First Previous |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
Next Last
リアクション
『小型飛行艇ヴォルケーノ』に『空飛ぶ箒』、『宮殿用飛行翼』に『光る箒』など、各々が持ち込んだ手段にて空に飛び立った。
古代戦艦ルミナスヴァルキリーを出発した一行は、一路、空から西カナンの南部を目指していた。
「そろそろ操縦を代わろうか?」
天霊院 華嵐(てんりょういん・からん)は目を細めて水神 誠(みなかみ・まこと)の後頭部に言った。華嵐は誠の『小型飛行艇ヴォルケーノ』に同乗させてもらっていた。
「だいぶ時間も経っているだろう」
「構わないよ。操縦は慣れた者がするべきだ、そうだろう?」
ただ乗りはムズ痒い気がして。しかしその提案もあっさりと断られてしまった。華嵐は元のように界下へと視線を向けた。
「しかし、見事に砂だらけだ」
「えぇ。身を隠しているのでしょうが、人の姿も全く見えませんね」
上空からの視察に加え、華嵐は拠点にできそうな地点がないかも探していたのだが。ここまでは特に砂ばかりで、道も畑も民家と思われる建物さえも砂に埋もれてしまっていた。
地平の先に森が見えてきた。ジャタの森ほどではないが、木々が生い茂っているのが見える。
しかしその根本には、やはり砂が積もっている。今はどうにか、しかし長くは保たない、そう思わせる幹色をしていた。
「砦……ですか?」
水神 樹(みなかみ・いつき)が目を凝らす。森の中に巨大な建物が見えた。樹は『宮殿用飛行翼』を羽ばたかせて、上空へと昇った。
「やはり砦のようですね……」
高き壁に4方を囲まれた砦。強固で立派な砦に見えるのだが。見ていてどうにも違和感がある。
「人の気配がないわね」
『空飛ぶ箒』に横座る宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が言った。砦に人の姿が見えない、同じ違和感を樹も感じていた。
「えぇ、隠れているのでしょうか」
「見張りすら居ないのはオカシいわよ、砦の役目すら果たさないじゃない」
可能性の一つ、考えたくはない可能性だが、ネルガル軍の手に墜ちたまま廃墟となっているということが考えられるのだが。
「ネルガルが砦を放置するほどに、この地域は反乱を起こす気配も気力も無いという事でしょうか?」
ずいぶんと落ち着いた声で同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)が言った。彼女が『空飛ぶ箒』を旋回させた時、視界の隅で何かが動くのが見えた。
「あら?」
城門の更に上部。実際に物見も行うのであろう突出部に人影が見えた。1人、2人が出てくると、城門部にも人が次々に姿を見せた。
「あらあら。うふふ……わらわらと現れましたね」
「…………呑気なこと言ってる場合じゃないみたいよ……」
祥子が気付いて身構えた。鎧を身に纏った砦兵たちは揃って弓をひいた、その照準は間違いなく祥子たちに向けられていた。
槍を掲げた兵士が槍を振ると、一斉に弓が放たれた。
「きゃっ」
「ちょっ、ちょっと待ちなさい! 私たちは―――」
「俺が行く!」
矢雨の中に誠は『小型飛行艇ヴォルケーノ』を飛び込ませた。目的は一つ、飛行艇の底に張り付けた「ウヌグの国紋」布を見せるために。
「どうです! 俺たちはマルドゥークから認められた―――ってぇ!」
一層激しく矢を射られた。
「なっ、なぜに?!!」
「一度離れましょう!」
ここまで静観視察をしていたナナ・ノルデン(なな・のるでん)が寄りて来ていた。確かに襲い来る矢には疑いようのない明らかな敵意が込められている。このまま留まるは危険すぎる。
速度を一杯にして退避して、十分な高さへと一気に昇った。
振り向き見下ろせば、砦を上空から見渡せる事だろう。それでも祥子は地平の先に瞳を向けた。
西カナンの南部に位置するマルドゥークの居城は、地平の先にも蜃気楼ですら見えなかった。
ただ、目線を僅かに落とせば砦の幾つかを見ることができた。
今し方攻撃を受けた砦に似た砦が見える、そして砦らしき建物も見ることができる。しかし、先のように敵意を向けられてはマルドゥークの居城を目指すことも難しいだろう。
祥子の後方から光りの筋が昇っていった。『光る箒』に乗るナナが高高度まで一気に駆け昇った。
「神聖都キシュは……北東でしたね」
