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リアクション
chapter2.第二階層・チンパンコ
ライオリンの群れを抜け、第二階層へと進んでいた生徒たちは先ほどと同じような広さの部屋へと着いていた。
そこにいたのは、数十匹のキメラである。チンパンジーの胴体に、インコの頭をしている。と、生徒たちはその群れの中に自分たちと同じ生徒が紛れているのを見つけた。首輪をはめられていることから、先に侵入したはいいものの捕まってしまった者のようだ。
「ほら、まだ足が綺麗になっていないですよ? 早く舌で舐めきらないと」
「まったく、使えない人間ですねえ。その手足は飾りですか? んん?」
数匹のキメラ――もとい、チンパンコに蔑まされているのは、皆川 陽(みなかわ・よう)だった。どういうわけか下を脱がされ、ワイシャツ一枚の姿になっている。
「うぅ……なんでボクがこんな目に……恥ずかしいよぉ……」
なんか腹の立つ口調で、しかも気味が悪い外見のチンパンコにいじめられている陽。しかもその格好はちょっとしたSMクラブを連想させる。このなんとも珍妙な光景を目の当たりにした一行はぽかんと口を開けていた。そんな中東條 かがみ(とうじょう・かがみ)は、思わず本音をこぼしてしまった。
「うわきもっ」
それはチンパンコを見てか、陽が捕らえられてるシチュエーションを見てか、その両方かは分からない。が、とりあえずかがみは遠慮なく嫌悪感を顔一杯に広げていた。
「キメラなのに喋ってるのもきもいし、何その名前。チンパンコって。長っ。名前長っ。略しちゃえばいいのに。チンコでいいじゃない。臭そうだし、毛むくじゃらだし。お似合いの名前よ、チンコ」
「……」
もちろん彼女が口にしたその単語は決してそういう意味のアレではなく、単純にチンパンコという生物を略して言ったに過ぎない。が、周りの人たちは完全にひいていた。そんなかがみの横にいたパートナーのヨーゼフ・八七(よーぜふ・やしち)は、誤解を恐れたのか、眉を下げながらかがみを見てふるふると首を横に振っている。
「ちょっと何かわいそうな子を見るような目で私見てんの。ヨーゼフのくせに生意気よ。そうだヨーゼフ、ちょっとあのチンコ噛み砕いてきなさいよ。食いちぎってもいいけど」
「……」
じわ、とうっすら目に涙を浮かべ、ヨーゼフがさっきよりも激しく首を振る。その手は無意識のうちに股間に行っていた。どうやら彼女の言葉からその光景を想像し、恐ろしくなったようだった。
「な、なんでもいいから助け……」
かがみとヨーゼフのやり取りを見て言いかけた陽の言葉を、チンパンコが遮った。
「おおっと、今何を言おうとしてたんですかぁ? んんー? 逃げようとしてたのかなぁ?」
ぐい、と首輪についていた鎖を引っ張られ体勢を崩す陽。背中から床に落ちた彼の足は宙に放り出され、瞬間彼の何かが見えたような気がした。それを見て興奮のあまり思わず声を発したのは陽のパートナー、テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)である。
「うおー! ヨメー! もう1回、もう1回やってくれー!」
テディは自分も陽と同じく首輪をされ捕まっているにも関わらず、助けを求めるより陽のワイシャツの中をのぞくことに全精力を注いでいた。ちなみに彼はどうやら陽のことをヨメと呼んでいるらしい。
「い、いやっ、したくてやってるわけじゃ……」
「ヨメー! 遠慮するな!」
鼻血をだらだら垂らしながら、テディはしきりにアンコールする。
「ねえ……さっきから疑問に思ってたけど、もしかしてここから抜け出せるのにあえて捕まってない……?」
「なっ、バ、バカッ、そんなわけねーし! もうちょっとそのかっこ見てたいなーとかぜんっぜん思ってねーし!」
「え、えぇ〜、やっぱりだよぉ……」
がくりと肩を落とし、そのまま陽はチンパンコに引きずられていく。
「あなたがた、下へ行きたいんですか? でも残念ですねえ。ここは僕たちチンパンコの縄張りです。そう簡単には通せませんねえ。それにこっちには捕虜もいますし。諦めた方がかしこ……」
「何チンコの分際で上から見てんの? あとその喋り方不快でたまらないんだけど。あと息臭いからあんま口開かないで」
