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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第3回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第3回

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終章 


「ねえ風間。パラミタの国家神のシステムって面白いと思わないかい?」
「ああ、神がいなければ国じゃない、でしたか。下らない」
「そうじゃないよ。要は、真ん中に『国家神』があって、国民が信仰することでそこにエネルギーが集まるんだ。それで、集まったエネルギーで国家神の力が強くなり、国民に分配される。これの発想をちょっと変えると面白いことになる」
「そんな非科学的な馬鹿げたものを、どうやって科学に置き換えるというのですか」
「君は本当にオカルトや宗教が嫌いなんだなぁ。まあ、要はだ。真ん中に来るのを『意識の集合体』だとしよう。集合意識。SFとかにあるよね。意識があって、それを共通とする端末個体の生命体がいる。これに対し、集合的無意識というのは、バラバラの意識の根底が繋がっているという考え方……だったかな」
「ユングに謝って下さい」
「まあ聞きなよ。ここで、これまでの考え方を全部統合してみる。つまり、集合意識と集合的無意識の両方が同時に備わっている状態だ。普段はバラバラな個だけど、中心となっている――コア、あるいはマザーとでもしようか、があるプログラムを入力すると個は全となる。その中心となるのが、仮にパラミタの国家神――生物的定義内の存在だとしたら、普段は普通の人だけど、有事の際は統一された意思の下で全体として事に当たる。でも、その場合中心となる人は全国民の記憶を所有することになる。裏を帰せば、誰かが死んでもクローン技術か何かがあって、さらに記憶を刷り込む装置があれば人間を復元出来るってことになるよね。なーんて、さすがに馬鹿げてるし、そもそも倫理的にアレだよね」
「しかし、実現出来るとしたら興味深いですね」


・全ては


 海京で発生したクーデターは、海京の地下組織――その実体は天御柱学院のOB会であったが、彼らとPASDによって送り込まれた契約者達によって無事に鎮圧された。
 首謀者と目されていた天住 樫真は既に存在せず、強化人間管理課の課長、風間 天樹が黒幕であったという知らせが入るのは、無事にシャンバラと地球の分断が阻止された後になってからのことである。
 被害状況は、天沼矛内部を除けば、北地区に集中している。次いで、西地区、東地区、南地区であり、南地区はほとんど皆無である。
 民間人の被害者はゼロ。
 国軍駐屯地は一個連隊規模であるが、生存者はクレア・シュミット大尉率いる中隊二百名である。
 これは、国軍がクーデターの対処の際、民間人に犠牲が出ないよう駐屯地にクーデター戦力を集中させたためであるとされ、政府への報告書の中には、被害の大部分は化け物染みた性能を持つパワードスーツ「ストウ」によるものである、と表記された。
 しかし、これは後に現場を訪れた調査団から提出されたものを、政府が改ざんしたものである。
 現実には、パワードスーツ「ストウ」による死者は二名である。また、被害を与えたのは強化人間エキスパート部隊に所属する強化人間百名程度によるものである。むしろ、その方が書面においては「虚偽」と疑われても仕方ないものだ。しかし、実際には国軍内に手引きした者がいる可能性が示唆されている。
 このクーデターにより、オーダー13下にあった強化人間のほとんどが意識不明で搬送された。海京の病院だけでは足りなかったため、空京にも送られている。
 また、管区長五人のうち、生存者はルージュ・ベルモント、設楽 カノンの二名だ。しかし、両者とも命に別状はないとはいえ、重症であることに変わりはない。
 天沼矛はクーデター勢力により、イコンハンガーが一つ使用不可能となった。それだけで、天沼矛内にあるイコン施設の四分の一である。
 空海京を結ぶ天沼矛の運転は、海京の都市機能が復旧するまで、及び施設の修復が完了するまで見合わせることになった。
 なお、クーデターの後、コリマ校長も解放された。
 しかし、実際は精神干渉を破れたにも関わらず、あえて傍観していた可能性もあると一部から疑いを持たれている。
 現在、強化人間部隊、並びに役員会を含む天学上層部は壊滅状態である。
 今後は、生徒主導の新体制の整備が、海京復旧作業の中で進められていくことになるだろう。

