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リアクション
■
百合園女学院の橘 舞(たちばな・まい)は、ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)、金 仙姫(きむ・そに)と共に3時のティータイムを楽しんでいた。
「ブリジットとの馴れ初めですか?」
舞はティーカップを置いてから答えた。
「ブリジットとは実家のある京都で会ったんですよ」
仙姫はBGMを歌って場を盛り上げようとする。
る〜るるる〜るる、る〜るる〜……。
しんみりとした舞は、懐かしそうにブリジットに目を向ける。
「その頃の私はちょっと疲れてて、半年近く学校をお休みしていたんです」
軽く両肩をすくめる。
「橘の家の娘として、私は誰よりも優れてないといけないんだって。勝手に思い込んでいて、知らないうちに無理してたんですね。一杯詰め込みすぎて、心が疲れちゃったみたいです……」
「運命」の日。
何となく夜風に当たりたくて、舞は屋敷を抜け出して公園を歩いていた。
そこを、柄の悪い者どもに囲まれて……。
危機を救ってくれたのが、ブリジットだったのだ。
「差し伸べてくれた手を掴んだ時に、これが『運命』なんだなって。この子と一緒なら、きっと私は本当の私になれるって。ちょっと感傷的すぎるかもしれないですけどね」
「ブリジットさんは?」
「なぜ地球にいたのか? てこと? タイミング良く」
愛美はうんと頷く。
「私の社会見学を兼ねた、実家の事業パートナー探しよ。父様と一緒だったの」
でもそれは建前でね、と眉をひそめる。
「実際は私のお見合いだったの。そのことで父様と喧嘩してホテルを飛び出して、公園をぶらついていたら、舞が不良に絡まれてたのね。機嫌悪かったし、ちょっと暴れたい気分だったの。しり餅をついてヘタってる子がいれば、手ぐらい貸すじゃない?」
悪戯っぽくウィンク。
「私は……運命なんて信じない。そんなものあろうとなかろうと、舞は私のパートナーで親友――その事実は動かないもの。まぁ、舞と契約したおかげで、見合いの話も立ち消えになったし。舞の実家が事業パートナーになってくれたから、父様の目的も達成出来た訳だし。結果オーライよね!」
フフッと2人は笑う。
これはこれで、幸せそうだ。
朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)は舞達の隣のテーブル席にいた。
パートナーのイルマ・レスト(いるま・れすと)と朝倉 リッチェンス(あさくら・りっちぇんす)を伴っている。
「リッチェンスとの馴れ初めですか?」
千歳は、べったりと寄り添う「剣の花嫁」に困り果てつつも答える。
「3月中旬のことだったな。私の携帯にマルイという人から、『近くの洞窟に不審者が出入りしているから調べて欲しい』というメールがあって。念の為イルマと調査しに行った所、奥の棺の中にリッチェンスが眠っていたんだ。いきなり、『ダーリン!』と呼ばれたのは驚いたけど。ぎっくり腰で動けなくなったのには、ギックリではなくてビックリだったな……」
「はあ?」
「い、いや、今のは忘れて欲しい」
コホンッと咳払い。
「その後、固まって動けなくなったリツを、イルマと2人で運び出して病院に運んだんだ。私にとっては……リツは、妹みたいな感じかな。可愛い妹とか欲しかったから……」
「『妹』だなんて! この際『ヨメ』と言って下さい! 恥ずかしがらないで」
いやーんと、リッチェンスは1人で盛り上がる。
「えーと、リッチェンスさん?」
愛美は、一応聞いた方がいいよね? という義務感から尋ねてみる。
「今の話は、本当なの?」
「はい!」
リッチェンスは胸元で手を合わせ、夢見る瞳を輝かせる。
「ダーリンが私を長い眠りから覚ましてくれたのですよ! 王子様の目覚めのキッスで私は長い眠りから目覚めたのです」
「いや、リッチェンス。私はしてないぞ?」
という千歳の声は、完全無視である。
「感謝感激雨霰なのです。という訳で、ダーリンの嫁として、ダーリンの為に、料理教室にも通ってます。手芸くらぶにも通い始めました。何たって、種族からして『剣の花嫁』ですもの!」
1人ラブラブモードなリッチェンスに、
「とんでもない『欠陥剣の花嫁』でしたけどね」
紅茶を上品に飲んで、イルマは冷ややかに喝を入れる。
「いきなり腰痛で長期離脱とかありえませんわ。リコールとかないんでしょうか?」
「は? リコール」
「あ、いえ。私としましたことが、オホホホ……」
イルマは口元に手を当てて、優雅に動揺を隠す。
そうした次第で、彼女の心の声は誰にも聞かれなかったのであった。
(千歳に光条兵器を持ってもらいたくて、苦労して準備しましたのに……洞窟に運び込むのも1人で大変でしたのに。まぁ、いくら適正のある契約者以外目覚めさせられないとはいえ、ちょっと安すぎるとは思いましたけど)
ところでリツ、とこれは横目で睨んで。
「先程の話ですが。誰が忘恩の輩ですか? あなたは助けられた覚えはありませんわ。丸腰で来るわ、腰痛で動けないわ、おまけに、安らかに眠ってくださいとかほざいてくれたのはこの口ですか?」
「愛美達で、忘れたと思ったのに」
うー、イルイルは意地悪です。
