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燃えよマナミン!(第1回/全3回)

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燃えよマナミン!(第1回/全3回)

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【1】入門万勇拳!……2


「とりゃあああああ〜〜!!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は勢いよく蹴りを放った。
 すさまじい速さで虚空を打つ奥義『無影脚』、脚の影すら地面に残さぬと言う連続蹴りである。
 しかも、ミニのチャイナドレスを着てるとなれば……別の意味で破壊力抜群なのは言うまでもないことだろう。
 見えそうで見えないパンチラキック、男子門下生の中にありがたやと一礼する姿も見受けられたほどだ。
「すごぉーいっ!」
 愛美は拍手を送った。
「えっへん。足技は得意中の得意だからねぇ〜。こんなのお茶の子サイサイだよぉ〜だっ!」
「いいなぁ」
「愛美だって脚きれいだし、きっと脚技を覚えたら映えるんじゃないかなぁ?」
「ええ〜でもパンツ見えちゃいそう……」
「もう、恥ずかしがってちゃ強くなれないしっ」
 美羽は自分が着てるのと同じミニのチャイナドレスを押し付ける。
「裾が長かったら、脚が動かしづらいしねっ。これで羞恥心なんて捨てチャイナよぅ!」
「絶対無理〜〜!」
「ちょ、ちょっと、暴れるならこっちにこないでよ」
 美羽のパートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は眉を寄せた。
 コハクは住むところのない老師のため、ダンボールハウスを作っているところだった。
 じゃれ合う二人を追い返し、もくもくとハウス制作に没頭、最後に『万勇拳道場』とマジックで書いて完成した。
「今年の冬はこたえるからね。これですこしはマシになるといいな」
 公園の片隅に佇むダンボールハウス。なんだか一般人が近寄りがたくなったのは気のせいだろうか。
 しかもとなりでベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は中華粥を作ってる。
 ダンボールハウスと炊き出し。公園定住者とボランティア団体を彷彿とさせる組み合わせである。
 ますます一般人が近寄りがたくなったのは言うまでもない。
「ぜぇぜぇ、抵抗するじゃない……!」
「そんな短いのヤーダー!!」
「しょうがないなぁ。じゃあ絶対にパンチラしない技を覚えればいいじゃない」
「そんな技あるの?」
「ほら、万勇拳の秘伝書のコピーにあるこの『斧刃脚』とかピッタリ、いわゆるローキックだよっ」
 美羽は実演して見せた。
「なんだか地味だな」
 言ったのはバンカラ少女の姫宮 和希(ひめみや・かずき)
「でも、結構実践的な技なんだから……って、な、なにしてるの?」
「なにって回転飛び浴びせ蹴りの修行に決まってんだろ?」
 美羽と愛美は首を傾げた。
 それもそのはず、和希は足を使って中華粥にパクつきつつ、携帯でメールをピコピコ打っていたのだ。
「足技はやっぱ細かい動きができねーとな!」
それじゃただのマナーのない人だよ……
「おいおい、細かいこと気にするなって。武闘家たるものいついかなる状況にも対応出来ないとダメじゃん?」
「……にしても、どうして浴びせ蹴りなの? あんまり強そうには見えないけど?」
「ああ、俺も不思議なんだが、俺的に他の技よりも決まる確率がいいんだよな、この回転飛び浴びせ蹴りは」
「ふぅん」
「ほら、見ててくれよ」
「!?」
 和希は身体を大きく捻った勢いで豪快に蹴りを放ってみた。
 するとスカートがふわりと舞った。美羽よりも断然おおっぴらにスカートがまくれたのである。
 パンチラ……いや違う。先人はこの神秘の現象に相応しい言葉を遺している……『パンモロ』と。
「どうだったどうだった?」
「……マナミン思うに、その技をまともに食らったのって男子ばっかりじゃなかった?」
「おお、よく知ってんな!」
「むむむ、パンモロなんて邪道だよっ! パンチラで済ませるのが乙女の恥じらいってもんでしょう〜っ!!」
「ああん? 何わけのわかんねーこと言ってんだ、美羽?」
 悪気なく振りまく甘酸っぱい性に、男っぽい和希はまだ気付いてないようだった。


