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高山花マリアローズを手に入れろ!

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3章 到着? マリアローズの花畑

 そのころ、スタインの家では……。

「ミュゼットさん。タオルの交換をしましょう」
 藤野 夜舞(ふじの・やまい)が替えのタオルを持って入って来た。
「ありがとう」
 ミュゼットが体を起こす。
「起き上がって大丈夫なのですか?」
「ええ。今は、少し気分がいいみたい。熱で少しぼーっとするけど」
「それは、よかったです」
 そう言うと、夜舞はタオルでミュゼットの顔の汗を拭き取った。
「すっかり夜になってしまったのね」
 ミュゼットが窓の外を見て言う。
「そうですね。今、夜の7時ぐらいです」
「お兄ちゃん達、ご飯食べたのかな」
「大丈夫ですよ。きっと、今頃は熊鍋でも囲んでキャンプファイヤーをやってますよ」
「熊鍋?」
「ええ。スタインさんに加わった猛者の中には熊鍋が目当ての人も……あ、こんな事言ってはいけなかったですね……」
「うふふふ……」
 ミュゼットは笑った。
 と、

 コンコン

 ノックがして仄倉 斎(ほのぐら・いつき)が入って来た。
「ミュゼットさん。お粥を持って来たよ」
 お盆の上にぐつぐつと煮えたお粥が乗っている。
「味噌とたまごで味をつけた特性だよ。といっても薄味だけどね」
 そういうと、斎はミュゼットの枕元に座り「食べさせてあげる」と、匙をとった。
「おいしい……」
 ミュゼットが目を細める。
「お料理上手なのね」
「え? いや……それほどでも。でもお世辞でもうれしいな」
「ううん。お世辞なんかじゃないわ……」
 そういうと、ミュゼットは激しく咳き込みはじめた。
「大丈夫ですか? お水を……」
 夜舞がコップを差し出す。それを一口飲み、ミュゼットは横になった。
「ごめんなさい……眠らせて。少し……疲れたみたい」
 夜舞は優しく微笑んだ。
「ええ、眠って下さい。ミュゼットさん。大丈夫です。きっと、皆さんがマリアローズを採って来てくださいます。だから、安心して今は眠ってください」
「あり……がとう。夜舞さん。こんなにたくさんの人が手を差し伸べてくれて……私……本当に感謝して……。だから……どんな結末になっても、私たち感謝の気持ちだけは忘れないと思うわ……」
 その言葉に夜舞はショックを受けた。
「どんな結末になっても……なんて……」
 泣いてはいけないと思いつつ、涙があふれるのを抑えられない。すると、斎が言った。
「まー、あれだよ。確かにおねーさんの為に色んな人が動いてくれてるよ」
 夜舞は真っ赤な目で斎を見る。斎は言葉を続けた。
「だから、おねーさん、まだ死ねないよね」
「……そうね……」
 ミュゼットは力なくうなずいた。
「そのとおりね……私、頑張らなきゃ……」
 そう言うとミュゼットは長く息を吐き、そして瞳を閉じた。
 こうして夜が更けていく。

 山の中では、スタイン達が広場にテントを張ってぐっすりと眠り込んでいた。
 テントの外では、たき火を囲み、数人の男達が寝ずの番をしている。
 その中の一人、天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)は、たき火にあたりながらつぶやいた。
「森の夜更けっていうのは、なんとも不気味なもんだぜ。俺は暗いところが嫌いだから、余計にそう感じるのかな」
「いや。不気味に感じるのは僕も同じ。いかにも何か出てきそうな雰囲気ですよ」
 となりの音井 博季(おとい・ひろき)が答える。
「いっそ、ドリアードでも出て来てくれれば助かるんだがな。実は、俺は別件でドリアードに用があってこの旅に参加したんだ」
「ドリアードか……。そういえば、如月 正悟君から聞いたのですが『アンタ達だけじゃマリアローズの咲いている場所にたどり着く事ができない』ってドリアードが言っていたそうです」
「その話なら俺も聞いた。もしかして、道に迷ったのも奴らの仕業かもな」
「ありえますね……」
 音井 博季はうなずいた。