リッチェンスは千歳の背に隠れて、抗議の声を上げた。
「何度でも言いますよー、陰険小姑です! リトルブレーメンで助けてあげた恩を仇で返す忘恩の輩ですね」
「だから、リツ。私は助けられた覚えは……」
(面倒臭いことになりそうだから、今のうちに……)
4人は忍び足で退散する。
(離れた席にしようよ、マナ)
そうした次第で、皆川 陽(みなかわ・よう)とテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は愛美達に捕まったのだった。
「朝倉さんと同じ質問?」
「どうしてパートナーになったのか? てことだよ、陽」
テディはこっそり耳打ちする。
「ああ、それね」
陽はメガネを人差し指で押し上げる。
「最初は『幻覚』かと思ってたよ。幽霊なんて! 急に見えるようになったら、誰だってそう思いません?」
「幽霊!?」
うんと陽は頷く。
「けれどそのうちはっきり見えるようになって行って……いや、姿がさ。とうとう精神病になったか! と思って、1人で思い悩んだよ。そんなある日、道を歩いていたら、通り魔に襲われたんだ。死ぬかと思ったし、実際死にかけた。テディと契約したのは、その時だよ。血まみれで、もう死ぬしかないと思った。助けてくれるなら誰だってよかったんだ! けれど実体化したテディは助けてくれただけじゃなくて、守ってくれたよ。命の恩人さ」
胸を張った。
が、次の瞬間眉をひそめる。
「それが……テディにとっては、『実体化の手段』に過ぎなかったとしてもね」
「へ?」
「だって『パートナー契約』って、幽霊が実体を得るための手段に過ぎないものなんでしょ?」
小谷さんじゃないどさあ、とハアッと溜め息。
「時々思うんだ。出会いって、本当に『運命』なの?」
「『運命』だよ! 間違いなく」
テディはバンッと机を叩いて立ち上がった。
「あの時、僕の声が聞こえたのは陽だけだ。僕が若死にしたことに同情してくれたのも、陽だけだった。これを運命と言わずして、何て言うの?」
グッと拳を握る。
「確かに戦死者の魂だった僕が実体化するには、陽との契約が必要だったよ」
「ほらね」
「でも、その点も含めて運命の相手だと思っている」
「…………」
「この出会いは運命だったと思うし、臆病な性格の陽を守っていきたいと思うし。だからいろんな意味で、もっと『特別な関係』になりたいと思っているんだ!」
「と、『特別な関係』って?」
詰め寄る愛美達に、テディはポウッっと頬を染め。
「1年も話しているんだよ? 1年も! 陽が『僕のヨメ』だっていうこと! もういい加減認めなよ!」
陽はアハハハ〜、とひきつり笑顔。
「大陸の方は、冗談キツイなあ……」
手元が狂って、メガネを落とす。
メガネ、メガネ〜……陽はテーブルの下を捜し始める。
テディは深い溜め息をつくのだった。
斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)はネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)との昼食の最中、愛美達に捕まった。
「馴れ初めねぇ。あんまり面白い話じゃないが、それでもいいなら」
邦彦は定食をかき込みつつ。
「ある遺跡を、趣味で放浪中に見に行った。そこで突然、集団に襲われたんだ」
カルト集団っぽいやつね、と補足して、食器を置く。
「どうやら、見たらいけないものを見たっぽい。必死で逃げる。その際その場にあった銅像を投げつけ壊す。ネル出現。逃走の為に、すぐさま契約っ!!」
一気にまくし立てた後で、愛美達に目を向ける。
「そんな目で見るな、あの時は必死だったんだ。それに直感だったが、何となくこいつとは長い付き合いになる、と思ったのは確かだ。ただ状況的に打算のように見えるだけだ。……本当だぞ? 実際ネルとの相性も悪くないし、こっちに来て毎日新たな発見があり面白い。今の生活は気に入ってる」
「それだけ? 面白いってだけなの?」
「ネルとの関係ってことか?」
愛美達は頷く。
邦彦は大仰に両肩をすくめて。
「相棒だ。ま、容姿は好みだがな」
(「好み」以上のものではないみたいですね……)
思うことあって、花音は短く溜め息をついた。
だが、彼女の想像とは裏腹に。
「ふむ、容姿は好みか。初耳だな……」
いたって冷静なネルの声。
「……って容姿は、ってどういう意味だ? まぁいい、話を戻そう」
ナプキンで口を拭きつつ、ネルは話を続けた。
「ある意味、運命的とも言えるかもしれん。私はそれまでその銅像に魂が封印されていたが、意識はあった。だが毎日何も出来ず、喋れず、それは想像以上に辛かった。そのあげく、妙な連中が毎日私(銅像)を祈るのだからたまらない。それが突然開放された訳だからね。私は邦彦に感謝したよ。とはいえ、事情を説明する前に契約に即答するとは思わなかったが。まぁ何かしら恩は返さなければとは思っていたので、ちょうど良かったよ。今はたまに刺激があり、日常生活を心から楽しむことが出来概ね満足している」
「で?」
花音が不安そうに尋ねる。
「それだけ、ですか?」
「ああ、邦彦との関係か?」
彼女はサバサバと答えた
「相棒だよ。現時点ではね」
(でも、それだけじゃ嫌になる時が、きっと来ますよね?)
