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リアクション
物資庫といっても色々ある。
殆どがオートで動くルミナスヴァルキリーだが、航空に必要な道具を保管している庫もあれば客室で使う消耗品を保管している庫もある。
そして今、数名の生徒とマルドゥークが居る庫は、それほど広くない部屋にたった一つだけ椅子が置かれた部屋だった。余分な物を全て除いた尋問室である。
たった一つの椅子に、ローザマリアらが捕らえた神官が座らされていた。
「ネルガルが神殿に入るようになってからなのですか? それともイナンナが封印されてからなのですか?」
シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)が笑顔で迫った。「時間はたっぷりあります。ゆっくり確実に、それでいてたくさん思い出してくださいね」
彼女は既に「神聖都キシュの神殿が漆黒の神殿になってしまったことを聞き出した。かつては光の神殿と呼ばれる程に輝きを放っていたという。
今はどんな小さな情報でも欲しい。シャーロットは先の情報から、神殿が光りを失ったタイミングを明らかにすることで、その理由を推測しようとしていた。
「嘘を言えば、頚動脈を刈ります」
身長20cmという点を生かして、霧雪 六花(きりゆき・りっか)は神官の肩に腰掛けている。
神官が不自然に口を大きく開けた瞬間、六花は『忍びの短刀』を素早く振り回して神官の舌に突きつけた。
「舌を噛み切ることは許さない。今すべき事は知っている事を話すことでしょう」
即席尋問室で神官は完全に自由を奪われていた。2人が尋問を続ける中、部屋の隅でダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はマルドゥークに訊ねた。
「あの服を使って神官に成りすませば、神聖都キシュへの潜入も可能なのでは?」
「なるほど……いや、しかし一人で行くのは危険すぎる」
潜入するのだから人数は少数でよい。それでも人数分の神官を捕らえる必要がある。服飾を作る事も可能だろうが、当事者しか気付かないような細かな違いで見破られる危険性もある。リスクを下げるなら実物を調達するべきだろう。
「補給路や地下水道の類があるだろう、そこから侵入する事はできないだろうか」
「警戒はされているだろうが、不可能ではないだろうな。無論、キシュまでの道のりを無事に行ければ、の話だが」
砂漠と化した大地を越えて、ネルガル兵に見つかることなく、出会したモンスターに屈しないこと。そうして初めて神聖都キシュに近づけるのだ。
「自分も、よろしいでしょうか」
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は控えめに寄り訊いた。「レジスタンス中に使っていた拠点等は無いのですか? 拠点がこの戦艦だけだと流石に目立ちますし、出来れば別の拠点もあった方が良いと思うのですが」
「……確かにそうだ、その通りなのだが……」
マルドゥークは実に歯切れ悪く言った。
「正直に言うと、どの部隊が無事なのか、また今どこを拠点にしているのかが正確には分からんのだ。先ほど全部隊に伝令を出したが、返事が届くまでは分からない」
伝令の内容は打倒ネルガルを掲げてマルドゥークが起った事、そして不時着したルミナスヴァルキリーの場所を知らせるもののようだ。部隊や民を集めて鋭気を養う事を考えれば、やはり新たな拠点は必要になるだろう。
「この周辺に地下の遺跡等はありませんか。地下なら目立つこともないですし、降砂も防ぐ事ができると思うのですが」
「この辺りの遺跡に関する情報なら、先ほど出発した探索組に伝えてある」
ただし、それらの遺跡も既にネルガルの手に落ちている可能性もあるし、砂に埋もれてしまっているかもしれない。探索組には「とにかく現状の確認を目的とする事」を前提として、場所と特徴を教えたという。
「無茶をしていなければ良いが……」と彼は言ったが、結果として遺跡探索組は大いなる成果を持って帰還することになる。
