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リアクション
第六章 空飛ぶ箒レースバトル! 閉会
いつしか空は茜色に染まり、雪も止んでいた。
空飛ぶ箒レースバトルは大成功という形で幕を閉じた。
あれだけの被害のなか、負傷者は出るが重傷の人物はおらず、今日のうちに意識も戻り、今は元気に閉会式を楽しんでいる様子だった。
それも、スタッフたちの功労によるものといえよう。
『じゃあ、これからお疲れさま会だっ! 参加できる奴は参加してくれよ!』
閉会の言葉はなく、アッシュがそう言うと会場の参加者は大騒ぎをする。
「ケッ、くだらねぇ」
その中で唯一、温度差があるゲドーは踵を返し出口のゲードへと歩いていく。
「いくぞ、シメオンちゃんにジェンドちゃん」
ゲドーのパートナーである二人も、後をついて行こうと振り返った。
そして、会場の出口に差し掛かったとき。
「――待ってくれ、ゲドー殿」
不意に背後から声がした。
そこにいたのは、アキラだった。
「……んだよ、野外ファイトでもすんのか? 優勝者さん」
最大限の皮肉を込めて、ゲドーは言う。
それを聞いたアキラは苦笑いを浮かべた。
「いや、そううじゃないんだ。最後にこれだけは言っておきたくて」
「あ? んだよ、メンドクセェ」
(――どうせ、嫌味かなんかだろ?)
そう思い心底嫌そうに顔を歪めたゲドー。
しかし、アキラは予想外の言葉を口にした。
「ゲドー殿との剣戟、楽しかった。あれだけ緊張感のある戦闘はなかなか経験出来ないよ。……ありがとう」
「は?」
思いがけない言葉に、ゲドーは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「んじゃあ、それだけだから。悪かったな、足止めして」
一方的に感謝を告げると、片手を上げてから、アキラは踵を返し会場に戻る。
「アキラ、どこいってたノ?」
「アキラ、あまりふらふらするな、それに勝ったとしても勝負は時の運。思い上がるんじゃないぞ……と言いたいところだが、まぁ今日ぐらいはいいかのう」
「やったー! アキラさんの優勝だー!」
今だ興奮が覚めやらぬアキラのパートナーたちは、アキラを囲みそれぞれの言葉をかける。
それにつられて、アキラも満面の笑みを浮かべた。
アキラのその姿を眺めていたゲドーに、ジェンドが声をかけた。
「どうしたんですか?」
「……なんでもねぇよ」
一方、その頃。会場の広場では、空飛ぶ箒レースバトル最後のプログラムである花火の準備中。
花火玉を打ち上げる筒に火を点けるところだった。
「……よし、いくぞっ」
アゾートが花火の導火線に火を点ける。と、共にエヴォルトがマイク越しに最後の放送をした。
それは、いわゆるメッセージ花火といった形態のものだ。
『皆さん、今日一日お疲れさまでした。今回の空飛ぶ箒レースバトルは大成功といっても過言ではないでしょう』
全員の注目を一身に浴びながら弾き出された光の玉は、空に向かって昇っていく。
『だからこそ、この大会はこの言葉で締めておきたい。皆さん全員に心からの感謝を込めて――』
それは、戦いに参加した戦士たちを労うかのように。
それは、協力してくれた人たちに感謝を示すように。
それは、祭典に訪れた人たちに祈るように。
スタッフたちに上げられた花火は、空に光の花を咲かせた。
『ありがとう』
その放送を微かに聞き取ったゲドーは足を止め、美しい花火を眺めていた。
その様子に気づいたシメオンが、ゲドーに声をかける。
「珍しいですね、あなたが花火に見惚れるなんて。どうしたのです?」
「別に、そんなんじゃねぇよ……」
ゲドーはまた歩きだす。
そして、誰にも聞こえないように小さく呟いた。
「……けっ、くだらねぇ感傷だ。俺様らしくもねぇ」
後日。一位になれなかったアッシュとアゾートの罰ゲームが試行されていた。
「ったく、なんで俺様がこんなことを」
「……ほら、文句を言わない。きびきび働くんだ」
ヴェルデの考えた罰ゲームとは、一日箒屋で店員として働くこと。
イルミンスールの制服の上にエプロンを着け、今は開店時間前なので在庫の整理や棚の陳列などをしていた。
