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集え! 真夏のマーメイド達!!

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集え! 真夏のマーメイド達!!

リアクション

「ふむぅ、なかなかやるもんじゃのぅ〜。まぁ、この風雪ちゃんに挑むにはまだまだじゃけどなっ!」
 ナガンの演武を横目で見つつ、白鏡 風雪(しろかがみ・ふうせつ)は、そんな感想を漏らしていました。
 風雪は、そこそこ名のある剣術家の長女。幼い頃より、剣の手ほどきを受けています。
 だから、文武両道の大和撫子と言ったらコレっ!風雪のパフォーマンス『海女さん』
「日本の海と言えば、海女さんじゃろ〜?」
 はい。間違ってはいないです、ええ。
 なぜかサイズのチグハグな黒いビキニにローレグをはいて、ボートの上からどぼんっと出発、ランス片手に小さな体でゆうゆうと潜っていきます。
 そこで獲物を見つけたのか?!バーストダッシュを使用。かなりの大物をゲット?!
 風雪が両手で抱えても尚大きい、このあたりでは名物だけれどなかなか取れないお魚をしっかりと捕まえてきました。素晴らしい腕前です。
「取ったのじゃー♪」
 けっこうな重量の魚を両手で掲げて、嬉しそうな笑顔…なんだかこちらまで嬉しく…って、風雪さんっ、風雪さーんっ!
「なんじゃ?大物が取れたからって、騒々しい」
「そうじゃありませんっ!あの、その、、えっと…水着っ!ブラっ!どっか行っちゃってますぅ〜っ!」
 ボートで風雪の補助を担当していた運営の女の子は顔を真っ赤にして、目を胸からそらしました。
 もちろん、本日一番のシャッターチャーンスっ☆
 望遠レンズを携えていたアルル・アイオンはもちろん、先ほど水中映像を見せてくれた羽入勇も、まだスクリーンと接続したままだというのをすっかり忘れて、カメラマンの性からついカメラを向けてしまったからもう大変です。
 スクリーンに、風雪のあられもない姿が…大画面で…っ!
「と、とりあえず上がって、タオルっタオルっ!」
 運営の女の子は、予想外の事態に大慌て。普通ならたとえ外れでも、近くに浮かびあがるであろうビキニも、バーストダッシュの勢いでどこに吹き飛ばされてしまったのか、近くにはまったく見当たりません。
 まずはTシャツを投げ込み、上に着せ、ボートにひっぱり上げたところをバスタオルでぐるぐる巻きにします。
 もちろん、今日の釣果は離しませんよ?しかしさすがの風雪もうなだれている様子。
「着てサイズを調べとけばよかったのじゃ…」
 …そこですか?

「嬉しいハプニング…げほっごほんごほん、いや、予想しないアクシデントが起こってしまって、大変申し訳ありませんでした。風雪さんには、一先ず、着替えに行っていただいていますので、次の出場者へと参りましょう。蒼空学園から、荒巻 さけ(あらまき・さけ)さんと日野 晶(ひの・あきら)さんでーすっ」

 さけは水色をベースに、ピンクの縁取りの可愛らしい、人魚姫をイメージした長いパレオの水着を着用しています。
 その人魚姫の最愛なる王子様役である晶は、シックな色のセパレートの水着とホットパンツ姿で、王子らしく毅然とした態度で、特別に海の上に透明な板を固定した舞台の上でさけを迎えました。
 王子らしく、さけの手を取る晶。よく知られているストーリーであるだけに、解説は要りません。
 シーンに合った音楽とダンスで、人魚姫が舞台という陸に上がるところから、想いはかなく海へと還るシーンまでを再現します。
 さけは、舞台の端に、横たわります。王子が人魚姫を助けるシーンです。
 痛い足を我慢し、声も出せず、それでも王子との日々に幸せを感じている人魚姫と、さけが初々しくステップを様子と重なり、とても可憐に見えます。
 王子は人魚姫にとても優しくしてくれますが、ある日、事実はねじ曲がり…王子を助けたのが人魚姫ではなく、他の娘であることになってしまいます。
 その娘との結婚が決まり、幸せそうな王子と、悲嘆にくれる人魚姫。二人のステップが重なっては離れ、離れてはまた重なり、悩み悲しむ人魚姫の気持ちが表現されています。
 人魚姫の姉さまたちは、人魚姫のために、魔女から髪と引き換えにもらった短剣を渡し「王子の流した血で人魚に戻れるわ」と言うものの…愛する人の命と自分の命、尊いのはどちらでしょう?
 晶はさけに優しい笑顔を向けます。さけは、涙を浮かべて王子を見つめます。さあ、いよいよ決断の時が近づいてきました。
 優しい人魚姫に、愛する王子を刺すことは出来ません。海の泡となることに決めたのです。
 さけは、最後のお別れを王子とします。悲しみのダンス。愛しい人との最後の一時。
 さけは舞台へと腰かけました。いよいよ、海へ還る時が来たのです。
 愛しい王子は…、結婚する娘とステップを踏んでいました。
 哀しい音楽とともに、二人のダンスが終わると、会場は涙に包まれていました。人魚姫の清純で一途な愛の深さに、みんなが心打たれていたのでした。


「…ぅっく。荒巻さん、日野さん、ありがとう、ございました」
 司会者の女の子も、仕事を忘れて感動してしまっているようです。
 二人は、舞台の上で手を取り合って、深くお辞儀をしました。大きな拍手が二人を包みます。


