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集え! 真夏のマーメイド達!!

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集え! 真夏のマーメイド達!!

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 レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)には、なぜ卵焼きやサラダが『大和撫子』であるのか、まったく理解が出来ていなかった。
 レロシャンは、世界各地を飛び回っていた経験があるものの、実は日本という国に行った経験がほとんどないため、日本の文化というものについて知識がないのでした。
 そのため、百合園女学院に在籍しているにも関わらず、『大和撫子』という概念がないのでした。
 レロシャンの思う『大和撫子』…『大』=大きいもの・『和』=プラスする?・『撫』=撫でる、ということは大きいもの同士を撫でて…ミンチに?『子』=子ども。親子丼の子どもは卵だった…っ!ということは、何か大きな卵を用意すればOK。
 残念なことに、レロシャンの周りには『大和撫子』の正しい意味を教えてくれる人は誰もいませんでした…。
 舞台のキッチンの上には、鯨肉10キロ・鮫肉10キロ・ダチョウの卵。肉を合わせてミンチにし、どっかと大盛りのごはんの丼に盛り付け、その上から生のダチョウの卵をかけて完成…『海鮮風特盛大和撫子丼』!!
 

「静香様っ!あのぅ…、そのぅ、、これは、ちょっと…」
 黒岩和泉が、歯切れの悪い口調で静香様に話しかけます。
「なんだいっ?!」
 静香様には『海鮮風特盛大和撫子丼』を前にしても、ひるんだ様子は一切見られません。
「いえ、、なんでもない…です」
 ラズィーヤ様は、そんな二人の様子を楽しそうに見つめています。


「なかなか豪快な料理でステキだよねーっ!」
 アルル・アイオン(あるる・あいおん)は、本気で楽しそうにくっくと笑っています。
「ちょっと、アルルっ」
 パートナーの少々失礼な態度に、空井 雫(うつろい・しずく)は、アルルが水着の上から羽織っているパーカーを引っ張ります。
「まぁ、雫は無理せず、自分のベストを尽くしてくるといいよっ!」
「…たった10分。されど、10分。乗り切れると、いいなぁ…」
 今度は急に自分の出番が心配になったのか、急に暗い顔になる雫。うぅ…、こういうイベント、苦手なのに…。
「雫の晴れ姿はばっちり☆カメラに納めておいてあげるよっ!さ、行っておいで♪」
 司会者の声に呼ばれ、雫はギンガムチェック柄の水着のスカートをひるがえし、焦って舞台へと走っていきました。
 雫の料理は『トマトのお吸い物』です。ちょっと変わった料理に見えますが、夏にぴったりのさっぱりとした美味しい一品です。たった10分。たった10分。雫は自分に言い聞かせるように、トマトと格闘中です。
 その様子をパラソル席の下に戻ったアルルが望遠のレンズを使って撮影しています。あー、やっぱり雫を出場させて正解♪
「出来ました〜」
 なんとか完成させた雫も、嬉しそうな笑顔を見せてくれました。


「次々と美味しいものが運ばれて来ていますが、静香様、ラズィーヤ様、まだ食べられますか〜っ?!」
 司会者が審査員席に問いかけると
「うん。まだまだ食べられるよっ!」
「美味しくいただいていますわ」
 とのご返答。
 『海鮮風特盛大和撫子丼』も美味しくいただかれたのか、大変気にかかりますが…、審査については審査員の方にお任せしておきましょう。


「それでは、まだまだ先は長いですよっ!11番目の出場者は、百合園学院から〜、水無月 良華(みなづき・りょうか)さんです。よろしくお願いしまーすっ!」
 長身の体躯に、ピンクのラメの揚羽蝶のワンポイントモチーフのある黒いビキニとロングパレオがよく似合う良華は、スポーツで引き締まった身体がとても美しい。
 良華の作る料理は『生クリームを使わない、カルボナーラ』パスタのキライな乙女なんていませんっ!
 パスタのゆで時間を考えたら、テキパキと動かないと難しい料理ですが、良華は手際よく、手順をこなし、確実に仕上げていきます。手慣れている雰囲気です。
「完成しました」
 クリームを使っていなくても、熱を通しすぎないことによって黄身が固まらないので、とろ〜りと、とても美味しそうです。

