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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)

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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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「ああ、もう出発しちゃってるよ。おねーちゃん、急ごうよ」
 空中桟橋を離れていくフリングホルニを見て、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が叫んだ。
オクスペタルム号、方向転換ですわ。面舵いっぱーい」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が、大型飛空艇オクスペタルム号の舵を切った。
 フリングホルニに連絡を入れて、その後を追尾する。
 オクスペタルム号は、普段、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)が事務所としても使っている大型飛空艇だ。イコンを搭載することもできるが、今回は人員不足のため、砲手としての特戦隊とメイドロボを砲手として乗せて、ノーン・クリスタリアが指揮している。
「それでは、ちょっと挨拶に行って参りますわ」
「いってらっしゃーい」
 ノーン・クリスタリアに見送られて、エリシア・ボックは空飛ぶ箒ファルケに乗ってフリングホルニへとむかった。
 
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「ふう、もう少しで乗り遅れるところだったわ」
 シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)の両目を手で隠しながら、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がほっと安堵の息をついた。彼女たちの乗る貨物用リフトには、小型飛空艇アルバトロスが一緒に載っている。どうやら、出港ぎりぎりで無理矢理乗ってきたらしい。
 反対側の貨物リフトでは、少し前に到着したセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)たちが、小型飛空艇を移動させているところであった。
「それでは、私はこちらで待機しておりますね」
 IDカードをもらうと、エリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)がセフィー・グローリィアに言った。
「分かりました。では、あたしたちは、契約を結んでくるとしましょう。いきますよ、オルフィナ」
 エリザベータ・ブリュメールと別れると、セフィー・グローリィアがオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)と共にエステル・シャンフロウ(えすてる・しゃんふろう)に会うために第二艦橋へとむかう。
「じゃあ、また後でね」
 山葉加夜も、イコンの調整に残ったノア・サフィルスと別れて第二艦橋へとむかった。
 
