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リアクション
イコン格闘大会はなおも続く。
一回戦は第六試合と第七試合があっという間に終わり、いよいよ残すところあと一試合となった。
第八試合の準備が整えられているのを眺めながら、試合の描写すらなかった柊 真司(ひいらぎ・しんじ)は、不満げに漏らす。
「話にならね〜。全然暴れたりねえよ」
彼の相手だった怒羅権魔奇死無須(ドラゴン・マキシムス)はパラ実イコンの【ダイノボーグ】をカスタムした機体だったのだが、こいつがとんだ見かけ倒しだったのだ。
登場は派手でたいそう威勢が良かったのだが、真司操るゴスホークが真価を発揮する前に自爆し、星になった。
この辺、戦う前から勝負は見えていたので割愛したのだ。話の展開も押していることだし。
「機嫌直してください。二回戦からが強敵ですから」
真司のパートナーのヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が苦笑しながらなだめている。
「二回戦って、第五試合の勝者だろ? パワードスーツ隊じゃねえか。俺は、まともなイコンと戦いたいんだよ。そっちが羨ましいぜ。次がアレだし」
真司は隣で試合を見物していた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)に視線をやる。
「俺は、むしろ楽して勝って優勝商品だけもらいたいんですが」
唯斗もまた、第七試合の描写はなかったのだが、問題無さそうに答えた。いや、むしろ早く忘れて次へと進みたかった。
第七試合での、彼の対戦相手はパラ実の魔法少女・ルルカは、クェイルを女の子型にカスタムしたイコンだった。操縦していたのは、パラ実の女子生徒の仲良し二人組で、声がとても可愛かった。
唯斗のイコン魂剛との戦いの中で友情を越えた愛情が芽生え、勝利した唯斗は皆の前で魔法少女・ルルカの二人の女子生徒たちに求婚されたものだ。さすがハーレム王。
二人とも、この世のものとも思えないほどのブスだったが。
「おぬしが、あんなアヴァンギャルドな造形物にまで好かれるとは思わなかったぞ」
唯斗のパートナーエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は、半眼で言う。
「ですから、忘れさせてくださいと言っているでしょう」
唯斗はエクスの機嫌をとるのに忙しかった。ああ、忘れたい。早く次の試合が始まらないかな。
第八試合がなかなか始まらないのにはわけがあった。
対戦するイコンがリングに上がれないのだ。
「誰ですか、こんなの持ち込んできたのは? 出場禁止にしないさいよ」
迎えに行っていたアルマのウィスタリアがやっとのことで会場の上空に戻ってきた。
あの無敵の大きさを誇る機動要塞のウィスタリアが、ぐらぐらと不安定に空中を揺れていた。それほどの大きさと重量だ。
アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)のイコン絶対無敵要塞『かぐや』が、何本ものワイヤーでウィスタリアにぶら下げられてやってくる。
絶対無敵要塞『かぐや』は野戦築城をベースとした超弩級イコンで、タケノコの形をしていた。移動不可のため自分では動けないのだ。そのためウィスタリアでの空中輸送となったのだが、入場するだけで非常に手間取っていた。
「どうするんだこれ? リングに乗れるのか?」
審判の桂輔は、唖然として見上げる。100m四方のリングより大きいかもしれない。
「手間取らせて悪いね。とりあえず、リングの真上まで持ってきてよ。あとはこちらで何とかするから」
アキラはコックピットからアルマにねぎらいの声をかける。
ルール無用ということで、大人気なく野戦築城で参戦するからには最低でも試合は成立してもらわないと困る。今さら大きすぎるという理由で試合を組んでくれなくなったら、彼にとっては死活問題だ。
現在家計がとても苦しくなんとかやりくりしているアキラには、米20俵がどうしても必要なのだ。そのためにはどんな協力も惜しまないつもりだった。
「そうそう、そのままゆっくりと降ろしてくれたらいいから」
アキラは、大型トラックがバックするのを誘導するような口調でナビる。
ウィスタリアは会場の上でホバリングしながらゆっくりと降下してきた。
「ダメだ。これじゃ、対戦相手のスペースが確保できない」
桂輔は言う。絶対無敵要塞『かぐや』だけでいっぱいだ。
「半分はみ出してもいいから乗せてよ。バランス取るからさ」
アキラは、そのまま退場させられないように何とか頼み込む。
舞台に上がってしまえさえすればこちらのものなのだ。この大きさと武装の圧倒的火力だ。今回の大会のルールなら相手がどんなイコンでも負ける気がしない。
「はいはい、その辺にいる観客たちものいてね。踏まれると大地の肥やしになっちゃうんだぜ」
強引に着地しようとするアキラを見て、桂輔は溜息をついた。
リングにはある程度の高さがある。そこから落ちて土につかない限り場外とはみなさない。詳細が決められていないルールの拡大解釈していいだろうか?
