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魔法の森のミニミニ大冒険

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魔法の森のミニミニ大冒険

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第1章 大同団結




木々が鬱蒼と茂ったイルミンスールの森は、今は音もなくしんと静まりかえっている。
中でも深い霧――暗殺者たちの毒薬とエリザベートの魔法の合成によって作られたものだが――が立ちこめている場所は、視界が完全に遮られているためか、不気味さをよけいに際立たせていた。

その霧の始まる境界付近では、一人の男性が地面に膝をついて霧を見つめていた。イルミンスール魔法学校講師のアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)である。手には赤いひもが幾本も握られており、その先はすべて霧の中に消えている。アルツールの横には騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が、同じく霧の中の様子を伺っていた。

しばらくすると、霧の向こうから親指ぐらいの大きさの小人が幾人もアルツールの元にやってきた。これはアルツールの持つ道具「小人の小鞄」の小人たちである。アルツールは使役した小人に紐をつけて、霧の中の様子を探らせていたのだった。

「…どうですかぁ?」

心配そうに問う詩穂に、アルツールは渋面を作って答える。

「ふむ………このエリアにもエリザベート校長やミーミルの姿はいないようだ。いったいどこにいるのか……」
「やっぱり根本的に霧を払う方法を考えたほうがいいんじゃないかな。例えば……風とか」

詩穂の言葉に、アルツールはむぅ、とうなる。

「風か……。確かに霧を晴らすのには一番てっとり早いが、そうそう上手くはいかんだろう。第一この霧が通常のものと同じく風で飛散するようなものかどうかもわからん」
「んー。でも意外と単純なのかも。ほら、こうやってぱたぱたーって扇いでみたら……って、きゃあ!」

詩穂が手にしていた天狗のうちわで霧の境目を仰ぎ、小さな風を呼び起こした。すると突然、ぼんっと三人の少女たちが地面から姿を現したのだった。

「いやあああ〜〜〜〜〜! あっちいってー!!」

三人の少女のうち、一人は地面に腹ばいになったまま、叫び声を上げている。そして、残りの二人が腹ばいになっている少女の両腕をそれぞれつかんで一生懸命ひっぱっていた。

「みゆう〜〜! しっかりー!」
「食べられる〜〜! って、あれ……」

少女たちが我に返り、よろよろと起きあがる。そしてあっけにとられているアルツールと詩穂の顔を見、自分たちの顔を見合い、最後に自分の体に手で触って確認する。

「「「助かったぁ〜〜〜〜」」」

腹ばいになっていた少女、関谷 未憂(せきや・みゆう)と、その両腕を引っ張っていたパートナーのリン・リーファ(りん・りーふぁ)プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)は、ほーっと一斉に安堵のため息をついたのだった。

詩穂がおそるおそる声を掛ける。

「み、未憂ちゃんいったいどうしたの? 確か霧を採取しに行ってたんだよね?」
「そうなんです…。でも採取しようと思ったら、突然木の上から降りてきた蜘蛛と出くわしちゃって――」
「それでねそれでね! あわてて逃げたんだけど、今度はみゆうがアリジゴクの巣に落ちちゃったの!」

と、リンが未憂の話に割って入る。

「あわててプリムと二人で引き上げようとしたんだけど、でもみゆう結構重くて中々引き上げられないし、アリジゴクさんの歯ががちゃーがちゃーってみゆうの足をはさもうとするし、もうどうしようー! って思ってたら、急に風が吹いて体が元に戻ったのー。ドキドキしたけどすっごい楽しかったー!」

成る程。アリジゴクの巣に落ちかけていた状態のまま大きくなったから、三人は奇妙な体勢で暴れていたのだ、とアルツールと詩穂はようやく腑に落ちたのだった。

「……あたしは重くないわよ失礼ね! っていうか面白がってたのはあんただけじゃない! あたしはすっごく怖かったんだから……って、あれ? そう言えばどうして私たち元の体に戻ったんですか?」

プリムに「よしよし」と頭をなでなでされながら、未憂は首を傾げた。


「……なるほど。風が吹いたから霧が晴れて、ちっちゃくなる魔法の力が効かなくなったんですね」

詩穂とアルツールの話を聞いて、未憂が頷く。

「あくまでも仮定の話だがな。どうやらこの霧は風で簡単に飛ばすことができるらしい」
「だから、早くこの霧をふきとばしちゃおうよ! 詩穂は風術が使えるし、天狗のうちわも二枚持ってるから、両手で風を起こせるもん」
「とはいえ、君ひとりだけでこの霧を吹き飛ばすのは大変だ。関谷君は氷術が、リーファ君は火術が使えると言っていたな。二人で温かい空気と冷たい空気を作って風が起きやすい状況を作り出したほうがいい」
「あ、じゃあ霧をどの方向に向かって散らしてゆくか、決めた方がいいよね」

そう提案する詩穂に、アルツールは頷いた。

「もちろん、それが賢明だ。今から大急ぎで周囲の地形を確認してゆこう」

アルツールの言葉に、詩穂と未憂、リン、プラムは互いに頷きあうのだった。