カナンには数多くの遺跡があると言われているが、その中には各地の領主ですら把握していない遺跡も少なくないという。探索組が見つけたのは、そんな遺跡の一つだった。
「待って待って、ねぇ、近づいて大丈夫?」
如月 玲奈(きさらぎ・れいな)が神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)を呼び止めた。考えるより先に体が動く玲奈がエレンを止めた、実に珍しいことではあるが、それは彼女が一貫してモンスター襲来を警戒していたからである。
「遺跡かもしれないんでしょ? モンスターが潜んでるかもなんでしょう?」
「えぇ。ですが、先ほどまで顔すら隠していた遺跡ですよ」
エレンは丁寧に思い返してから続けた。「モンスターが中に入れるとは思えないのですが」
砂の積もった山道を登っていた。砂丘と化した山道を行くと、右方に林が見えてきた。その林の木は殆どが傾いていた。
原因は恐らく土砂崩れだろう、胸の辺りまで砂に埋もれて傾く木が多く見える。砂崩れにやられたのだ。
それは斜めに傾く木々の外れにあった、というよりも傾いた木の下にあった。傾き、根まで掘り出されてしまっている木の下に黒い穴がある事をエレンが発見した。遺跡と呼ぶが正しいかを確かめるべく、歩み寄ろうとしていたのだ。
「でもっ、入り口が塞がれるより前から穴の中に居たかも知れないでしょ?」
玲奈の熱弁は続く。「じっと潜んで蠢いてたとしたら……ドロドロしたやつとかウネウネしたやつが―――アァ気持ち悪い!!」
自分で立てた鳥肌に気持ち悪がっている玲奈を余所に、パートナーのレーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)は手元の地図に目を向けていた。
「やはり地図にはありませんね」
「そうなのですか?」
「えぇ」
地図を指しながらエレンに見せた。地図はマルドゥークが手描いたもの故に不安定な曲線が這い回ってるが、どうにか現在地の特定はできた。そしてそこに遺跡を示す印は付いていなかった。
「つまりマルドゥークも把握していない洞窟もしくは遺跡という事になりますね」
「木の下に隠れていたのでは見つからなくても不思議ではありませんわ」
歩み寄り、顔を覗かせただけでエレア・エイリアス(えれあ・えいりあす)が発見した。
「あらあら? あらららら?」
傾いた木に隣生する木と木をじっと見つめた。「薙ぎ倒してみましょう」という彼女の言葉に疑問を抱きながらも皆でそれらの木を倒した。
もともと傾いていた為に容易な事だったが、そこに現れたものに一同は驚かされた。
「まあまあ。大きな穴ですこと」
さらに2本の斜木を倒して退けた。そうしてようやく穴の全周が見えた。巨木5本の幹と根に隠れていた巨穴の暗底は、どうにも見えなかった。
「なるほど。ただの洞窟というわけではなさそうじゃのう」
フィーリア・ウィンクルム(ふぃーりあ・うぃんくるむ)は垂直な穴の横壁を覗き込んで呟いた。
「人工的な石壁じゃ。それほど荒廃は進んではおらんようじゃな」
石壁には紋様のような図形が描かれている。穴底へ石を放ってみると、3秒後に衝する音が聞こえた。
「冥府下りの七つの門、眠るは三つ叉の鉾か、はたまた4頭の嵐の怪物か」
「いったい何の話です?」
「地上に存在する神話の話じゃ。地上においても歴史や遺跡等は相互に影響し関係しているものもある。パラミタとて例外ではない」
「この遺跡もそうだと言うの?」
「かもしれぬ、という程度じゃがのう」
探索はここまで。中に入りたい気持ちは大いにあったが、マルドゥークの言葉を思い出して踏みとどまった。
それに一行には確かめたい事があった。彼が本当にこの遺跡の存在を知らなかったのかという点である。知らなかったとなればカナンの歴史に残る大発見になるだろう。
周辺を一通り捜索した後、エレンたちは斜めに傾いた林を後にした。
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