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#5 ストライキ当日・お昼前 空京どうぶつえん入口ゲート前





 ズガアアアアッ……

「ん? 何だ?」

 遠くからかすかに響く爆音に、中原 一徒(なかはら・かずと)は、動物園の奥を振り返る。うっすら煙が立ち上るのが見えた。

「な、何だあ? ストライキ始まっちまったか?」

 出迎えのためにゲート前にやってきていた影野 陽太(かげの・ようた)も、不安げな顔をしている。

「だ、大丈夫かなぁ……」

そこへ一台の豪奢な車が、ちょうど一徒の前に止まる。

バックシートから颯爽と降り立ったのは、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)である。

「ふう、やっと着いたわ。あら? あなたたち、出迎え?」

 環菜は、上から目線で一徒と陽太に目をやる。

 陽太は、その見下されてる感じがたまらない。

「あ、あの、会長……」

 一徒と陽太は環菜を待ち構えていたわけだが、普段無口な上に久しぶりに目にする環菜を前に、不覚にも緊張してしまう。

「早く園長のところへ案内してくれない? 私は忙しいの」

 相変わらずの上から目線に、二人は何とか事情を説明する。




 一方、入口ゲート付近で待機していた藤枷 綾(ふじかせ・あや)御門 アイシア(みかど・あいしあ)は、遠くに環菜の車が到着したのを発見する。

 それを先に見つけたのはアイシア。

「ねえ綾! あれ、カンナ様の車だよ! いや、ですわ!」

 アイシアは、綾に強制されている不慣れな言葉遣いで言い直す。

「カンナ様なら、きっと園長さんに話をつけてくれますわ!」

「で、でも、カンナ様が私たちの話なんて聞いてくれるかなぁ……」

 いつにもまして不安そうな綾。

「このままじゃあ、最悪動物園がなくなっちゃいますのよ?」

「う……アイシアとデートできなくなるのは困る……」

「さあ、行きましょう」

「分かったわ。解決したら、一日中付き合ってもらうからね!」

 二人は環菜のもとへダッシュする。




 今日の空京どうぶつえんが孕んでいる事態を、どうにか説明できた一徒と陽太。

 それに興味があるのかないのか、環菜はそっぽを向いて聞いている。

「なるほどね。事情は分かったわ」

「だから、ロイホって園長にあんたから話してほしいんだ。スタッフの不満も今にも爆発しそうだ。あんたが行けば、きっと事態を収拾できるはずだ。俺も手伝う」

「そうねえ……」

 環菜は頭で考えを巡らせている。

「カンナ様ああぁぁぁ」

 そこへ綾とアイシアが走りより、

「カンナ様、大変です!」

「ストライキが! 動物園がなくなっちゃう!」

 ダッシュに夢中で、二人は話す内容がまとまっていない。

「……私がそこまでしてココを助ける意味があると思う?」

 環菜は冷たい返事を返す。

「そんな!」

「あのロイホがうるさいから、私は時間を作ってわざわざ視察に来てあげたの。まだ融資するなんて決定は下してないわ」

「待って下さい、カンナ様! ココはたくさんの人にとって、大切な場所なんです!」

「だがあんたのおかげで動物園が存続すれば、あんたの利益にもだるだろう?」

 本来熱血漢の一徒が、こういう損得の話を持ち出すのは珍しい。

 その言い慣れない言葉遣いに気づいたのか、環菜は口元でフッと笑い、

「じゃあ、あなたたち四人で、ロイホのところへ連れてって。ついでに園内の様子も見たいから、きちんとエスコートしてね」

 四人は顔を見合わせ、

「もちろん! こちらですわ、カンナ様」

「おっ! 俺が会長を守りますっ! 何があってもっ」

 心なしか陽太は声が上ずっている。

「仕方ねえ。その代わり、きっちり話をつけてもらうからな」

 四人は、入口ゲートをくぐっていく。