彼もまた真司と同じように、覚醒を瞬間的にしか使おうとしなかった。
距離を取り大型ビームキャノンを構え直すが、その換装が行われる一瞬n指揮官機は急加速して間合いを詰めた。
ビームキャノンを叩き壊し、今度は【ゲイ・ボルグ アサルト】を横薙ぎにする。
【コームラントカスタム】からの支援砲撃が来たが、既に遅かった。
大破した【ゲイ・ボルグ アサルト】は制御を失う。
真司達に続いて、紫音達も仮想空間から追い出された。
* * *
「いくッスよ、ルーチェ」
狭霧 和眞が白兵戦に持ち込めるように距離を保つ。
『今から敵機へ干渉を試してみる。まだ効果が薄いようならジャミングじゃ』
【アルキュオネー】からその旨を聞き、連携を行う準備を始める。
『その間の防御は任せて』
蒼澄 雪香と蒼澄 光の【フレイヤ】がエネルギーシールドを展開する。御厨 縁が集中出来るように、その間の守りを担うというわけだ。
無論、その【フレイヤ】にも邪魔が入らないようにしなければいけない。
『こちらDW―C1。DW―C2と一緒に、他の機体の足止めをするよ』
天王寺 沙耶からだ。
単体で倒すのは困難だが、戦っている味方に近づけさせないようにすることくらいは出来る。
【ドラッケン】が実弾式汎用機関銃による弾幕を張るために、クルキアータとの距離を縮める。
ただし、相手のアサルトライフルが当たるかどうかのギリギリのラインを見定める。
ブルースロートによる防御支援は確かに強力であるが、シールドを削られるというのは、機体そのもののエネルギーを削られるに等しい。
あまり食らい過ぎるとシールドが弱まるのもそうだが、それ以上に機体の稼働時間に影響が出ると厳しいのである。
【ドラッケン】より離れたところからは【ジャック】が狙撃を行い、弾幕を張る沙耶達をカバーする。
レイヴンの基本機能であるサイコキネシスの出力を行うことにより、射程距離を通常よりも延ばすことが可能だ。
10%では自機の補助にしか使えないとはいえ、十分に役に立つ。
『確実に決めるよ――覚醒!』
コームラント二機が覚醒を行う。
【フレイヤ】もそれに合わせ、三機の性能の底上げを図る。
それでも機動力そのものはクルキアータの方が上だ。だが、相手も覚醒機体相手では距離を置かざるを得ない。
無闇に近付きダークウィスパーのレーダー圏内に入れば、狙撃の命中率が上がるからだ。AIが危険な策を取るのことは少ない。
逆に言えば、生身のパイロットは予期せぬ行動を取ったりするから強いのであり、あくまで「正攻法」のみを忠実に実行するAI相手ならば互角以上に戦えないとこの先は厳しいだろう。
そしてその正攻法への対処が、このダークウィスパーの変則編成だ。小隊全体の機動力が犠牲になってしまってはいるが、その分防御に関しては目を見張るものがある。
レイヴンTYPE―Cのジャックのシンクロ率が上がり、自力でシールドを張れるまでになれば、それはさらに増すことになる。
今後の戦いでは相手を墜とすこと以上に、こちらが墜とされないことが何よりも重要になる。
それは先の戦いでF.R.A.G.の強さを見せ付けられたダークウィスパーの面々だからこそ強く実感しているものだ。
【アルキュオネー】と【トニトルス】が狙いを定めていた機体が、動きを止める。
『今じゃ!』
この二機も覚醒を起動する。
相手への干渉能力の向上、そして一気に決めるために。
金縛りにあったかのようなクルキアータに向かって、【トニトルス】がグレネードを投げつける。
敵の装甲が硬いのは分かっている。
それに、干渉で動きを止めていられる時間は長くはないだろう。
ならばこの「一瞬」をフルに活用する。
グレネードが起爆しクルキアータから煙が上がると同時に、【トニトルス】は敵機の真上に位置取る。
そのまま機体を傾け、海面と平行になる。その態勢を維持するのは困難だが、これもわずかな時間だけだ。
至近距離からのグレネードに耐えたものの、【アルキュオネー】からのジャミングの影響からか、発見されていない。
それ以前に、真上に陣取っているために、その姿を見失っている可能性もあるが。
「食らえ!!」
ショットガンの集中砲火をクルキアータに浴びせる。
確かに、正面からの攻撃に対してはクルキアータは鉄壁ともいえるほどだ。
だが、この位置からなら敵の頭部センサーや背部にも弾を叩き込める。そして、絶え間なく全弾が尽きるまで撃ち続け、ようやくクルキアータが制御を失い墜ちていった。