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【カナン再生記】 降砂の大地に挑む勇者たち

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【カナン再生記】 降砂の大地に挑む勇者たち

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 大波の如くにヘルハウンドが群れ襲ってきた。
「おぉらあっ!!」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は群れの先頭に飛び込むと、『ドラゴンアーツ』を使った拳で一頭の鼻を殴り潰した。
「オラァ! 次来いや!」
「ハッハァー!!」
 すぐ後方から『神速』でラルクを追い抜いた。ヒルデガルド・ゲメツェル(ひるでがるど・げめつぇる)はヘルハウンドに直線で。
「アァン♪ ダメよ」
 加速しすぎて勢い余ってヘルハウンドに口づけしそうになって―――ブン殴った。
「キスが欲しけりゃ死ぬまで奉仕しなきゃね」
 自分から近づいておいて突き放すなんて。
「わしも行くぞぃ」
 パートナーのノリノリな様を見て、
ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)も負けじと笑んだ。
 左右から跳び来るヘルハウンドに『ヒプノシス』を唱えると、自らは前方に駆け避ける。
 対象を見失うばかりか混乱した2匹は、鏡に映ったように互いの頭めがけて突進した。
「そうそう良い子じゃ。次から次へと自滅しておくれ」
 何しろ敵の数が多い。効率よく潰す必要がある上に、常に距離と間合いを取っておかなければすぐに囲まれてしまうだろう。
 迫り来るのはモンスターばかりではない、武装した神官も槍を脇に抱えて向かってきていた。それでもジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)は高笑って余裕を見せた。
「ふははははっ、俺に任せろ!」
 無益な殺生は好まないと彼は言うが、神官に向けた顔は魔力に侵された者の顔に近かった。
「人間が相手なら、やり方は幾らでもある」 胴にめがけて突き出された槍を、彼は体を傾けただけで避けると、そのまま間合いに入りた。
 正面から神官のこめかみを鷲掴みにして『その身を蝕む妄想』を唱えた。
「ごゆっくりどうぞ」
 体内を蠢く虫に皮膚を食い破られる幻覚でも見ているのだろうか。神官は悲鳴をあげながら全身をかきむしり始めた。
 ジークフリートが愉悦の眼差しを向けていると、その僅かな隙に他の神官が迫っていた。
「そこまでだっ!」
 左右からジークフリートに迫る槍を、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)は『疾風突き』で弾いて彼を守った。
 流れるように槍の柄を斬りあげると、神官の脇を狙って突きを放った。
「くっ、ちょっ、待―――」
 突きを放った腕、伸びた腕に槍が襲い来る。体を反転させて、もう一方の剣で受けるも、間髪入れずに別の槍が襲い来た。
 ――ただ一人をこれだけ大勢で襲おうなどと、恥を知れぃ!
 口上を言い放つ間さえ無い。心の中で唱えてもストレスばかりが溜まってゆく。
「グロリアーナ! 伏せろ!!」
 帯同させた『レッサーワイバーン』から跳び降りた。典韋 オ來(てんい・おらい)は混戦の輪の中に入ると、『方天戟』による『轟雷閃』で神官共を薙ぎ払った。
「典韋……それはやりすぎであろう」
「バーカ、良いんだよ、ちゃんと鱗を狙ってるからな」
 皮の鎧の部分部分に龍鱗の欠片が縫いつけてある。余裕のない状況下でも2人は決して大きくはない箇所を狙って戦っていたのだ。
「まぁ、手元が狂う時もあろうがなぁ」
「その時は己が運の悪さを恨んでもらうしかない、か」
 再びに剣を振るって2人が派手に暴れ始めた頃、集団の隅にいた神官に声をかける者がいた。
「そこの者」
 その者は『レッサーワイバーン』に跨り、神官を見下ろしながらに訊いた。『従龍騎士の鎧』に『龍騎士の面』、『龍骨の剣』を持つ様は正に龍騎士そのものだった。
「エリュシオンから偵察に来てみれば、この有り様。状況を詳しく説明せよ」
