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高山花マリアローズを手に入れろ!

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高山花マリアローズを手に入れろ!

リアクション

「なんだったんでしょうか? あれは?」
「レティーシアはエッツェルの後ろ姿を見ながら肩をすくめた」
「さあね。よく分からないけど……」
 シズルも首をふる。
「とりあえず、マリアローズが無事でよかったとしましょう」
「そうですわね。わたくしたちは先を急がなければ……」

 しかし、長旅と度重なる戦闘で既に疲弊しきっていた一同。自然と歩くスピードも落ちてくる。さらに、具合の悪い事にスタインが足をくじいて歩けなくなってしまった。
 彼は、ローズマリーをレティーシアに託し、自分を置いて先に行くよう頼んだ。レティーシアはうなずいたが、危険な山道をスタイン一人で歩かせるわけにもいかない。それで、数名の有志にスタインを頼み、自分たちは先を急ぐ事にした。
 
「大丈夫ですか? スタインさん」
 リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)はスタインの肩を支えながらたずねた。
「ああ。大丈夫だ……」
 スタインがうなずく。
「すまないな。男のくせに女の子に支えてもらうなんて……」
「男も女もありませんわ。スタインさんは登山に不慣れで、私はこう見えても旅には慣れているというだけ」
 リリイはあっけらかんと答える。しかしスタインは無言だ。内心の焦りが表情に出ている。

 二人のやや後方をリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)達が守りながら歩いていく。

「こんな時にヒグマにでも出会ったら大変だよね」
 サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)が禁漁区の反応を気にしながら言った。
「ヒグマっスか……。どれくらい強いのか、自分がどこまで通用するのか試してみたい気もするっすけどね。僕的にはパラディンとしての役目があるっスからスタインさんを守らないとね」
 アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)が答えた。
「それ以前に、熊なんかに会いたくないのよ! みんな疲れきってるし……」
 すると、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が軽くいなした。
「ヒグマねぇ。ま、大したことはねぇだろ。なにしろこっちにゃそんなの比じゃねえ裸skull……」
「なんですって?」
 リカインが恐ろしい形相でアストライトを睨みつける。『裸skull(ラスカル)』という言葉はリカインに対して踏んではならない地雷なのだ。あわててアストライトは言い直した。
「っと危ねぇ……リカイン様がいる事だし」
「それもだけど、私としてはヒグマさんに怪我させるようなことは避けたいのよ」
 サンドラがいう。
「そりゃ、お優しい事で……」
 アストライトが肩をすくめた時、リカインが言った。
「グリズリーよ」
「はい?」
 一同が一斉にリカインに注目する。もちろんリリィも……スタインもだ。
「サンドラにかけてもらった必殺の薔薇の禁猟区が反応したの。ほら、あそこ……」
 皆、一斉にリカインの指差した方を見た。そこには、確かに……。
「グリズリー……!」
 スタインが恐怖に引きつった顔で叫んだ。
「大丈夫ですわ、スタインさん」
 リリィが冷静に言う。
「皆さんも……それに私もいますから」

「どうすんの? あれ、体長2メートル以上はあるよ!」
 サンドラがパニックになる。
「ヒグマならまだしも……グリズリーなんて詐欺だぜ!」
 アストライトは顔をひきつらせた。
 しかし、文句を言っている場合ではない。グリズリーは四つん這いになってこちらに突進してくる。リカイン達は武器を構え戦闘態勢になった。

 アストライトがラスターブーメランを放つ。

 グワン……!

 グリズリーはブーメランを頭で跳ね返し、そのまままっすぐに突進してきた。その先にはリリィがいた。熊の前に立ちはだかり、まっすぐに熊を睨みつける。リリィの強いまなざしに熊はひるんだようだ。しばらくにらみ合いが続く。

「お行きなさい」

 リリィは熊に言った。

「そうすれば命までは取りはしませんわ」

 グ……グルルル

 少女の気迫に呑まれ、熊はひるんだようだった。しかし……

「さっさと行けっていってるだろ!」

 スタインが足を引きずりながら熊に飛びかかっていく。

「ああ! 危ないっス! スタインさん」

 アレックスがオートガードをかけた。仲間全員の物理防御が上昇する。その直後、熊がスタインに突進して来た。

「ああ!」

 スタインが跳ね飛ばされた! しかし、オートガードのおかげでたいした怪我はせずにすむ。スタインは、傍らにあった棒切れを拾うと、再びグリズリーに向かっていく。
「駄目だよ! スタインさん!」
 サンドラが止める言葉も聞かずにスタインはグリズリーに殴り掛かった。棒切れはグリズリーの頭を直撃。怒り狂ったグリズリーはスタインの体を掴み、握りつぶそうとした。そこへ、アストライトのブーメランが飛んでくる。気を取られたグリズリーの隙をつき、リカインの一撃。疾風突きで脇を狙う。

 グア……! ドォッ!