「あんなに手際よく作れるなんて、すごいですぅ〜!」
 アイシア・セラフィールド(あいしあ・せらふぃーるど)は、良華の手際の良さに素直に感心していました。でもでも!私だってこの日のためにいっぱいいっぱい練習したんですっ!光さんのためにもがんばりますっ!
 パートナーの神薙 光(かんなぎ・みつる)とお揃いの、夏の空をイメージした水色のビキニとパレオを見て、アイシアは自分を奮い立たせています。
「やっぱり、大和撫子って言ったら、和食ですもんっ」
 アイシアの作る料理は夏の食材ナスを使った『焼きナスのおろし和え』です。
 光は、アイシアが使う材料や道具のためのチェックに余念がなく、清良川エリスが取り仕切っている中に混ざって、アイシアのために準備をしてくれています。
 アイシアはその光景に、とても幸せを感じています。光への愛情を込めて作れば、どんな料理にも美味しいの魔法がかかるはず、ですっ!
 時間になって、舞台に上がる頃には、アイシアの気持ちはすっかり落ち着いていました。テキパキというほどではありませんが、それでも丁寧に確実に、手順を進めていきます。
 ネギとおろし生姜も添えて『焼きナスのおろし和え』は完成です。
 やっぱりお料理の一番の調味料は、愛情ですよね♪

「美味しそうな料理が続いていますね〜っ!和食も洋食もみんな美味しそうですっ!私もちょいちょい試食させてもらってますが、ホントにとっても美味しいですよ☆それでは、13番目の出場者は、またまた百合園女学院から、如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)さんですっ。どうぞっ!」
 白いワンピースの水着姿で現れた日奈々は、長い髪を揺らして、ちょこんとお辞儀しました。髪に結んだ白いリボンが彼女の愛くるしさを一層引き立てます。
 日奈々の作る料理は『カレイの煮つけ』です。煮魚というのは、けっこう難しい料理ですよ?
 日奈々は、焦るでもなく、モタつくでもなく、マイペースで料理に向かいます。彼女は目が見えないのですが、慣れないキッチンでも他の感覚に長けているので、苦労をしている様子は見られません。
 魚を煮ている時間には、片付けをするなどむしろ乙女らしい気遣いに溢れ、好感が持てます。
 蓋を開けると、カレイの煮つけは美味しそうに、飴色になっていました。
「私、だって…やる、時は…やるんですぅ…!」
 日奈々は料理が上手に出来たことに満足して、やっと笑顔を見せてくれました。

 卵料理は、今回の技部門の中で一番多い料理ではあるけれど、それはそれだけ卵料理がお料理の基本であるということの証明だし、何より、同じ料理で競う相手がいるほうが、負けずキライの血が騒ぐというものです。そんなわけで、百合園女学院の小林 麻衣(こばやし・まい)は、自分の『オムレツとサラダ』もいつも通り、きちんと作れる自信を持っています。
 卵料理のポイントは、新鮮な卵を使うこと、においの移りやすい食材であるため、卵専用のフライパンを用意すること、火加減を覚えること、卵さばきを覚えることなど、たくさんありますが、麻衣はオムレツを作り慣れています。
 舞台に上がっても、冷静さを失うことなく、時間内に正確に、かつなるべく熱いうちに食べて欲しいので、制限時間いっぱいくらいに料理を完成することが出来るように、気を配りました。もちろん、空き時間できっちりと片付けも行います。
「最善は尽くしたわ。あとは結果を待つのみね」
 彼女の几帳面な性格を表すように、実にきちんとしたオムレツが完成しました。

「うーわー、キレイなオムレツさんっ」
 次の出番を控えて、舞台の様子を覗き見してた佐倉 アリス(さくら・ありす)は、今しがた料理が終わったばかりとは思えないほどすでに片付いているキッチンと、完成したオムレツと、そして麻衣を見比べて驚いていました。
「でも、まぁ、いっかぁ。おばあちゃんが言ってた。料理は愛情だと…。きゃーっ」
 自分で言って自分で受けているのは…、まぁ、萌えってそういうものですよね?
「手の込んだ料理ほどまずいもの…。どんなに真実を隠そうとしても、隠しきれるもんじゃないってな。っていうことで、キャストオフ!!」
 白いパーカーを脱ぎ捨てて、青空にヒマワリの柄の入ったビキニ姿になって、アリスは舞台へと元気よく走って行きました。
 アリスの作る料理は『チャーハン』です。美味しくたくさんの人で食べられる中華料理の基本。
 いつも元気なアリスは、料理中も元気いっぱい。意外なほど手早く、ちゃっちゃとチャーハンの具を刻んでいきます。
 趣味と実益の両立のため、アリスは普段から料理に励んでいる様子です。
「美味しい物を食べるのは楽しいが、一番楽しいのはそれを待っている間だってな」
 ぴっと人差し指を空に向けて宣言するアリス。
 静香様も楽しそうに、完成を待っています。