「……あなたさっきから勝手に僕たちのこと変な名前で呼んで……それでも女性ですか?」
チンパンコの非難を物ともせず、かがみは悪態を吐き続ける。
「どう呼ぼうが勝手でしょチンコ。あとほんとチンコ臭いから」
激しい舌戦を繰り広げるかがみとチンパンコ。それをじっと見つめていたのは、一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)だった。否、正確にはチンパンコのみに視線を注いでいた。同時に、月実のお腹が鳴る。
「お腹が空いてる時にちょうど現れたってことは、あのキメラを食べろっていう天啓ね。トンカツが食べたかったけど、アレで我慢してあげるわ。チンパンコってことは……チンカツね」
しかし、このタイミングで自分ひとりが突っ込んでいっては返り討ちに遭うかもしれない。そう判断した月実は、妙案を思い立った。すすす、と彼女はこっそりヨサークの後ろに移動すると、喉の調子を「んんっ」と整え低く太い声を出した。
「そこのキメラ共! 貴様らなんか俺ひとりで充分だ、まとめてかかって来やがれ!」
突然背後から変な声が聞こえたヨサークは、慌てて後ろを振り向く。そこには「似てたでしょ?」と言わんばかりに満足げな表情をした月実がいた。
「おお、上手上手ー! 誰が聞いてもヨサークさんだったよ月実!」
ひょこ、と彼女のパートナー、リズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)がやってきて声真似を褒め称えた。が、言うほど似てはいなかった。
「おめえ、何勝手に俺を使って腹話術みてえなことやろうとしてんだ、あぁ?」
「つ、月実、ヨサークさんが何か怒ってるよ?」
「みたいね。お腹空いてるのかしら。でも大丈夫よヨサークさん。あのキメラを食べればきっとお腹いっぱいになれるわ。それにカルシウムも豊富に含まれてるし、ぴったりよ」
「へー、あのキメラってカルシウム豊富なの?」
「いや、知らないけど」
「適当言った! さらっと適当言った! あれ、でも言われてみたらそうかもー」
「でしょ? さあヨサークさん、アレを倒して! そしたらヨサークさんにもチンカツ食べさせてあげるから!」
ヨサークの前でゆるいトークをしていたふたりは、さらっとヨサークへ話を振った。勝手に話を進められたヨサークはわなわなと肩を震わせ今にも怒鳴りだしそうな雰囲気である。
が、そんなことはお構いなしに数匹のチンパンコが彼目がけ飛び込んでくる。先ほどの月実の腹話術もどきのせいである。ヨサークの声には似ていなかったが、そもそもチンパンコはヨサークの声を知らないのだ。加えて割と挑発に乗りやすい性質ということもあり、チンパンコは完全に標的を彼に定めていた。
「向かってくんなら動物だろうと家畜だろうと手加減しねえぞこらあ!」
鉈を担ぎ、腰を落とすヨサーク。そのままチンパンコと衝突するかと思われたが、両者の間に突如南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)が割って入った。
「おい、こんなのと戦うためにここまで来たんじゃねーよな?」
ヨサークに背を向けたまま、光一郎が言う。
「ここは俺らが引き受けた。サツマイモたちは先に行け! それか死ね」
「おめえ……上等だ、おめえこそしっかりここに残ってあいつら倒しとけ! それか死ね」
「……」
無言の光一郎がやや気にはなったが、ヨサークは彼の言葉通りチンパンコたちの奥にある出口へと走り出す。
「おやおや、何を勝手に話を進めてるんですか? まったくこれだから、人間というのはいけませんねえ。なんでもかんでも自分の都合で物事を進めようとする。そこの不良くさいあなた、今時そんな色黒は流行りませ……いててててて、痛い痛い、ちょっと痛い!」
悪口を言いつつヨサークたちを止めようとしたチンパンコは、思いっきり光一郎に腕ひしぎ逆十字をかけられていた。
「お、おいそこの茶坊主! やめないか!」
「暴力に訴えるなんて人として最低だぞ! クズだ! 君は人間のクズだ!」
周りのチンパンコが慌てて光一郎を罵り止めさせようとするが、光一郎はどこ吹く風で完全無視し技をかけ続ける。
「そんな、僕たちの悪口に微塵も反応しないなんて……ん? あ、あれは!?」
