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リアクション
「くくく……。ようやく俺様の出番のようだな。勝利を称える観客たちの喝采が今から聞こえてくるようだぜ」
さて、一回戦も第四試合に突入して。
いよいよ、“あの男”が立ち上がった。
パラ実生たちの期待を一身に背負って、ピンクのモヒカンも雄々しいゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が、大会の舞台に姿を現す。
パラ実のイベントでホーム開催の格闘大会なのに、パラ実生が負けるわけには行かない! 熱い使命を抱いて気合が入っていた。まあ、一割くらい。
残りの九割はおっぱいである。
収穫祭なのに、どうしてタネ“揉み”祭りじゃないんだ? 彼は真剣に憤っていた。
すべてのおっぱいは俺様のものである! それをこの大会で証明して見せよう!
ゲブーは、観客たちが見守る中、特製イコンキング・王・ゲブー喪悲漢を操りリングに上がった。
キング・王・ゲブー喪悲漢は、パラ実のイコン喪悲漢にカボチャランタン状のかぶりものをつけたもので、ジャック・オー・ランタンの形をしている。ちょうどハロウィンに適した機体だ。誰にも見向きをされずに朽ち果てようとしていたジャックオ喪悲漢に、ゲブーが命(モヒカン)を注ぎ込み愛情を込めて育てたイコンなのだ。負ける気が全然しなかった。
「あのちっぱい女、この俺様に愛情表現のキックを叩き込んでくれるとは! もしかしてだけど、俺様が欲しくてたまらないんじゃねえの!?」
モテる男はつらいねぇ、ゲハハハハハ! とゲブーは笑う。
抽選会で蹴り倒された後、救護室のベッドで出した結論だった。抱きしめてちっぱいを揉んでやろう。ゲブーはすでに鼻息も荒い。
「どこからでもかかってきやがれ! 俺様がおっぱいを揉んだ女の子は、全員嫁なんだぜ。ゲハハハハハ!」
「いよっ、兄貴かっこいいじゃん! おっぱいはどうでもいいけど、兄貴のモヒカンすげーイカして光ってるよ!」
キング・王・ゲブー喪悲漢のコックピットでは、サブパイロットのバーバーモヒカン シャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)が、パフパフと応援のラッパをかき鳴らした。
この大会では、ゲブーの士気をあげるために、応援に力を注ぐつもりだ。
「うわぁ……、なにあのキモいの? どうしてあんなになるまで放っておいたのよ?」
反対側から登場した小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、対戦相手のゲブーを見て眉をひそめた。
ちらりと観客席に視線をやると、パートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が申し訳無さそうにちんまりと身を縮めていた。抽選会で、ゲブーと当たるブロックを引き当ててしまって後悔しているらしい。そんなことで怒る美羽ではないし、そもそも彼女がコハクにクジを引かせたのだから文句はないのだが、あまり長いお付き合いをしたくない対戦相手だ。下品なモヒカンはさっさと産廃処理場へ送ってやろう。
グラディウスは金色に輝く機体で、背中には真紅のマントを羽織っていた。肩部には蒼空学園とロイヤルガードのエンブレムが描かれており、非常に見栄えのいい機体だ。
「大丈夫ですよ。普通に戦えば負けませんから」
サブパイロットのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が美羽に言う。ベアトリーチェは、温厚で優しい性格の女の子なのだが、ゲブーのような手合いにまで遠慮することはない。駄目なものははっきりとお断りしましょうね、と微笑んだ。
「まあ、すぐに終わるからいいけどね」
美羽は気を取り直してグラディウスを進めた。
愛機のグラディウスは、蒼空学園が開発した第一世代機イーグリット・アサルトをベースに改造を極限まで施した機体だ。それもかなり真面目に。無駄な遊び要素は省いて選び抜かれた機能で磨き上げられている。最新鋭機と遜色のない戦闘能力を保有しているのだった。こちらも、負ける気は全然しない。
「お二方とも準備はいいみたいだから、第四試合を始めるぞ」
桂輔は、もう試合運びに慣れてきて、順調に進行させていた。キング・王・ゲブー喪悲漢とグラディウスをリング上で見合わせる。上空のウィスタリアも監視する中、試合開始の合図を出した。
「では、レディー、ゴー!」
「遠慮なく、サクッと先制攻撃よ」
美羽は気負った様子もなくグラディウスを動かした。
手持ちウエポンの一つである【ガトリングガン】を、開始早々ぶっ放す。同時に、肩部の【ミサイルポッド】から多連装ミサイルが発射された。
ダダダダダダダダッッ!
