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【初心者さん優先】 福神社の蔦退治

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【初心者さん優先】 福神社の蔦退治

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 ほっこりタイム
 
 
 
 芋が焼けるのには時間がかかる。
 時間をかけてじわじわと焼き上げることで甘みが増すのだから、待つ時間は大切だ。
 とはいえ、蔦退治や参拝客の誘導を終えて戻ってきた生徒たちにとって、その時間は長く感じられるだろう。
 そう思ったネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は焼き芋ができあがるまでの時間、皆に温まってもらう為にと差し入れを準備してきた。
「お芋が焼けるまでの間、これを食べて温まってね」
 ネージュが用意したのは、和風カレーだった。
 じゃがいも、人参、れんこん、ごぼう、くわいなどの根菜をメインにして、そこに油抜きをした鶏肉を入れて、さらりとした食べ口の和風カレーに仕立ててある。
 冷えた身体を温めてもらいたいからと、ルゥのは甘草やショウガ、にんにくなどが入っている。これを食べればほっこり身体が温まって、寒さにだって負けない。
「いい匂いがしますぅ」
 カレーの匂いに惹かれてやってきたルーシェリアに、ネージュはカレーをよそって渡した。
「あたし、カレーをスパイスから作るのが趣味なんだ。美味しくできたと思うから、嫌いじゃなかったら食べてみてね」
「スパイスからですかぁ。本格的ですねぇ」
 ネージュから受け取った和風カレーを食べて、美味しいですぅとルーシェリアは嬉しそうな顔になった。
「みんなお疲れ様。豚汁を用意したからこれを食べて疲れを癒してくださいね」
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)からの差し入れは豚汁だ。身体を動かした後とはいえ、この季節ではすぐに冷えてしまう。頑張った新入生たちをどうねぎらおうかと考えて、涼介も温かなものを選択したのだった。
 人参、大根、里芋、ごぼうの根菜類と豚肉、こんにゃくをかつおを効かせた出汁で煮たあと、丁寧にアクを取って豆腐を加え、味噌をささっと溶かしこんで味を調えたら、葱をあしらってできあがり。
 それだけではお腹がふくれないだろうから、おにぎりと卵焼きを添えて炊きだしとする。
「ふぅ……生き返った気分がする……」
 温かいものをお腹に入れて、シオンの顔色は随分と良くなった。お腹の中から温まる、というのはこういう状態のことを言うのだろう。じわじわと疲れが溶けてゆく心地がする。
「みんな、蔦退治や交通整理お疲れ様だよ。兄ぃとボクでおいしいものを用意したからたくさん食べていってね」
 これだけ人数がいれば、豚汁よりも甘いものの方が好き、という人もいるだろうからとヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)は、湯気の立つ甘い汁粉をお椀に注いでゆく。
 見た目はボーイッシュなアリアクルスイドだけれど、涼介に負けず劣らず料理をするのは好きなのだ。
「いい感じの甘さだね〜。とっても美味しくできてる」
 アリアクルスイドの作ったお汁粉を食べて、月美あゆみは満足そうに頷いた。あゆみの趣味はお菓子作りと模型作り。だから、誰かが作った甘いものを食べるのは興味深いし楽しい。
「冬の神社とお汁粉って似合うよね。たくさんあるから良かったらおかわりしてねっ」
 そう言うと、アリアクルスイドはまた大きな声でお汁粉をどうぞと周囲に呼びかけるのだった。
 
 
「こっちには弁当を用意してある。良かったら食べてくれ」
 蔦退治が無事に終わったことに安堵しながら、夜月 鴉(やづき・からす)は自作の弁当を広げた。
 鴉もパラミタに来たばかりの時は、色々な人に助けられた。まだこの地に完全に慣れたとはいえないけれど、そうした繋がりの中で培ってきたものの大切さは身にしみている。
 人と喋るのは面倒だけれど、今日は転入生たちの案内をしたり、蔦退治を補助したりと手伝ったのは、自分がしてもらったことを少しでも誰かに返したい、との気持ちからだ。
「どうぞ遠慮無く食べて下さいね」
 鴉のパートナーのアスタ・アシナ(あすた・あしな)も周囲の人に呼びかけて弁当を勧める。
 それをオルカ・ヴァーソロミュー(おるか・ばーそろみゅー)がひょいとのぞき込んだ。
「器用に作るもんやなぁ」
 自分のことは自分でする、というのが信条のオルカだからもちろん料理もする。けれどあまり凝ったものを作ったりはしないので、キレイに詰められた弁当を感心したように眺めた。
「あら……今日はお疲れでしょう? どうぞここに座って下さいな」
 オルカを見たアスタは嬉しそうに笑って席を勧めた。
「ええんか? ならお言葉に甘えさせてもらうな」
「どうぞどうぞ。何がお好きですか? 私が取ってあげましょう。なんなら食べさせてあげましょうか?」
 そそくさと世話を焼き出すアスタに、鴉はまたかと思う。好青年とみると目がないのがアスタなのだ。
「いや、自分で取れるさかい気ぃ使わんでええよ。うわぁ、目移りしてまうなぁ」
 どれにしようかと弁当を見渡すオルカ。そのオルカに熱い視線を注ぐアスタ。
「あんまりやり過ぎるなよ」
 2人を見比べて注意した鴉に、アスタは顔をあげてにっこりと答えた。
「ふふ、分かってます。ですが……今度の新入生は当たりのようですね♪」
 
