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リアクション
第5話 約束の日
ザンスカール観光を経て、イルミンスール魔法学校へ到着すると、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)達が待っていた。
「ハルカさん、ようこそ、イルミンスールへ!」
ソアは、パートナーのゆる族、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)と共に、ハルカの編入を歓迎する。
「ようやく、約束が果たせますね。
本当に嬉しいです。今日を、とても楽しみにしていました」
「ハルカもなのです。お待たせしたのです」
「荷物はこれだけか?」
ベアが、ソアの荷物を持つ。
荷物はバッグがひとつと、箒だけだ。
「足りないものは、こちらで揃えるのです」
「では、何か入り用な物ができたら言ってくださいね。まずは寮に案内しましょうか」
「“イルミンの、とりあえず押さえておきたい所”があるんだけど」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が指を三本立てた。
それは、大図書室、大浴場、カフェテリアの三つだ。
「その目玉は最後にとっとこうぜ。
まず学生寮に荷物を置いて、教室と購買あたりの主なところの案内をしちまおう」
ベアの提案に、賛成する。
「世界樹の中にある珍しい学校ですので、迷子になる人も多いんです。
ハルカさんも気をつけてくださいね」
「わかったのです」
ハルカは力強く頷く。
ベアが不審そうな眼差しをハルカに向け、ソアは微笑んだ。
「明日からは、一緒に教室まで行くと良いかもしれませんねっ。私も寮暮らしですし」
寮の、ハルカの部屋へ案内する。
「ここがハルカさんの部屋です」
と、振り返って、ソアはぽかんとした。
「ハルカさん?」
「おい?」
「あれっ」
ベアと美羽が慌てて周囲を見渡す。
「今まで、話してたのに」
美羽のパートナー、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が唖然とした。
「舌の根も乾かない内にか!」
寮の辺りは、他より寂れているので、誰にも見掛けられずにどんどん迷い込む可能性がある。
ソア達は慌ててハルカを探した。
ねんがんの せんとうふくを てにいれた!
藤林 エリス(ふじばやし・えりす)は、ご機嫌だった。
欲しかった魔法少女戦闘服を、ついに手に入れたからである。
というわけで、イルミンスールの片隅で、新必殺技の練習をしていたところで、うろうろと歩いている少女を見つけた。
「どしたの? 見かけない顔ね」
「ソアさん達が、迷子になっちゃったのです」
少女はハルカと名乗り、エリスはああ、と頷いた。
女王殺害未遂犯のパートナーが編入するらしい、と、一部で話題になっていた。
「新入生が入るって聞いてたけど、あんたのことね。
あたし? あたしは……」
きゅぴーん☆
エリスの魔砲ステッキが輝く。
ポーズを取りながら光が溢れ、エリスは魔法少女に変身した。
「愛と正義と平等の名の下に! 革命的魔法少女、レッドスター☆えりりん! よ!!」
「えりりんさんですか!」
「ちょっと変わった人だけど、悪い人じゃないから大丈夫よ」
傍らで、パートナーの魔道書、マルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)がフォローする。
「初めまして、可愛らしいお嬢さんね。
私はマルクス著 『共産党宣言』。私も今年入学したばかりなの。同志ハルカとは同期ね」
「マルさん……」
「きょーちゃんて呼んでね」
「きょーちゃんですね」
はい、とハルカは頷く。
「ちょっと、あたしを無視しない!」
「えりりんさんは魔女っこさんなのです?」
「魔法少女っていうのよ。
あんたもこのイルミンで頑張れば、じきに変身できるようになるわよ!
衣装とか、どんなのが好き?」
「ハルカは、リボンがあるのがいいのです」
魔法少女トークに花を咲かせていると、ばたばたと走って来る音がした。
「ハルカさん、此処ですか!?」
「ソアさん!」
ハルカはぱっと顔を輝かせ、ソアに向かう。
「無事に合流できたみたいね」
「ありがとうなのです」
ソアがエリスにぺこりと頭を下げた。
「――ハルカ」
手を振って、ソアと歩いて行くハルカを、エリスは呼び止めた。
「あたしは、あんたの家族の詳しい事情とか知らないけど。
自分自身でこれだけは絶対譲れないって理想と信念を持って、その為に自分に出来ることを精一杯やるって、とても大事なことよ。
それがいいことか悪いことかなんてのは、後の時代に勝った側の人間が勝手に決めることなんだから、気にする必要なんか無いわ。
何も後ろめたく思う必要なんて無いの。胸を張っていいのよ。
じゃあね! 入学おめでとう、ハルカ!」
ソアや美羽達と学校案内をされている最中のハルカを、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)とパートナーの魔女、エヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)が見かけた。
「この辺のフロアが、色々な学科の入っている区画です。教室ですね」
ソアが説明している。
「あの子が、例の?」
「そのようね」
勿論教師である二人も、ハルカのことを知っている。
「ようこそ、賢者の学び舎へ」
声を掛けると、ハルカ達は振り向いた。
「先生」
「先生なのです?
