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リアクション
#7 ストライキ始まる!
空京どうぶつえん始まって以来の大混乱が始まった!
アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、たった一人で、ストライキ強行派の肉食動物たちに、
「あのっ、ストライキって、裸ではなくて、他に方法があるんじゃないっ? 主張をするのは大事なことだけど、子供たちに罪はないはずだわ!」
懸命に説得して回っていた。
彼女はストライキを止めるつもりはないが、子供たちにそういうモノを見せるのは避けたかった。
ちょうど、パンダエリアでジョナサンを説得し始めた時のこと。
ピンポンパンポーン♪
「えー、コホン。来園の皆様にお知らせします……」
寛太のアナウンスが流れる。
「時間だ……」
「え?」
早朝から大変な目にあってきたジョナサンは、アリアの話にハナから聞く耳を持っていない。
すっかり意固地になっているのだ。
「さあみんな! 時間だぜ! 園長に俺たちをバカにしてきた罰を与える時だ!」
ウオオオオオオオオ……
ジョナサンの怒号と共に、肉食動物たちの雄たけびが響く。
ジョナサンのかわいらしいパンダのフォルムは、みるみるたくましいしい男性の体へと変わっていく。
「え、え、待ってぇ いやああああんっ」
幸か不幸か、アリアは獣人の局部を見せつけられる最初の犠牲者になってしまった。
「ひええええっ、そこの人! 助けてええぇぇ」
アリアは通りかかった神楽月 九十九(かぐらづき・つくも)にすがる。
「あらあら、始まってしまったんですね」
九十九はジョナサンの裸体を見てもまったく慌てるそぶりを見せない。
「あなたがジョナサンさん?」
「なんだあんた?」
「ストライキとはこのあと、どのように進行していくのですか?」
「は? そりゃあ、まあ、園長が俺たちの話を聞くまでは……」
「なるほど、園長さんが止めに入ってきたら、そこでようやく話ができるということですね」
九十九は何か一人合点したようだ。
「では園長さんに気づかれないと意味がありません。檻の中で人間になったところで、気づいてもらえるでしょうか?」
「何が言いたいんだ、あんた?」
「どうせやるなら徹底的に、と言いたいんです」
と、九十九が取り出したるは、装着型機晶姫 キングドリル(そうちゃくがたきしょうき・きんぐどりる)。
九十九がそれを腕に装着すると、ドリルから声が聞こえる。
「九十九よ……我を起こしたか?」
「ええ。出番です」
「破壊目標は何ぞや?」
「空京どうぶつえんの……全ての檻!」
「了解した。貴殿が望むのならば、我は全てを砕かん! ぶるぁぁぁぁ!!」
キングドリルは、ドリル部分を伸ばして高速回転を始めた。
それを合図に、九十九は踊るようにジョナサンの檻を破壊する。
バキバキバキバキッ!!
轟音を立てて、檻は壊れる。
「なっ、何しやがる!」
驚いたのはジョナサンである。しかし九十九は平然と、
「やるなら徹底的に、ですね。さあ、パレードです。獣人たちのパレードですううぅぅぅ」
「ぶるぁぁぁぁ!!」
ジョナサンの檻を破壊し、二人は次の檻を目指して走り去っていく。
とはいえ、空京どうぶつえんの檻や柵はは簡単に乗り越えられるように作られている。
別に破壊する必要などないのだが……。
☆★☆★
寛太の放送とジョナサンの変身、そして九十九の破壊活動を皮切りに、園内の肉食動物たちが次々と人間に変身していく。
「始まったわね、ついに」
ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、すでに黒焦げになっていた園長室から猛獣用の麻酔銃を拝借し、高台で狙撃体制を整えていた。
「それにしてもここまで大事になるとはね……」
見下ろすと、人間に変身した獣人たちが、次々に檻から出てくるのが見える。観客たちは怯えていいのか驚いていいのか、反応の仕方すら整理できていない。
ローザマリアは、銃声による混乱を避けるためサイレンサーを取り付け、銃を構えてスコープを除く。彼女はシャープシューターのスキルを使用。
バスッ
スコープ越しに、全裸の男が倒れるのが確認できる。
続けて二発、三発……
しかし彼女は戸惑う。
「ちょ、ちょっと、こんなにいるの? 数が多すぎる!」
マシンガンならいざしらず、麻酔ライフル一丁ではとてもさばききれない。
「ほら、あんたたちも動いて!」
と、パートナーのシルヴィア・セレーネ・マキャヴェリ(しるう゛ぃあせれーね・まきゃう゛ぇり)、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)に指示を出す。
