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「ご趣味はバイク、ご希望の進路は教職、というわけですわね」
 ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)の問いに、神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)は頷いた。
「では、詳しくは後程お伺いしましょう。それで他の方の進路は──」
 ラズィーヤがエレンの横に視線を滑らせる。
 ソファに座っている三人のパートナーは、三者三様の態度と返答だった。
「もちろんエレンの嫁である! ずっとエレンと一緒にいるのである!」と、両手にはパーティ会場から持ち込んだお菓子を握りしめ、迷いなく言い切るプロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)
「さぁ、まだ分かりませんわ。わたくしはドレスですから、エレンの秘書としてお手伝いができれば……」ぼんやりと返答するアトラ・テュランヌス(あとら・てゅらんぬす)
「……り、立派なレディーになること……です……」赤面して俯き、口の中でもごもごと答えるエレア・エイリアス(えれあ・えいりあす)
「──と、いうわけですの」
 エレンがまとめ、ラズィーヤは、四つのファイルに目を通すと、エレンのものを一番上にして、テーブルに置いた。
「エレンさんに皆さんついていくおつもりなのね。好かれていらして羨ましいわ。ところでエレンさんは、百合園の教師になるおつもりですの?」
 エレンはパートナー達を見やってから、頷いた。
「将来はパラミタに永住して百合園の教師になりたいのですわ。
 まあ、理想の世界を作りたいならば、その方法は『教育』をおいて他にないというのが私の考えですから。人は受ける教育によってその常識や思考の基本を作り上げますわ。
 そして子供を育て、一番長くそばにいて影響を与えるのは母親、つまり女性ですもの。女性の教育をしっかりとすることが世界を作る一番の近道ですわ。もっとも1000年ぐらいはかかるでしょうけど。みながのんびりと幸せに暮らせる世界に早くなってほしいですわ」
「百合園の教師でしたら、パラミタ校では教員免許がなくても、教師になれますわよ。勿論、免許をお持ちの方が、生徒達からの信頼をより得られるでしょうけれど」
 というのも、教員免許どころか、契約者自体に少年少女が多く大人が少ないのだ。それもあって、パラミタ校では、免許を要求されない。
「その教員免許のことで困っていますの。百合園の教師になるのに百合園で教員資格を取る方法がないのですわ。教員課程を短大部の大学院として新設したり出来ないものかしら?」
 実は百合園女学院の短大には、教職課程がある。
 ただ、短大卒では二種免許状しか取れない上、そもそも学部が文学部と音楽学部のみという関係上、幅広い教諭の資格が取得できない。
「そうですわねぇ……ご希望の資格がなければ、百合園のではなく一般論としてですけど、教員資格の認定試験に個別に合格するという方法もありますわね」
 ラズィーヤはそれから紅茶を一口。
「それから、大学院の話ですけれど……他にもご希望の方がいらっしゃいますから、大学院ではなく短大の次のステップをご用意することは、できるかもしれませんわ。
 専攻科を設けて、教育関係や別の学科の勉強をさらに一年、二年していただいて、学士の学位や各種の資格を取っていただく、というものですのよ。といっても、成果を提出していただいて、合格して初めて受け取れるものですけど。
 進学を望まれる方が多いようでしたら、そうですわね……日本の教育機関へ連絡の上、認定専攻科として設けることが出来ればと思いますわ」
 短大を卒業しても、まだ百合園に籍を置きたい、と思ってくれている生徒が沢山いることを、ラズィーヤは嬉しく思っていた。
「それに、学士の資格が取れれば、次は他の大学院でも修士を目指せますし……進路も広がって、きっと皆さんにとってもいいことだと思いますわ」
 それでは次の質問。
「エレンさんが親しみを感じている人はいまして? いたらどんな子かしら?」
「いわゆる問題児といわれたり、周囲から浮いてしまっている子に親しみを感じるというか、放っておけませんわね。
 それに悪を知る者、闇を知る者や悲しみや苦しみを知る者こそがそれらに対してもっともよく対応が出来るのですもの。毒を持った花こそ花園を害虫から守るのですわ」
「毒はいいですけれど、花園の外観を守る美しい花でいてくださると嬉しいですわね」
 ラズィーヤは微笑んで、
「尤も、美しいだけの花では困りますけれどね」