進行方向の真逆に瞳を向けた。倒すべき敵の根城となっている城がそこにあると聞いていた、しかしそれは見えなかった。
それは距離の問題もあるだろう、実際にそれだけの距離が離れている。しかし最も大きな障害は『砂壁』だった。
「ハリケーン……ほどに激しいものではありませんが……」
神聖都キシュの上空を、砂が覆っている。当然、遙か遠くから見た視覚情報に過ぎない、それはごく遅速で降砂が起こっているだけかもしれないし、風幕に砂を含ませているのかもしれない。どちらにしても……。
「これ以上、高度をあげるのは難しいですね」
高度を上げれば、激しい気流に巻き込まれて進めない。地表付近を進むならばマルドゥークとの打ち合わせが必須だろう。
視察の報告も兼ねて、一行はルミナスヴァルキリーへ戻る事を決めた。
一行が進路を北に戻す中、別ルートで空からの視察を試みた生徒たちは今も空を行っていた。ただし、こちらは限りなく低空飛行をしていた。
「おいっ! あそこ!!」
姫宮 和希(ひめみや・かずき)が指をさして叫んだ。岩陰から女の子が飛び出してきた、そしてそれを巨大なモンスターが追い回していた。
「気持ち悪っ!!」
地を這う蛇の如くに体幹を蠢かせ、砂を潰しながらに迫ってゆく。両口端に生えた巨牙を振りながら、頭を振りながらに全身を揺らしていた。
「あれは……パラミタロックワーム!!」
『小型飛空艇アルバトロス』に和希を乗せている。五条 武(ごじょう・たける)は操縦を行いながらに対象を確認した。
竜鱗にも似た体皮、口両端に生えた大きな牙。間違いない、主に岩場に生息する巨大岩ミミズだった。
「マズイぞ! 和希、急げ!!」
「運転してんのはおまえだろ!!」
「!!! そうだったっ!!」
うっかりした分を取り戻すように、アルバトロスが一気に加速した。ロックワームの眼前を最高速で横切りながらに『鉄甲』で思いきりに殴りつけた。
「うおおぉおっとっと……」
操縦を片手間にしたが為に、機体が大きく揺れて震えて。前方の巨岩に衝突しそうになって……間一髪でそれを避けた。
「危ねぇっ!!」
「しっかりしろよ―――ん?」
岩陰に人影がみえた。格好は先ほどの女子のそれに似ている。
「武! 他にも人が居る!!」
「何ぃ? どこだ!!」
「私たちが行くよっ!!」
一機の『小型飛空艇』が追い抜いていった。共に視察を行っている蓮見 朱里(はすみ・しゅり)とアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)だった。一度上昇してから旋回し、それから降下して岩陰についた。
「みんなっ! 大丈夫?」
突然現れた2人を前に、人々は明らかに警戒していたが、アインが「ウヌグの国紋」を見せると、それらは僅かに薄れて浮いた。
「ドン・マルドゥークから貰ったものだ。君たちを助けにきた」
「見つけたのは偶然だけどねっ」
人懐っこい笑顔で胸を張る朱里を見て、1人の少女が笑みを見せた。他の人々もどうにか警戒を解いてくれたようで。聞けば彼らは西カナンの民で、近所の4家族でこれまで行動を共にしていたが、居住地を移動している際にロックワームに襲われたのだという。
「怪我や病気の人はいる? 治療するよっ」
肌を隠す事を目的としているのだろう、人々は布服を着ていたが、それが大きく斬裂している者は見えなかった。病気で苦しむ仲間もいないという。
「民は発見次第連れてくるように、とマルドゥークに言われている。彼の元へ案内しよう」
スッと岩陰から顔を出した。パラミタロックワームは武と和希が引きつけている。飛び出すなら今だ。
「君たちのことは必ず、僕たちが守る」
「そうだよ〜、アインはね〜井戸掘りも出来るんだよ〜」
無事に逃げ延びて、共にカナンの地を再生させよう! そう誓いあうと一斉に岩陰から飛び出した。
「うぉおおおぉおおお」
「武ぃ! ロック仲間だろ? 何とかしろぉ!!」
「あんだけトランスしてたら無理だっつーの!!」
2人が引きつけている隙に朱里は民と共に退避を果たした。
マルドゥークが本格的にネルガルに反旗を翻した事を伝えると、彼らは大いに喜び、その身を奮い立たせた。
歩みを止めることなく、一行はルミナスヴァルキリーを目指して北上してゆくのだった。
First Previous |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
Next Last