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高山花マリアローズを手に入れろ!

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高山花マリアローズを手に入れろ!

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「見つけたぜ」
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が遥か彼方を指差して叫んだ。
「マリアローズだ!」
 アキラの言葉に、スタインを先頭にして皆が駆け寄ってくる。
 皆の顔に喜色が浮かんでいた。10年に一度……しかも、数株しか咲かないマリアローズをこの広い花畑で探すのは至難の業だったからだ。しかし、アキラの指差した先を見て一同の目にありありと失望の色が浮かんだ。
 なぜなら、マリアローズが咲いていたのは、花畑からずっと離れた場所。いかにも崩れそうな崖の先端から、さらに3メートルほど離れた向かい側の崖の上だったからだ。
「なんで、あんなところに……」

 スタインがぼう然としてつぶやく。

「あれじゃ、取りにいけない……」

 しかも、崖の先にたどり着くまでの道には、小さいとはいえ、またもや食虫植物が群生している。
「まずいわね」
 シズルがつぶやいた。
「ただでさえ、崩れそうな道なのにあんなに食虫植物が……。あんなところで大勢で戦うのは無理よ」


「ドリアード達、あの花をよっぽど守りたいデスネ」
 アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が言った。
「だから、きっとわざと危険なところに咲かせてるデスヨ」
「俺もそう思うぜ」
 アキラはうなずいた。
「それだけ貴重な花だって事だ」
「でも、落ち込むのは早いデス」
 アリスが言った。
「え?」
 スタインはアリスを見る。
「何か方法があるのか?」
「ええ。ワタシに考えがありマス」
 そういうと、アリスは箒に乗って飛び出した。
「箒? 機晶石の鉱脈の影響で飛べないんじゃ?」
 スタインの言葉に。
「ダイジョーブ! 一気に飛ぶのは無理でも、ここからあの崖ぐらいなら飛べマスヨ」
 しかし、アリスの楽観的な予測に反し……。
「いやあああ……」
 5メートル程飛んだ辺りでアリスは食虫植物の真ん中に墜落してしまった。
「アリス殿!」
 アキラがペットのサラマンダーを連れて走り出す。
 アリスは自分に向かってくる触手を真澄のマシンガンで撃ちながら言った。
「やっぱり一気に飛ぶのは無理みたいデース。せめて、あの崖の先までは行きたいネ……でっも、ここから崖の先まではどう見ても10メートル以上あるヨ」
 アキラはアリスに向かって叫んだ。
「とりあえず、こっちに戻って来いよ!」
 アリスは言われたとおり、箒に乗ってアキラの元に戻ってきた。
「よし。後は俺がなんとかするぜ」
 アキラはそういうと、ペットのサラマンダーに火を吐かせて食虫植物を燃やしていった。火事にならないよう、積もっていた雪を燃えてしまった食虫植物の上にかぶせながら、足場が悪いのでゆっくりと進んでいく。そして、ついに崖の先までたどり着いた。
「よし、駆除完了。アリス殿、来い!」
「OK」
 そういうと、アリスは崖の先に向かって走っていった。そして、崖の先端にたどり着くと、
「それじゃ、行くネ」
 と、箒にまたがり、あっという間に向かいの崖に飛んでいった。そして、崖の上に着地し手を振った。
「無事に、たどり着きマシター!」
「やったぜ!」
 アキラは手を叩いた。
「それじゃ、マリアローズを持って帰って来い!」
「OKでーす!」
 こうして、スタイン達は無事にマリアローズを手に入れる事が出来た。


「これが……これがマリアローズ……?」
 スタインは目の前の真っ赤な花に見入っている。
「かわいいですわね」
 レティーシアが隣でにっこり笑った。
「これでミュゼットは助かる」
 スタインはマリアローズに手を伸ばす。
「無闇に手を触れてはいけません」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が注意した。
「刺があるのですよ」
「そうだった」
 スタインは手をひっこめる。レティーシアが軍手とスコップと植木鉢を取り出す。
「これに植えていくといいですわ」
「そうですね」
 ザカコはうなずいた。
「でも、その前に、この記念すべき瞬間をビデオにおさめていいでしょうか?」
「それは、構いませんですわ」
 レティーシアが言う。それで、ザカコはビデオを手にマリアローズを至近距離から撮影する。ついでに、周りの風景や仲間達の笑顔も。全て撮ってしまうと、ザカコは辺りの気候や温度を調べはじめた。あくまで学問的な興味である。その間にレティーシアはマリアローズを植木鉢へと植え替えた。
「それにしても、本当にチューリップみたいね」
 植えてしまったマリアローズをまじまじと見つめてシズルが言った。
「確かに、ぱっと見は地球でいうところのチューリップですね」
 ザカコがうなずく。
「もしや、チューリップの仲間なのかな?……地球のチューリップの中には食べられるものもあるそうです。もっとも、毒性の強いものも多いらしいですが……ぜひ、研究したいところですよね。一輪しかとれないのが残念だ」
 ザカコとしては、もう一輪サンプルを採取して、医療研究所やイルミンスールの魔法科学で成分を調べ、花が無くても特効薬を作れないか研究したかったのだ。
「花は有限なので同じ病の人が出る度にここまで取りにくるというのも難しいですしね」
 ザカコは言う。しかし、ドリアードとの約束で、花は一輪しか持っていけない。
「でも、全てを薬にしてしまうとは限らないでしすわ」
 レティーシアが慰める。
「そうですね。わずかでも何かサンプルがあれば、病に効く成分が分かるかもしれない」
 ザカコはうなずいた。
 

 ルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)は、レティーシアの手の中のマリアローズをうっとりと眺めていた。
「かわいい……」 
 ルネは今回パートナーの猛と離れてスタイン達に同行していた。といっても、護衛のためというよりは、スタイン達の情報を猛に伝える橋渡しのために参加している。それが、戦闘経験が乏しい自分が出来る最良の事だと思ったのだ。
「見とれてる場合じゃないわ。猛さんにマリアローズ採取成功の事を伝えなきゃ」
 そう思った時だ。
『ルネ……ルネ聞こえるか?』
 猛から精神感応が届いた。
「猛さん? 聞こえてるわよ。ちょうど私もあなたに連絡を送ろうと思ってたの。喜んで。今、マリアローズの採取に成功したわ」
『そうか、それはよかった。実は、こちらではミュゼットの具合が一刻を争う事態になっているのだよ』
「え? ミュゼットさんの具合が?」
 ミュゼットの名にスタインが反応する。
「ミュゼットがどうしたって?」
 ルネは答えた。
「ああ……スタインさん。落ちついて聞いてね。今、パートナーの猛さんから連絡があったの。ミュゼットさんの熱が下がったって」
「え……」
 一同に動揺が走る。『熱が急に下がったら数日と保たないだろう……』という医者の言葉を思い出したのだ。
「嘘だろ?」
 スタインが首をふった。
「嘘じゃないわ……」
 ルネはつらそうに答えた。
「だから、すぐにマリアローズを持って戻るようにって、猛さんが……」
「分かった。すぐに行きましょう」
 シズルがうなずいた。
「今すぐ帰ればきっと間に合うわ」