 
「お口にあえば良いのですが〜」
 お弁当は頑張った後のお楽しみだから、と咲夜 由宇(さくや・ゆう)は気合いをいれて作ってきた。
 入っているのはからあげやハンバーグ等の定番メニューが主なのだけれど、ちょっとぐらい多めでも良いかも、と作った結果、どっさりと詰められた料理は圧巻だ。
 量がたっぷりとある為に、生徒たちは気軽に由宇の料理をつまんでゆく。
 定番のお弁当は、食べるとほっと気持ちが落ち着く安心の料理でもある。頑張った子をお帰りなさいと迎えてくれる、お母さんの味のように。
「デザートはこちらですぅ」
 お弁当や焼き芋を食べた口がさっぱりするようにと、大きなタッパーの中には梨や林檎などのフルーツが詰まっている。
 水筒の中には身体と気持ちを休めるハーブティ。お疲れ様、の気持ちをこめたお弁当だ。
「私も作ってきたんです。どうですか?」
 火村加夜のお弁当は動物をかたどったおにぎりやウィンナーが入っていて、キャラ弁のように愛らしい。もちろん形だけでなく、味も美味しく出来ている。
「食べていいの?」
 リタ・ピサンリ(りた・ぴさんり)が目を輝かせて弁当に手を伸ばした。
「これ美味しいね。あっ、こっちも美味しい。わぁ、あれもこれも全部食べたいなっ」
 リサは幸せいっぱいという様子で次々に料理を口にしては、いかにも美味しそうに目を細める。気持ちの良い食べっぷりだ。
「あらら、そんなに急いで食べると喉につかえますわよ」
 アクア・アクア(あくあ・あくあ)が笑って、リタに水筒のハーブティーを注いで渡した。
「ありがと」
 ごくごくと美味しそうに飲み食いするリタの無邪気さに、アクアは涎が垂れそうになる。
「ほら、ほっぺたにソースがついてますわ。たくさんありますから、急いで食べなくても大丈夫ですのよ」
 普段は由宇をいじって遊ぶのだが、今日はその標的をリタに定め、あれやこれやとアクアは世話を焼いた。
「こちらも差し入れだそうです〜」
 お茶くみをしていた布紅が、小冊子 十二星華プロファイル(しょうさっし・じゅうにせいかぷろふぁいる)から預かっていた弁当を出す。中身は黒豆や伊達巻、数の子等の和の料理だ。
「これ、おせち料理みたいですねぇ」
 青山こゆきがそう言うと、布紅ははいと頷いた。
「十二星華プロファイルさんも、ちょっと早いですがおせちを意識して……って言ってました」
 どうぞ食べて下さいね、とお茶くみに戻ろうとした布紅を、シャウラが呼び止める。
「巫女さんのバイトが終わったら、ウインタースポーツでもしに行かないか?」
「いえ、私は巫女さんじゃなくて、神様なんだそうです」
 ほけほけと答える布紅をシャウラは重ねて誘う。
「へぇ、だからこんな可愛いのか。じゃあ神様の休日に映画とかどう?」
「お休みの日とかはないんです〜」
「……ナンパしてどうする」
 ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)が軽く制止したが、それだけではシャウラは止まらない。
「神様って休み無いのか? ってか、神社から物理的に離れられないとか? 自縛霊みたいにさ」
 更に尋ねたシャウラに、ユーシスはアッパーカットからスリーパーホールドの肉体言語で天誅を下す。
「天罰っ!」
「それ、天じゃ……ぐはっ」
 見事にくらって呻くシャウラに布紅の方が慌てて、喧嘩はいけないですとわたわた手を振り回した。
 
 
 
