空京

校長室

【十二星華SP】決戦! マ・メール・ロア!!

リアクション公開中!

【十二星華SP】決戦! マ・メール・ロア!!
【十二星華SP】決戦! マ・メール・ロア!! 【十二星華SP】決戦! マ・メール・ロア!! 【十二星華SP】決戦! マ・メール・ロア!! 【十二星華SP】決戦! マ・メール・ロア!!

リアクション


第2部 僕たちはバカがいい

chapter1.第一階層・ライオリン



 要塞への侵入に成功した生徒たちは、二手に別れ移動を開始していた。一組が向かったのは、ティセラやシャムシェルがいるであろう要塞の最上部――彼らの侵入箇所から見れば最深部。そしてもう一組が向かったのは、光条砲が設置されていた要塞下部であった。砲台があることからおそらくこの方面に機関部もあるだろうと踏んでのことだ。

 十数分ほど進んだ頃だろうか。薄暗い通路を進んでいた生徒たちは、やがて開けた場所へと出た。
「なんだここは……?」
 他の船が強行突入している隙に自らの船を寄せ、さりげなく侵入を果たしていたキャプテン・ヨサーク(きゃぷてん・よさーく)は広間を見て思わず呟く。壁面に書かれた「1」という数字が彼の目に止まる。
「このキノコみてえな要塞の第一階層ってとこか? 上等だ、根っこまで耕してやんぞこらあ!」
 ヨサーク、そして要塞へと入った生徒たちが気合いを入れ直し足を前に踏み出そうとしたその時、彼らの目を驚くべきものが埋め尽くした。
 それは、キリンの体にライオンの頭と尻尾をつけた十数頭の合成獣――ライオリンと呼ばれるキメラだった。ライオリンの隙間から奥を覗くと、次の階層へ続いているであろう出口が見える。しかし大きな体を持つライオリンの群れにその道は阻まれており、とても彼らが通り抜けられる状態ではなかった。
「こんなとこで時間を食ってては、この要塞にツァンダが……!」
 何人かの生徒たちから、そんな声が漏れ出す。焦りを浮かべ始めた集団の中、葉月 ショウ(はづき・しょう)がすっと前に出た。
「こういう時は、のぞき部でパシリの俺に任せとけばいいんだよ。のぞき部の皆は先に……って言いたいとこだが、この際だ。のぞき部以外も先にイってくれ! この階層は俺が引き受けた!」
 かっこいいことを言っている風だが、端々にのぞきとかいう褒められたものではない単語が入っているせいで台無しである。が、ショウはそんなことお構いなしに戦闘態勢へと移る。彼はぎゅっとモップを固く握り、くるくると回し始めた。
「さあ、早く行け!」
 ショウの声で、一行は群れをぐるりと迂回するように壁面から出口へ回り込もうと動き始めた。それを見てショウが、小さく呟く。
「この戦いが終わったら俺、女湯をのぞくんだ……!」
 生徒たちが接触を避け迂回していても、出口周辺はライオリンが密集していて一気に通り抜けることは不可能。その状況を悟ったショウのパートナー、葉月 フェル(はづき・ふぇる)はショウの回すモップを見て名案を思いつく。
「……そうだ! 一旦猫に戻ってあのモップに飛び乗って、キメラに向かって飛ばしてもらえば!」
 猫型の獣人であるフェルが思い描いた作戦、それはあえて群れの中にモップで飛ばしてもらい、その途中で獣化を解くことで高度のあるライオリンの首に一撃を見舞おうというものだった。
 そしてそれは、群れの中に突撃することによってライオリンの気をひき、先を行かんとする生徒たちから注意を逸らせることも出来るであろう一石二鳥の作戦というわけだ。
「ショウ! 遠慮はいらないから、思いっきり飛ばしちゃってほしいのにゃ!」
 自らの姿を猫に変え、ぴょんとショウのモップの先端に飛び移ったフェル。重みが増したことでモップを持つ手により一層力を込めたショウが、食いしばった歯の隙間から言葉を放つ。
「分かった、俺らのモップ戦術で殲滅してやろうか」
 ショウが腰を落とし、片方の足を軸にしてその場で回り始める。ぶうん、と風を切る音が絶え間なく響き、その間に彼は回転数を徐々に上げていく。そして。
「おおおおお、いっけえええ!!」
 ハンマー投げさながらの勢いで、ショウがモップごとフェルを放り投げた。