 つい先ほどまで、メイド服を着ていたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)ですが、パートナーの和泉 真奈(いずみ・まな)の提案により、水着姿へとすでに着替えを終えていました。
「お料理をするのに、本当に水着になる必要があるのかなぁ?」
 用意していたスクール水着が却下され、真奈の選んだ白いビキニにTバッグという刺激的な水着に着替えたミルディアは少々疑問顔です。
「出場者のみなさん、水着を着て参加されていますわ」
 真奈はミルディアを宥めるように言い、レシピを見ながら最終チェックをしています。
 みんな、という言葉に負けずギライのミルディアは納得したようです。
「そうだよね。みんな水着だもんねっ」
「そうですわ。さ、レシピの時間管理は私に任せて、料理に集中してくださいね。美味しい料理を楽しみにしていますわ」
 まだ少々水着姿を恥ずかしがっているミルディアを舞台に向かわせ、真奈はストップウォッチとレシピを手に、ゆっくりとその後を付いていきました。
 ミルディアが作るのは『スタミナサラダとリンゴジュース』です。パラソルや屋根のあるところで観覧しているとは言え、やはり炎天下にいることに代わりはなく、みんなのことを気遣ったレシピ選びは、さすがミルディアです。
 ミルディアがサラダ用のパスタを準備したり、その間に野菜を切ったりしている間、真奈は残りの時間をミルディアにそっと教えています。
 リンゴジュースは、生のリンゴを絞ったものにするため、リンゴが多めに用意されています。単純に握力で絞るつもりであるところが、ミルディアのすごいところです。しかし、今の乙女には『文武両道』も必要なことであると言えましょう。
「完成ですっ!みんなが喜んでくれると嬉しいですっ!」
 料理は、みんなを笑顔にしてくれる魔法を持っています。

「さぁ、長らくお付き合いいただきました、技の部門も17番、ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)がラストを飾ります。そろそろみなさん、お腹いっぱいっ!かもしれませんが、お待たせしましたの、デッザートでーすっ!」
 プラチナブロンド髪をポニテで揺らしながら、愛らしい笑顔のミューレリアが舞台に上がってきました。
 ミューレリアの作るものは『カキ氷』です。浜辺に相応しい夏のデザートですが…料理と言えるのでしょうか…?!
「このカキ氷の氷は、ヴァイシャリーの名水で作ったんだぜっ!シロップは百合園自慢の温室で作られた果物で作ったんだから、絶対うまいんだぜっ!」
 確かにキッチンの上には、ヴァイシャリーメロンなど、そのまま食べても美味しい果物がごろごろとしています。
 シロップはすでに出来ているとのことですが、これはトッピング用?!
 シャキシャキシャキ、と小気味良い音を立てて、氷がスライスされていきます。冷たくって、美味しそうです。
「完成っ!ってことで、静香様に味見してもらうぜっ!」
 ミューレリアは、勝手に舞台を降りると、ズカズカと審査員席へ。


 黒岩和泉が「私は、毒見役よっ!」と言っても、効果なしです。
 静香様に勝手にあーん、と食べさせようとしています。
「なんだよ?ふふん。ルールは破ってないぜ?」
 不敵に笑うミューレリアの持つスプーンから、静香様は、パクン。
「うんっ!とっても美味しいねっ!」
 やはり静香様の笑顔が最強なのでございました。


「これで、第二部『技』の部は終了致します。これから、20分間の休憩に入ります。第三部『体』の部に出場を予定している方は、準備を行ってください。20分後に開始いたしますので、それまでにお席にお戻りくださいますよう、お願いいたします」
放送部からのお知らせが入ったところで、技の部は終了です。