* * *


「やっぱり、頭は潰されていたか」
 クーデターが終息した直後、風間の遺体の前に一人の人物が訪れた。
 風間はクーデターが始まる前から、複数のプランを同時に走らせていた。Aが駄目ならB、Bが駄目ならC、といった具合に。
 その中には、自分が死んだ場合というのも当然含まれている。むしろ、彼は自分自身さえも道具として捉えていた。
 そして、クーデターの目的だが、風間=天住の口から出たものは、全てが真であり、また偽である。要求も、受け入れられないとして提示していたが、受け入れられた場合のその後のプランも考えてあり、実際に学校勢力の解体は、十人評議会が望んでいるものである。
 あくまで「実験の総仕上げ」というのも、オーダー13の有用性の確認という点では、似たようなシステムを運用したことのある科学者もおり、世界各国の軍部に提供する技術データとして重用出来る。
 しかし風間の真の目的は、決して語られないものである。
(彼が来たのは、確かに好都合だった)
 無論、代替案はあることにはあった。ただ、強化型Pキャンセラーの時間が切れるまで話に付き合ってくれたのは意外だった。おかげで、死を偽装することが出来た。
 もっとも、風間ならば自分が本当に死んでしまったときでも、目的に支障はきたさない。
 クーデターを起こす前に風間から記憶を読ませてもらった段階で、その場合のプランは知った。そもそも、三年前に唯一発現したこの記憶の読み取りと書き換えの能力がなかった場合、自分でその技術を作りだす計画も練っていたというのだから恐れ入る。
 無数の記憶を持つ生命体を核に、その一つ一つの記憶を端末とすることで、一であり全である存在を造り出す。核となる人間が発する指令一つで、一と全、全と一が切り換えられる。それを人類規模まで広げたらどうなるだろうか。
 風間の目的はそれだ。
 今は、そのために自分の存在がある。
 あと必要なのは、ドクトルの持つ能力活性薬の作り方と、完全適合体となった零号の記憶。
 風間のジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出す。
 そして、遺体の傍らにいた夕条 媛花の額に手を当てる。
「今までご苦労様。記憶は戻すよ。一年前の七月に。君が始まる前に。そう、これは悪い夢だ。ようやく君は夢から覚め、ただの少女に戻る」
 そのまま媛花の身体は倒れた。
 風間のスマートフォンを操作し、電話を掛ける。
「やア、ミスター・テンジュ」
「やあ、ウェスト博士。今回のデータと海京の全強化人間のDNAサンプルがあれば、君のクローン技術と合わせることで計画は次の段階に移すことが出来るよ。実際、クローン強化人間兵では色々な問題点も浮き彫りになってるだろ?」
「確かにナ。こちらとしても助かル」
「元々技術としては同系統なんだ。まあ、よろしく頼むよ」
 そう言って、黒川は電話を切った。

* * *


「ねえ、ローゼンクロイツ」
「何でしょうか?」
 ジズの肩の上に座り、ノヴァとローゼンクロイツは水平線上にある海京を眺めていた。
「『今回』の結果はどうだったんだい?」
「誤差の範囲内です」
「相変わらず君の言葉は分からないなあ」
 そして、ノヴァは立ち上がる。
「さて。一万年前、突如として海底に沈んだ大陸の一部が地上に現れたら、みんなどんな反応するんだろうね?」
 ノヴァの能力、フォーディメンションズにより、海底に沈んでいた都市が海上に出現する。
「生まれて初めてだよ。こんなに大規模な空間操作をしたのは」
 その街並みを前に、ノヴァは声を発した。

「さあ、始めよう。――『創世計画』の最終段階だ」