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リアクション
プロローグ
「それじゃ、村長。そろそろ調査に向かうわけだけど……注意事項だけは口で説明してくれる?」
今回の街道づくりのための森の調査。その調査のために集まった冒険者達を代表して熾月 瑛菜(しづき・えいな)は村長の女性にそう聞く。その手にはこの調査における注意事項や調査して欲しい内容がまとめられた紙があった。
「はい。……森はゴブリンとコボルトが多く生息しています。彼らの縄張りである森の奥には一部を除いて村の者は近づけません」
「近づけないって……そんなに危険なの?」
村長の説明に疑問を持ったアテナ・リネア(あてな・りねあ)は聞きます。
「以前薬草を採りに行っていたものが間違って彼らの縄張りに入り大怪我をして帰ってきたことがあります」
村長の言う薬草とはこの村で重宝されている植物のことだ。葉をそのまますりつぶして使えば傷薬となり、アクを抜いた葉と根は滋養強壮の薬の元になる。さらにはアク抜き時に煮だした液で染物もできるため村では欠かせないものになっている。そういった事が瑛菜や他の冒険者たちに渡された紙にも書いてあった。
「あー……まぁ、縄張りに入ったんなら仕方ないかもね。あたしらだってモンスターがいる所には準備なり覚悟なりしていかないと危ないし」
戦う力を持った冒険者でもそうなのだ。戦う力を持たない村人が縄張りに入ればそうなるのも当然だろう。
「でも、それだと実際に街道作るってなると大変か」
「はい。ですので皆さんにはモンスターたちの排除もお願いします」
「排除……か」
村長の言葉に瑛菜は微妙な顔をする。周りを見渡せばアテナを始め含む顔をしている人がちらほらいた。
「瑛菜さん? どうかしましたか?」
「……いや、なんでもない。モンスターたちの事もあたしらがなんとかするよ」
気を取り直し瑛菜はそう返す。思うところはある。しかしここで悩んでいても仕方がないと彼女は思った。
「瑛菜おねーちゃんのライブがかかってるもんねー。頑張らないと」
「ア・テ・ナー? あんたは一言多いんだよ。というか最近口悪くなってない?」
そんな感じでじゃれあう二人を眺めながら、もし本当にアテナの口が悪くなってるならそれは瑛菜の影響だろうと友人や知人は思う。が、そこを突っ込むことはしない。なぜならそれは瑛菜とアテナの仲の良さの証拠に違いないし、またアテナの言葉も瑛菜の反応も微妙な雰囲気を和ますための言葉だと分かっていた。
「って、こんなバカやってたら日が暮れるじゃん。……じゃ、村長。行ってくるよ」
「アテナも頑張ってくるね」
「はい。皆さんお気をつけて」
優しい笑顔で村長に見送られながら、瑛菜達冒険者は森の調査へと向かっていった。
「へー……これが村長の言ってた薬草か。結構たくさんあるじゃん」
入り口には本当に獣道のようなものしかなかったが、少し歩くとに開けた場所についた。ここに多く生えているのが村長の言っていた薬草だだろうと瑛菜は確認する。
「どうする? 少しくらいなら持って帰ってもいいんじゃない?」
瑛菜の言葉に一緒に行動している友人たちはまずは調査だろうと言ったりしてからかい気味に反応を示す。しかしその中でアテナだけはどこか上の空な雰囲気だった。
「……アテナ? どうしたんだよ?」
「…………え? あ、瑛菜おねーちゃん? どうしたの?」
呼びかけにも反応が遅れるアテナに瑛菜はため息をつく。
「どうかした聞いてるのはこっちだよ……ったく。アテナ。そんな気負わなくていいんだよ」
アテナの頭かに瑛菜は右手をぽんと乗せ、そのまま撫でる。
「瑛菜……おねーちゃん?」
頭をなでられくすぐったそうにしながらアテナは不思議そうな顔をで瑛菜を見る。
「今日はまだ調査なんだ。実際に街道つくるまでにはまだ時間ある。それまでに一緒になにかいい方法がないか考えればいいんだよ」
「瑛菜おねーちゃん……うん。ありがとう」
がばっとアテナは瑛菜に抱きつきその体を預けた。
「まったく……アテナのこういう甘えん坊なところは変わらないね」
そう口で言いながらも瑛菜は優しい顔をしてアテナを撫で続けている。
『じーっ』
と、いう視線に気づき瑛菜が周りを見渡すと友人たちが生暖かい目で瑛菜とアテナの様子を見守っていた。
「ち、調査行くよ! 早く」
恥ずかしそうにそう誤魔化す瑛菜に周りは笑みをこぼしながら瑛菜達は森の調査を始めた。
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