「これで焼き上がりですかぁ?」
 焚き火の中から出されたサツマイモの包みに、アストリアは刀を刺してみた。生の時とは違い、柔らかな手応えで刀はアルミホイルごとサツマイモを貫く。
「遂に焼けましたか! ……熱っ!」
 さっそくその芋を掴んで刀から引っこ抜いたのはいいけれど、あまりの熱さに京花はアルミホイル包みを投げあげる。
 くるりと回りながら芋は空高く上がり、落ちてくる。
 その芋をはしっと掴んだのは、京花の手ではなかった。
「この焼き芋は私のだ!」
 行き倒れになっていたはずの獅子神玲が、熱さもものともせずに芋を抱える。社で寝かされていた耳に、焼き芋という言葉が入り、それにひかれてふらふらとさまよい出て来たのだ。
「焼きみかんなるものもありますよぅ」
 ほら、とアストリアが焼きみかんの包みも刀に突き刺して取り出すと、玲は目を輝かせてそれに手を伸ばした。けれど。
「その人ばかりずるいです。それは京花のです!」
 食べ物に目のない京花も黙ってはいられず、玲と丁々発止の争奪戦を繰り広げる。
「京花、人の食べ物に手を出すなんてお行儀が悪いですよぅ」
 ね、とにっこり笑顔で同意を求めるアストリアに、玲はわんこのように懐いた。
 
 

 焼いたものを全部出した後、暖を取るために焚き火にはまた蔦がくべられ、赤々と燃え上がる。
 その周りに集まって、焼き芋や焼きみかん、炊き出しや弁当を楽しむ新入生たちに、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)はさて、と声をかけた。
「シャンバラの洗礼は如何でしたか? こちらではかような事件など序の口、常識など通用しない世界です。……しかし、その蔦とて、生きていただけに過ぎないのです」
 はたりと扇を口元に当て、狐樹廊は続ける。
「この世界で『生きる』ということがどういうことなのか、これを機に、胸に刻みつけておくとよいでしょう。その蔦のように弱肉強食などという言葉が意味を成さぬ環境において、言い訳などではない揺るがぬ信頼……誰かを守りたいとかそういう類のものです……を」
 そこまで蕩々と語ると、
「手前ですか? 地祇としてこの空京を守る、そんなところです」
 そう言って狐樹廊はにこりと、心を覗かせぬ笑みを浮かべた。
 
 
「蔦の駆除は終わりましたからね。もう神社のものを壊そうとしてはいけませんわよ」
 神社を破壊されては困るからと退治の間隔離されていたモモに、琴子はよくよく言い聞かせてから解放した。
「向こうで焼き芋や料理がふるまわれていますから、よろしければ食べていってくださいましね」
 焼き芋、と効いてモモの頭から蔦のことが消えた。小走りに教えられた方に行くと、甘い焼き芋の香りや豚汁の味噌の香り、カレーの匂いが鼻孔をくすぐる。
「マシュマロサンドはいかがなのですかー?」
 ナイト・フェイクドール(ないと・ふぇいくどーる)はマシュマロを表面に焼き目がつくまで焼いて、チョコソースをぬったクラッカーに挟んだマシュマロサンドを皆に配った。
 ぱくりとクラッカーをかじると、はさんだマシュマロがふにゅっと伸びる。不思議な食感のお菓子だ。
「随分たくさん作ったんだね」
 参加人数の倍ほどありそうなマシュマロサンドをサトゥルヌスが指すと、ナイトは煉瓦色の髪を弾ませて頷いた。
「これだけあれば、食べたい人にちゃんといきわたりますです! 余ったら全部食べますですから、問題ないのです。あ、巫女さんたちもどうぞなのです」
 はい、とナイトは巫女姿の桐生理知にマシュマロサンドを差し出した。
「あー、理知いいなー」
「そちらの巫女さんにもどうぞなのですー」
 羨ましそうに声をあげた智緒にもナイトはマシュマロサンドを渡す。
 その横を通り過ぎて、モモはまっすぐに焼き芋のところにいって手を差し出した。
 ほこほこに焼き上がったサツマイモは黄金。美味しくてつい食べ過ぎてしまった……結果。
 ぷっ。
 音と共にモモはフリーズし……。
 次の瞬間、全速力で逃げ帰っていった。
 
 
 