「……こら、アッシュ。それはそこじゃないだろう」
「えっ? あぁ、ほんとだ。悪い、どこだっけ?」
「……まったく、君は」
箒屋の女店主は二人のやり取りを見て、苦笑いを浮かべた。
「すまないねぇ、ほんとに」
「……いえいえ、いいんですよ。どうせ学校も休みでしたので、暇を持て余していたところでしたから」
「……そう言ってくれると、助かるよ」
女店主は申し訳なさそうな顔をしながら、倉庫から在庫を引き出してくる。
その在庫とは、大量の空飛ぶ箒だった。
「あれ? これって……」
「うん、空飛ぶ箒さね。昨日ね、基本部門が終わったあと、あのモヒカン君……ヴェルデ君だったかな。あの子が空飛ぶ箒を大量に入荷しといて下さい、なんて言うもんだからね」
「へぇ、ヴェルデが……何を考えてるんだ? あいつ」
アッシュがそう呟くと、同時に店の扉が開いた。
「勝手にお邪魔するぜぇー……おっ、似合ってんじゃねぇか二人とも!」
笑顔で入ってきたのはヴェルデ。
噂をすればなんとやら、とはこのことだろうか。
「うっせぇな。なんだよ、まだ開店時間じゃねぇぞ」
アッシュが拗ねたような素振りでそう言うと、ヴェルデは目尻の涙を拭う。
「いや、悪いぃ。そうそう、空飛ぶ箒は入荷してくれたんスか……おっ、これだけありゃあ十分そうだな」
「……十分? どういうことだい、ヴェルデ」
「まあまあ、百聞は一見にしかずってな。……女店主さん、扉開けて外を見てくれないッスか?」
「……あたしかい?」
女店主は自分の顔を指差し、怪訝そうな顔をした。
それにヴェルデは頷き、女店主は扉を開けた。
「……!」
目に真っ先に飛んできたのは、箒屋の前で長蛇の列を作る人たちの姿。
女店主は唇を両手で覆い、目を見開いて驚いている。
「昨日の空飛ぶ箒レースバトルの影響ッス。いやぁー、朝早く起きて町中に宣伝したかいがあったッスね」
ヴェルデはかっかっか、と豪快に笑う。
「だって空飛ぶ箒を大量入荷した店あるぞ、って言ったらみんな着いて来るんですもん。いやぁー、何とかなるもんッスね」
「モヒカン君……ッ!」
「モヒカンじゃなくてヴェルデッスよ。まぁ、罰ゲームが温いもんになったら俺が嫌ッスからね」
「……ヴェルデ、それを言ったらダメだろ」
「それ言わなきゃ格好良かったのによー」
そんなことを言いながら、アゾートとアッシュの二人は気づいていた。
ヴェルデの頬がわずかに赤く染まっていることを。
きっと、これは照れ隠しなんだろう。彼なりの、少し不器用な。
「……みんな本当にありがとうね」
箒屋の女店主の頬を一筋の涙が伝う。
それを見たヴェルデは頬を掻き、視線をアッシュとアゾートに逸らした。
「――仕方ねぇな。お前ら二人じゃ大変そうだから、俺も手伝ってやるよ。女店主さん、エプロンまだ残ってるッスか?」
「あ、ああ、まだ残っているよ。そこの、カウンターの下に」
ヴェルデはカウンターに近寄り、下を覗き込んだ。
そこには、大小さまざまなエプロンがたくさん置かれていた。
「こんだけありゃあ、もっと従業員増やせるな。よし、エリザロッテを呼ぶか。まだザンスカールに居るし」
「……それなら、エリセルや和輝やアニス。ルファンとイリアにヴァイスも呼ばないかい? きっと手伝ってくれるはずさ」
「確か、エヴァルトと加夜もまだ残ってたよな。電話をかけようぜ!」
結局、空飛ぶ箒レースバトルでスタッフをした者たちは全員、箒屋に集まり一日お手伝いすることになった。
その日の箒屋は、それでもやっと回すことが出来たぐらいの、大盛況だったらしい
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担当マスターより
▼担当マスター
小川大流
▼マスターコメント
はじめまして、こんにちは。小川大流です。
今回は皆さんのアクションのおかげで、楽しくリアクションを書くことができました。
皆さんにも少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
また、人によっては何かの称号が付いているかもしれません。
それでは、またお会いできる時を楽しみにしております。
ありがとうございました。