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リアクション
第二章 正しい雪像との戦い方
雪は、吹雪とまではいかないが、視界が遮られていると感じる程度には強く降っている。
無音で降りくる雪を受け止める白い大地は、音を立てて震えている。雪でできた巨人像が、その大きな足を持ち上げて下ろす度に轟く、地響きだ。
「くっ、来るなぁっ!!」
その足下付近で、三人ほどの男があたふたと喚いている。一人が雪のだまりに片足をつっこんで抜けなくなったらしく、他の二人がそれを庇って、杖のような長い木の枝を持って、雪の巨体に向かって振り回している。
だが、このままでは雪像の足に踏まれて押し潰されてしまうだろう。
「やれやれ、無謀なことよ」
突然、絶望的な状況に置かれた男たちの上に、不釣り合いに軽やかな声が降ってきた。かと思うと、突然、雪像の踵に閃光が走った。人ならばアキレス腱の辺りがぱらりと落ち、雪の地面に落ちてぐしゃりと崩れる。そのまま足を下ろした雪像は、欠けた部分でバランスを崩し、ぐらりと揺れてほんの少し後ずさる。
雪を蹴立てて、スノーモービルが三人の男に横付けして停まる。乗っているのは鵜飼 衛(うかい・まもる)とパートナーのメイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)だ。
「今のうちに逃げるんじゃな。そんな杖では到底勝ち目はあるまいて」
衛の言葉に、男たちはあたふたと従った。足下を埋める雪を掻き分け、こけつまろびつ逃げていく。
「衛、まだどこか斬るか?」
片手にライトブレードを構えたまま、もう片方の手でスノーモービルのハンドルを握り、メイスンが衛に訊いた。
「いや、これ以上は必要ないじゃろ。一般人さえ避難できれば、あやつを損なう理由はもうない。わしらも離れるとしよう。この距離で好き勝手に動かれては、さすがに難儀じゃ」
雪像は周囲の雪を吸い寄せ、欠けた踵を修復していく。その間にスノーモービルも雪像を離れていった。
三人の男は、雪人形祭りの実行委員の腕章をつけていた。逃げてきた彼らのもとに、ルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)が、空飛ぶ箒で駆けつけてきた。
「こちらへ! その木立の陰なら安全ですわ」
「我々は山に行こうとして……」
男たちは彼女と、遅れて少し合流した衛とメイスンとに話した。
「この向こうの山か?」
「はい。その山の奥の番小屋に、グローシオ殿がいるので……」
それが死んだ子供の父の呪術師であり、街に流れる噂の真偽を確かめるために会いにいくのだということは、ごく簡単に説明された。あやふやな噂に惑わされた形でその当人を訪ねるということに、多少の負い目を感じるのか。持っていた杖は単に、雪深い道でついて使うためのものだった。
「林道は、冬期は原則的に閉鎖されています。入り口に設けた木門を開くには、この鍵が必要で」
一人の男が、手にした大きな鍵を見せる。三人はしばし顔を見合わせた。そして、
「衛様、わたくし、この方々の護衛をして、山の呪術師の家まで参りますわ」
『妖蛆の秘密』が言った。衛は頷いた。
「そうじゃな。こっちはわしらに任せい。何か分かったら連絡を」
「もちろんですわ」
蠱惑的な微笑とともに、『妖蛆の秘密』は請け負った。
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