 と、その時。

「あれ?」
 音井 博季が青ざめた顔で森の方を見る。
「何か来た」
 一同がそちらに目を向けると、いくつもの白い影が……。
 白い影は近づいてくるうちに緑の髪の美しい女性の姿になる。
「ドリアード!」
 音井博季の言葉に、天真ヒロユキはにやりと笑った。
「待っていたぜ」
 ドリアードは髪を振り乱し、爪を尖らせて襲いかかって来る。
 ヒロユキは龍鱗化でドリアードの攻撃をかわし、
「奇麗なお嬢さん。いきなり襲いかかるなんて野暮じゃないか?」
 余裕たっぷりに言う。ドリアードは鋭い爪をおさめた。
「お兄さん、なかなか度胸いいじゃない? 気に入ったわ。あたしの彼氏にならない?」
「それもいいかも」
 ヒロユキは笑って答える。
「けど、その前にこっちにも用件があるんだ」
「何よ」
「なに。薬草類をちょっと分けてもらいたいんだ」
「あんた達下界人と来たら……」
 ドリアードがあきれ顔でいう。
「いっつも、あたし達の仲間をむしり取って自分勝手に利用する事ばっかり考えるのね。たまにはあたし達と愛し合う事も考えてみれば?」
「愛し合ってやるさ。報酬さえくれればね……」
 そういうと、ヒロユキはドリアードの腰に手をあてた。
「あらん……」
 ドリアードが嬉しそうな顔をする。すると、別なドリアードがそれを見て叫んだ。
「ちょっと! 一人だけ楽しんでる場合じゃないでしょ? あたし達はこの連中を一人残らず消してしまうために来たんじゃないの?」
「だって、こんなにいい男が一杯いるのに、もったいないじゃない」
「気に入ったのだけ持ち帰ればいいじゃないの」
「そうよ! そうよ!」
 他のドリアード達も叫ぶ。

「僕らを一人残らず消すだって?」
 音井博季が青ざめる。
「なぜ、僕たちが殺されなくちゃいけないんですか?」
「あんた達下界人の、傍若無人さに目に余るものがあるからよ」
「傍若無人ですって?」
「そーよ! あんた達自身この山に入って、あたし達の仲間をどれだけひどい目にあわせたと思ってるの?」
「確かに……僕たちは多くの熊や食虫植物を倒しましたが……全て正当防衛のためにやむなくやった事です」
「あんた達の事情なんて知らないわよ! 全員死んじゃえ!」
 そういうと、ドリアードは口から刺を吐いた。博季はエクスカリバーで刺を打ち払い、叫んだ。
「待って下さい。確かに、僕たちはあなた達の仲間を傷つけてしまいました。しかし、戦うのは本意ではありません。殺意があるわけでも、敵意があるわけでもありません。ただあなた方に目的があってそれに一生懸命なように、僕らにも目的があるんです。それは、お互い大切な事で……でも。その結果、命を奪い合わなければ生きていけないなんて、嫌じゃありませんか?」
 博季の言葉に、ドリアードの攻撃がやんだ。
「お姉様。あの人間、あんな事を言ってるわよ。どうする?」
「ふん。下界人……中でも地球人のいう事なんて信用できない! 構わず攻撃をお続けなさい」
 お姉様とよばれたドリアードが冷徹に命令を下す。
「そんな……」
 博季は眉を寄せた。
「どうか、僕の言葉を信じて下さい! 妥協できるところや、協力できるところは僕らも歩み寄ります。だから、マリアローズを手に入れる彼らの邪魔をなるべくしないでください」
「歩み寄るって言ってるわよお姉様。少し、かわいそうじゃなくって?」
「そう……」
 お姉様ドリアードが腕を組んだ。
「そこまで言うなら攻撃をやめてもいいわよ」
「本当ですか?」
「ただし、今起きてる男達全員が、あたし達と一緒に木の世界に来るって言うならね」
「え?」
 博季は青ざめて仲間達を見る。

「俺なら構わないぜ」
 ヒロユキがうなずいた。
「それで、みんなが助かるって言うならね」
「簡単に約束してもいいのかしら? 木の中とここでは時間の流れが違う。木から出た後は100年以上すぎているかもしれないわよ」
 お姉様ドリアードの言葉に、再びヒロユキはうなずいた。
「構わないって。別に死ぬわけじゃないだろ? それでミュゼットちゃんが救われるなら……なあ、みんな」
「ああ」
 そこにいる一同がうなずいた。
「ふん。じゃあ、連れて行くわよ」
 お姉様ドリアードはそういうと、何やら呪文を唱えた。一瞬あたりが白くなり、気がつくと一同はドリアードの世界に入っていた。