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ジャック・オ・ランタン襲撃!

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ジャック・オ・ランタン襲撃!

リアクション

「がおー。狼男だぞー」
「魔女ですよー。にゃー」
 ワイルドなジャケットとジーンズに茶色い狼の耳としっぽ。こちらも狼男の格好をした曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)は、黒い魔女帽に黒マントと魔女の仮装をしたパートナーのマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)共々子供たちに取り囲まれていた。
「わー、狼男だー」
「お菓子ちょうだーい」
 瑠樹は、お菓子が沢山詰まった黒い布鞄を子供たちから守って言う。
「ちょっと待っててなー。オレ、これからカボチャのお化けを退治してこなくちゃいけねぇんだ。それが終わったらお菓子あげるから」
「えー、お化けー?」
「コワーイ」
「だいじょーぶです……ちゃんとお守りしますから!」
 瑠樹の言葉に騒ぎ出す子供たちを、マティエは優しくなだめた。
 二人は子供たちに別れを告げると民家の中に入り、一つの片付いた部屋に向かって順にお菓子を配置していく。この部屋はあらかじめ用意してもらったもので、ここにジャックを誘導して戦おうという作戦だ。
 二人が部屋でいくらも待たないうちに、早速ジャックが姿を現した。瑠樹とマティエはすかさずこれを狙撃する。ジャックの顔は蜂の巣になった。
 ところがジャックは一向に怯まず、瑠樹に火術を発射する。
「りゅーき!」
 瑠樹は間一髪のところでこれをかわすと、鞄の中からお菓子を取りだしてジャックに見せつける。
「どうせなら大人からお菓子を奪ってみな!」
 ジャックはこれに気を取られ、まっしぐらにお菓子を目指す。そこをマティエが背後から狙撃した。耐久力が限界に達し、カボチャ頭が弾け飛ぶ。その中から火種が出て、地面に落ちた。
「なんなんだこいつは。やっぱ使い魔とかじゃねぇの? チャックなんかついてないぜ」
 火種を踏み消しながら、瑠樹がジャックの背中を調べる。
「え……ゆる族じゃなかったんですか……?」
 ジャックの正体はゆる族ではないかと疑っていたマティエは呆然とする。
「ってそんな場合じゃねえ! マティエ、火!」
 と、いきなり瑠樹が大声を出す。先ほどよけた火術で床が燃えていることに気がついたのだ。二人は急いで火を消しにかかる。
 壁の銃痕に焦げた床。一応ジャックを倒すことには成功したが、家主には怒られそうだ。

 御凪 真人(みなぎ・まこと)は狼男の仮装をしていた。コミカルな着ぐるみを着て、なぜか顔の部分に眼鏡をかけたものだ。パートナーのセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)は、大鎌を手に持ったゴスロリの死神ルックだ。二人は辺りでも一際大きな家屋を担当している。
「セルファ、俺が合図をしたら……」
「分かってるって!」
 真人はトラッパーのスキルで玄関の天井に投網を仕掛けている。ジャックたちが攻め込んできたら、一網打尽にして家の中に引きずり込む計画だ。
「来た! 何匹かいるな」
 真人がジャックたちを発見する。この家は大きいからお菓子もいっぱいあると思ったのだろうか。敵は数匹で群れをなしている。
「まだ、まだですよ……よし、今です!」
「えいっ」
 真人の合図でセルファが仕掛けを発動。ジャックたちを網の中に捕らえた。火術で網を破られないよう、真人は間髪入れず氷術でジャックたちを凍らせる。「トリック・オア・トリート。あなたたちにあげるお菓子はありませんのであしからず」
 真人は着ぐるみの眼鏡を直しながら真面目にそう言うと、セルファに向き直る。しかし、セルファは地面を蹴り、宙に舞っていた。
 一閃――ジャックの顔が真っ二つになる。一匹取り逃したジャックがいたのだ。セルファはジャックの顔の中で炎が燃えているのに気がつくと、家の中が火事にならないようジャックを庭に蹴り出し、華麗に着地する。
「セルファ、ありがとうございます。危ないところでした」
「全く、ぼさっとしないでよね。ま、別に真人のためじゃなくて子供たちのためにしたことだけど。それより氷術を続けて。溶かされちゃうよ」
 セルファに言われて、真人は網の中のジャックたちに氷術を浴びせ続ける。
 ジャックの炎を消そうとセルファが庭に出ると、そこには驚くべき光景があった。顔を失ったジャックが平然と空を飛び逃げていたのだ。
「あいつ、不死身?」
 思わず後を追いそうになるが、目の前の敵をどうにかするのが先決だ。セルファは家の中に戻ると、真人に氷術を使わせたままジャックたちを網ごと引きずっていく。
「どこに行くのですか?」
「いいから着いてきて」
 やがて冷蔵庫の前までやってきたセルファは、冷凍室にジャックたちを詰め込んでいく。
「これ、どうするんですか?」
「こうしておいて後で一匹ずつ倒せば、楽になるでしょ。ただ……さっき私が鎌で斬ったジャック、まだ動いていたわ」
「え、あれで倒せないんですか。それじゃあどうすれば」
「分からない……」

