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リアクション
◆第4遊◆ 森に行こうよ
――場面は再び、イルミンスール魔法学校領地にある、森の中の集会所。
以前よりもう少し奥の方へ歩いて行くと、ほとんど自然のままの形で伸びている木の幹や枝が、
簡易的なイスやテーブルの形に整っているスペースがあった。
もそりとイスに腰をかけ、改めてお菓子をパクついているドン。
そして、ドンの隣には新しいお世話役・リリア・ローウェ(りりあ・ろーうぇ)が座っている。
リリアもドンに負けずと劣らない愛らしさの持ち主なので、ふたりが並ぶとそこは犯罪的にラブリーな空間だ。
「なにかしたいコトはありますか?」
「はむ」
ドンの口の中がお菓子でいっぱいだったので、リリアは水をさし出して勧めた。
詳しく説明すると、リリアに水を渡したのは主人である三途川 幽(みとがわ・ゆう)だ。
幽が無口でそっけなく行動しているのは、ドンが「話相手(リリア)を取られた」と勘違いしないように、
過干渉を避けているからなのだった。
森の集会所にやってきていた幽とリリアだったが、当初は主人権限で集会所から離れる予定だった。
帰りたかったというのは幽の主張で、そんな主人を強引にリリアが引き止め、やむなく共にドンの相手をしている。
パートナーのリリアが忘れん坊さんなので、話の成り行きが変に転びはしないか見張っている、
というのが幽の言い分だった。
「ドンくんは何して遊びたいですか??」
「だめですよぉ……」
「えっ」
何に対してダメだしされたのかと思えば、リリアのエプロンドレスの結い紐が取れかかって、
ゆらゆら揺れている模様が気になって手を伸ばしていただけだった。
ドンの行動は、ひたすらに可愛い。
また、それがゆる族の人気の理由であることは言うまでもない。
……だが、再び森の集会所にやってきたドンを、遠目から鋭い目で偵察している者がいた。
立川 るる(たちかわ・るる)は、ふつふつとわき上がって来る苛立ちを、なんとか抑えていた。
るるは、ゆる族を騙る者がいると聞けばたちどころに飛んでくる。
また、一般常識を知らない者を見ているのが耐えられない性格だ。
(わ、ざ、と、ら、しぃいいい!!)
せっかく長きにわたって隠れていたるるだったが、なおもゆるゆると甘える様子のドンの姿に、
どうしても我慢しきれずに立ちあがってしまった。
ズッカズッカとドンに近づき、寸の間もおかせずにアクションを繰り出す。
「ゆる族であるなら、≪光学迷彩≫をやってみて」
ズンッと世界樹の机に手のひらをぶち当て、ビシッとドンを視線で射る。
案の定、リリアにかまってもらいたい気持ちも忘れて、ドンは立ち上がり数歩後じさりした。
当たり前ではあるが、戦いのパートナーとして佐東 彗兎を守った実績もあるドンなので、
≪光学迷彩≫を全面的に理解はしている。
しかし、「早く!」と急かされた事は一度もなかったので、行動にまごついているのだ。
リリアにさえはっきり分かるくらい、ドンのまごつき方は激しかった。
「ドンくん、ほら、隠れる時に使う技です。 得意ですよね」
「得意……」
リリアにフォローされてやっと思い出したように、ドンは「お得意」の≪光学迷彩≫を発動した。
魔法のポケットのように、ドンのピンク色のもふもふした指先から布のようなものが現れ、瞬く間にドンを包む。
当然のことながら、その技を人の目の前でやったところで意味などまったくないのだが。
しかしるるは満足そうに頷いた。
存在自体はすでに認知されているが、「見えない」という事実がそこにできていれば、技は成功したことになる。
「疑ってゴメンね。」
打って変わって優しい声になったるるが、「じゃあ次は……」と、試練第2弾を言い渡しそうになった時――。
「幽がいないですっ」
「へ……」
るるが反応するのも待たず、そう一方的に言ってリリアは集会所を飛び出して、更に更に森の奥へ全速力で駆けて行ってしまった。
状況が把握しきれず、るるはドンとにらめっこする形で静止している。
続いて、互いに見つめ合って、またリリアの消えた森の方を眺める。
いったい何が起きたのか。
よくよく周囲を見回すと、リリアの主人・三途川 幽の姿がいつの間にかないのだ。
自分の存在の置きどころに困った幽が、面倒事は御免だと逃亡を図ったはいいが、
向かった先でそのまま迷子になってしまうと言う恒例の流れだった。
一瞬腕を組み唸ったあと、困る素振りも見せずにるるは「そうね」とドンに向き直る。
「パラミタで平和に暮らすには、緊急事態への対処ができるスキルが必要だよね、きっと」
「なんのこと?」
るるは、ドンの腕をムニュっと掴むと、リリアと同じく森の奥へと走り出す。
引っ張られる形で、ドンもおたおたと走ることになった。
「世間の厳しさも実感できて、ドンくんもスキルアップして、とにかく森へ行くことは必然なんだよ!」
なにやら雲行きが怪しくなってきた。
しかし、そんなるるの思い描く理想の課外授業へ、ドンは以外にも嬉しそうな表情で従っていたのだった。
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