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リアクション
(・訓練終了)
そして対F.R.A.G.の想定訓練が終了した。
撃墜機体数は四機。
被撃墜数は五機。ただし、それらは全て指揮官機にやられたものであり、一般機に撃墜されたものはない。
訓練参加者達は、各々のデータのチェックを始めた。
「覚醒を使って、ようやくですか……」
秋穂は戦闘中の動きを確認した。
自分達の動きそのものに、極端な問題はない。
が、それは例え覚醒を使ったとしても、現時点では一対一では勝てないことを示していた。
(強くはなりたい。だけど、そのために次世代機に乗り換えるべきなのでしょうか……)
足りないのは純粋なパイロットとしての腕で、【セレナイト】でもまだ戦えるのではないか。
そう思いつつも、彼は第一世代機での限界を痛感していた。
「蕾……よくやった、な……また頼むよ」
「……ありがとうございます……秋人様……次も何なりとご命令を」
蘇芳 秋人らも、データを見返す。
確かに小隊の援護に徹することは出来たが、まだまだ課題はある。
エネルギーシールドをも突破する攻撃をしてくる可能性があることに気付いた。ジャミングや干渉をもっと上手く使うことも今後は必要になりそうだ。
「まだまだだわ……」
ボソリと呟く声があった。
モモである。
「こんなんじゃ全然ダメ……居残り特訓よ!」
モモが共に戦ったアルファ小隊の面々に持ちかける。
「意気込んでるところ悪いが、これからシミュレーターのメンテナンス作業だ」
と、技術者から告げられたため、特訓は断念することに。
「く……」
悔しそうにしているモモに、
(モモ、友達出来て一緒に特訓したいだけなんじゃ……それって、ギルティ〜)
とギルティが漏らしたが、当の本人には聞こえなかったようだ。
「ゾディ、顔色悪いわよ!?」
「いえ、問題ありませんよ。ただ、少々疲れますね」
シミュレーターから出てきたアルテッツァは、タブレットケースを取り出し錠剤をがぶ飲みするかのように口に放り込んだ。
「次こそは、ちゃんと排除出来るようにしませんと。実戦でこんなんでは、生き残れない。ボクは生きなければいけないんですよ……例え周りを犠牲にしてでも」
そのためにも、もっとシンクロ率を上げてレイヴンを操らなければ。
まるで何かに憑かれたかのように、アルテッツァは力に執着していた。
(さて、ある程度「適性」も見えてきましたね)
そんな彼の様子を遠めに、風間はレイヴン搭乗者のデータを分析していた。
(ドクトル、やはり正しいのは私の方ですよ。強靭な精神力だとか、感情論を解いたところでそんなものは幻想に過ぎない。烏丸君達のリミッターを外しておいたのは正解でした)
口元を緩め、数組のレイヴンのパイロット達のデータを見つめる。
テストパイロットのうち、「最適化」の実行によって完全に見込みがなくなった茅野 茉莉達を除いた三組と、対クルキアータ、通常訓練で今回初めて搭乗した六組のうち三組。
柊 真司とヴェルリア・アルカトル、高峯 秋とエルノ・リンドホルム、そして別途シミュレーションを行った榊 孝明と益田 椿の三組。
うち、詳細なデータが示されているのは強化人間のみだ。そして、テストパイロットのうち、橘 早苗の欄には「唯一の例外個体」とある。
他の五人に共通する事柄が、彼女にはない。
その共通項とは、「過去の記憶を失ったことがある。あるいは過去をほとんどもたない」ということである。
(もう少しだけ、君達には役立ってもらいますよ――『完全適合体』を完成させるために)
* * *
「みんな、お疲れ様」
訓練が終わり、
クローディア・アッシュワース(くろーでぃあ・あっしゅわーす)と
シャーリー・アーミテージ(しゃーりー・あーみてーじ)が沙耶達を含むダークウィスパーの面々を出迎える。
クローディアは今回の訓練結果を考慮した機体整備を行うため、データを閲覧しに、シャーリーは調査したことを沙耶に知らせるためだ。
「聖カテリーナアカデミーに関してですが、アカデミーの方は元々、長い歴史を修道院だったようです。それが近代に入って旧教系の学校になり、2012年に契約者養成機関として再編されたとなっていました」
日本で言えばミッションスクールのようなものである。
「その校長であるシスター・エルザという女性ですが……ほとんどが謎に包まれてます。契約者ではあるようですが、パートナーの種族は不明。魔道書――聖書の正典か偽典、守護天使、あるいは英霊のいずれかではあるようです。聖人から造られた魔鎧とも。『移ろわざる者』の異名を持ち、シスターと呼ばれていますが実質は大司教(アークビショップ)みたいです」
シスター・エルザの写真を提示する。そこに写っているのは十二歳くらいの少女だ。
「枢機卿になる前のマヌエル氏が彼女について聞かれたとき、『彼女の前では嘘も真も、善も悪も意味をなさない。彼女が特別な力を持っているわけでもない。正直、「君が直接会えば分かる」としか言いようがない』と彼女について詳しい言及が出来ないほどです」
そんな人物がなぜF.R.A.G.と提携したのか、その理由も分からないままだった。
* * *
訓練の後、オリガは五月田教官の姿を発見した。
ここ最近の教官はどこか物憂げな様子でいることが多い。
新学期が迫っているせいもあるのか、多少パイロット科の教官達も慌しそうにしていることがある。
「何が始まるんです?」
「同窓会だ」
一瞬、「?」となる。
「……今のは忘れてくれ」
それより、と教官長が続ける。
「ブルースロート、初めてにしては随分上手く扱っていたな。まあ、『守るため』っていうのは実にお前らしいな」
ポン、と肩を叩いて、五月田は去っていった。