「せっかくのイベントを台無しにする。それも子供たちを悲しませるなんて理解できないな」 
 鎧を着込んで騎士の格好をしたウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)が言う。
「本当。許さないんだから」
 ウェイルに合わせて姫の仮装をしたフェリシア・レイフェリネ(ふぇりしあ・れいふぇりね)が答えた。
 そこにちょうど、一匹のジャックが何食わぬ顔で――元からこういう顔なのだが――通りかかる。
「噂をすれば何とやら、だな。フェリシア、援護を頼んだぞ」
「うん。頑張ってよね!」
 フェリシアがウェイルにパワーブレスをかけ、ウェイルがジャックを遮るように立つ。
「ハロウィンの邪魔をしようというのなら、行かせるわけにはいかないな」
 ウェイルの言葉を理解したかは分からないが、ジャックは自らの目的を妨げる障害に躊躇なく火術を見舞った。
 炎がウェイルを直撃する。が、鎧のおかげでダメージは軽減される。ウェイルは返しにハルバードで渾身の一撃を放った。
 ジャックはこれをひらりとかわす。鎧を着込んでいる分、ウェイルの動きは鈍くなっている。いくら強烈な攻撃でも、当たらなければ意味がない。ウェイルはフェリシアに目で合図した。
「フェリシア」
「うん」
 ウェイルの意図を解したフェリシアは、蒼く輝く長剣状の光条兵器を取り出し、広範囲を薙ぐ。ジャックに残された逃げ道はいくらもなかった。
「ハアッ」
 狙い澄ましたウェイルの突きが、ピンポイントでジャックの顔面を捉える。
「よし」
「やったあ!」
 喜び合うウェイルとフェリシア。しかし、ジャックは平然と宙に浮かんでいた。砕け散った顔の中からはゆらめく炎が見えている。
「何!」
「きゃっ」
 反射的に武器で炎を攻撃するウェイル。もちろん炎が斬れるはずもない。だが、風圧が炎をかき消した。途端にジャックの体が動かなくなり、地面に落ちる。
「これって……もしかして、顔の中の火を消すと動かなくなるのか?」
「そうかも。大発見じゃない!」

 このジャックの倒し方にいち早く気がついていた者が立川 るる(たちかわ・るる)だ。
 古代ギリシア人風の仮装をしたるるは、自分のサラダせんべいまで使ってジャックの気を引きつけ、その隙に火術と氷術を組み合わせて水を生成しようとしている。ジャックは水に弱いのではないかと考えたのだ。場所は散らかってもいい広めの部屋を借りている。
「相手の頭上に氷を作って、すぐに火をコントロール……あ」
「ゲフ」
 氷塊が落下し、ジャックに直撃。ジャックは氷塊に押しつぶされてもがいている。
「あーん、まだ成功してないんだから、氷の下敷きになってちゃダメだよーっ!」
 るるはもどかしそうに手足をじたばたさせた。
「むう、ちょっと火が弱すぎたかな。じゃあもう少し強くして……」
 るるは気を取り直して再び氷術を唱える。さっきよりも力を込めて火術を放ち――
 今度は、目の前に炎が燃え上がった。
「ケケーッ!」
「わわ、今度は火が強すぎた! ジャック、喜んじゃってるし」
 氷が溶けて自由になったジャックは、自らの動力源である炎を前に元気を取り戻す。
「うーん、やっぱり複合技って難しいなあ。るるのSPだとチャンスは後一回。次で絶対に成功させなきゃ。大丈夫、きっとできるよね」
 るるはこれまでで一番精神を集中させる。最初は火術が弱すぎた。二度目は強すぎた。二回の失敗を踏まえて、炎の大きさをイメージする。そして氷塊を作り、絶妙にコントロールされた火術を放った。
「それっ!」
 バシャン
 見事に生成された水が降り注ぐ。
「やった! やったやったー!」
 るるははしゃいでぴょんぴょんと飛び跳ねる。ようやく我に返ったとき、るるはジャックが動かなくなっていることに気がついた。
「あ……倒してる」
 スキルの複合技を成功させることに夢中で、本来の目的を忘れていたのだ。
「何はともあれ、任務完了だよね!」
 笑顔でVサインを決めるるる。その額で、『万物の根源は水』と唱えたタレスのお面も笑っているような気がした。

ヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)の仮装はすごかった。彼は巨大ケーキに扮し、お菓子の山の中に隠れていたのだ。ジャックがヴェッセルに手を伸ばした瞬間、ヴェッセルがジャックをふんじばる。
「ギョッ?」
 予想外の出来事に、さすがのジャックも度肝を抜かれた。
「にっしっし。さーて、どうしてやろうかねェ……?」
 ヴェッセルは舌なめずりをしてジャックにトミーガンを突きつける。ところがそのとき、激しい音と共に窓が割れ、何者かが部屋に侵入してきた。
「な、桃!? どういうつもりだ」
窓を破って入ってきたのは、ヴェッセルのパートナー仙 桃(しゃん・たお)。ヴェッセルには内緒で後をつけてきたのだ。
「なんてことをするんだ。こんなにかわいいのに」
 桃はそう言うと、ヴェッセルの手からジャックを奪い取る」
「あ、桃、何すんだ! 返せ!」
「俺もかわいく生まれたかった……」
 桃はヴェッセルの言うことには耳も貸さずに、愛しそうにジャックにほおずりをする。
「さあ、お菓子ならいくらでも俺があげよう。恐いお兄ちゃんからは逃げようねぇ」
 桃はジャックを連れて部屋を出ようとする。
「こら、待て!」
 慌てて後を追いかけようとするヴェッセル。しかし、ケーキの仮装が邪魔をして転んでしまった。
「……どうしてこうなった?」
巨大ケーキはゆっくり起き上がると、部屋の中央に立ち尽くしてぽつりとそう
呟いた。