「にゃっ! あとは獣化を解くだ……」
 言いかけたフェルの眼前にあったのは、ライオリンの群れではなかった。
「にゃーっっ!?」
 ガシャン、と部屋中に音が鳴る。フェルの目の前にあったのは、壁面にある窓ガラスだった。完全にショウのコントロールミスである。遠心力のせいでとてつもないスピードが加わっていたフェルを乗せたモップは窓ガラスを突き破り、そのまま部屋の外へ突き抜けていった。
「……あれ?」
 正面にいるライオリンとまったく別方向に飛んでいったパートナーを見て、ショウは愕然とした。膝をついたショウが顔を上げると、最後のあがきとばかりに両手を肩上の位置まで上げ、片足を上げポーズをとっているフェルの後ろ姿が見えた。空を飛ぶ鷹のようなその姿勢は、凛々しくそして美しかった。それはまるで「ただでは落ちない」とでも言わんばかりのフェルの勇姿であった。
 そしてフェルはショウの視界から姿を消した。
「フェルーーーッ!!」
 自分でやっといたくせに、ショウは怒りを含んだ叫び声をあげた。これにはライオリンもぽかんとした表情だ。
 が、このふたりの勝手な自爆がライオリンたちの目を奪い、意識を他から逸らしたこともまた事実であった。ショウとフェルが馬鹿なことをやっている隙に、生徒たちは足元をすり抜け出口に辿り着いていた。続々と階下へ降りていく生徒たち。と言っても、乗り込んだすべての生徒が先へ進んだわけではなかった。ショウ同様、ここ第一階層に残りライオリンの相手を請け負った者たちが数名いたのだ。
 その中のひとり、スウェル・アルト(すうぇる・あると)は大勢の生徒が出口に向かい駆けていたその時、じいっとライオリンを見つめていた。それは生徒らが階下へ降りた後も変わらない。
「お、おいここは危ないぞ……」
 パートナーを失ったショウが彼女の存在に気付き、慌ててここから去るよう促す。が、当のスウェルは聞いているんだか聞いていないんだか分からない様子で、ぼーっとライオリンに視線を向けたままだ。
「聞こえてるか? 俺のパートナーもやられた。あいつらは強暴だ」
 言うまでもなくやったのはショウである。ライオリンからしたらとんでもない言いがかりだ。
「……者」
「ん?」
 何か言葉を発した気がするが、よく聞き取れない。ショウが耳を近づけると、スウェルはひとりでぶつぶつと独り言を呟いているようだった。
「ライオンと、キリン。人気者」
「……?」
 よく分からない呟きにショウが首を傾げた次の瞬間、スウェルはなんと単身ライオリンに向かって歩き出した。小さい体でトコトコと向かうその光景は、無用心かつ危険極まりないものだった。
「お、おいっ」
「嬢ちゃん!? どこ行くの嬢ちゃんってば?」
 ショウの声に被さるように聞こえる声。ショウの目の前を通り抜けスウェルを追いかけだしたのは彼女のパートナー、作曲者不明 『名もなき独奏曲』(さっきょくしゃふめい・なもなきどくそうきょく)であった。しかしスウェルはショウやパートナーの心配をよそに、ひとりでライオリンに近付く。やがてそのうち一匹の足元まで着くと、小さく口を開けながら上を見上げる。すると次の瞬間、彼女は驚くべき行動に出た。
「嬢ちゃん!?」
 スウェルは抱きつくようにライオリンの足に両腕を回すと、同時に足もかけゆっくりと登り始めたのだ。その視線は、まっすぐライオリンの背中を捉えている。どうやら彼女は、ライオリンの背中に乗ろうとしているようだ。
「……相変わらず嬢ちゃんの行動は読めんわ」
 万が一の落下に備え、よじ登るスウェルの下で受け止める姿勢を取りつつ彼が漏らす。そんなパートナーの気苦労などお構いなしに、スウェルはついにライオリンの背中へと到達していた。当然背中に異物感を覚えたライオリンは、横に体を揺すりそれを取り払おうとする。左右に揺らされながらもしかし、スウェルは背中から降りようとはしなかった。
「どうどう。はいやー」
 それどころか、なんならちょっとご機嫌にも見える。どうやら彼女は、ライオリンの背中に乗れさえすれば十二星華とか要塞とかは割とどうでもいいようだった。
