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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)

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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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「最初は、シャンフロウ市の領主の地位の簒奪が目的かと思われた。ソルビトールは暗殺という卑怯な手を使ったのでな。だが、全権を掌握した奴は、都市の資金や兵糧を根こそぎ持ち出して、大規模な私兵を編成したのだ。そして、そのまま、世界樹へ奇襲をかけた」
「そんなに凄い軍隊だったの?」
 ロートラウト・エッカートが聞いた。
創龍のアーグラが出たという話だが。竜騎士団の長が出るほどの相手だったのか?」
 エヴァルト・マルトリッツが、事前に聞いていたことを思い出して言った。
「創龍のアーグラ様は、世界樹の防衛をその任となされているからな。別段、相手の大小にかかわらず、防衛に出てきても不思議ではあるまい」
「さすがは、アーグラ様だね。以前第三騎士団と一緒に戦った者としては、光栄なんだな」
 ちょっとわざとらしく、ブルタ・バルチャがアーグラを讃えてエステル・シャンフロウたちの反応をうかがった。どうも、ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)らがエステル・シャンフロウの人となりを気にしているようなので、できるだけ調べて教えてやろうという考えらしい。
「奴らの主張は、陛下が国家神ではないと言うものだ。なんともばかばかしい主張ではないか。まったく、最近は狂信的な者が多くて困る。さて、敵の数は少ないものではなかったが、それでも帝国の首都を攻撃するには明らかに戦力不足だ。そのような敵に、第三騎士団が後れを取るはずもあるまい。当然の結果として、ソルビトールの私兵はあっけなく敗走したわけだが……」
「捕り逃がしたのですか?」
 それは幾分手落ちだなあと、ベアトリーチェ・アイブリンガーが思った。
「逃げ足だけは素早い敵でな。それに、第三騎士団が世界樹から離れて追撃するわけにもいかないだろう」
 デュランドール・ロンバスが説明したが、それにしてはちょっと変ではあった。別の騎士団を追撃に当てればいいだけのことではないか。
「現在、各騎士団は自己の所領に滞在しているのでな」
 デュランドール・ロンバスが答えた。
「実は、似たような反乱が、帝国各地で起きているのです」
 エステル・シャンフロウの言葉に、デュランドール・ロンバスが「それは……」と止めかけたが、エステル・シャンフロウはそれを制した。
「隠すまでもなく、シャンバラでもその動きは察しているでしょう。お互い、隠しごとをしていては、信頼は築けません」
 エステル・シャンフロウの言葉に、すかさずブルタ・バルチャが嘘感知を行った。雇い主であり、帝国の領主に対して非常に失礼な態度ではあるが、エステル・シャンフロウとしてはむしろ都合がいいとばかりに、その行為を咎めようとする者たちを制した。
 ブルタ・バルチャが大人しく引き下がる。言外に、嘘ではないと物語っていた。
「だったら、恐竜騎士団に任せればいいものを。事実、迎え撃つ準備はしていたんだろ?」
 なんだかややこしいなあと、酒杜陽一が言った。
「でも、手は出すなと本国から命令があったみたいよ」
 自ら恐竜騎士団へも籍をおくリカイン・フェルマータが答えた。
「帝国の問題ではありますが、シャンバラの国内で正規軍が戦闘を行うわけにはいかないでしょう。それゆえ、帝国は私にこの空母を返還し、単独で討伐するように命じたのです。叔父……、いえ、ソルビトールの反乱で、現在の我が領には、正規の兵と呼べる者がほとんどいません。かろうじて、この艦に乗っている者たちが戦力のすべてです。こんな私たちが敵と戦うためには、傭兵を雇うしかありません。それは、自然とシャンバラの傭兵と言うことになります。ですから、これはシャンバラの兵による戦いということにもなるのです」
「だから、ややっこしいって。たまには、恐竜騎士団に手柄を立てさせてやればいいのに」
 そうすれば、恐竜騎士団の評価も少しは上がるのにと、酒杜陽一が言った。
「それだったら、簡単でしたのですけれどもね」