「ふむ、では行くかのう、シルヴィアよ」
「う、うんっ」
二人は別動隊として、説得での事態収拾を試みる。
「やめてっ! みんなやめて、こんなこと!……えぐっ、こんなの、だめだよぉ……話し合えば、きっと……」
シルヴィアは彼女なりに真剣に、ストライキを決行中の肉食動物を引きとめては、訴えかける。
しかし、当然聞く耳を持ってもらえず、さらにシルヴィアは嗚咽で何を言ってるか分からない。
シルヴィアは独り、孤独の中で叫ぶのみ……
「まったく、仕方がないのう、シルヴィアは……おい、そこのアザラシ」
グロリアーナは、たまたま通りかかったアザラシを引きとめる。
「はい?」
「そなた、名は」
「こ、コイチですけど……」
アザラシは彼女の何とも言えない迫力に押されて、正直に名乗る。
「よし。ショーを開くぞ」
「はい?」
グロリアーナは長衣を脱ぎ捨てると、纏っているのはスウェットスーツ。ピシリと鞭をしごいて、アザラシを近くのプールに放り込む。
「シルヴィア、獣化じゃ」
「ふえ?」
と、泣きべそをかいているシルヴィアをむんずとつかみ、彼女もプールへ放り込む。
「皆のもの、克目せよ! アザラシオルカショーじゃ!」
と、プールで即席のオルカショーが始まった。
人々はグロリアーナの堂々としたショーに注目し、中には動物たちの変身も、何かの演出なのではないかと、落ち着く者も出始める。
(やれやれ。天下のエリザベス一世ともあろう者が何をしておるのだろうな……まあ、今日ばかりは陽動となるのもよしとしようか……)
☆★☆★
一体何頭、いや、何人仕留めただろうか。
狙撃に必要な高度な集中力を使い続け、ローザマリアの額には汗が浮かんでいる。
「ぜ、全然減らない……」
こんなにも大勢のスタッフが働いているのかと、ローザマリアは改めて愕然とする。
「これじゃキリがないわ」
「そんなことないさ。君はかなり活躍してるよ」
ローザマリアが後ろを振り返ると、そこには五月葉 終夏(さつきば・おりが)が立っている。
「いい眺めだなぁ、この高台」
「あんたは?」
「君と同じ目的だよ。子供にトラウマ植え付けるようなマネはいけないよね〜」
終夏は、女性らしくない口調で、ローザマリアの肩をポンと叩く。
「次は私の番だよ」
バチッ
終夏の手から、電撃がはじける。
「あんた、ウィザード?」
「ううん、モンクなんだけどね。こういうのも好きなんだよね。あ、伏せといた方がいいよ」
終夏のスキル、電撃。
「お腹出してると、雷様におへそとられるよ!」
「ぎゃーーー!」
全裸の肉食に直撃。
「さあ! 全裸のイケナイ子たち! 雷に怯えて逃げ惑うがいい! あははははは!」
終夏は高台から飛び降り、乱舞して次々に雷撃をくらわしていく。
「そおれ! そおれ! ああ、最高だ! こんなに合法的に雷を落とせるなんて!」
終夏はもはや、本音を隠そうとしない。
(……見なかったことにしよう……)
ローザマリアは顔を伏せる。
終夏は動物園を走り続ける。楽しんでいるとしか思えない、高らかな笑い声と共に……
☆★☆★
ソロモン著 『レメゲトン』(そろもんちょ・れめげとん)は、いつの間にか数人の肉食獣を率いて、デモ行進を始めていた。
「我々は! 労働条件の改善を要求するものである!」
レメゲトンは、日ごろの主からの冷遇もあり、ストライキに賛同し、便乗した結果、すっかりその気になってグループリーダーのように振舞っている。魔道書であるレメゲトンの全裸状態は本である。それでは移動ができないので、本から手足だけを出して、ちょっと間の抜けた格好で行進している。
「給料あげろー!」
「休憩よこせー!」
獣人たちのそんな声に紛れて、
「我を使えー!」
とレメゲトンは主張する。
「言いたいことはそれだけかね?」
その目の前に現れたのは、その主、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)。
「アルツール! この際はっきりさせようではないか。貴公は先祖伝来の我に見向きもせず、下らん格下の魔道書ばかり使っておる。何故我の偉大さを認識せぬか!」
「契約したがったのは君だ。どの魔道書を使おうと、俺の自由であろうが」
「ぬかせ! 貴公はそもそも……」
「ストライキごときで混乱するとは。この程度の管理能力では、大事な娘たちを連れてくるには値せんな」
「話を聞かぬかっ!」
「どうでもいいが、君のその情けない格好はどうにかならんのか」
アルツールは、本から手足が出ただけの不格好さを指摘する。
「な! 情けないだと! 侮辱!」
「もうよい。付き合ってられん。帰ったら君が壊した本棚を直してもらうぞ」
「何を! 我は本棚の重石などという下卑た仕事はせんぞ!」
レメゲトンがむきになった隙に、アルツールは素早く印を組み、光術でまばゆい光を放つ。
