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星影さやかな夜に 第一回

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星影さやかな夜に 第一回
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 十七章 誰も知らない夜の底で

 どこかの路地裏。
 星の明かりも月の光も届かないその場所で、坂上 来栖(さかがみ・くるす)はつまらなさそうに呟いた。

「やれやれ……これも一興と相手してやったはいいが」

 来栖は自分の周りに目をやる。
 辺りにはコルッテロに雇われた傭兵達が息も絶え絶えな様子で倒れていた。

「……こうも雑魚ばかりとはな。
 見た目に惑わされ力量も測れない、そこらのチンピラと大差ないわ。なぁ、傭兵共よ?」

 来栖の侮蔑を孕んだ問いかけに、倒れる傭兵達は答えない。いや、答えられない。
 それは声を出すのも無理なほど、来栖によって痛めつけられたからだった。

「何であれこの私に挑んだんだ、殺してしまっても良いんだが……。
 祭りだしな、多めに見てやろう、何より今日は後片付けをする奴を連れてないし」

 来栖はそう言うと、自分が座っていた倒れた傭兵の背中から腰をあげた。
 だるそうに首を左右に曲げ、軽く伸びをする。そして、倒れる傭兵達を見下して、

「とはいえ手間賃位は貰うぞ? うっかり死なないよう気を張っておけ」

 傭兵達の血液によって出来た血溜まりに手を伸ばす。
 ぴちゃんと音を立て触れると、来栖は<エナジードレイン>で吸血を開始。
 地面に流れる夥しい量の血液は瞬く間になくなり、同時に倒れる傭兵達は更に衰弱した。

「……ふぅ、やはり上等な味ではないな」
 
 来栖は不満そうな表情を浮かべ、言葉を続ける。

「もう少し歯ごたえのある奴が来てくれても良いんだがな。例えば……」

 来栖は顔を上げる。そこは一寸先も闇の空間。
 しかし、<殺気看破>で気配を探り、<ホークアイ>の視力を持った彼女の瞳には誰かが映っているようだ。

「随分と上から眺めて気分が良さそうじゃないか? ん?」
「……あらら、ばれてたのかー」

 来栖の問いかけに、女の声が返ってくる。
 と、共に上空から一人の少女が降りてきた。そいつは何故か名酒の空瓶を持っているヴィータだった。

「良く気づいたね。気づかれない自信あったのに」

 ヴィータは音もなく地面に着地し、酒臭い息を吐いて、にんまりと笑みを浮かべる。

「そりゃ気づくさ。あの雑魚共との戦いの最中、ずっと見られてたらな」
「そっかー。いやいや、ごめんねぇ。
 やる事全部終わってあんまりにも暇だったからさー、酒の肴にとついつい見物してたんだよね」

 ヴィータは来栖を見つめながら、言葉を続ける。

「でさぁ、ものは相談なんだけど……」

 軽く手首を曲げ、ヴィータは空の瓶を投げる。狙いは来栖の顔。
 それを片手で払いのけのけた来栖は、瓶が地面で割れる音を聞き、そして自分の胸に信じられないものを見た。

