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高山花マリアローズを手に入れろ!

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高山花マリアローズを手に入れろ!

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 その頃、スタイン一行はひたすら先を急いでいた。思い詰めた顔で頂上を見上げるスタイン。そして、そのやや後方をシズルが歩いていく。コントラクターとしての役割を自覚しながらも、シズルの頭の中は先ほど取り残して来たレティーシアの事で一杯だった。
「こんな事ではいけない……」
 シズルは自分に厳しく言い聞かせる。そして、ネガティブ思考に陥らないよう、後ろからついてくる面々の言葉に耳を傾けた。

「貴公らは熊の怖さってものを解ってない!」
 道産子の風森 巽(かぜもり・たつみ)が辺りを見渡しながら言う。
「最悪、集落一つを廃村にしちまう事だってあるんだぞ!? 本当なら、こういう時期に山に入る事自体避けたいんだ」
 すると、同じく道産子の竜螺 ハイコド(たつら・はいこど)が首をふって答えた。
「熊の怖さなら、身をもって分かっていますよ。なにしろ、僕のこの顔の傷は、幼い頃ヒグマにやられたものなんです」
 そう言って、ハイコドは左目のあたりに斜めに走った傷を指差した。
「だから、実は本物の熊を見るのはトラウマなんです。家族でクマ牧場に行ったときは大変でした。今回参加したのはトラウマ克服のためで……」
「そうなのか」
 その言葉に巽は心を動かされたようだ。
「実は我も実家にいた頃、熊に追いかけられた事があってな…」
 告白する。
「風森さんもですか?」
「ああ。だから、誰よりも熊の恐さは知っているつもりだ。とはいっても、熊だって腹を空かせてるから必ず人を襲うとは限らない。冬眠明けの熊は体力も衰えてるから、熊除けにする鈴の音で予めこっちの位置を知らせておけば、熊が先に逃げたり、身を隠したりする。ちなみに、熊が人を食べる目的の場合、身を屈めて低く唸って近づくから、その時は要注意だ……」
 巽がそこまで話したとき、ハイコドの顔色がさっと変わった。
「どうした?」
 いぶかしげな顔で巽が尋ねると、ハイコドが叫んだ
「くーまーがでたぞーーーー!!!」

「熊?」
 シズルが青ざめた顔で振り返る。ハイコドの叫びどおり、そこには巨大な数頭のヒグマが身を屈めて低く唸って近づいて来た。一同の間に緊張感が走る。
 
「出たわね!」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が不敵な笑みを漏らした。
「シズルさん。ここは私たちに任せて、スタインさんを連れて逃げて!」
「分かったわ」
 シズルはうなずく。
「また、逃げるのか?」
 スタインは不満げな顔を見せる。
「いいから、行って! あなたはミュゼットさんの事だけを考えていればいいの!」
 祥子は叫ぶと、
「ヒグマ退治して今夜は熊鍋よ!」
 景気付けにもう一発叫んだ。
 祥子の言葉に冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が答える。
「祥子さん! 待ちかねていた瞬間ですわね! 一緒に熊狩りをしましょう」
 そういうと、小夜子は刀を抜いて熊に飛びかかって行った。そして、抜刀術で一閃! しかし、相手はヒグマだ。大きなダメージは与えられない。

 ウォオオオオオ……ン

 熊は咆哮を上げて立ち上がると、小夜子に襲いかかってきた。寸でのところでかわして、小夜子は刀を振るい続ける。

 グルルル

 熊は小夜子に答えるように、何度も前足を振り上げて来た。
「単調な攻撃ですわね。その程度ですの?」
 小夜子は笑いながら軽くいなす。
 バカにされたのが通じたのか、熊は怒り狂ったように前足を広げて小夜子を捉えようとした。しかし、小夜子はひらりと飛び上がり、
「単調って言っているじゃありませんか」
 と、熊の背後に立って笑った。
「さあ、そろそろ本気になりますわよ。祥子さん、準備はよろしいですか?」
「OKよ!」
 小夜子の後方から祥子が答える。二人とも余裕しゃくしゃくだ。
 祥子はヒプノシスを唱えた。熊は眠気を誘発され、一瞬動きが鈍くなる。その隙をついて小夜子は思い切り刀を振り下ろした。熊の背に大ダメージ。
 その痛みで熊はヒプノシスから覚め、臨戦態勢に入る。
「祥子さんもう一声!」
 小夜子の言葉に、祥子はうなずき次はサイコキネシスを唱えた。熊は、何かに縛られたかのように動けなくなった。
 その隙をついて、小夜子は再び刀を振り下ろした。そして、何度も何度も攻撃を加える。やがて、うなり声をあげて熊の巨体が崩れ落ちた。
「一丁上がり!」
 小夜子は叫びながら祥子とともに次の獲物へと躍りかかっていった。

「お前、本当にうまそうだよな」
 霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が、目の前の熊を見て舌なめずりをする。
「絶対に食ってやる」
 そういうと、透乃は再び構えた。その言葉づかいからはとても想像できない、童顔で巨乳ミニスカの萌え少女だ。

 グルルル

 熊は怒りを込めて少女を見ている。

 ウォオオオオオ……ン

 熊はうなり声をあげて透乃に襲いかかって来た。
「闇の闘気!」
 透乃は叫ぶ。すると、暗黒の力が少女の身体を包み込み、熊の攻撃を弾き飛ばした。熊は体ごと吹き飛ばされる。しかし、すぐに立ち上がり透乃に向かって突進して来た。

「殺るか殺られるか、このスリルがたまらないよね!」

 透乃は余裕で熊の突進を避けようとした。しかし、絡まった草に足を取られて避け損ねてしまう。

「うわ!」

 透乃の体が勢いよくはじき飛ばされ、木に激突!

「大丈夫ですか? 透乃ちゃん!」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が駆け寄る。
「だ……大丈夫……」
 といいつつ、透乃は右肩を抑えて眉をしかめた。
「熊に対して真っ向勝負は危険です。私に任せて下さい」
 陽子はそう言うと、熊に向かって『その身を蝕む妄執』をかけ、『人に襲われて倒される幻覚』を見せた。熊は人間に対して恐れを抱き、陽子達を見ておびえ始める。心理的に無抵抗になった熊に向かい、陽子は『罪と死』と共に凶刃の鎖を飛ばしていく。しかし、いくら刃をぶつけても熊は容易に倒せない。
 
「私一人では無理なようです。透乃ちゃんお願いします」

「よしっ!」

 うなずくと、透乃はチャージブレイクして熊の腹に拳の疾風突きを入れた。


  バシッ!


  グ……グワアアアア!

 泡を吹いて熊が倒れる。


「やったか?」
 透乃が尋ねた。
「やったようです……」
 陽子がうなずく。
「やった! 今夜は熊鍋だ!……」
 透乃は無邪気に叫びながら熊の体を引きずっていく。その後ろ姿を見て陽子はつぶやいた。
「酷な話ですが、ミュゼットさんが病気にならなければ、あなたも私達に殺されることはなかったのでしょうね……それだけに、ミュゼットさんはあなたたちの分まで生きないといけませんね」