獣人たちはもちろん、レメゲトンも目つぶしを食らう。
「ふ、不意打ちとは卑怯な!」
アルツールはさらにレメゲトンに足払いを掛け、仰向けに転ばせる。
「ぬあっ、ふ、不覚!」
レメゲトンは裏返しにされた亀のように、手足をジタバタさせる。
「本に戻ればよいのではないか?」
「は! そうか! フハハハハ! アルツールよ! 敵に塩を送ったことを後悔させてくれる!」
レメゲトンは手足をしまい、本と化す。
パシッ
そのレメゲトンを、アルツールは拾い上げ、変身できないよう封をする。
「回収完了。手を焼かせおって」
「はうっ! し、しまったああぁぁぁ!」
「さあ、帰るぞ。他の動物園を探すとしよう」
「は、離せ! 嫌だ! 重石はいやだああぁぁぁぁ」
アルツールは、ストライキなど気にも留めず、空京どうぶつえんを後にした。
☆★☆★
「ヒュウ! こりゃまた、えれえ大混乱ってやつだな」
ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、状況を見て血沸き肉踊る。
「さあて、もう変身しちまった奴はしょうがねえ。他の奴らにぶちのめされてろ。たまには知的に、変身前のやつを説得してみるか」
ラルクは、全裸になっている者には目もくれず、とにかく獣を探す。
「おい、そこのパラミタオオカミ! 俺の話を聞きな!」
「ん?」
ラルクに声をかけられて、ジャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)が振り返る。
「何だお前?」
「てめえ、ここの従業員だな?」
「ああ?」
ジャックは質問の内容より、ラルクの言葉遣いが気に入らないようだ。
「人にモノを尋ねる態度じゃねえなあ。ええ? おい」
「全裸はやめな!」
ラルクはそもそも肉体派。本当に要点しか言わない。
「人にモノを頼む態度じゃねえなあ。ええ? おい」
ジャックのいかにもケンカっ早そうな口調に、ラルクもつられて不良魂に火がつく。しかしラルクはいらつきを飲みこんで。
「落ち着け落ち着け。人前で全裸になってみろ? こりゃ立派な変質者だ。それがどんだけ罪深いか、しっかり考えてから行動するんだなぁ。こん中には脳みそが詰まってんだからよお」
ラルクは理性的にしゃべったつもりだが、ジャックはバカにされたように感じたらしい。
「ほおーう。じゃあオレがどうしても全裸になるって言うなら、どうするってんだ?」
「ふっ、そんときゃそんとき。実力行使だなぁ」
二人の間に火花が散る。
「ゆる族を舐めてもらっちゃあ困るなあ、あんちゃんよぉ」
「ゆる族だあ? てめえバカ言ってんじゃねえぞ。ここは獣人の動物園だ」
ジャックの中で、ブチッと何かが切れる音。
「いいぜ……特別サービスだ」
「どうしてもやるってんだな? 俺に挑むとは、いい度胸だぜ」
はたから見てると、どうも不良のキレるポイントというのは、よくわからない……
「あれえ? ジャック、どこ行ったんだろ?」
ジャックとパートナーを組んでいる如月 玲奈(きさらぎ・れいな)は、彼とはぐれたのだが、焦らずぶらぶらストライキ見物を決め込んでいた。
「お嬢さん、動物園とはいえ、今一人で歩くのは危険ですよ?」
と、少女が一人出歩いているのを見咎めたクロス・クロノス(くろす・くろのす)。
「何を探してるんです?」
「うん。パートナーとはぐれちゃって」
「あら、それは大変ですね。一緒に探して差し上げましょう」
「うーん、でも急いでないから。お姉さんも忙しいでしょ?」
「私はストライキに便乗して裸になろうという、変態気質の者を成敗に参りました。あなたのようないたいけな少女が、その犠牲になるのは決して許されません」
「そっかぁ。じゃあ一緒に探してもらおうかな」
「パートナーの方はどんなお方なのですか?」
「パラミタオオカミそっくりのゆる族だよ」
「ゆる族の方ですか。それはそれは。ゆる族というのは、中の人がいる種族ですよね?」
「そうだよ。ジャックの中身は一回見た事あるんだよ」
「そんなことが可能なのですか」
「うん。見た目は悪くなかった」
「ふふふ。イケメンな殿方なんですね」
「そうそう。ちょうどあんな感じの」
玲菜が指をさす方には、二人の男が腕組みして、そしてなぜか全裸で睨みあっている。
「ほおお。ホントにゆる族だったとはな。てめえ、なかなかのモンじゃねえか」
「ふん、おまえも巨根の称号持ってるだけはあるぜ」
ラルクとジャック(中身)は一発も殴り合うわけでなく、ひたすらお互いを観察しあう。
「俺は波羅密多のラルク」
「オレはイルミンスールのジャックだ」
裸の付き合いで、何を通じあってしまったのか、二人はパンッとハイタッチ。
ヒュンッ
何かが空気を切る音。
「ん?」
二人がその方に目をやった刹那、
ばきっ! どごっ!