 ライオリンもやがて諦めたのか、体を動かすことをやめた。するとスウェルは少し物足りなさそうにライオリンの背中をぺしぺしと叩く。
「動かない。さっき、ちゃんと動いてた。今は、もう、動かない」
「ガオッ、ガオッ」
 ライオリンがローテンションで小さく吼える。意訳するならば、「いや、もう勘弁してよお嬢ちゃん」といったところだろうか。
「嬢ちゃん、キメラを乗りこなすなんて技術いつの間に身につけたのよ……?」
 彼女のパートナーも、最初は下で心配そうに備えていたが今ではすっかり感心していた。
 見事ライオリンを乗りこなすスウェル。そのそばでは岬 蓮(みさき・れん)がライオリンを見て目を輝かせていた。
「これが街で噂のキメラなのね! すっごーい、私こんなおっきなキメラ間近で見るの初めて!」
 蓮は、生まれて初めて目にするライオリンにすっかり心を奪われていた。そんな蓮の視界に、ライオリンfeat.スウェルが映る。すると蓮はより一層瞳をキラキラさせる。
「えっ、えーっ!? あの子キメラに乗ってる! 乗っちゃってるよ! すごーい!! そうだ、こんな珍しいシーンに遭遇出来たんだし、せっかくだから観察してレポート書こう!」
「ガオ……」
 また変な子が現れた、とでも言わんばかりのライオリンなどどこ吹く風で、蓮はいそいそとレポート用紙を取り出しペンで観察日記のごとくライオリンの様子を記し始めた。
「鳴き声は主にガオ、背中に人を乗せると大人しくなる……っと。うわあ、興味深い生き物だねー! もっと何か見れないかなあ?」
 ペンを走らせながら蓮がパートナーのアイン・ディアフレッド(あいん・でぃあふれっど)を見上げる。が、当のアインはそんな蓮をいさめる気満々だった。
「アホか! こんな状況で何のん気に観察してんだアホ!」
「えー、ちょっとアイン、アホアホ言い過ぎだよー? せっかく夏の自由研究にぴったりなテーマ見つけたのに」
「だから何も今それをやらんでもいいやろ! アホ!」
「あー、またアホって言った! いいもん! 私ひとりで観察続けちゃうから!」
 ぷい、とアインに背中を向けライオリンに近付く蓮。
「おい、あんま近付きすぎると……」
 アインが言い終える前に、蓮の前にいたライオリンがゆっくりと首を下げる。そしてその口を開くと、中から熱気が漂ってきた。
 炎だ。
 キメラの口から吐かれるであろうものを予測したアインは、咄嗟に蓮の前に氷術で壁をつくる。
「ガオッ」
 そこから発せられた冷気がもろに顔にかかり、ライオリンは眉間にシワを寄せながら首を引っ込めた。「冷たっ」といったところだろうか。
「わあっ、寒いのに弱いのかなー? なるほど、メモメモ、っと!」
「……蓮、頼むからどっか避難しといてくれ」
「あっ、そうだせっかくだからさっきのキメラに乗ってる子をもっと観察しよ!」
 アインの忠告など耳に入らない様子で、蓮はスウェルの乗るライオリンの方へと駆け出した。
「ふさふさ。毛、ふさふさ」
 もう完全に背中から離れる気がないスウェルは、ライオリンの背中の感触にすっかり夢中だ。それを見て蓮は一生懸命レポートを書く。その近くでは、ショウがどうにか背中に登ったスウェルのパンツがのぞけないか奮闘している。
「へー、なるほどなるほど、背中の毛はふっさふさ、っと。よーっし、このまま生態を解き明かして、ノーベルライオリン賞とっちゃうよー!」
「あっ、くそっ、もうちょっと角度が良ければ見えるはず、見えるはずなんだ……!」
「……」
 ライオリンに乗るスウェル。それをのぞこうとしているショウ。さらにそれらを観察している蓮。アインは彼らを見てなんだか切なくなってきた。
「アホばっかや……」
 はあ、と溜め息を吐くアイン。と、彼の目がライオリンに向かっていくいくつかの影を捉えた。刀を持ち和服を着た結城 雅紹(ゆうき・まさつぐ)とパートナーの結城 幸子(ゆうき・さちこ)、そして彼らと同じ葦原の生徒である東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)とパートナーの要・ハーヴェンス(かなめ・はーべんす)である。