「ぎゃあああああっっ!?」
グラディウスの攻撃は狙いあやまたずキング・王・ゲブー喪悲漢に命中した。襲い来る砲弾の嵐に翻弄されキング・王・ゲブー喪悲漢はリングの上で切りもみする。
「はいはい、全部受け取ってね」
美羽は、【ガトリングガン】と【ミサイルポッド】を全て撃ちつくすつもりだ。多少強引に前進しながらもキング・王・ゲブー喪悲漢に照準を合わせ続ける。【絶対命中】のアビリティで、標的を外さない。
「おっぱいおっぱい」
ゲブーの掛け声とともに、反撃の【喪悲漢ブーメラン】を放っていた。グラディウスは、それを難なくひょいとかわす。
美羽は特にコメントするまでもなく、淡々と射撃を続けた。相手に近寄らせる隙も作らないソツのない攻撃だ。一回戦は危なげなく勝ち進もう。
「ちっぱいちっぱい!」
ゲブーは、このことあるを予想して用意してあった耳栓をおもむろに両耳に詰めた。キング・王・ゲブー喪悲漢の【ソニックブラスター】を発動させ、敢えて高音域に設定してハウリングさせる。
キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
「うわっ!?」「えっ?」
美羽とベアトリーチェは、思わず両手で耳をふさぐ。操縦者を直接狙ってくるとは思っていなかった。イコンへの攻撃なら防御できるが、人体へのダメージは効く。
辺りが振動でビリビリ震える。観客席を含めて、全員が耳を押さえていた。
「げはははははっ!」
その間に、キング・王・ゲブー喪悲漢はグラディウスの射程から外れていた。なんだか、随分と弾丸が命中して半分くらい蜂の巣だが、気にしない。
体勢を立て直したゲブーは、【喪悲漢ブーメラン】を回収すると、美羽たちにビシリと指を突きつけた。
「バーカバーカ! 飛び道具を使うなんて、モヒカン道に反するぜ! 漢なら堂々と拳で決着をつけやがれ!」
彼に言わせると、ブーメランは飛び道具ではないらしい。アレはれっきとした格闘武器。ソニックブラスターも魂の叫びなのだ。
どやっ! とゲブーはポーズを決めた。
「ヒャッハー! 兄貴カッコ良すぎでシビレるよっ!」
バーバーモヒカン・シャンバラ大荒野店はドンドンと小太鼓を叩きながら、応援を続ける。
「ちっぱい女め! このゲブー様の恐ろしさを思い知らせてやるぜ!」
ゲブーは、相手に出来たわずかな隙を見逃さなかった。一瞬で、グラディウスに接敵する。
あんなおっぱい、こんなおっぱい。全ては素晴らしいおっぱいのために! ゲブーは、必殺のコンボ技を繰り出した。
「げははははっはっっ! これで、終わりだ!」
【ゲブー様サイキョーって声がでるソニックブラスター】、【7回磨き上げた漢の象徴! 喪悲漢ブーメラン+7】、【エロいやつなら目が離せなくなる無敵シールドのエッチな巨大同人誌】の、ゲブーがこだわりぬいた最強装備が火を噴いた。
【スーパー超ゲブー様パンチ:(機神掌)】と【ウルトラゲブー様ケタグリ:(旋風回し蹴り)】を組み合わせた見事な格闘術がグラディウスに直撃する!