クロスの拳が、二人の顎を直撃。
気合の入ったラルクとジャック(中身)は、いともあっさりと気を失ってしまった。
「……汚らわしい!」
☆★☆★
「きゃー! きゃー! えーいっ!!」
どりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)は、悲鳴をあげながらも何だかんだでふぇいと・たかまち(ふぇいと・たかまち)の電撃によって、着実に全裸の獣人たちを気絶に追いやっていた。
「さっすがふぇいとちゃん! 全裸の野郎なんて滅ぼしちゃえ〜」
「え〜、どり〜むちゃん、言葉が過激になってきてるよぉ〜」
どり〜むは倒れた男に目もくれず、きょろきょろしてばかりいる。
「ねえねえ、どり〜むちゃん、何探してるの?」
「そんなの決まってるじゃない。男に襲われてる女の子よ! 一人でもたくさんの女の子を助けてあげるのよっ」
「やっぱりどり〜むちゃん、女の子限定なのね……」
「あったりまえでしょ! 男に汚される前にいただかなくちゃ!」
「ああっ、どり〜むちゃん、本音がでてるよぉ」
「いたあっ! ついに発見! 襲われてる女の子だよっ!」
と、どり〜むが指さす方でへたり込んでいるのは、アリアである。とはいえ、アリアは一人で泣いてるだけで、誰にも襲われてはいない。
「おじょーさん、あぶないっ!」
「え? え?」
「さあ、こっちよっ」
どり〜むはアリアの手を掴むと、ふぇいとも連れて、人気のない倉庫に連れ込んだ。
「あなた、大丈夫だった?」
「う、うん。でも私じゃ説得できなかったわ……」
「男に乱暴されなかった?」
「されなかった……けど……」
「けど? けど何? まさかあなた! 見たのね? あの汚らわしいものを……」
また目を潤ませてうなずくアリア。
(はうっ! その仕草! キュンときたあぁ!)
どり〜むは目をらんらんと輝かせ。
「大変だったね。でももう大丈夫。あたしが忘れさせてあげる……」
「え! え! どり〜むちゃん、やっちゃうのっ!? こんなところでぇ?」
どり〜むはアリアの頬を右手の指先で撫で、さっそく唇を奪おうとする。
「ふぇっ、な、何? 何でっ!?」
当然混乱するアリア。
「大丈夫……怖くないから……最初だけだから……」
と言いつつ、どり〜むの左手は、アリアの胸のふくらみのサイズをチェック。
(こ、この子っ、着痩せするタイプ! なんてステキなサイズっ)
どり〜むの最後のスイッチが入る。
ゆっくりアリアをマットに押し倒す。
「え、え、え、えええ、むぐっ」
アリアは抵抗しようにも、頭が真っ白になって何も考えられない。
「大丈夫……大丈夫だから……」
どり〜むの「大丈夫」ほど信用できないものはないことを、ふぇいとは知っている。
ふぇいとはいつものように、顔を手で覆って、その隙間からしっかり様子を見ている。
「ふぁうぅっ、だ、だめぇ。か、開発しないでえええぇぇ……」
そして、アリアの悲鳴とも嬌声ともつかぬ声が、園内の混乱の声にかき消されていった……
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