「どうする? あれ失格で退場にしてもいいけど?」
桂輔は、対戦相手に確認する。
「俺たちは別に構わないぜ。アレと戦うことになるんじゃないかと思っていたところだ」
それまでずっと待っていた朝霧 垂(あさぎり・しづり)は答える。
彼女のイコン黒麒麟も【武者ケンタウロス】をベースにしており一般的な機体よりも大型だ。いずれにしろ動き回るスペースはないだろう。
至近距離での打ち合いになりそうだった。それならそれで、黒麒麟も得意とするところだ。
「あいつ、ちょっと調子こきすぎだろ。一回戦で消えてもらって、ひもじい生活をつづけさせてやるぜ」
「対戦相手が納得しているならいいか。よし、じゃあ降ろしてくれ、アルマ。半分だけな」
桂輔が許可すると、ウィスタリアは絶妙の飛行で超弩級イコンを降下させた。
ズズズズズズズーーーーーーン!
砂煙を立ち込めて絶対無敵要塞『かぐや』が半分だけリングに乗った。運営の手伝いボランティアが大急ぎでワイヤーを外している。少しでもバランスを崩すと傾いて、もう半分が地面に着きそうだった。
「これで十分だぜ。動かせるものなら動かしてみやがれ!」
無事にリングに降り立ったアキラは、ヒャッハー! と名乗りを上げた。
絶対無敵要塞『かぐや』はリングを大きくはみ出して、観客席も踏み潰していた。避難した観客たちが、ブーブーと一斉に文句を言っている。
「細けぇことは気にすんな。ヒャッハー!」
運んでくれたウィスタリアが上空へと昇っていく。アルマにアリガトー、と手を振ったアキラは桂輔に視線をやった。
「さあ、始めてくれ。なんなら、このまま決勝までこの舞台に居座ってもいいんだぜ」
野戦築城はもう自力では動けない。ここに鎮座するのみだ。帰りもまたウィスタリアに運んでもらうことになるが、たびたび彼女の手を煩わせるのも忍びない。このまま全部まとめて相手してやろうと、意気も高らかだ。
「審判。あの機動要塞、呼び戻しておいた方がいいぞ。このタケノコ、すぐに産廃処理場へと捨てに行くことになるんだからな」
垂も、いつでも戦える状態になっていた。
桂輔は両者を見やって頷く。
「では、一回戦第八試合を始める。レディー・ゴー!」
合図と同時に二機の超大型イコン同士が激突する。
「これ以上傷をつけられたら、また出費が大変なことに成るでの」
絶対無敵要塞『かぐや』のサブパイロットのルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)は、全スキルと全砲門を駆使して弾幕を貼る。敵に引っ付かれたら致命傷なので、まずは防御だ。
「行きま〜す! 死なないでくださいね」
オペレーター担当のヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)は、その場で【要塞砲】の照準を合わせた。非常に強力な決戦兵器だ。当たったら、間違いなく消し飛ぶ。
砲撃手のルシェイメアがイコンのスキルを放つ。
ドオオオオオオオオッ! と強力無比なビームが走った。攻撃範囲が広範囲すぎて、避けたら場外だ。
「いいか、審判! これは飛行ではない、ジャンプだ!」
ジャンプは飛行に含まれない。何秒以上宙に浮いていたら飛行で、ジャンプとの明確な判断基準が示されていないが、きっと深く考えたら負けなのだろう。パラ実だし。
言った者勝ちな気がした垂は黒麒麟を跳躍させた。
「ん〜?」
どうしようか桂輔が判断に迷っているうちに、黒麒麟の真下をビーム光線が通り過ぎていった。防御壁ごと空気をビリビリと震わせるほどの威力だ。一瞬で観客席を消し飛ばし彼方へと消えていく。
「すいません。出力調整していたんですけど」
ヨンはタケノコ要塞のオペレーターで、相手に合わせて火力を絞ったり出力を弱めたり調整していたのだが、それはイコンに対してであって、客席のことを全く考えていなかった。
まあいいか、パラ実だし。アキラは、ヒャッハー! と忘れることにした。
桂輔も少し考えて頷いた。なんか大勢のモヒカンたちが巻き込まれた気がするが。
「まあいいか、パラ実だし」
少し反省したヨンは攻撃方法を変えた。これ以上被害を出してもいけないし【艦載用大型荷電粒子砲】で早めに勝負をつけることにしたのだ。
「ちょっと威力落としたので撃ってください」
「命中率低めの武装じゃが、わしが当ててやろう」
ルシェイメアは遠慮なく発砲した。
「うん。まあ予想通りだ」
垂は即座に黒麒麟に【エナジーバースト】、【嵐の儀式】、【アンチビームファン】による多段シールドを展開させて、距離をとった。と言っても、リングが狭すぎてあまり移動できないが。
黒麒麟は絶対無敵要塞『かぐや』に突撃した。同時に、狙い定めた【艦載用大型荷電粒子砲】が飛んでくる。
「一発食らったくらいでは、多分死なない。何故ならここはパラ実だから!」
垂は無茶な理屈で敵の攻撃を突破しようとする。そしてそれは正解だった。
ゴオオオオオオオオッッ! 先ほどよりも強烈な衝撃が黒麒麟を蹂躙する。でたらめなほどの破壊力だ。多分この一撃でHP半分くらい減った。
だが、それがなんぼのもんじゃ!
