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「……招待されたはいいものの、こういう場は少々苦手だな」
 黒髪の下から周囲をさりげなく見回して、彼は呟いた。
 元から悪い目つきが、見慣れないところだと睨むようになってしまう。周囲のお嬢様方が怯えないといいが。
 だが、彼が見つけるよりも声が耳に飛び込んでくる方が先だった。彼女はいつも人に囲まれているからだ。
(あれが、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)、か)
「……相席、失礼する」
 軽い会釈をして、四条 輪廻(しじょう・りんね)は賑やかなテーブルに着いた。
 居心地が悪い。女性はどうも苦手だ。
「お気になさらないで、楽しんでくださいませね」
 ラズィーヤの化粧のほのかな香り、華やかなドレスが、何を考えているか分からない微笑が、余計居心地を悪くさせる。
 だがこんな貴族のお嬢様を一見体現したような女性が、豪傑だとは。
「初めまして、だな……イルミンの四条輪廻だ」
「初めまして、ラズィーヤ・ヴァイシャリーと申しますわ」
「こういった場所には慣れないが……何度か作戦にも参加させてもらったことだし、指揮官の顔でも拝ませてもらおうと思って、な」
 それだけ言って、ノートを取り出すと、視線を落とし、会話とは全く別のことを書き始めた。
 内容は、「ドラゴン型イコンの性能の所感および、『変形機構を廃し、生産性拡張性を向上、機動性に特化し、生存性を生かした一撃離脱戦術の有効性』」などなど。
 以前の戦闘からいろいろ書き連ねていたが、所々に消した跡がある。それに更に追記をしていく。ラズィーヤには見られても見られなくても、どちらでも良かった。彼女の判断に任せるつもりだった。
 そんな輪廻にラズィーヤはそれ以上の声をかけずにいたが。
「……くだらない独り言だ」
 輪廻は暫く書き連ねてはまた消したり、悩むように筆を止めてから、ぼそりと呟くように言った。
「戦争だからな……何人も死んだ、当たり前のように、忠義のために、守るべきもののために、利のために、権のために、引き金一つで人形のように、スイッチ一つで紙切れのように。指がそれを迷うことはない……すでに慣れた……戦う理由も、あるのだろう、戦っているのだから」
 ラズィーヤは、それを耳だけで聞いている。
「それでも、いつまでこんなことが続くのだろうな、早く、終わって、頭も指も、もっとくだらないことのために使えればいいのにな」
 ラズィーヤの視線が、輪廻の、紙の上に向けられた目を見る。視線は、合わない。
「……くだらん独り言だ……聞こえていたらすまないな……ふぅ、帰るか」
 独り言だけを残し、輪廻は席を立った。
「もうお帰りになるの?」
「ああ、パーティーを辛気臭くするのも悪い」
「では、お望み通りにいたしますわ」
 ──何も聞かなかったことに。
 ラズィーヤはそれを言外に含ませて微笑んで、そして、輪廻の背中を見送った。