とその時、一匹のチンパンコが光一郎の耳に何かを発見した。顔を近づけてよく見てみると、それはイヤホンだった。どうやらこれで外界からの音を遮断していたらしい。さらに顔を近づけると、イヤホンから歌声が漏れてきた。
『とーまーらーないーおもいー』
「なっ、こ、これは蒼空のフロンティアのプロモーションムービーにも使われているというmaoさんが歌っているSTART! のサビ部分!?」
「そうに違いない! なんてことだ、この不良少年、僕たちの言葉攻撃を防ぐためにわざわざここにポータブルプレーヤーを持ち込んで蒼空のフロンティアプロモーションムービーに使われているというmaoさんが歌っているSTART! を流していたというのか!」
「くっ、なんて用意周到な奴! まさかここで蒼空のフロンティアプロモーションムービーに使われているというmaoさんが歌っているSTART! を流されるとは思ってもいなかった」
チンパンコたちが口々に驚きの声をあげている最中も、光一郎は鼻歌混じりに一匹のチンパンコをしめている。
「ん〜んん〜go way〜」
「go wayじゃねえよ! ご機嫌か! 離せ、頼むから離して! 痛い痛い、折れるって!」
「くそっ、この不良少年が駄目なら別な奴に……あそこのスケトウダラみたいな奴を狙うんだ!」
光一郎から標的を変えたチンパンコが次に狙ったのは、光一郎のパートナーオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)だった。
「おいそこのスケトウダラ! 魚は大人しく水に浸かってるべきじゃないんですか? 場違いですよあなた?」
「大体なんですか魚のくせにその図体のでかさ。気持ち悪いにも程が……痛い痛い痛い!」
「それがしスケトウダラではなく鯉である。加えて、それがし耳栓をしておるので挑発目的の口撃は効かぬわ!」
「え、いや、今思いっきりスケトウダラに反応……痛い痛い、ちぎれる、ちぎれるって!」
オットーは問答無用でチンパンコに噛み付いた。
「うわははは、貴様らの無駄口を前に新しい趣味に目覚めそうだわい」
「やっぱり聞こえてんじゃねえか!」
「しかも変態だ!」
光一郎とオットーが容赦なくチンパンコの群れに攻め込んでいる隙に、ヨサークたちは下の階へと消えていた。
「あっ、このふたりに構ってたら……」
落胆と焦りを一瞬浮かべた彼らだったが、目の前に残った生徒たちの始末をしなければならない、と気持ちを切り替えた。そんな彼らの出鼻を挫くかのように、秋葉 つかさ(あきば・つかさ)、そして久多 隆光(くた・たかみつ)が目の前に堂々と立ちはだかる。
「そこのチンコ様、そんなお名前をしているからには、そちらの方も相当自信がおありなのでしょう?」
挑発気味に胸を寄せるつかさ。それはあたかも、どちらが強い精力を持っているのか性比べを挑んでいるようにも思えた。が、当のチンパンコからしたらまたもや嫌な略され方をして怒りが溜まる一方である。
「先ほどの女生徒に続きあなたもですか。まったく最近の女性は性へのモラル低下が著しいですね。僕たちの名前はチンパンコだと言っているでしょう? いいですか、勝手に変な略称をつけないでいただきたい。チンパンコです、チンパンコ」
「チンパンコチンパンコうっせぇよ! つまりチンコってことだろうが! やーいチンコチンコ!」
一体どこで怒りのスイッチが入ったのか分からないが、隆光が突如キレだした。
「何です? 自分の名前を名乗っただけで怒鳴りだすとは……これだから現代の若者は……そういうストレス耐性の低さが犯罪増加に繋がり、昨今の……」
「うっせえチンコ! どうせ猿みてぇなサイズなんだろ? 俺が気が短いってんなら、お前らはそれが短いんだろ?」
「なっ、なんて卑猥な男ですか……モテないオーラがぷんぷん匂ってきますね。あー臭い臭い。モテない臭が臭いですよまったく」
「あぁ!? そうだよ、どうせ生まれてこの方モテたことない花の独身23歳だよ! 文句あっか!」
頭に血が上った隆光が、氷術をチンパンコにぶつけようとする。ちなみに余談ではあるが、「陰部から氷を出させたいのですが」と掛け合ったところ何者かの圧力で「陰部から氷は出さないようお願いします」と注意されたらしい。
