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パニック! 雪人形祭り

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パニック! 雪人形祭り

リアクション

 街の中でも、展示場に近い区域では、避難が始まっていた。凄まじい冷気が屋内にいても暖房設備を使っても耐えがたいものになりつつあったからだ。また、戦闘によって飛散してくる雪が建物に被害を与えないとは断言できない、と、街の議会も判断した。街の議事堂が、一時的に住民に避難場所として開放されることになった。
 その避難誘導をする笹野 朔夜(ささの・さくや)は、雪人形が街路にいないことを確かめて、
「この道は安全です。さぁ、こちらへ……!」
 避難者の先に立って移動を促していた。降る雪が街路に溜まって、足元は悪く、特に高齢者の歩みは遅くなる。そんな人に手を貸しながら、議事堂への道を急いでいると、
「あれ? 何をしているんですか?」
 山ほど瓶や壺を抱え、佳奈子とエレノアに偶然ぶつかった。腕からは袋も下げている。
「塩を撒いて、雪を融かそうと思ってるんだけど……」
 凝固点降下作戦を展示場ではなく街中で決行するべく、二人は街中を走り回って塩を求めた。が、佳奈子の方向音痴が災いし、街中を余分にぐるぐる回ってしまっていた。
「雪人形が展示場に出ていかないように、街の入り口付近に重点的に撒こうと思ってるんだけど、どっちだったか分からなくなっちゃった」
 情けなさそうに、佳奈子はちょっと俯いた。朔夜はちょっと笑って、
「あっちですよ。俺たち、そっちから来ましたから」
と、教えてあげた。
「ありがとう! よかったら、これ持ってって使って!」
 そう言って、佳奈子は塩の一袋を朔夜に渡した。
「避難する人が歩きやすいように! 道に撒いて! 雪人形にも効果的だと思う」
「ありがとう!」
 佳奈子は駆け出し、エレノアもぺこりと頭を下げてから後に続いた。朔夜は塩の袋を抱えて微笑むと、議事堂までの道を誘導すべく振り返った。と、路地から走って出てくる小さな女の子の姿が目に入った。
「あ!」
 その子が目の前で、雪に足を取られて転んだ。路地から続いて雪人形が出てきた。次の瞬間、かなり大きな雪玉が、その子めがけて飛んできた。
「危ないっ!」
 とっさに朔夜は『バイタルオーラ』を矢にして放ち、雪玉から少女を庇った。小さな雪がぱらぱらと散って落ち、雪人形は光の矢に恐怖して逃げていった。
「大丈夫かい?」
 朔夜が少女を助け起こした時、路地からまた出てきた人影があった。
「よかった! 怪我はしてないかい!?」
 公民館から少女を追ってきたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)だった。
 幸い、抱え起こされた少女に怪我はなかった。ただ、泣き出しそうな顔をしていた。
「……。さぁ、戻ろう? みんな待ってるよ?」
「ここは寒いからね。このお兄さんと一緒に、公民館にお戻り」
 エースの促しに朔夜も言葉を添え、少女はこくりと頷いた。
 そしてエースの手に引かれ、戻っていく途中で、瑠璃羽と、異変に気付いて合流したくるみが追いついた。
「よかった〜〜! 見つかったんやね!! よかった……」
「気が付かなかった……まさか、表口から出てったなんて……」
 そして四人で、公民館に引き返していった。

「ミレリの作った雪人形さんに、ブローチを付けたの」
 公民館に戻った少女・ミレリは、最初はどこか怯えたような顔をして口ごもっていた。が、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)に「はいっこれ食べよ☆」と渡されたお菓子をもらったり、リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)に折り紙を見せてもらったりしてしているうちに心がほぐれてきたらしく、見守るエースやネージュら、椿や吹雪などの「公民館の臨時保母&保父」たちを前に、ぽつぽつと話し始めた。
「落し物かと思ったけど、誰も落としてないって言うから……ミレリの雪人形さんは女の子だから、ブローチ付けてあげようって、思って」
「そっか……それで、どうしたの?」
 エースが促すと、ミレリは俯いて、声を落とした。
「そしたら、雪人形さんが動き出しちゃって……ミレリ、どうしたらいいのか分かんなくて……あんな……あんなことするつもりじゃ、……ごめんなさい……!」
 そしてしくしく泣き出した。少女はこの騒動が、自分が雪人形にブローチを付けたせいで起こったと思い込んでいたらしかった。
「あらあら、ミレリちゃん、あなたは何も悪くないのよ、大丈夫」
 リリアがミレリの頭を撫でた。そうだよっ! とネージュが大きく頷いたり、泣いちゃだめっとクマラが力説したり、紫蘭が慰めるつもりなのかそれ以上に高ぶったのかぎゅっと抱きしめてみて瑠璃羽に止められたりと、みんなに何だかわちゃわちゃと慰められ、ミレリの涙もやがて止まった。
「やれやれ、ひと段落、かな……じゃあ、分かってること、ルカに伝えておかないと」
 エースは呟いて、装着したHCを起動させた。