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【初心者さん優先】 福神社の蔦退治

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【初心者さん優先】 福神社の蔦退治

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 蔦退治とその裏側
 
 
 
 蔦の厄介さはその強さではなく多さにある。
 持続して戦う力が不足がちな新入生にとって、切っても切ってもまた別の蔓が攻撃してくる蔦は面倒な相手だ。
「こんなのが一般の人に向かったら大変なことになるよね……」
 人が多く集まる場所で聞けば、自分のことを知っている人がいるかも知れないと思っていたシオン・ファザット(しおん・ふぁざっと)だったけれど、今はそれよりもこの蔦をなんとかすることが先決のようだ。『神社』というのは良い場所なのだと聞いている。ならばなおのこと、困る人を出してはならない。
「ええと……足を引っ張ったらごめんね?」
 病弱な為、寒いところは苦手なシオンは、共に戦う皆に先に謝っておいた。
「そんなのお互いさまですぅ」
 パラミタに来て間もない生徒が多く参加しているのだから、迷惑をかけたりかけられたりは当たり前のこと。気にせずに皆で協力して蔦を退治しようと、ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)は戦闘用のビーチパラソルを構えた。そうするだけで、それまでのんびりした印象だったルーシェリアの印象は一変する。
 絡みついてくる蔦を切ろうとパラソルを持つ手に力をこめるルーシェリアに、
「こんなのぽかぽかやっちゃいましょう」
 と、青山こゆきが祝福を与え、その攻撃力を増した。こゆき自身も自分の力を増しておいてから、メイスでぽかぽかと蔦を殴りつける。
 力をこめて殴りつけると、そこから蔦がへし折れる。少しでも長く折ろうと、こゆきは踏み込んでは殴り、一旦退いてはまた踏み込み、を繰り返す。普段はいかにもお嬢様といった風のこゆきだけれど、やるときにはやる……と自分では思っているのだ。
「これ、運んじゃいますね」
 折った蔦はリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が素早く回収してゆく。新しく転入した人に頑張ってもらいたいから戦闘は手伝わない。けれど蔦の残骸が足下にあっては戦いにくいだろうし、切ったものから順に運んでしまった方が効率が良い。
 それに、万が一切ったものがいきなり動き出して……、という事態も防げるだろう。
 運ぶのを邪魔してくる蔦だけを倒すと、リカインはそれもひとまとめにして焚き火をする場所へと運んでいった。
「後ろ後ろ、ですぅ」
 蔦は気になるけれどここで手を出してしまっては琴子の計画が無駄になる、と退治の様子を見守っていた神代 明日香(かみしろ・あすか)だったけれど、新入生の背後に蔦が回り込むのを見て警告する。
 目の前の蔦に懸命になればなるほど、周囲は見えにくくなるものだ。
 明日香の声に辿楼院刹那は即座に反応し、鬼のような目でかっと蔦をにらみ付けた。目もない植物のこと、効くかどうかは半信半疑だったけれど、相手に知覚されれば鬼眼は効果をあらわすようで、蔦の動きは途端ににぶった。
 そこを狙って、ルーシェリアが絡め取るようにして蔦を断つ。
「せっちゃん、大丈夫?」
 アルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)の泣きそうな瞳に刹那は軽く頷きかけた。
 刹那は動く蔦という相手は初めてでも、戦いの場数は踏んでいる。任せておけば大丈夫なはずと、アルミナは自分に言い聞かせながら、蔦退治をしている皆のために、怒りの歌を歌って補助をする役目に戻った。
 一旦蔦と距離をとった刹那は、長い袖にしのばせておいた短剣を蔦へと放つ。
 そして軽やかな身のこなしで蔦との距離を一気に縮め、鍛えられた打刀で根本近くを断ち斬った。
「これってサイコキネシスで引っこ抜けたりするのかな……?」
 シオンは蔦に赤くきらめく瞳を向けて集中したが、蔦を抜くことは出来なかった。手を使って出せるほどの力は無いようだ。
「結ぶのも無理みたい」
 サイコキネシス蔦をねじって結んで、と試みた月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)だったけれど、こちらも思うようにはいかない。単純に、持ち上げる、押す、のような力は加えられるのだけれど、結ぶ、となると全然上手くいかない。サイコキネシスを使ってできるのはごく単純なこと、それもあまり力は無いのだと、シオンとあゆみは戦いの中で実感する。
「サイコキネシスがダメだとすると、火術で燃やすしかなさそうだけど……」
 植物が相手なのだからよく燃えそうな気がする、とシオンが言えば、武器が蔦を切るのにあまり適しているとは言えないルーシェリアもそうしてみようと同意する。
 まずはこちらに襲いかかって来ようとしている危険そうな蔦から、と炎で攻撃してみると確かによく燃えた。けれど。
 火のついた蔦は辺りをのたうち回り、周囲に火の粉を散らして暴れる。
「熱っ……」
 頭上から降ってきた火の粉を払おうとして、シオンは貧血を起こしてふらついた。それを炎の鞭となった蔦が打ち据えようとする。
 これは危険だと見た明日香は助太刀しようとしたけれど、その前にあゆみがサイコキネシスで蔦を押さえ込んだ。
「誰か、蔦を切って〜」
 自分が動きを止められているうちに、と言うあゆみの懸命な呼びかけを受けて、こゆきとルーシェリアが蔦を折り、燃えているのを足で踏みつけて消す。
 その間に襲ってくる蔦は、明日香がさりげなく魔法で吹き飛ばしておいた。
「ごめん。ちょっと目眩がして……。助けてくれてありがとう」
 まだ顔色は良くなかったけれど、シオンは貧血から立ち直るとまた蔦に向かう。
「気にしないでみんなでがんばろう。クリアーエーテル!」
 それににっこり笑い、いつもの口癖で答えた次の瞬間、あゆみは蔦にメガネをとられて悲鳴をあげた。
「きゃー、蔦さん、メガネとらないで〜。ふにゃーん、なんにも見えないよ〜」
 わたわたとメガネをさがすあゆみの背後で、小さなシャッター音がする。
「いいねぇ〜、メガネっ娘ベストショット〜」
 新入生の手の届きにくい所の蔦掃除を手伝いながら、七刀切はデジタルカメラで可愛い子を撮りまくり。
「お、そっちの子も可愛いねぇ。メモリーカードが何枚あっても足りないなぁ。あ、撮ったのを送りたいから、連絡先教えてもらえるかなぁ」
 いつもは眠そうな切だけれど、面白がっているときのテンションは高い。
 興味の向くままに新入生たちの間を行き来しては、巫女姿の女の子や蔦と戦う新入生たちをデジタルカメラにおさめていった。
 
