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星影さやかな夜に 第一回

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星影さやかな夜に 第一回
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 とある路地裏。
 そこで<根回し>でコルッテロに情報屋として入り込んだ佐野 和輝(さの・かずき)は、パートナー達に話をしていた。

「詳細は秘密だが、ちょっと面白い情報を手に入れた。
 ヴィータという少女が、面白い魔術の実験を行うというものだ」

 和輝の言葉に、パートナーの一人禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)はくくくと笑う。

「ほう、面白い情報を手に入れたな和輝。
 そいつは結果をこの目で見なくてはならんな」

 対して、もう一人のパートナーであるアニス・パラス(あにす・ぱらす)は暢気に口にする。

「魔術? 面白そう〜♪」

 パートナーの反応は上々。
 それどころか、自分と同じように興味を持ったと考えても良いだろう。

「ああ。
 だから、俺は協力すると共に観察させてもらおうと思う。いいか?」

 和輝の言葉に、二人は頷く。
 そして、ヴィータに協力を申し出るために、歩き出した。

「なんだ、貴様。ヴィータの居場所は分かっているのか?」
「ああ。
 あいつは今、昼食を終えて元の場所に帰っているらしい。今が協力を申し出るには最高のタイミングだ」

 和輝は二人をつれて、進んでいく。
 「ふんふーん♪」と鼻歌を歌いながらついていくアニスの後ろで、『ダンタリオンの書』は静かに笑い、一人ごちた。

「しかし、私の知らん召喚術がまだあるとは……ふふっ、素晴しい小娘じゃないか」

 ――――――――――

 とある建物の屋上への帰り道。
 ヴィータは路地裏とも呼べないビルとビルの細い道を歩いていく。

(…………)

 そんなヴィータを朝からずっと追跡する者がいた。
 その者の名前はエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)
 『盲目白痴の暴君』と出会わなかった彼はついに自我を失い、理性の無い怪物となった。彼自身が盲目白痴の怪物であるかのように。全てを喰らうだけの怪物へと。
 だが、自分と似たような臭いのモノに興味をもったのか、その臭いを辿っていたのだった。

(…………)

 異物を引き寄せる者には異物の匂いが付きまとうもの。
 ただ、その匂いを、自分に似たその匂いを追って、エッツェルは追跡する。
 禍々しい怪物は、物陰や隙間など人の入れぬ場所にまで入り込み、興味を惹いたモノを観察する。

(…………)

 襲い掛かりはしない。
 べっとりと絡みつく殺気の篭ったその瞳で、ヴィータの行動を観察する。

(…………)

 その行為に意味などなくて。
 理解などできはしないのに。
 純一に、無心に、虚心に、純粋に。ただ、興味をひかれて。

(…………)

 例えどこに逃げたとしても、異物の臭いは取れはしない。
 ナラカの瘴気よりも濃い『ソレ』を嗅ぎ付け、何処まででも追いかけていくだろう。
 ヴィータという魂にこびりついた異物の臭いを追いかけて。

(…………)
「……そろそろ隠れてないで出てきたら?」

 ヴィータは物陰に潜むエッツェルに視線をやって、問いかける。

「そんな獲物を喰らう獣のような殺気を放ってたら、どこにいてもバレるわよ?
 折角、あなたのために一人になったのに。出てきなさいよ。ねぇ……エッツェル」

 名前を当てられても、エッツェルは反応しない。
 構わず、ヴィータは言葉を続ける。

「ふーん……だんまりね。
 まぁ、危害がないのなら別にいいわ。いつまでもついてきなさいな。人間を止めちゃった怪物さん」

 ヴィータはエッツェルから視線を外し、また歩き出した。
 そして、しばらく歩いた時。

「あら? あなた達は……」

 待ち伏せするかのように立っていた和輝達を見て、口を開いた。

「確か……コルッテロに雇われた情報屋だよね。わたしに何か用?」
「なに、別に対した用事じゃないさ」

 和輝はヴィータを見つめながら、口を開く。

「主催者だけだと、準備が忙しくてゲームを楽しめんだろう?」
「……あら、まるでこれから起きることが何か知っているかのような口ぶりね」
「いいや、知らないよ。だからこそ知りたいんだ。これから、なにが起きるのか。
 こちらは今回のゲームの結末が見れれば満足なんでな。それを特等席で見るために、君に協力を申し出ようと思って」
「ふーん……まぁ、誘い文句としては合格点ね。で、わたしへの見返りは?」
「俺とアニスは街や組織などに対しての情報収集を。リオンは君に知識の一部を分け与える、ってことでどうだ?」

 和輝の申し出に、ヴィータはしばし考え、口を開いた。

「まぁ、いいわよ。それで」
「じゃあ、協定を結ぼうか」
「ええ、口約束だけどね」
「それで十分さ。こちらは裏切る気などハナからないんでな」
「わたしは裏切るかもしれないけどねー。じゃ、わたしについてきてくれる?」

 ヴィータはそう言うと、三人をつれて歩き出す。
 と、途中で「そうそう」と呟いてから、和輝に言った。

「組織の情報は欲しいけど、街の情報は別にいらないわ。
 わたしはこの街のこと、多分他の誰よりも詳しいから」