 青心蒼空拳の使い手風森 巽(かぜもり・たつみ)
 ソークーイナヅマキック、青天霹靂掌に続く、新たな必殺技を体得するため、彼もまた万勇拳の門をたたいた。
「マスターミャオ、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
「不肖の弟子じゃがよろしく頼む」
 師である菩提 達摩(ぼーでぃ・だるま)も巽ともども丁寧に礼をする。
「弟子が増えるのはマジありがたい限りじゃが……よいのか? 他流に師事するのを禁忌とする一派もあるというが?」
「他流派の修行をする事で見識や視野も広がるじゃろう。これもまた青心蒼空拳の修行じゃて」
「ほほう、にゃんたる寛容な流派よ……」
「空に枠が無い様に、青心蒼空拳にもこれといった決まりもない。流派は違えど、目指す頂は皆同じはずじゃて」
 それに達摩は弟子集めに身を砕く老師の思いはよくわかる。
 受け継ぎ、磨き上げてきた技を、意思を受継いでくれる者、その不在は一流派の当主として無念なことだ。
「気の練り方、整え方……我流な部分が多かったから、きっちり学んで体で覚えとかないとな……!」
 巽は老師の指導をしばし受けたあと、門下生たちとの手合わせに入った。
 これまでの我流の気功術をここでは忘れ、両掌を胸の前で合わせ、丁寧に丁寧に気を練り高めていく。
「気の扱いには一日の長があるようですね……」
 白星 切札(しらほし・きりふだ)は言った。
「どんな技かはわかりませんが、あなたの中で大きな力が膨れ上がるのを感じますよ」
「それはこちらも同じです……!」
 次の瞬間、巽が一気に間合いを詰めた。
「はああああああ!! 奥義『三火遅延返脚』!!!」
 必殺の三段蹴り。足に溜め込んだ気を烈火の如く放出する奥義である。
 単純な蹴りによるダメージだけでは終わらない。
 返し忘れたレンタルビデオの延滞料金の様に、気によるダメージがじわじわと相手の体力を奪う恐るべき技なのだ。
「……奥義『切札』!!」
 一点集中で気を集束させた反撃の蹴りが一閃。
 銃使い特有の身のこなしで、上半身をほとんどブレさせずに必殺の蹴りを放った。
「うおおおおおおおおお!!」
「はああああああああ!!」
 刹那の攻撃の末、弾かれたのは三火遅延返脚を放った巽のほうだった。
 一撃の威力は切札が勝る……がしかし、遅延返脚の追加効果によって、切札の身体を気がゆっくりと蝕む。
「なるほど。興味深い技ですね……」
「連撃に対して一撃……相手にとって不足はありません。ここを超えなくては、技の完成ははるか遠い……!」
 対峙する両者だったが……ふとそこに割って入る影があった。
 奈落人物部 九十九(もののべ・つくも)の憑依した鳴神 裁(なるかみ・さい)である。
 趣味であるフリーランニング及びXMAの新技研究のため、万勇拳の門を叩いた少女だ。
「自分の必殺技ばっかり見せびらかしてずるーいっ! ボクの必殺技も見てよっ!」
「!?」
 目に見えるほどの凄まじいオーラをともなって、放たれる技は必殺の『虎鳴万勇脚』
 猛虎の如きオーラを纏い、空を裂いた蹴りから聞こえる音は虎の咆哮を思わせる……といわれる奥義だが。
にゃぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁん♪
「はれ?」
 聞こえたのは、とんでもなく間の抜けた音だった。
 自分を包むオーラを見る。そこにあったのはまごうことなき、虎……ではなくて虎猫だった。
「ええっ、なんでぇ〜? ああこら、顔を洗うんじゃぁない!
『にゃぁぁぁぁぁん♪』
『たぶん気の量が足りないのですよぉ〜?』
 身に纏う魔鎧のドール・ゴールド(どーる・ごーるど)がアドバイスする。
 インナータイプの魔鎧なのでパッと見はわからないが、ドールはぐぐっと裁の肢体を引き締めた。
 ドールの力が上乗せされ肉体が活性化、超人的な肉体を得るとともに全身から発せられる気の量がみるみる増える。
「力が湧いてくる……!」
『これだけの気があったらもう猫なんて言わせないのですよぉ〜?』
『にゃぁん♪』
 しかし、オーラで出来た猫はおっきくなるだけで、ちっとも猛虎感をかもしだすことはなかった。
「ちょ老師、どういうことですか話が違うじゃないですか、虎じゃなくて虎猫なんですけど〜!」
「技には性格が出るものじゃ。おぬしは虎と言うより猫っぽいんじゃろう、たぶん」
「う、嬉しくないよぉ〜」
「ともあれ、ここに踏み込んできた以上は手合わせ願いましょうか」と巽。
「ええ、例えどんな相手であろうとも、全身全霊を持って闘うのが、万勇拳における最低限のマナーです」と切札。
「ちょ、ちょっと待って!」
 再び組み手を始めた三人を老師は見守る。
 その隣りで、大地の戦士マグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)がジッと彼らの攻防を見ている。
 かわいらしい子猫とまぁまぁ巨大なロボがならんでる姿はなんともシュールである。
「……おぬし」
「なんだ?」
「さっきから見てるだけのようじゃが、おぬしも修行してみんか?」
「遠慮しておこう。この身体は人間の技を学ぶには適していない。肉体の稼動域が違い過ぎる」
「折角、よい身体をしているのにもったいないのぅ」
「まぁそもそも俺の場合、修行で技を身につけるんじゃなく、技データをインプットせねばならんからな」
 そうして相棒の近衛 栞(このえ・しおり)を指した。
「……代わりにコイツが入門する」
「よろしくお願いします!」
 本格的に武術指導を受けたことはないが、見よう見まねでテコンドーやカポエラの技を使う少女である。
 そんな彼女は目をキラキラさせ、蹴り技を繰り出す三人の手合わせを見た。
「シャンバラに伝わる技は拳を使った技ばかりだから、ちょうど蹴り技を学びたいと思ってたんです」
「ほう、ではやってみるがよい」
「え? いいんですか?」
 よーし、と腕まくりすると先ほどの虎鳴万勇脚を見よう見まねで放ってみた。
『ガアアアアアアアアアアアア!!』
 虎の咆哮を思わせる音が轟いた。勇猛な虎のオーラを纏ったまま、栞は手合わせする三人に飛び込む。
「あ、あれ? 出来ちゃいました!?」
「……お見事」
 思わず巽と切札は拍手を送った。
ちょっとちょっとぉ、なんでボクだけぇ猫なのぉ〜〜?
ごろごろにゃ〜♪
 悲しくも立ち場のない九十九だった。