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リアクション
焚き火の中のお楽しみ
まだ蔦退治が行われているうちから、終了後のお楽しみの為の準備は着々と進められていた。
「どんどん運んで来ますからね」
リカインが退治された蔦を抱えて次々と積み上げてゆく。
退治しているのを見ると、ついつい手を出したくなってしまうから、出来るだけそちらは気にしないようにして蔦運びに徹している。もちろん、危険そうならば手を貸すのにやぶさかではないのだけれど、今のところは新入生たちに任せておいた方が良さそうだ。
「蔦はひとまずそっちに置いておいてくれ。火を作るのが先だ」
焚き火となるとシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)は俄然はりきった。
「落ち葉はここに置いておくよ」
アリス・クラウド(ありす・くらうど)が自分で集めてきたものや、巫女の手伝いをしている皆が集めた落ち葉や枯れ枝をどっさりと運んでくる。家でゲームをしていたら、火村 加夜(ひむら・かや)が福神社の話をして、手伝ってくれたら嬉しい、と言われたのだ。
手伝いのご褒美が加夜の美味しいお弁当とほくほくの焼き芋だというのなら仕方ない。冬の木々が落とした葉を集めては、焚き火をするところに運ぶ。
そうして集められた落ち葉や枯れ枝をふんわりと積むと、シャウラは火をつけた。
焚き火をするには最初が肝心。乾いた落ち葉で火を育てた上で、そっと蔦をその上に載せてゆく。
徐々に大きくなっていく火は周囲に暖かさをもたらしてくれる。
「この火で芋を焼けば、庶民に愛されてやまない『焼き芋』なるものができるのですねぇ〜」
アストリア・西湖(あすとりあ・さいこ)は興味津々に焚き火を見つめた。
家事なんてまったくやったことはないけれど、焼き芋というのだから、芋を焼けば出来るのだろう。それだったら自分にもできるかも知れない。
脳裏に浮かぶのは映画か何かで見たワンシーン。確かあれは、食べ物を長い串に刺して焚き火にかざし、じゅうじゅうと焼いていた。
箱に詰められたサツマイモをしばらくじっと見つめた後、アストリアは刀を抜いてサクッと刺してみた。
そしてそれを燃えさかる火の上にかざしてみる。
しばらく炎でサツマイモの肌をあぶったが、思うほどの変化はない。
「もう焼けましたでしょうかぁ〜?」
「焼き芋? 京花が味見しますっ」
食べ物に目のない忍住 京花(おしずみ・きょうか)が素早くアストリアの刀から芋を奪い、かぶりついた……が。次の瞬間、口の中のサツマイモを慌てて吐き出す。
「美味しくないですかぁ?」
「……完全に生です」
美味しいと思ってかじったのにと、京花は涙目になっている。
「生焼けとか、哀しいですよね。けれどさすがにそれでは焼けませんよ」
何をしているのだろうとアストリアたちの様子を眺めていた音井 博季(おとい・ひろき)が、笑いながら教えた。
「そうなのですかぁ……。これで庶民に焼き芋をふるまうことができると思ったのに残念ですぅ。料理というものは奥が深いものなのですねぇ」
夢やぶれてアストリアはがっくりと肩を落とした。
「焼き芋はそんなに難しくないですよ。焚き火が下火になったら、焦げすぎないようにアルミホイルに包んだ芋を、真ん中あたりに入れておけばいいんです。そうすれば四方から熱が伝わって、ほこほこに焼けるんですよ」
その為にはまず均等に火を回さなければと博季は焚き火を見つめ。
「我が想い綴るは朱雀の毛筆!」
火術をかけて、火をコントロールしようと試みた。美味しい焼き芋をたくさん作りたい。その為にはどこかが先に焼けてしまうということがないよう、いい感じに温度が分散し、ムラなく焼けるように考えねばならない。
次から次へと運ばれては載せられてゆく蔦の残骸の様子を見ながら、博季は火の調整に専念する。
「焚き火の方は任せておいて良さそうだね。僕たちはサツマイモを包んでおこうか。皆が戻ってきてから包んでいると遅くなっちゃうからね」
サトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)はサツマイモをアルミホイルに包み、焼く準備を始めた。
「これをアルミホイルで包んでいくの?」
ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)も見よう見まねで芋を包もうとしたけれど、それをロレッタ・グラフトン(ろれった・ぐらふとん)が止める。
「確か、焼き芋をおいしく焼くには、湿らせた新聞紙が包むのがポイントだと本で読んだことがあるぞ。温度をじっくりあげると甘くなるんだぞ」
「そうなんだ。ロレッタ、よく知ってるね〜」
「じっくり蒸らすのが大切なんだぞ。だから乾ききっていない蔦を燃やして作るのも、おいしく作るポイントなんだぞ」
上手に焼けば甘くてほくほくになる、と言いながらロレッタは持参してきた新聞紙を皆に配った。