 
 そんな戦いの裏側で動く影が2つ。
 1人は穏形の術で姿を隠したルイ・フリード(るい・ふりーど)だ。
「確かにそこまで危険はなさそうですが……」
 蔦退治を見守りに来たものの、どうも蔦の量が多い。契約者ならば遅れをとるような相手ではないけれど、あまり数があっては戦いに慣れない者たちは疲弊してしまうだろう。
 それに、蔦を退治してから焼き芋をするという予定だから、あまりここで時間がかかってしまうと帰宅時間が遅くなってしまう。集まっている皆が生徒という立場なのを考えれば、その辺りへの配慮も必要だろう。
 いくつか根本を潰して、適切な数にしておこうとルイは蔓をたどった。
 手伝っている姿を見られては、新入生の士気に関わってしまうかも知れないからと、こっそりとばれないように、姿を隠し隠し進んでいっては、蔦を元から断っておく。
 念の為、断ち切った根の方を引っ張ってみたが、もう動かない。ある程度短くなってしまえば力を失うようだ。
「それにしても一体これは何なのでしょうね」
 変色したような不気味な蔦の元をまた断ち切りつつ、ルイは呟いた。
 
 そしてもう1人は。
「むぅ……」
 雨宮 七日(あめみや・なのか)は蔦の陰に隠れて内心冷や汗をかいていた。日比谷 皐月(ひびや・さつき)の目をかいくぐって福神社にやってきたのは、ここなら人も少なくて死霊術の実験をするにはもってこいだと思ったからなのだけれど。
「まさかこんな事態になるなんて……」
 蔦がここまでの反応を示すような実験ではないはず。そう思っても、実際蔦が大繁殖して暴れ回っているのは事実だ。
 なんとかしたい所だと、少し蔦を排除してみたものの、これだけ増えてしまうと七日の手に余る。派手に動いて、どうしてそんな所にと発見されてしまったりすれば、かなり立場は悪くなるだろうし……。
 しばらく皆の様子を観察していた七日は、これなら放っておけば蔦は全部退治されそうだと判断した。となればここは。
「逃げるが勝ち、ですね。さすがに空京でまで指名手配になっては、動きにくいことこの上ありませんし」
 心を決めると、七日は離脱にかかった。といっても、ここでふらふら出ていっては人目を引いてしまう。
「時間稼ぎはお願いしますね」
 連れてきていたペット……レイス、グール、使い魔のコウモリ、武者人形たちを新入生たちに襲いかからせると、その陰で七日はさっさとその場を逃れていった。
「まぁ、皆様のご健勝をお祈りして。さようならです」
 蔦の間から現れた新手に、蔦と戦っていた者たちは驚いた。
 動揺した為に態勢が崩れたところを蔦に叩かれはしたが、その動揺が去ってしまえば相手はしょせんペットだ。
 新入生たちは気をすぐに気を取り直すと、新手と共に蔦を排除してゆくのだった。