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リアクション
第一章 人形の家
人影のないバランドの街の表通りを、小さな雪人形が5、6体ばかり、走っていく。
「キリがないわ、これじゃあ。きっちり元凶を叩かないと」
熱線銃を握る手を下げ、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は呆れたように呟いた。
彼女の言葉に、そこに積もった雪に混じって原型を失っている。だが、街中に溢れている雪人形は幾らも減ってはいない。
きっぱりと言い切るセレンフィリティに、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は意を得たように頷いた。
「例の、死んだ子供の祟りとかいう噂ね」
雪人形祭りで賑わうはずのバランドの街に今、人影はほとんどなく、代わりに動き回る雪人形が跳梁跋扈している。大きな雪像を展示する街外れの雪野原では、その雪像が地響きをたてて歩き出している。
折角の名物の雪人形祭り、それもわざわざライトアップが綺麗と言われる最終日に合わせて、連れ立って見に来た二人だったが、とんだ騒動に巻き込まれてしまった。
街の人は震えながら噂している。3年前に死んだ子供の祟りではないか、と。だが、子供の父親は呪術師だともいう。祟りと呪術、この状況を作るとしたら、どちらの方が可能だろう。セレンフィリティは溜息とともに呟いた。
「とにかく、情報を集めないと推理も出来ないわ。人が集まってる場所が行ってみましょ」
二人は街路に積もった雪に足を取られないよう気をつけつつ、街の中心部へ向かっていった。
鳥居 くるみ(とりい・くるみ)が顔を上げると、目の先にあった扉が半分開いていて、そこから出てきた子供と目が合った。
「ボク? どこへ行くの?」
そばかすの少年は、決まり悪そうにもじもじとする。この扉は公民館の裏口で、時々祭りの関係者らしき人間が出入りするくらいだ。子供はこの中に集められ……というか実質押し込められている。街の公共施設の中で最も災害に対する備えのある施設だからだが、そもそもここは、今夜のライトアップで子供たちがランタンを持って出発するための、大きな控え室でもあった。
危険だから外に出てはいけない。そう言って、祭りの実行委員会は子供たちをここに留めている。もちろん安全のためだが、元気いっぱいの子供たちにとって、長時間ひとところにじっとしていることは結構な苦行だ。
扉の脇の屋根付きの休憩スペースで、くるみは先程から何回も、時折この扉がそうっと開いては、中の小さな頭が彼女に気付いてぱたん、と閉じるのを見ていた。こっそり外へ出ようとしているのだ。子供たちに同情しながらも、くるみもやはり、彼らの安全のため、見逃すことはできない。
「出ちゃダメでしょ?」
優しく言うと、少年は気まずそうにもじもじしながら、ぼそぼそと言った。
「何もしないよぉ……ちょっと、見に行くだけだもん」
「何を見に行くの?」
「動く雪人形。だって、ボクが作った雪人形が動くなんて、すっごいじゃん!」
目をキラキラさせている少年の無邪気さに、どう説得したものかと、くるみが小さく眉間に皺を寄せていると、
「雪人形は、皆どっか行っちゃったわよ。ほら、この辺、どこにもいないでしょ?」
横から声がした。くるみが見るとそれは、情報提供者を求めてやってきたセレンフィリティとセレアナだった。
確かに、周りの街路には雪人形の影はない。だが、少年はちょっとムキになって、
「でも、雪人形がいっぱい集まってる場所があるって、教えてくれたもん」
「集まってる場所? それはどこかな?」
「ナーリルっていう、死んじゃった子のおうち」
「え!?」
三人の驚きの声がハモった。
「どうして、そのおうちに雪人形がいるの?」
「知らない。でも教えてもらったの。そのおうちに、雪人形が集まってくのを見たって子に」
「その家ってどこ? ここから近いの?」
「んっとね、この通りをずーっと行ったところ。大きな樫の木が門の横に立ってる」
「やれやれ、ここにいたのか」
扉が開いて、中から八雲 虎臣(やくも・とらおみ)が出てきた。大柄な獣人の男性が現れたので、少年はちょっとびくっとしたようだった。
だが、虎臣は身を竦めた少年の頭を、ぽむぽむと二回ほど軽く叩いただけだった。
「さぁ、戻ろう? きっと、もう少しの辛抱だ。夜には出歩けるようになるだろう」
少年は黙って頷いた。それから虎臣は、少女たちの方を向いた。
「貴殿らがこの子を止めおいてくれて助かった。私たちも中で退屈している子供らに目を配ってはいるのだが、何分人数が多すぎてな」
誰かが出ていくのには気づいたが他の子供に群がられてすぐに追えなかった、と虎臣は話した。大丈夫よ、とくるみが笑いかけた。
「私、ここで子供たちが出ていかないように見張ってるから」
「それはありがたいが、戸外は冷える。扉の内に入ってはいかがか?」
「大丈夫だよ。どうしても寒さに我慢できなくなったら、扉の中に入って暖をとるね」
「じゃ、あたしたちはナーリルの家に行ってみましょ」
セレンフィリティの言葉に、セレアナは頷いた。
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