初めまして、ハルカなのです」
「私は、近代西洋儀式魔術学科の講師、ライヘンベルガーだ。
まずは基礎を学んでからとなるだろうが、魔法学校には、様々な学科が存在する。
同じ学科でも、講師によっては方向性がまるで違う。
まずは、自分が学びたいと思う学科を選んでくれ」
「はいなのです」
アルツールの説明に、ハルカは頷く。
「例えば私の授業は基礎と理論的なものを重視し、ある意味科学的手法で魔術を学んでいく。
だから、魔術以外に数学や語学・言語学等の知識もある程度要求される。
しかし、その分『どういうことが起る』かを予測したりするのも容易く手堅い。
逆に言えば最近多い、同じ術でも各自思い思いの印や呪文を唱えて発動するような風潮とは相容れないし、偶然による新呪文の誕生も少ないといえるな」
「先生、まだハルカさんにはちょっと、専門的なことは難しいと思います」
ソアが助け舟を出した。
ハルカはこれまでに、少しは独学で学んでもいたし、今も一生懸命に聞いているが、何処まで理解できているだろうか。
「うむ、そうか。熱くなりすぎたな」
ごめんなさい、とハルカは謝った。
「勉強して、学科を決める時に、もう一度聞きにくるのです」
「そうね。
先生の説明に、色々補足したいこともあるし、是非また話を聞きにきてね。
よろしく、私は先生の助手のエヴァ・ブラッケです」
傍らでエヴァが微笑んだ。
「一度誰かの下で学んで「クセ」がついてしまうと、修正したいとき大変なこともあるわ。
よく考えて、学科や師事する先生を選ぶこと。いいわね」
その選択は、魔術師としての方向性を決定する重要な要素だと、アルツール達は考える。
言葉の意味はまだ理解しきれなくとも、ハルカが、望むような魔術師になれるよう、それを真剣に考えるきっかけになればと思った。
超高層ビルの展望台のようなカフェテリアで一息ついた後、彼等は次に、イルミンスールの名物のひとつである、大図書室に案内する。
「イルミンスールの大図書室は、本当にすげえぜ! 他校からも利用者が来るくらいだからな。
ご主人もよく利用してるぜ」
「私も、よく来るよ」
ベアの説明に、美羽が言う。
「すごいのです」
視線を何処に向けても、本棚があった。
天井が高いが、本棚もそれに合わせて高く、どの本棚にも梯子が付いている。
更にフロアは何層にも分かれていて、複雑な迷宮になっており、深奥まで続いていた。
「立体迷路みたいだよね」
「オリヴィエ博士は、一度此処に来て、事故になってしまったんだっけ」
美羽とコハクが言った。
「あーら、新入生?」
声がした方を見ると、本棚の上から、誰かがハルカ達を見下ろしている。
本棚の向こう側で、梯子か脚立を使っているようだ。
「ふふっ。初々しいじゃない」
「こらっ、何をやっているんですか!」
ぱたぱたと誰かが走り寄って、その女性を窘める。
「閲覧禁止の本が、こんなところで、人に声を掛けまくっていたら駄目でしょう!」
「何よ、司書の分際で、偉そうに」
女性はムッとしながらも、本棚の向こうへ姿を消す。
「魔道書さんだったようですね。
あちらの人は、司書さんです。図書室の本を管理しているんですよ」
「人格があったりする魔道書とか、色々あるからな。大変だぜ」
ソアの説明を、ベアが引き継ぐ。
「次は、大浴場か。
混浴のでっかい風呂だぜ。時間があるなら入っていくのもいいな」
「食堂へ行く前に、さっぱりして行こうよ」
時間を確かめるベアに、美羽が提案する。
「そういえば、僕も大浴場は初めてだ」
コハクが呟いた。
来たことのある図書室やカフェも、美羽ほど詳しくはなかったので、ハルカと一緒に、ベアの説明興味深く聞いていたのだが。
「そうだっけ。じゃあ皆で入って行こう。ハルカ、いいよね?」
ハルカは美羽に頷く。
「はい。皆で入りたいのです」
「ほらハルカ、ここがイルミンスール名物の大浴場だよ!」
美羽が両手を広げる。まるでジャングル風呂のような趣だった。
「ていうか、コハクどうしたの?」
「……皆、水着用意してたんだね」
混浴と聞いて、コハクは腰にバスタオルを巻いて浴場に出てきたのだが、他の全員は水着着用だった。
ハルカの水着は、案内で購買に寄った時に、ソアと美羽が購入しておいたものだ。
「そっか、知らなかったんだっけ。ごめんね」
美羽が謝る。何だか恥ずかしいコハクは、ハルカ達とは少し離れて、湯に浸かった。
同情したベアも、それに付き合う。
「プールみたいなのです」
「プールも、別にあるんですよ。その内遊びに行ってみませんか」
「はい。楽しみなのです!」
そんなコハク達をよそに、少女達は楽しくお風呂を満喫して、学校案内最後の、食堂へ向かう。
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