 焚き火で焼いたサツマイモはとろけるような黄金に焼き上がる。オーブンで焼いても蒸し器でふかしても、焚き火で焼いたようには仕上がらない。
 皮はちょっと焦げてしまうけれど、それさえも香ばしく感じられる。
 鏡音空は甘く焼けたサツマイモをふぅふぅ吹いて食べてみた。
「うん、甘い。きれいに焼けるものなんだね」
 蔦退治の方に行っていたから、空は芋を焼くところは見ていない。どうすればこんなに美味しく焼けるのかと感心しながら空は焼き芋を頬張った。
「ほんとうに美味しいです」
 明日香がむいた焼き芋をノルンは喜んで食べた。ほっこりと自然な甘みの焼き芋は得も言われぬ美味だ。
「皮が真っ黒だが大丈夫なのか?」
 如月瀧はやはり焼きみかんが気になるようで、真っ黒焦げの皮をむいてみた。中の果肉はうっすらと焦げ色がついているけれど、食べるのにはまったく問題なさそうだ。温められて膨張したみかんを食べてみると、嘘のように甘い果汁がはじけた。
 ブルーズはさっそく焼いたジャガイモを試食し、その味を確かめる。
「ほう、焼きジャガイモもなかなかいけるな」
 次は、とブルーズは袋からチャイブ入りのサワークリームを取り出してジャガイモに載せて味の変化を楽しんだ。
「ん?」
 ブラックコートの右ポケットがもぞもぞするのを感じ、黒崎天音は覗いてみた。と、いつの間に潜り込んでいたものか、ペットのゆるスター『スピカ』がひょっこりと顔を出す。
「この間の木の実集めで、ポケットに入っていたら美味しいものが食べられることを学習したかな? 食いしん坊だねぇ」
 天音は焼き芋を小さくちぎると、よく冷まして手の上に載せた。それを見たスピカはするっとポケットから出てきて、天音の手の上にのぼる。ブルーズお手製の鏡餅の着ぐるみを着ているものだから、天音の掌の上でてこてこころんと転がった。
「サツマイモは糖分が多い、あまり多く与えるな」
「これくらいなら構わないだろう?」
 少しだけ美味しいものをお裾分け、と天音はサツマイモを食べているスピカを見守った。
「甘くてほくほくに焼けてるぞ」
 アルミホイルと新聞紙を取りのけて、ロレッタが嬉しそうな顔になった。
「ロレッタが言った通り、新聞紙で包んだらほっこり焼けたね」
 ミレイユに褒められて、ロレッタはまた気分良く芋の知識を披露する。
「人のよって焼き芋の食べ方も違ったりするらしいぞ。昔ロレッタに焼き芋をごちそうしてくれたやつは、シナモンをかけたりバターをつけたりしていたぞ。芋の熱でとろけるバター……無性に食べたくなってきたぞ」
 思い出してごくん、と喉を鳴らしたロレッタに、それならばとブルーズが荷物をさぐる。
「ピーナッツバターで良いならあるぞ」
「載せて欲しいんだぞっ」
 ロレッタが差し出した焼き芋の上に、ブルーズはたっぷりとピーナッツバターを載せてやった。
「ほう、そのようなものまで用意しておるのか」
 蔦退治を終えて焼き芋を食べていた辿楼院刹那が興味の目を向ける。
「バニラアイスもある。氷術で保冷していたから、ちょうど食べ頃だろう。載せてみるか?」
「そのような食べ方をしたことはないから試してみたいのう」
 ならばとブルーズは刹那の焼き芋の上にスプーンで掬ったアイスを載せた。
「あ、アイスだ! ボク、焼き芋が温かいうちにアイスを載せて食べるの好きなんだよ。さすがに今日はお外だから出来そうに無いと思ってたんだけど。それ、ボクのにも載せてもらって良い?」
 好きなものは目に入るもの。アリアクルスイドがぱっと寄ってきたのにもブルーズはアイスを載せてやる。
「私も欲しいです」
 ノルンもさっと焼き芋をブルーズに差し出し、アイスを載せてもらってご満悦。
 大好評の結果にブルーズは胸を張った。
「我の事前調査に抜かりはない」
「威張ってないで、僕の焼き芋にもバニラアイスを載せて欲しいな」
「ん、ああ」
 今度は天音の焼き芋の上にブルーズはアイスを載せると、他にも食べたい人はいないかと、周囲の皆に尋ねた。
「フィリアも何か載せてもらったら?」
 頭の上のアシーネに言われ、フィリアは素直に焼き芋を差し出した。
「はい。ではお願いできますか?」
「バニラアイスとピーナッツバター、どちらがいいだろうか?」
 ブルーズはそれにもいそいそとトッピングを載せてやる。
 ここまで来てもおさんどん。もはや身に付いた属性というべきか。食べることを忘れ、ブルーズはせっせとトッピングを配って回るのだった。