この隙を逃す垂ではなかった。射撃後の一瞬の空白でカウンターを狙った。
相手は強引に規格外のイコンを捻じ込んできたのだ。これを倒せるとしたら、それは自分達だけだろう。この迷惑極まりないデカブツを他の出場者たちにまで回してはいけない。
黒麒麟は、【イコン用光条サーベル】で、渾身の攻撃を繰り出した。
「ところが、そうは行かぬ。この絶対無敵要塞『かぐや』の装甲を侮るでないわ!」
壊れないよう細心の注意を払っていたルシェイメアは、イコンの硬さを信じていた。そんな攻撃は効かない。火力に任せて反撃に転じるだけだ。
その念が通じたのか、黒麒麟は攻撃を外しリングを大きく破壊する。続けざまに、二撃三撃と光条サーベルはリングを抉っていた。
「ん?」
アキラは嫌な予感に囚われた。参加者の中に絶対無敵要塞『かぐや』を動かし場外へと出せるイコンはない。そう思っていた。自ら移動は出来ないが、装甲の頑強さと強力な武装に任せて撃ちまくるだけ。それで、米20俵は彼の手元へとやってくるはずだったのだが。
「確かに、この大会の条件では、動かない、倒れないタケノコ要塞は無敵かも知れません……でも」
黒麒麟のサブパイロットライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は言う。彼女はこの大会の参加者の中にアキラを見たときから、一つの方法を思いついていた。
「逆に考えるんだ! タケノコをリング外に出せないのなら、タケノコがリング外にある状態にすれば良い!!」
「わっ、やめろ!」
アキラは、半分はみ出た絶対無敵要塞『かぐや』のバランスを取っているところだった。ただでさえ、足場が不安定でいつ落ちるか分からないのに、周囲をそんなに抉られたら……。
「そう、これが僕たちのカウンター攻撃! 米と乾燥椎茸は僕たちがもらうよっ!」
ライゼは、絶対無敵要塞『かぐや』の周囲を破壊し続ける。ギリギリ乗っていた巨大なタケノコは、接地面積が半分以下になり、とうとうバランスを崩した。
「そんなばかな〜!」
アキラは無念の叫び声を上げる。
絶対無敵要塞『かぐや』はグラリと傾き、リングの角を支点として地面に落ちた。
「これ、もうタケノコはリングの外にいるってことよね? ……だよね?」
改心のカウンターが決まったライゼは、審判に確認する。
「うん。確かに場外の地面に落ちてるな」
桂輔は頷いた。そして、宣言する。
「勝負あり! 勝者は黒麒麟!」
第八試合の終了の合図だった。まさかな決着のつき方に、観客たちも歓声を上げる。
「ああ、俺の米20俵が……」
アキラはがっくりとうなだれた。まだしばらく借金生活から逃れられそうにない。
「まあ、無駄に壊れなかったから良しとするかの」
ルシェイメアはさっぱりした口調で言う。
「お疲れ様。家まで送りますよ」
アルマがウィスタリアで迎えに来た。
作業員達の手によってワイヤーで固定され、絶対無敵要塞『かぐや』は空路を帰っていった。家に着いたら素うどんでもすすって寝よう。アキラの収穫祭は終わったのだった。
派手に登場した割にはあっけない最後だった。
こうして、ようやく一回戦が終了したのだった。
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