「こんなやり方があるんだね。みかんも同じように包んで焼いて良いのかな?」
サトゥルヌスはサツマイモを包み直すと、用意してきたみかんを持ってきた。みかんを焼くと甘くなって美味しいと聞いて持ってきたのだ。
「みかんには新聞はいらないのだぞ」
「そうなんだ。じゃあこのまま包んでしまっていいんだね。どんな風に焼けるのか楽しみだよ」
どんなものかと興味はあったけれど、こんな機会でもなければそうそう自分でやってみようとは思わないものだ。
「焼きみかんか、面白そうだね。僕は北海道出身の友人から、焼きジャガイモも美味しいと聞いたから持ってきたよ」
持ってきた、と黒崎 天音(くろさき・あまね)は言うけれど、実際に運んできたのはパートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)だったりするのだが。
「何でも焼いてしまえるものなのですねぇ」
アストリアが感心したように呟いた。そこに、
「そろそろ退治の方も目処がつきそうですわ。こちらの用意は進んでいます?」
蔦退治を見守っていた琴子が、今度は焚き火の様子を見にやってくる。上手く燃えている焚き火やアルミホイルに包まれたサツマイモを見ると、安心したように微笑んだ。
「こちらも順調なようですわね。けれど相手が火ですから、くれぐれも気をつけて下さいましね」
焼き芋は任せておいて大丈夫そうだと戻って行こうとする琴子を、ブルーズが呼び止める。
「これも焼いても良いだろうか」
念の為、と手にしていたジャガイモ入りのビニール袋を掲げて見せると、
「ええ、もちろん構いませんわ。林檎とかも用意すれば良かったですわね」
サツマイモ以外にも焼いて美味しいものがあるのを忘れていた、と琴子は目を細めると、またいそいそと蔦退治をしている生徒たちの方へ戻っていった。
「実際に焼き芋をしたことがあるような口ぶりだったね」
そう言いながら、天音はブルーズからジャガイモを受け取った。
知識としては焚き火で焼き芋をすることを知っていても、天音は実際に自分で焼いたことはない。周囲を見てみると、皆は忙しく手を動かしてサツマイモやみかんをアルミホイルで包んでいる。
なるほどこうやって焼くのかと、見よう見まねで天音はジャガイモをアルミホイルでくるんだ。ふと視線を感じて振り向くと、ブルーズと目が合った。自分が周囲を観察していたのを見られていたのかと、天音はふいっと素知らぬ顔をして視線を逸し、次のジャガイモを手に取った。
「うん、良い具合になりましたね」
焚き火がほどよく下火になったのを見計らい、博季は皆が包んだ芋を中に入れ始めた。
「数が多いから大変だね〜。もし手が空いているなら、これを向こう側に運ぶのを手伝ってくれる?」
「あ、はい。これを運べばいいんですね」
ミレイユに頼まれて、隅っこの方で皆が作業するのを見ていた水城 綾(みずき・あや)は包み終わったサツマイモを入れた箱を抱えた。
「ここに置いておけばいいですか?」
「お、ありがとな。こっちの空になった箱は向こうに戻しておいてくれ。えっと……名前、何だっけな?」
「水城綾です」
「俺はシャウラ。よろしくな」
今度はシャウラに頼まれて、綾は空箱を抱えて戻った。引っ込み思案なところがあって、手伝うと自分からはなかなか言い出せない綾だから、そうやって仕事を言いつけてくれるのは却って有り難い。
焚き火の中でじんわりとサツマイモが焼けていくうちに、蔦退治をしていた生徒たちも戻ってくる。
サツマイモが焼けるのより一足早く、ふわりと漂ってくるのは甘酸っぱいみかんの香り。
「そう言えば、みかんも入っているんだったな。こうなったら緑茶でも欲しいところだが」
こたつ代わりに焚き火を囲んで、みかんと緑茶。いかにも冬らしい風情だと言う如月 瀧(きさらぎ・たき)に、シャウラも乗り気になる。
「おっ、それいいな。芋は喉が渇くから茶がないとキツイだろう。台所借りて、やかんに茶沸かしてきてくれ。湯飲みも忘れずにな」
「ああ」
あまりに自然に頼まれた為に返事をしてしまった後、瀧はシャウラに聞き返す。
「……って、それ俺がやるのか?」
「働かざる者食うべからずって言うだろ。俺は手が放せないからよろしく頼むぜ」
「分かった」
瀧は境内をざっと見回すと、社へと歩いていった。
茶を沸かしたいと言うと、社にいた布紅はそれならどうぞと中へ招く。
「狭いですけど、お茶ぐらいならここで大丈夫です。とてもたくさん沸かすのなら、本社の方にいかないと無理ですけど……」
急須と湯飲みはここ、お茶っ葉はここ、と布紅はぱたぱたと必要なものを揃えていった。
1人で運ぶのは大変だからと布紅も湯飲みをのせた盆を持った。
いそいそと盆を持ってゆく布紅を見ながら、神様らしくないと言われるのも無理はないかも知れないと瀧はこっそりと思った。
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