氷のつぶてがチンパンコたちを襲ったが、そこはチンパンジーの遺伝子が組み込まれたキメラ。素早い動きでそれをかわすと、数匹ずつに別れ隆光とつかさにそれぞれ襲いかかる。
「本当に猿のようなサイズなのか、確かめてあげましょう。たとえ猿以下のお粗末なモノだとしても、たっぷり満足させてあげますけれどね」
つかさは戦闘体制を取り迎え撃つのかと思いきや、おもむろに胸をはだけさせはじめた。白く、柔らかな肌が徐々に晒されていく。その豊満な胸と甘い香りに、さすがのチンパンコも鼻息が荒くなる。彼らも所詮はオスなのだ。
「けっ、けしからん女生徒ですね! 揉みしだいて……いや、成敗しなければ!」
二匹のチンパンコがつかさに飛び掛かる。つかさは彼らをちら、と見ると小さく笑みを浮かべた。
「あらあらチンコ様、それしか飛ばないのですか? もっと勢い良く飛び出ると思いましたのに」
どうも下半身を見て言っている気がするが、あくまでも彼女の発言は彼らの跳躍力に対してである。
そしてチンパンコと組み合ったつかさは、くんずほぐれつの激しい戦いを始めた。
あまりに激しすぎてちょっとここでは書けないくらい激しく互いの力がぶつかり合っているため、ここからはつかさのパートナー、ヴァレリー・ウェイン(う゛ぁれりー・うぇいん)の実況のみでお伝えしたい。
「どうしたチ○コ、もっとしっかり動くんだな。でなければつかさを満足させることは出来んぞ」
「な、何っ! つかさ、チ○コを突っ込ませるな! 入れたらだめだ! 間合いに入れさせてしまってはまずい!」
「よし、うまくかわして逆にダウンを奪ったな! 行けつかさ! そのまま起き上がれなくしてやるのだ! もうチ○コを立たせるな!」
激闘の末、つかさはチンパンコを倒したようだった。なお念のため言っておくが、ヴァレリーが懸命に叫んでいたのはあくまでチンパンコのことである。さすがにちょっと連呼し過ぎていたため喉がかすれてしまい、チとコの間に何を言っていたのかは聞き取れなかった。
つかさとヴァレリーがチンパンコと相対し、隆光も舌戦を繰り広げている頃その隆光のパートナー、童元 洪忠(どうげん・こうちゅう)はただひとり真面目に戦っていた。心頭滅却しあくまで冷静さをキープし続けていた洪忠はチンパンコの悪口を物ともせず、チェインスマイトにより黙々と連続攻撃を繰り出す。
「隆光、簡単に敵の挑発に乗ってしまうとは……私は冷静にいかせてもらう」
一匹倒してはまた次のチンパンコへと攻撃を続けようとする洪忠。おそらく今現在このフロアで唯一まともな存在であった。
そしてそれが逆に浮いていた。
「……」
周りをふと見れば、依然首輪をはめられたままの陽とそれを見て鼻血の海に溺れているテディ、きもい臭いを連呼しチンパンコを絶望させているかがみ、どのチンパンコを揚げようかよだれを垂らしながら品定めしている月実とリズリット、ご機嫌で歌を歌っている光一郎に鯉のオットー。つかさとヴァレリーはさっきから卑猥そうな単語しか口にしていないし、隆光に至っては自分がこれまでいかにモテない人生を歩んできたか延々とチンパンコに愚痴っている。
「真面目に戦っている私が場違いとはどういう……」
洪忠が愚痴りだす。溜め息をつく彼だったが、この場の雰囲気を正そうと思っていた者が実は彼以外にもいた。
「あなたたち、ふざけてばっかりいちゃ駄目でしょ」
穏やかな、それでいて凛とした声が一同の耳に届く。声の主、早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)は教師らしい振る舞いで自由奔放に暴れまわっている生徒たちを諌めた。
「動物たちをそんな呼び方してからかったら可哀想よ。どうしても略したいのなら、チコちゃん、って呼んであげて。ね? とっても可愛いでしょ?」
のっけから「チンコ」と言いまくっていたかがみやつかさ、ヴァレリーや隆光はなんだかちょっと申し訳ない気持ちになった。そしてそれはチンカツとか言ってはしゃいでいた月実とリズリットも同じである。
「そこのやんちゃそうな子とスケトウダラくんも、チコちゃんたちをいじめちゃ駄目よ」
一応ちゃんと戦っている方の部類に入っていた光一郎とオットーも、何か悪いことをしているような気がして軽く頭を下げた。
あゆみはそのまま残ったチンパンコの群れへと歩を進める。パートナーのメメント モリー(めめんと・もりー)は心配そうな表情でその後を追いながら小さく呟く。