「波に乗る準備はばっちりなの〜?」
 夏らしくポップなオレンジに金の縁取りのついた露出の多いビキニを色っぽく着こなしたオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は、桐生 円(きりゅう・まどか)に向かって尋ねた。
「はい。マスター。もちろんです」
「楽しみだわぁ。円の腕前なら、どんな波にも上手に乗れるとは思うけど、気を付けてねぇ」
「がんばってみます」
 体部門もいよいよ大詰め、クライマックスは、桐生円による、サーフィンです。この辺りの海の波は、とても穏やかだけれど…?
「それは、、準備してあるので、大丈夫、です」
 小さな体にはボディボードですら、サーフボードに見えそうですが、しっかりとロングボードを抱えて、円は出発します。
 身長に合ってるの?と少々疑問を感じるほどのロングボードでも軽々とパドリングしていく姿は、サーフィンが上級者の証でしょうか。それにしても、どんなに上級者であっても波自体がなければ、乗れないはず。今日のパラミタ内海は、凪いでいるけれど…。
 円は、ポイントまで行くと、ハーフパンツから、何やら小さな機械のようなものを取り出しました。
(マスターが大丈夫というのだから、大丈夫っ!)
 円が覚悟を決めて、機械の電源を入れ、スイッチを入れると…。
 ブルブルブル、と何やら地鳴りのような重い音が聞こえてきました。
「何?!」
 会場にいる人たちが、お互いに顔を見合わせています。
 ドカン、と弾けるような音がして、第一陣の波がやってきました。
 円は、海底火山のおかげで出来ている、比較的浅くなっている海底部分にいくつもの大型ポンプをしかけ、そこに壁代わりになる板を設置していました。
 板にポンプの水を打ちつけ、波を作り出す仕組みを利用し、さらにその力を増幅する音波を使って、人為的に津波を起こしたのです。
 本当は、派手好きのマスターのために爆薬を使って、海底火山を爆発させたかったのですが、百合園女学院で爆薬を手に入れることは不可能です。
 円は屋内サーフィン場などで利用されている波を作り出す技術を応用し、事前準備を抜かりなく行ったのでした。
 いや、本当に、ここまで下準備をしているなんて…すごい?!っと、感心している場合ではありません。
 大きな波の上を踊るように滑る円の姿は見事としか言いようがありませんが、、次々に発生する大波は正直…危ない?!
 円のマスターであるオリヴィアは、大喜びでこの様子を見つめています。いいわー、やっぱり円ってば最高っ!


 今回の会場セッティングは、体部門で海を使うこともあり、かなり海辺に近いところに設営されているものがたくさんあります。
 この大波では…さまざまなモノや人が巻き込まれてしまいますっ!!…って、みんな気付くの遅すぎだってば!逃げて逃げて〜っ!!
「円さん、波を止めてくださーいっ!!みんな、逃げてくださーいっ!!」
 マスターのことが気がかりだけど、円自身も今は波に巻き込まれないように、サーフィンに集中するしかありません。
 マスターはこうなることを予測していたのだから、何かしらの対策をとっていることだろうし…。


「静香様っ!早く、お逃げになってくださいっ!」
 結局、技部門の時からずーっと静香様のテントに張り付いていた清良川エリスが、静香様に避難を促す。
「ん〜、あの波、ここまで来るのかなっ?!」
「わからないですけど、巻き込まれたら危ないですよっ!!」
「まぁ、どっちにしても、ボクの可愛い生徒たちがみんな安全なところに移動するまで、先に逃げちゃうわけには行かないよねっ!清良川さん、先に観客用のスタンド席に行っていなさい。あそこなら安全だから、いいねっ!」
 校長の言葉に逆らえるわけもなく、エリスは素直にスタンド席に向かうことにしました。
 こんな危機に直面しているというのに、ラズィーヤ様も涼しい顔をして静香様のお傍に控えています。


「ともかくっ!スタンド席に上ってくださーいっ!浜辺近辺は大変危険ですっ!!」
 放送部の娘たちも、粘って避難誘導に当たっています。パートナーや近くの人同士で助け合って、避難は進んでいるものの、急激に人の増えたスタンド席はパニック状態です。
 運営の大道具は、声を掛け合って何かを行っているようですが、パニックの中では何が行われているのか確認出来ません。ともかく、逃げろっ!!
 その時、ザッパーンっ!!!と、第一陣の大きな波が、会場をぶち壊…すと思いきや、何か透明な壁に阻まれて、舞台そのものは飛ばされなかった様子。
 もちろん、その透明な壁がない部分はカバーしきれないため、スタンドの横手や、スクリーンの端などには被害が及んでいるようですが、アレは、何?!
 良く見るとその透明の板は、大道具がクレーンで吊り上げているようです。
 あぁああああっ、アレはさっきの、荒巻さけと日野晶がダンスで使った海用の舞台!!まさかこんな形で役立つとはっ。

 静香様・ラズィーヤ様のいる審査員席も、当然、無事です。
 お二人はこのことを予測していたのでしょうか…?


 何度も大きな波が打ち寄せましたが、大部分は透明の板でカバー出来たため、大きな被害やケガ人は出なかった模様。
 ただし、当然ですが、円は後で校長室呼び出し、間違いなしです。
 円が波の合間を見つけスイッチを切ったことで、大波も収まりました。
 とにもかくにも、今年の“ミス・百合園”コンテストは、終わりを告げるのでした。