 熊がうめき声を上げスタインの体を離した。
「スタインさん!」
 サンドラがスタインの体を抱き上げヒールを施す。スタインの怪我がみるみる回復していく。
「ちくしょう!」
 スタインは再び立ち上がろうとした。
「駄目っすよ! スタインさん。おとなしくここで隠れていて下さい」
 アレックスが必死に止める。
「離せよ」
「駄目よ! 戦いはリカインにまかせて。ああ見えても超強いんだから!」
 サンドラもスタインを押さえつける。
 しかし、そのリカインは……

「くそ……一撃で倒せなかったわ……」

 肩で息をつきながらつぶやいていた。

「リカインらしくないぜ」

 アストライトが首をかしげた。

「いくら相手がグリズリーとはいえ……。いつものリカインなら、今の一発でしとめたはずだぜ………やっぱり、疲れが来てるのか?」


 危機一髪か? そう思ったその時……

「見つけたぜ! 食料!」

 恐ろしい言葉とともに、緑色の髪の少女が現れた。
 花妖精、片栗 香子(かたくり・かこ)。どう見ても9歳ぐらいの童女だ。
 一体誰だ? とサンドラとアレックスはきょとんとする。確か、パーティーにはこんな少女はいなかったぞと。しかし、童女はそんな二人を気にする事なく、

「この瞬間を待ってたぜ!」
 と飛び上がり、熊に向かって猛ダッシュ。そして、猛攻撃を始めた。

「あたたたたたー!」
 
 熊の弱点である眉間を狙って連打連打連打!

「あたたたたたたたー!」

 周りなんて関係ねぇ! 兎に角、熊を殺ることだけを考えりゃいい! 連打連打連打連打連打連打!

「あたたたたたたたー!」

 ぼう然とする一同の前で、少女のピンポイント攻撃に、ついに巨大なグリズリーの額から血が溢れ出して……

「グ……ハァ……」

 泡を吹いてその場に倒れた。

「とどめだぜ!」

 香子がグリズリーの腹に一発入れる。
 そのあまりのド迫力に一同固まってしまう。

 そこへ……

「香子ー! 香子ー!」

 どこからか声がして……

「香子ー! どこだー? 無事なのかー?」

 茂みから一人の男性が現れた。緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)だ。その顔を見た途端、少女の顔つきが変わった。

「あん! お兄様……!」
 弱々しい声で言う。
「香子! こんなところにいたのか」
「お兄様、わたくし熊を見つけましたの」
 なんだか、随分とキャラクターが違うようだ。
「あの……」
 アレックスが尋ねた。
「あなた方は誰っスか?」
「緋桜遙遠です。大学に提出するレポート用にこのあたりの機晶石の鉱脈を調査しようと思って、この花妖精の片栗香子と一緒に山まで来たのですが、この子に『ヒグマが出る』という話と『熊肉は美味しいらしい』という話をしたら、『私が狩って来ますわ!』なんてバカな事を言って居なくなってしまいましてね……香子が危険な目に会う前になんとか合流したいと探していたのですが……」
 そこまで言って、遙遠は倒れているグリズリーに目をやった。
「なにか、大変な事になっていたようですね」
「ええ、そこのお嬢ちゃんのおかげであっという間に解決したっスけど……」
 すると、香子はしゅんとうなだれ、
「お兄様、わたくし、とーっても恐かったですわ……」
 と、言った。
「恐かった?」
 サンドラが眉を寄せる。
「だから言っただろう? 危険な事はするなって」
「ええ……でもでも……お兄様の為をと思いまして……ほんと、申し訳ありません(しゅん」
「まぁ……怪我が無ければそれに越したことはありません」
 遙遠は香子の頭こつんと指で叩いた。香子はてへっと笑う。
「ところで、そこのお兄様、お姉様方」
 香子はリカイン達の方に可憐な瞳を向けた。
「なに?」
 リカインが首をかしげる。
「そのクマさん。もらってもいいですかしら? ヒグマってとてもおいしいらしいですし」
「残念だけど、こいつはヒグマじゃなくてグリズリーだぜ」
 アストライトが肩をすくめた。
「まあ!」
 香子は頬に手を当てて驚いた。
「遙遠お兄様、グリズリーっておいしいんですの?」
「さあねえ。食べた事ないから……」
「そっかあ……じゃあ、試食用にいただいていきましょう。構わないでしょ? 美しい金髪のお姉様」
「構わないわよ」
 リカインは苦笑する。
「それじゃ、遠慮なく……」
 香子は言うと、「おっもーい!」と言いながらグリズリーを引きずって遙遠と共に去って行った。

「なんなんだったんすかね? あの人たち?」
 アレックスがつぶやいた。
 しかし、それは誰にもわからなかった。