「あゆみん、もしかしてあのキメラたちを説得するつもりかなあ……無闇に手を出さないのは賛成だけど、もしあゆみんが危ない目に遭いそうならボクが助けなくっちゃ。優しい気持ちが伝わってくれるといいんだけど……」
後ろでいつでもあゆみを守れるようにスタンバイしているモリーに、あゆみは首だけを向けて「大丈夫」と口を動かす。
「な、なんですかあなたは、あの人間たちの仲間でしょう?」
「油断させようって作戦ですか? そうは……」
警戒するチンパンコの前にそっと膝をつき、あゆみはチンパンコに目線の高さを合わせた。
「今までいっぱいつらい思いをしてきて、信じられなくなる気持ちは分かる。でも安心して。もうそんなに怯えなくていいのよ」
あゆみはどこからかクッキーを取り出し、チンパンコたちに分け与える。最初は匂いを嗅いだり舐めたりして用心していた彼らだったが、誰からともなく一口食べ始めると揃っておいしいおいしいとクッキーを頬張り始めた。
「ふふ、気に入ってもらえてよかった。こんなに可愛いチコちゃんたちに喜んでもらえて、私も嬉しい」
彼女の立ち振る舞いとすっかり大人しくなったチンパンコたちを見て、さっきまで騒いでいた生徒たちは一気に冷静になった。
「俺ら、何やってたんだろ……」
やがて一匹のチンパンコが、陽とテディの首輪を外す。
「なんか、僕たちが間違ってました。この度は色々とすいません。あ、あとクッキーありがとうございます。とてもおいしかったです」
「いいのよ、それよりほら、あなたたちそんな格好じゃ風邪をひいちゃいそうよ。あら、でも余分な服がないわね……仕方ないから私のスカートでも……」
「だっ、駄目だよあゆみんそれは! どこまでいい人なの!?」
スカートを脱ごうとするあゆみを、モリーが慌てて止めに入る。陽も「平気ですから」とワイシャツの裾を引っ張りながら言う。が、やはり長時間半裸でいたのがまずかったのか、くしゃみをしてしまった。
「ほら、やっぱりそんな格好じゃ大変よ。どうしようかしら……」
困った表情で顎に手を当てるあゆみ。そこにテディが大声で割って入った。
「ヨメー! オレスクール水着持ってるぞ! これ着れば解決だ!!」
「解決しないよ! もっと露出上がっちゃうよ! あとなんでスクール水着持ってるの!?」
結局陽の下半身問題は解決せず、「そのうちいいことあるって」というよく分からないチンパンコの励ましで無理矢理陽は納得させられていた。
やがて落ち着いた雰囲気を取り戻した一行は、チンパンコに別れを告げ先を行った生徒たちの後を追おうと出口に向かい始める。
その時だった。
ピキ、と天井に亀裂が走り、巨大な音と共に崩れだした。第一階層の床が壊れ、ここ第二階層へと降り注いだのだ。瓦礫と一緒にライオリンやブタトロール、上にいた生徒たちも落下してくる。
「危ないっ!!」
咄嗟に瓦礫を避ける第二階層の生徒たち。破片たちが第二階層の床面に衝突しては部屋が震え、もくもくと煙が上がる。
「ど、どうして突然天井が……」
一通り崩落が収まり、吹き抜けとなった天井を見上げる一同。ゆっくりと煙が晴れていき、彼らは視線を天井から下に落とした。そこには、横向きに倒れているライオリンとブタトロールの姿があった。彼らの体の上には、第一階層にいた生徒たちが立っている。どうやらキメラの体をクッションにして、落下の衝撃を防いだらしい。
「よく分かんないけど、上の階層の敵も無事撃退出来たみたいじゃん?」
あまりの轟音に、光一郎がイヤホンを外しながら言う。隣ではオットーが、度々スケトウダラ呼ばわりされたことに軽くへこんでいた。そしてそのオットーをさっきから食べ物を見るような目で見ていた月実とリズリットは、落ちてきたブタトロールを見て「トンカツよ、まさかのトンカツよ」とはしゃいでいるのを再びあゆみに注意されていた。
その後第一階層から落ちてきた生徒たちが事情を説明し、彼らは事態を把握すると同時に自分たちが来た入り口へと目を向けた。
「階段が残ってて良かった……」
口々にそう言葉を漏らした生徒たちは、帰り道が無事あることにほっと一息ついたのだった。
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