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 各フロアの行き来は、ブリッジ中央のエレベーターでできるようになっていた。全体からすると、船尾楼の位置になるだろうか。
 サブブリッジとしての第二艦橋は、作戦指揮所としての性格が強い作りとなっていた。中央にモニター機能を有した作戦テーブルがある。
「ここからだと、甲板がよく見渡せますね」
 窓から、外の様子を見渡して、山葉加夜が言った。
 雲海の雲をかき分けながら、フリングホルニが進んでいる。
 その甲板には、ちょうど飛行訓練中から駆けつけてきた清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)の乗るシパーヒータイプのアシュラムが着艦するところだった。相対速度を合わせたアシュラムが、ストンと飛行甲板の上に着地して片膝を着く。
 艦内から見下ろすと、背のマントが風に大きくはためいている。それを手で掴んで翻すと、アシュラムが安定した足取りでブリッジ下のリフトにむかって行った。
 強風の中、甲板に作業員以外の人影が見えるのはエリザベータ・ブリュメールだろうか。
 ややあって、滑走路に二機の飛行機タイプのイコンが着艦態勢に入った。
「着艦軸合わせ。クリア。逆噴射準備。メインブースターからフローターへ」
「了解。着艦します」
 エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)に言われて富永 佐那(とみなが・さな)がスロットルを絞った。ファスキナートルのコバルトブルーの機体に合体しているイコンホース・クリスニツァがエナジーウイングを広げて浮力を確保する。
 フリングホルニの甲板上に、数本のアレスティング・ワイヤーがポップした。機体下部のアレスティング・フックを出し、ファスキナートルがフックをワイヤーに引っ掛けて着艦する。これは、従来の空母における航空機の着艦機能だ。
 垂直離着陸のできるイコンは、本来であれば滑走路を必要としない。どちらかといえば、ヘリ空母のような運用が正当であり、甲板上に垂直射出装置を備えたパーソナルカーゴをならべるか、船体下部に開放式投下ハッチを装備するのが最も効率はよい。だが、省スペースは着艦技術も精度を要求するものとなると同時に、特殊性が汎用性を上回るというデメリットがあった。そのため、従来型の空母と似たデザインの物の方が、今後どんなイコンが出てきても対応できるというメリットがあった。
 事実、フリングホルニの飛行甲板は、後部にブリッジがあるため、着艦時はそれが邪魔になると同時に、オーバーラン時の危険性も増している。だが、飛行空母という特殊性と、イコンともども空中静止のできる特殊性が、低速の相対速度を安易に作りだせるというメリットを有し、従来と違うデザインを可能にしていた。また、滑走路上に展開される最新の機晶フィールドカタパルトは、戦闘速度での航行時でも高速で安全に艦載機を発着艦できるというメリットもあった。コイルガンに似た原理で、機晶フィールドで順次中の物体を加減速するカタパルトだ。発進時はマスドライバー的な加速、着艦時はマスキャッチャー的な減速が可能になっている。
 ただし、いきなりでは驚いてしまうだろうと言うことで、現在の着艦にはフィールドカタパルトはまだ使用されてはいなかった。
 もともとは、まだ推力の低いヴァラヌス・フライヤーのためのカタパルトではあるのだが、むしろファスキナートルのような航空機型のイコンの方が、カタパルトのメリットを十分に生かせるとも言えるだろう。
 ファスキナートルはスフィーダの改造タイプだが、そのフォルムはどちらかというとフィーニクスに近い。補助推進器としてのイコンホースと合体しており、そのクリスニツァが広げるエナジーウイングが美しい機体だ。
 今ひとつの滑走路には、対照的なメタリックグレイの機体が着艦していた。佐野 和輝(さの・かずき)アニス・パラス(あにす・ぱらす)の乗るブラックバードだ。
 フィーニクスをベースとしたブラックバードは、より航空機に近いフォルムをしている。ファスキナートルと同様にイコンホースを追加推進装置として搭載しているが、ファスキナートルが飛行機晶石によるフローターの高機動性に特化しているのに対し、ブラックバードはどちらかというとブースターとしての性格が強くなっている。その分、航続距離と電子線能力に特化した機体だ。ファスキナートルが威力偵察用の機体だとすれば、ブラックバードは純粋な偵察機と言えるだろう。
 到着した者たちが第二艦橋で待っていると、そこへデュランドール・ロンバスが現れた。エステル・シャンフロウの親衛隊長だ。
「本艦は進路を南東にむけ移動中だ。シャンバラ大荒野に入る手前でいったん停止し、そこで艦隊を編成することとなる。それまでは、ここでくつろいでいてほしい」
 後ろについてきたコレット・パームラズが、ワゴンで押してきたコーヒーセットを各人に配っていく。
「アトラスの傷跡に直接むかっているはずでしたが、何か変更でもあったのですか?」
 第二艦橋に清泉北都と一緒に入ってきたばかりのクナイ・アヤシが、デュランドール・ロンバスに訊ねた。
「敵は南下したとの情報があるのと、味方の艦隊が南方からやってきているのでな。合流ポイントとしては、アトラスの傷跡の北部よりも、南部の方が時間的に有利だという結論だ」
「そういうことです」
 デュランドール・ロンバスの言葉を、ちょうどやってきた富永佐那たちが受け継いだ。
「現在、HMS・テメレーアを中心とする、ウィスタリア土佐伊勢の四隻からなる艦隊がこちらへむかっておりますわ」
 エレナ・リューリクが、増援艦の名前を挙げて説明する。彼女たちは、その艦隊から先行してやってきたのであった。
「艦隊連動は、合流までに全艦でとれるようにしておくつもりだ。時間を無駄にしたくないんでな
 佐野和輝が言うと、彼の後ろに隠れるようにしていたアニス・パラスがこくんと無言でうなずいた。
「北部ルートを取れば敵後方に回り込めるが、それではそれぞれの艦隊との連動プログラムを直接やりとりできないので、作戦がスムーズに行えないという判断からだ。それに、遠回りなので、時間的に間にあわない可能性が高い」
「でも、それでは、正面からぶつかることになるよね」
 ちょっと面白そうに、ルーシッド・オルフェールが言った。
「多少の認識の違いはあるが、まあそれに近いな。どのみち叩き潰す相手だ、たとえ正面からでも、諸君らなら遅れは取るまい?」
 試すように、デュランドール・ロンバスが言った。
「正式なブリーフィングは、今少しメンバーが集まったところで、シャンフロウ卿を交えて行う。それまでは、ここで待っていてもらおう。館内見学は、常識の範囲内であれば自由とする。ただし、IDがなければ拘束対象となるので注意されたい。以上だ」