「悪いけど、死んでくれない?」

 手前で刃が静止している。
 ヴィータが一瞬の隙に大型の狩猟刀を抜き取り、来栖の胸の前にやったのだった。

「戦いをずいぶん見たからウズウズしてて。
 解消するために久しぶりにお酒を飲んだけど、やっぱダメみたいだからさぁ」

 鼻と鼻がぶつかるほどの至近距離。
 ヴィータはゾッとするほど冷たい瞳で来栖を見つめる。しかし、そんな状況で来栖は微塵も動揺せず、

「――まだやめておこう」

 《肉体の変貌》で蝙蝠に変化し、瞬きする間にヴィータの背後へと回り込んだ。

「どうせそんな事を言っても、お前も今本気出すつもりなんて無いんだろう?
 それでいいよ。私も一つだけ忠告するだけだから」
「……へぇ、お聞かせ願えるかしら?」

 ヴィータはそう口にすると、素早く反転して距離をとった。
 来栖は何をするわけでもなく、淡々とした様子で口を開く。

「何するつもりだか知らないけど、思い通りになると思うなよ?
 恐らくは私の他にも何人かはいるだろう、お前の計画を滅茶苦茶にする奴が」

 来栖はそこまで告げると、踵を返して片手を上げた。

「ま、気をつける事だ」

 最後にそう言うと、来栖は《肉体の変貌》で無数の蝙蝠も変化し、《歴戦の飛翔術》で飛び去っていく。
 ヴィータは上空に飛んでいく蝙蝠を見上げながら、ポツリと呟いた。

「……あぁ、ダメ。もうダメ。我慢できない。あんな極上の獲物と出会っちゃったら」

 ヴィータは来栖にやられた傭兵達に目をやった。
 どうやら体力は少しだけ回復したようで、彼女を見た各々の目に恐怖の色が宿り、「ひっ」と怯えた声を洩らした。

「ねえ、あなた達」

 呼吸に熱がこもる。上気した頬には赤みが増す。
 彼女は狩猟刀の刃に舌をゆっくりと這わせ、言葉を続けた。

「この火照り、収めさせてもらえる?」

 ――――――――――

 数十分後、そこは惨状と化していた。
 その血の海に立つヴィータは発散できたのか、元通りの様子。
 夜風に乱れる髪に手を当てながら、彼女は言う。

「あれ、もう死んじゃったの? ……つまんないなぁ」

 周りには鮮血が、腕が、足が、肉片が、内臓が、脳漿が、飛び散っていた。
 彼女は鼻をつく濃厚な血の香りを満喫し、唇についた彼らの血液を舌で舐め取って、

「モルス。残さず食べちゃいなさいな」

 パチンと指を鳴らした。
 刹那、<降霊>された醜悪な《嵐のフラワシ》であるモルスが、傭兵達だったものを一心不乱に食べ始める。

「アアアアアアアあああぁぁぁぁぁぁぁぁァァァぁァぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 歓喜の咆哮と共に脳漿を吸う音、肉片を味わう音、腕や足を骨ごと租借する音が、路地裏に反響する。

「まあ、そこそこ楽しめた……かな? うーん、不完全燃焼な気もするけど……」

 その悪夢のような光景の中、平然と返り血を払い身なりを整える彼女の姿は、見る人がいれば死神と見違えることだろう。

「……それにしても計画を滅茶苦茶、ねぇ」

 ヴィータは来栖の言葉を思い出し、薄笑いを浮かべた。
 それは侮蔑の笑みか。それとも期待の笑みか。

「きゃは♪ やれるもんなら、やってみなさいよ。
 でも、わたしはかなり強いし狡猾だから、一筋縄にはいかないと思うけど」

 彼女は己の力に微塵の疑いもない。
 笑顔で悪意を振りまき、その絶対的な自信は揺るがない。

「まあ、ゲームの一幕目『全てのハジマリ』はわたしの想定どおりに終わったから……。
 次に始まる二幕目、『ハイ・シェンの再誕』は無茶苦茶にしてくれるのかしらね?」

 ヴィータ・インケルタの楽しげな声。そこにあるのは、加虐の響きだった。

「さぁ、次のゲームをハジメマしょうか――」

担当マスターより

▼担当マスター

小川大流

▼マスターコメント

 最後まで読んで頂きありがとうございます。マスターの小川大流と申します。
 この度は「星影さやかな夜に 第一回」にご参加頂きありがとうございました。

 今回の物語は如何でしたでしたでしょうか。
 少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。

 今回、時間の都合上で個別コメントは称号をお送りした方、ご招待をした方、私に対してコメントやリアクションの感想などをお書きになってくださった方以外は非常に簡素なものとなっています。
 申し訳ありません。次のシナリオこそは絶対に絶対に絶対に絶対に、皆様に個別コメントをお送りします。皆様が嫌でも、吐き気を催すほど嫌でも、小川の個別コメなんていらねぇよと思っていらしゃっても、お送りします! ええ、絶対に!!

 それでは、また皆様にお会いできる日を楽しみにしております。