 ちょっと素に戻って、エステル・シャンフロウが苦笑する。政治の駆け引きというものは、やはり、ときにばかばかしくも思えてくる。だが、それをうまく操るのが、エステル・シャンフロウの投げ込まれた世界のルールであった。
「それにしても、国家神を疑うとは……。仮に暗殺に成功したとしても、自分が国家神になれる保証はないでしょうに。それとも、また、例の教団が絡んでいるのでしょうか?」
 今ひとつ敵の真意が分からないと、クナイ・アヤシが首をかしげた。
「エリュシオンでも変な宗教が流行ったりしてるのかなぁ。こっちでもグランツ教とかって変なのが流行ってるしね〜」
 ミネシア・スィンセラフィも肩をすくめる。
「そのなんとか教のことは分かりませんが、背後は竜騎士団も調べてはいます。それもまた、正規軍がそちらに手を取られて動きにくくなっている理由の一つではあるのですが……。いずれにしろ、首謀者を捕まえなければ、真相は分からないでしょう。そのためにも、できれば、ソルビトールは生きたまま捕まえてほしいところです。もちろん、状況によっては、皆さんは自分の身を第一に考えてください。あの男のために命を落とす必要は、これっぽっちもありませんから」
 エステル・シャンフロウが、きっぱりと断言した。
「現在判明している情報は、ソルビトールがニルヴァーナを目指していると言うことだけです。恐竜騎士団からの情報によると、敵はアトラスの傷跡を目指しているようです。ええと、そこに何かあるのでしょうか?」
 さすがにシャンバラのことに精通していないエステル・シャンフロウが、一同に訊ねた。
「ああ、あそこには、機動要塞アルカンシェルが月に行くための補給基地があるはずだよぉ。なんだか、最近拡張工事もしていたみたいだけどぉ。そこから月にあがると、月基地にゲートがあって、最初の回廊を通って、ニルヴァーナへ行くことができるんだよぉ」
 清泉北都が、エステル・シャンフロウに説明した。帝国も月ゲートのことは知っているはずだが、最近はゴアドー島のゲートがメインで利用されているので、半ば忘れ去られているようなものであった。
「ニルヴァーナに逃げたとしても、そこに何があるというのかのう」
「まさか、黒幕がいて、そこに秘密基地があるとか?」
 名も無き白き詩篇の言葉に、御凪真人がまさかねと言う顔をした。
「だいたい、月ゲートは最大でイコンぐらいしか通れないのじゃが」
「まあ、月に行くには、アルカンシェルでしかいけないから。それとも、敵の艦はアルカンシェルのように宇宙へ行ける性能を持っているのですか?」
「スキッドブラッド単艦では、とうてい出力が足りないはずだ」
 御凪真人たちの疑問に、デュランドール・ロンバスが答えた。
「おそらくは、その補給基地に、宇宙へと行くための何かがあるのだろう。ちなみに、敵艦スキッドブラッドは、このフリングホルニの先行試作艦であり、同様の気密処理が施されている。宇宙空間での行動に支障はない。問題があるとすれば、大気圏脱出速度が得られるかどうかだが、パラミタでは地球の非常識が一部まかり通るからな、絶対にできないという保証はない」
「それ以前に、ニルヴァーナへ行くということ自体がブラフの可能性はないのか?」
 レン・オズワルドが口をはさんだ。本気でアトラスの傷跡の宇宙港を制圧するのであれば、こちらの態勢が整わないうちに奇襲をするのがセオリーである。ところが、敵はすでにイルミンスールの森でその姿を発見されてしまっている。その結果が、エステル・シャンフロウの艦隊の結成に直接結びついてもいる。これではあまりにも、間抜けではないか。ニルヴァーナへむかうと見せかけて、他に真の目的があるのではないのだろうか。
「その可能性は、無視はできないだろう。だが、その真の目的がなんであるのか、分かる者がいるのか? いずれにしても、ソルビトールを確保すれば分かることでもある」
「その通りだな。ゆえに、気を引き締めなければ。何かを企んでいるのは間違いがなさそうだ」
 デュランドール・ロンバスの言葉に、レン・オズワルドがうなずいた。いずれにしても、対応は余儀なくされている。
「それに関しては、先行偵察を提唱します。すでに、そのための小隊も編成済みです」
 富永佐那が進み出て言った。一緒に、アニス・パラスにぴったりとひっつかれた佐野和輝も前に進み出る。
「それは重要ですね。許可します」
 エステル・シャンフロウが、それを認証した。
「偵察も大事だけど、問題は敵の戦力だわ」
 ちょっとじれったさそうに、ジヴァ・アカーシが言った。