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≪スプリングカラー・オニオン≫と魔法学校の編入試験

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≪スプリングカラー・オニオン≫と魔法学校の編入試験

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 後から残りの≪スプリングカラー・オニオン≫を積んで出発した生徒達が、先行した班の荷車を見つけた。

 瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は荷車の周囲を歩いてみたが、そこに生徒達の姿を発見することはできなかった。

「なあなあ、こんなとこに放置してたら危ないとちゃうの?」
「ん、ああ。それなら大丈夫だ」

 裕輝がぼやいていると、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が光学迷彩を解除して荷台に姿を現す。
 エヴァルトは寝ていたらしく、背を伸ばして欠伸を出していた。
 すると突然現れたエヴァルトを見て、扶桑の木付近の橋の精 一条(ふそうのきふきんのはしのせい・いちじょう)が驚いていた。

「おわわ!? 何か出やがった!
 おまえ、≪カメレオンハンター≫とかいう奴だろ!?」

 一条は教科書を盾にして構えていた。
 すると裕輝は、一条から教科書を奪うと、クルクル丸めて頭を叩いてきた。

「ちゃうねん! 出発ん時にいたやろ」
 
 頭を押さえてしゃがみ込んだ一条は、エヴァルトの顔を思い出して「おお」と感心していた。

「ほんで? 他の連中はどこ行ったんや?」
「戦いが終わったんでな。
 少しばかり休憩中さ」

 エヴァルトは森の奥を指さした。
 耳を澄ますと生徒達の楽しそうな声が聞えてきていた。

「ほな、オレらもちょいと休憩しようか」
「えぇ!? さっき出発したばかりだぜ」
「ええの、ええの。オレらは気楽に行こうや」

 一条を置いて、裕輝は声のする方へと駆け出した。


 休息を取ることになったため、源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)も、森を散策していた。
 すると、静かに佇む湖を発見する。
 鉄心の袖を掴んではしゃぐティー。

「あ、鉄心。綺麗な湖がありますよ」
「本当だ。魚もいるな」
「後で一緒に天ぷらにしたらいいかもしれませんね」
「そうだな。釣ってみるか……」

 鉄心は湖の周りをティーと歩きながら、釣りに使えそうな枝を探した。
 
「鉄心、料理楽しみですか?」
「ああ。美味いやつを期待している」
「はい!」

 他愛も話をする二人。
 すると、声が聞えてくる。

「おーい、陽子ちゃん。早く早く!」
「ちょっと、待ってください」
「ん? ――ブゥゥゥゥゥ!?」
 
 声のした方を振り返った鉄心は思わず噴き出してしまった。
 そこには衣服を纏わぬ緋柱 透乃(ひばしら・とうの)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)の姿があった。

「およ?」
「きゃあああああ!!」

 陽子が叫び声を上げて、物陰に逃げ込む。透乃はただ驚いただけだった。
 予定では他の班は先に行っているはずだった。
 そのため透乃達は人知れず血まみれになった身体を、湖で洗い流そうと思っていた。
 
 鉄心は手で目を隠しながら必死に弁解しようとした。

「いや、違う、俺は――うがっ!?」

 だが、ティーが人形を鉄心の顔に押し付けたため、言葉は遮られる。
 しかも、押し倒してなお続けてくるため、鉄心は息が出来ない。

「鉄心、見ちゃダメです。
 破廉恥です! エッチです!」

 必死に人形を押し付けるティー。
 そこへ、置いて行かれ涙目になったイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が追いついてきた。

「なんで置いて――って、ちょっとティー。
 このままでは鉄心が死んでしまいますわ!」
「え!? あっ、ごめんなさい!」

 ようやく解放された鉄心は窒息寸前だった。

 透乃は頭をかいた。
 陽子と二人きりでゆっくりとできるはずのチャンスが、台無しになってしまった。

「仕方ないな。学校についてからに――」

 湖から上がろうとした透乃が足を止める。
 鉄心達の他に、殺気を持つ視線を感じたのだ。

「隠れてないで出てきなよ!」

 透乃が視線を感じた方角へ叫ぶ。
 すると、数名のボロボロになった≪カメレオンハンター≫達が姿を現した。
 武器を構える≪カメレオンハンター≫。
 透乃はいつでも対応できるように、腰を屈めてファイテングポーズをとった。
 視線が交差し、緊迫した空気が流れる。
 いつ戦いが始まってもおかしくない雰囲気だった。