誰かさんの姿を思い浮かべて、花音は複雑な表情になる。
浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)は、北条 円(ほうじょう・まどか)と待ち合わせをしていたところ、騒動に巻き込まれてしまった。
うっかり邦彦達の話を遠巻きに眺めていたのが、運のつきだった。
「さー! 白状しなさい! 翡翠さん」
「えー、そんなあ! 勘弁して下さい! 小谷様」
しかし、結局このはかなげな少年も、愛美達の毒牙に掛かってしまうのだった。
「円との馴れ初めですか? 何の変哲もない少年が人生はつまらないって。僕がそう望んだからだと思いますよ」
「ふーん、何だかどこかで聞いた設定ね?」
瀬蓮と花音は、愛美を振り返る。
「それで?」
「て、それだけですよ」
「えーっ! それだけなの!?」
愛美達は不服そうに声を上げる。
「きっと今日も昨日も変わらない、だから明日も明後日も大差ないって。諦観していたんですよ。そこにたまたまヴァルキリーの彼女がいただけです!」
と、そこに円の姿が。
「では、これにて失礼致します!」
慌てて、野次馬なチェリーボーイは退散するのであった。
琳 鳳明(りん・ほうめい)はセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)共に、やはり遅い昼食を取っていた。
「なんはほうへうほ?」
鳳明はムグムグと口を動かしつつ言った。
ムグムグムグムグ、ゴックンッ!
ああ! と頷く。
「セラさんとの出会いですか!」
うんうん、と愛美達が頷くので、人のよい彼女は語りはじめた。
……と思ったら、なぜか声を落として怪談風な口調になる。
「突然声が聞こえてきたんだ。最初は小さい声で何を言っているのかも判らなかったんだけど。少しづつ声は大きくなっていって……。初めは幻聴だと思ったんだけど、直接頭の中に響く様で耳を塞いでも意味なんてなかった。そのうち怖くなってベッドで蹲って震えていたら、視界の端に何かがチラチラと見えるようになってきて……もう我慢出来なくて私は叫んだんだ! そしたら目の前に……!?」
きゃああああああああああああああああっ!
愛美、瀬蓮、花音、美羽は両耳をふさいで絶叫する。
「……と。そんな感じで、私の前にセラさんが出てきたんだよ」
「へ?」
「ビックリした?」
「お、お化けじゃないの?」
「人様を、化け物か何かのように言わないで下さい!」
勘違いされますから、セラフィーナはよしよしと愛美達の頭をなでる。
「そもそも、ワタシが何を言っているのか聞き取れるようになってからは、普通に会話していたではないですか。それを見たご近所さんから、鳳明が気味悪がられたようですが。ワタシがこの身を取り戻した時など、鳳明は『お姉ちゃん!』と言って、泣きながらワタシに抱きついていましたよね? まぁワタシとしても『剣の花嫁』として生まれ、初めてこの光条兵器を受け取ってくれた人です。鳳明との出会いには運命を感じていますよ……」
はい? 活動年数ですか?
こめかみをヒクつかせつつ、愛美達に向き直る。
「眠っていた時間を抜いて40年になりましょうか。それに何か問題が?」
顔は笑顔だ。
だが体内から光るものを出し始めたため、愛美達はそれ以上聞くのをやめた。
(あのね! 女の人って、20歳過ぎたら年齢聞いちゃいけないんだって!)
アイリスが言ってたよ――瀬蓮は真剣な顔で忠告する。
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