 神官は騎士の様を凝視した。エリュシオンの龍騎士の様を見たことがあるのだろう。その違いに怪しんだようだが、龍騎士になりきっているエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)は「遠征から駆けつけたが故」と弁解した。
 神官が槍を下ろした瞬間だった。
「ぐあっ!!」
 銃弾が神官の太股を貫いた。神官がうずくまる中、姿を見せたのはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だ。
「ちょっと早かったかな?」
「いえ、疑いの目がありましたから、神官の肩に手を置く事は難しかったかと」
 『光学迷彩』で姿を消したローザマリアが機を窺っていた。神官の警戒が強い事は遠くからでも分かった、だからこそこれほどに接近する事を選んでの行動だった。
「何にしても、これで捕虜は確保したわ」
 太股を撃ち抜かれた神官は悶えるばかりで、反撃も自害もしなかった。
「他の神官も気付いてないみたいだし……ネルガルの神官兵は兵士としての熟練度は低いのかもしれませんね」
 神官兵にヘルハウンド。地上では巻きあがる土埃りの中、混戦が続いていたが、空中でもそれは同じだった。
「フフ、炙り出してくれる」
 ネルガルの命令により、ワイバーンが一斉にルミナスヴァルキリーに襲いかかったのだ。
 フリューネ九条 風天(くじょう・ふうてん)がペアになって宙を舞っていた。
 フリューネが『ハルバード』で竜の頭を斬りつけると、風天が『小型飛空艇ヘリファルテ』の最高速度から『疾風突き』を叩き込んで首を落とした。
「張り切っておるのう」
 グラン・アインシュベルト(ぐらん・あいんしゅべると)は船の甲板から見上げて言った。腕を組んで見つめる様に、パートナーのオウガ・ゴルディアス(おうが・ごるでぃあす)が声を荒げた。
「そんなのんびりしてる暇は無いでござるよっ!」
「うっ……止めんか、こっちを見るな」
「ああそうか、すまないでござる」
 ワイバーンにぶつけていた『鬼眼』を発動したままに振り向いたものだから。次から次に迫り来るワイバーンに対するべく、休む間もなく『鬼眼』を発動させる事を要されていた。
 彼の『鬼眼』で動きを止めた竜にアーガス・シルバ(あーがす・しるば)がブリザードをぶつけてゆく。
「まったく…厄介事には苦労せんな。」
 と言っていた彼も、一度に何体のワイバーンを墜とせるかを試し、楽しんでいるかのようにも見えた。
「グラン殿、まだ体は動くか?」
「ふん」
 白髪の老兵が宙に跳び出した。一足で竜の頭上に到達すると、グランは『クレセントアックス』を打ちおろした。
 悲鳴をあげるワイバーンを宙に残して、グランは先に着地を果たした。
「お見事」
「当然じゃ。老体とはいえ侮るでないぞ」
 頭をカチ割ったワイバーンが墜ちてきた。
 その巨体が甲板に達する前に、伽耶院 大山(がやいん・たいざん)が受け止めた。
「っと、これもまた大きいですな」
 力なく墜ちてくるワイバーンは、どれも彼が受け止めていた。そのまま落下させれば船に衝撃を与えることになる。彼の巨体と怪力は正に船を守っているのだった。
「しかし……」
 空中では交戦が続いている。フリューネを中心に、次々とワイバーンを墜としてゆくものの、上空に群れる数は減っていないようにも見える。
「ったく、キリがねぇ!!」
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)も空に居た。
 『殺気看破』と『行動予測』を駆使して竜の動きを予測すると、『宮殿用飛行翼』で細やかに舞って攻撃を避けてゆく。これまではそれで避けられたのだが。
「ぐっ」
 壁のように隙間無く、そして時間差すら無く突進してきた。一体を避けるだけでは避けきれなくなっていた。
「くそっ、頭数しか取り柄が無ぇくせに」
 その『数』が驚異になりつつある。
 1対1ならまだ戦える、ワイバーンもヘルハウンドもシャンバラに生息するものと大差はない。しかし数の上では1人が5体以上と戦わなければならないというこの状況は自軍の劣性を物語るには十分だった。
「はぁ、はぁ………… ん?」
 吹き飛ばされた後、どうにか姿勢を起こした。体勢を整えようと上空へ飛んだ時、視界の隅にそれが映った。
「……あれは?」
 戦場に駆け寄ってくる人影が見えた。視力6.0の目を凝らして見れば、それは褐色の少女が駆け寄ってくる様であった。