「ストォォォォプッ!!」

 ――そんな時、裕輝の声が周囲の空気を震わせた。

「今まで、散々戦ったんやろ? だったら、もういいんちゃうか?」

 裕輝は両者を交互に見つめ、ニッコリ笑った。
 
「んなことよりメシにしようや、メシ! 
 そっちの方がよっぽど楽しいやろ。
 ほれ、一条。準備しいや」
「お、おう。って、俺がやるんかよ……」

 一条は文句を言いながらも、道具を用意して火を起こし始めた。
 その火で、裕輝は≪スプリングカラー・オニオン≫を焼き始めた。
 優しい香りが漂う。

「無駄に命を落とすことあらへん。
 武器を捨てて一緒にメシにしようや」

 裕輝が≪カメレオンハンター≫を手招きする。
 ≪カメレオンハンター≫は顔を見合わせる。
 彼らは暫く相談していたが、最終的には武器を捨ててくれた。
 
 ポカンとする透乃。
 ≪カメレオンハンター≫達は火を囲むように腰を下ろすと、仕事や私生活での愚痴をこぼし始めた。
 裕輝は≪カメレオンハンター≫と肩を組みながら、同情する。

「うんうん。おたくらも大変やったんやな。
 ほな、これでも食べとき」

 ≪カメレオンハンター≫は裕輝から受け取った焼き玉ねぎを、美味しそうにいただいていた。

「そうや。せっかく美女の水浴びしているんや。
 そいつを眺めてながら、辛いことは忘れようや」
「え、もしかして私踊ったりしたほうがいいのかな?」
「いいやんか。ほな、よろしくたの――!?」
「いいわけがないでしょう!」

 調子に乗って手拍子は始めた裕輝の前に、陽子の凶刃の鎖【訃韻】が飛んできた。
 裕輝と≪カメレオンハンター≫が、蜘蛛の子を散らすように落下地点から遠ざかる。
 陽子はブラックな笑顔で、裕輝にゆっくりと近づいていく。

「見た事は全て忘れさせてあげます」
「ん、んな。さっきのは、ほんの冗談に決まってるやないか。
 あはは……」
「そうですか。でも私のは冗談ではありませんから」
「あの、陽子ちゃ――」
「透乃ちゃんもいつまでそんな恰好をしているんですか!
 早く着替えてください!」
「わ、わかりました!」

 透乃が慌てて衣服を取りにいく。
 そして、裕輝と≪カメレオンハンター≫は、武器を手にした陽子に追われて森へと入っていく。

 残された鉄心達は……

「釣りでもするか」
「では、わたくしは山菜でも集めてきますわ」
「あ、待ってイコナちゃん。私も行きます」

 食材を集め始めた。



 ――森の中で。

「≪カメレオンハンター≫さん、こっちに隠れるですぅ」

 陽子から逃げる≪カメレオンハンター≫の一人を、神代 明日香(かみしろ・あすか)は洞穴へと呼び寄せた。
 ほっと安心する≪カメレオンハンター≫。
 すると、明日香はいきなり≪カメレオンハンター≫を縄で縛りあげた。

「捕まえちゃったのですぅ。
 さぁ、黒幕の正体を教えてもらいますよぉ」

 明日香は襲撃を防いだだけでは駄目だと思っていた。
 今回、無事に解決しても、来年、あるいは別に手段でまた狙われるかもしれない。
 だから、≪カメレオンハンター≫に依頼した黒幕を捕まえる必要があると判断していた。

 明日香は黒幕の正体を聞き出すために、捕まえた≪カメレオンハンター≫の脇腹をくすぐり始めた。
 最初、我慢していた≪カメレオンハンター≫だったが、すぐに笑い声を漏らし始める。

「さぁ、教える気になったですかぁ?」

 しかし、≪カメレオンハンター≫は黒幕について話す気がない。
 明日香も、さがに相手がプロの暗殺者である以上、そう簡単に話すとは思っていなかった。

「むむ、なかなか教えてくれませんかぁ。
 でも、教えてくれるまで続けますよ〜。
 そぉれ、こちょこちょ〜と♪」

 明日香は≪カメレオンハンター≫の靴を脱がすと、羽毛でくすぐり始めた。
 洞穴に≪カメレオンハンター≫の笑い声が響く。


 その後、執念のかいあって明日香は黒幕の正体を掴み、学校へと報告した。