 彼らがライオリンに向けている眼差しは真剣そのもので、きちんと真面目に戦おうという意思が感じられた。
「よかった、ちゃんとしたヤツも……」
 言いかけて、言葉が止まった。到底届きそうにないライオリンの顔に向かって、一生懸命面打ちを当てようとしている雅紹の姿が映ったからだった。
「くっ……拙者は面打ちひとつ当てることが出来ぬのか……! しかし諦めぬぞ! ここで我々が頑張らねば、先を行った者たちが後ろを取られてしまう!」
「雅紹様、SPリチャージでございます。これで今度こそ面打ちを!」
「かたじけない! せめて一発、一発でも面打ちを……!」
 どうやら雅紹は、何が何でも面打ちを当てたいようだ。というより、彼の持つ技がそれしかなかったとも言える。そして言うまでもなく、首の長いライオリンとその技の相性は最悪であった。しかし几帳面で生真面目な彼は、一心不乱に面打ちを当てようと何度も飛び跳ねては失敗を繰り返している。
「雅紹様、もう少しでございます。信じればその一振りが道となるでしょう」
「拙者はやはりまだ弱いのか……! 悔しい、自分の無力がこれほど歯痒く感じたことはない……!」
 刀をぎゅっと握り締め、ぶるぶると震わせる雅紹。その時彼は閃いた。
「そうだ、小さな力も結集すれば大きな力となる……拙者と同じように己の非力さを嘆いている者がいれば、共に力を合わせて面打ちが出来るかもしれぬ!」
「……さっきから面打ち面打ち言ってるけど、たぶん別な攻撃した方いいと思うよ私」
 横で雅紹の独り言を聞いていた秋日子が呆れ気味に言う。と、要が秋日子の持っているスナイパーライフルを見て助言した。
「その銃で、援護射撃してあげれば良いのでは?」
「あっ、そうだね! でもなんかあのキメラ、なんとなく撃ちづらいなあ……あんまり危害加えてこないし、よく見たら顔も微妙に愛くるしいし」
「確かに。何より、援護と言っても……」
 要が周りを見渡す。現時点でまともにライオリンとやり合っている生徒は、ほぼいないに等しかった。
「私、足手まといを承知でここに来たつもりだったけど、杞憂だったのかも」
 苦笑いを浮かべ、秋日子が行った。微妙にテンションの下がった彼女が銃をすっと下ろしかけたその時。生徒たちが消えていった出口――つまり第二階層への道とは別方向から足音が聞こえた。それも、ひとり分ではない。秋日子はバッと振り返る。そこには階上からやって来たと思われる、ティセラ側の戦士吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が立っていた。後ろには彼のパートナーヴォルフガング・モーツァルト(う゛ぉるふがんぐ・もーつぁると)が、そして彼らの周囲には豚とトロールの混成獣であろうキメラ、ブタトロール数匹が不快な鳴き声を響かせて並んでいた。
「よォ、随分な数で攻め込んでくれたみてぇじゃねぇか。たかだか女のひとりやふたり相手にご苦労なこったな、ええ? 仕方ねぇから、このイケメン竜司様が助太刀してやるぜェ、グヘヘ」
 血煙爪の音を立てながら、竜司は不敵な笑みを浮かべ生徒たちとの距離を詰めていく。ちなみに彼は言うほどイケメンではない。