「グレイトな俺様操縦を見たか! おっぱい見せい! ついでに、ちっぱいも見せい!」
仕上げは、【絶対命中】と【急所狙い3】の俺様スキルを組み合わせたとどめだ。
「ゴッド・ゲブー・クリティカル・キイーーーーーーーーーーック!」
キング・王・ゲブー喪悲漢の神の一撃が、グラディウスの股間を蹴り上げていた。普通のイコンならこれで終わりだ。
ゴッド・ゲブーの勝利を称え、【ゲブー様サイキョーって声がでるソニックブラスター】が高らかに吼えた。
「サイキョーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
無遠慮な大音声に観客席の客たちもたまらずに身を伏せる。
グラディウスは、衝撃に耐え切れず大きく吹っ飛び、派手に倒れた……。と見せかけて、器用に宙返りしながら着地した。
グラディウスはそこいらのイコンとは違うのだ。武装も最高レベルにまでカスタマイズしてあり、さらには操縦者の腕前も一流だった。
「うわあああ。大丈夫かな……」
観客席のコハクはハラハラしっぱなしだ。あの美羽が、パラ実生を相手にここまでダメージを食らうとは。敵の音に備えて耳をふさぎながらも、大声で応援する。
「が、頑張れーーー!」
「あいたたたっ。よくもやってくれたわねっ!」
美羽はちょっぴり涙目になりながら、ゲブーを睨みつけた。なんか今、清純派美少女として大切な物を色々と蹂躙された気がする。バカ恐るべし!
ベアトリーチェも、あまりのことに呆然としていたがすぐに呼吸を整えなおした。
「そういう関係は、お断りですっ!」
「そうよ。もう許さないんだから!」
美羽は、グラディウスに【新式ダブルビームサーベル】を両手装備させると、キング・王・ゲブー喪悲漢に迫った。
確かに、相手がモヒカンということでわずかながらも油断がなかったと言えば、嘘になる。だが、それもこれまでだ。一切手を抜くことはない。
「ゲハハハハッ。ウルトラゲブー様ケタグリ!」
「食らわないわよっ!」
グラディウスは敵の攻撃を絶妙に避けて、一気に反撃に転じた。【加速】アビリティで、素早い連続攻撃を繰り出す。
ベアトリーチェは美羽の行動を的確にサポートしていた。【ダメージ上昇75%】や【回避上昇75%】といったアビリティを駆使して、キング・王・ゲブー喪悲漢の急所に大ダメージを与えていた。カウンター気味に返してくる相手の攻撃からは素早く避け、距離をとって再び攻撃するといった具合で、着実に仕留めに掛かる。
「げはははぁ! おっぱい揉ませい!」
「お断りよっ!」
美羽は、相手の手足や武装を集中して狙い、破壊しようと試みる。戦闘不能にしてギブアップさせよう。
立ち直ったグラディウスと、所詮パラ実機のキング・王・ゲブー喪悲漢の戦力差は明らかだった。後は、グラディウスが押しまくる展開になる。
だが、キング・王・ゲブー喪悲漢は、しぶとかった。何度攻撃を食らっても立ち上がり反撃してくる。おっぱいへの一途な執念。それがゲブーを支えているのだ。
動機はどうあれ、なんと言う熱戦だ。観客たちも大興奮だった。
美羽は、素直に微笑む。
「ちょっと楽しかったわよ、モヒカン。後は私たちに任せて、いい夢見てね!」
【新式ダブルビームサーベル】が、キング・王・ゲブー喪悲漢を完全に貫いていた。
ジジ、バチバチバチ……、と全身から漏れ出したエネルギーが迸り、キング・王・ゲブー喪悲漢は完全に動きを止めた。
「げはははっっ! それでも俺様最強! おっぱい道は奥深し! まだまだ精進が足りなかったようだぜ!」
負けを悟ったゲブーは両手を突き上げ満足げに叫ぶ。
「あ、兄貴! カッコよかったよ! 負けても兄貴はサイコーだよ!」
バーバーモヒカン・シャンバラ大荒野店も感涙にむせんだ。二人はがっちりと抱き合う。熱い抱擁に生暖かい拍手が送られた。
「勝負あり! 勝者はグラディウス!」
桂輔は勝負の決着を宣言した。
「やったー! よかったよかった!」
勝ち名乗りに、観客席のコハクが一番喜んでいた。
「じゃあね、モヒカン。また会う日まで」
美羽は、色んな意味で面白かった対戦相手に声をかけた。ゲブーの勇ましい戦いは忘れない、まあ3分くらいは。
次の試合へ向けて、揚々と引き上げていった。
かくして、第四試合も無事に幕を下ろしたのだった。
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