「挟まれちゃったね……これはちょーっとまずい、かな?」
 秋日子の頬に、汗が浮かんだ。階上から来た、ということは先ほど生徒たちが来た道から現れたということに他ならず、結果として生徒たちの背後から現れることとなった竜司たちはライオリンと挟撃する形となっていた。
「大丈夫です秋日子くん。自分のバニッシュを使えば切り抜けることは……っ!?」
要は最後まで言い切ることが出来なかった。竜司がマイクを使い怒りと恐れの歌を歌ったことにより、強大な不協和音が部屋中に響いたからだ。
「こっ、これは……!」
「ガ、ガオッ……!」
 そう、彼はとてつもない音痴だった。ライオリンも耳を塞ぎうめくほどである。そんな中、パートナーのヴォルフガングだけがうっとりと目閉じ陶酔していた。
「相変わらずキミの歌は素晴らしい……! これでこそ僕の曲、『俺の尻を舐めろ』も演奏しがいがあるというものだよ」
 端正な顔立ちと紳士的な言葉遣いからあまりにもかけ離れた曲名だが、それは紛れもなく実際に彼がつくった曲の名前であった。が、そんなこと知らない生徒たちは耳を塞ぎながらも目を丸くし驚愕した。
 何そのタイトルセンス、と。
 駄目押しと言わんばかりに、ブタトロールも下品な声をあげ突進してくる。まともに戦おうとしていた数少ない生徒たちが迎撃に当たろうとするが、竜司の声とヴォルフガングの演奏が色んな意味でひどすぎてまるで集中出来ていない。もう駄目かと思われたその時、ひょっこりと矢面に立ったのは青 野武(せい・やぶ)だった。
「ようやく我輩の出番だな。下がっていたまえ」
 野武は傲慢とも思える態度で他の生徒たちを下がらせると、パートナーの青 ノニ・十八号(せい・のにじゅうはちごう)を呼び寄せた。
「十八号! 準備は出来ているだろう?」
「はい、お父さん。ばっちりです」
 ガシャンと音を立て、十八号が構えたのは六連ミサイルポッドだった。横では野武がパワードレーザーの銃口をブタトロールたちへと向けている。そして、それをすぐさま発射した。光線がブタトロールの脇をかすめ、床を焦げ付かせる。
「舐めたマネしてくれるじゃねぇか。突撃だてめえら!」
 竜司、そしてヴォルフガングとブタトロールたちが真っ直ぐ野武のところに直進を始めた次の瞬間、野武が合図を送る。
「よし、今だ、発射!」
「了解ですよ」
 十八号が、すぐさまミサイルを連続で発射した。その標的は、突進してきた彼らの真正面にある床だった。
「うおっ!?」
 慌てて突進を止めた竜司たちだったが、弾はもう床面に接触する寸前であった。
鈍い光が広がり、さっきまでの不協和音を上塗りするような轟音が辺りを埋める。その爆音に紛れ、ピキ、と何かにひびが入ったような音が聞こえた。否、ような、ではない。実際に床に亀裂が走っていたのだ。このフロアは元々老朽化が進んでいた上に、ライオリンという重量級のキメラがいたこと、そしてそこに生徒たちや新たなキメラが現れたこと、ミサイルが撃ち込まれたことが重なった結果だった。亀裂は瞬く間に広がり、地響きが鳴る中そこに混じって野武の笑い声がこだました。
「ぬぉわははは! 道がなくなったならば、こうやってつくれば良いのだ!!」
 床が、崩れだす。