空京

校長室

【十二星華SP】決戦! マ・メール・ロア!!

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【十二星華SP】決戦! マ・メール・ロア!!
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リアクション


chapter3.マ・メール・ロア迫る



「忘れてた! 私高いところ駄目だったんだわー!」
 綾乃の他、ここにも一人、高所恐怖症の者がいた。関谷 未憂(せきや・みゆう)だ。
「思い出すの遅すぎだよ!」
 そう言うパートナーのリン・リーファ(りん・りーふぁ)も、今の今までの未憂の弱点に気付いていなかった。
「く、でもここで引き下がるわけには……」
「頑張れ未憂!」
 負けず嫌いの未憂は、箒にしがみつきながらなんとか恐怖を乗り越えようとする。そこにフリューネと風天白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)が通りかかった。
「どうしたの?」
 フリューネは、不思議総な目で未憂を見つめる。リンが事情を説明すると、フリューネは未憂の指を握った。
「それならいい方法があるわ。痛みで恐怖を意識の外に追いやるのよ」
 未憂は何をされるのかと身構えたが、惨事が起こる前に、風天が止めに入った。
「……やめてください。仲間を戦闘不能にしてどうするんですか」
 フリューネに変わって、風天が未憂を説得し始めた。
「これほどの高さにいれば、誰だって恐くて当然です。あまり意識しすぎない方がいいですよ」
「風天の言う通りだな。それに、敵の本拠地はすぐそこだぞ。最後までおぬしの役割を果たすのだ」
 セレンも話に加わる。説得の上手な二人のおかげで、未憂は少しずつ恐怖心を克服していった。
「そう……ですよね」
 未憂は拳を握りしめ、体の震えを押さえ込んだ。
「大丈夫そう? それじゃあ私は先に行くわよ」
「健闘を祈ります」
「置き土産だ」
 フリューネたちは更に前線へと進んでいく。セレナは、去り際に転経杖を回転させ、未憂たちの魔力を増幅させた。
「ありがとうございます。――もう平気。やろう、リン」
「うん、それでこそ未憂だよ」
 未憂は気を取り直し、キメラたちを見据える。
「殺さずに済むのであれば、捕獲してイルミンスールの鳥獣研究所で保護したかったんだけど……そんなこと言ってられないくらい数が多いみたいね」
 未憂は覚悟を決めると、魔力が増大している状態から更にギャザリングヘクスを唱え、キメラたちに強烈なサンダーブラストを放った。
「いっぱい巻きこめー」
 リンもキメラたちの翼を狙い、同様にサンダーブラストを放つ。次々と力なく落ちてゆくキメラたちから、未憂は思わず目をそらした。
「キメラってどうやって造るんだろうねぇ。それに、造ってる場所ってどこだろう。やっぱあそこ?」
 リンは無邪気に言い、間近に迫った巨大要塞、マ・メール・ロアを眺める。
「だとしたら、あそこにはまだいっぱいキメラがいたりするのかな? 気になるね」
 もしリンの言う通りだとしたら……。未憂の頭の中を、様々な思いが駆けめげる。
「ううん、今はそんなことを考えてる場合じゃないわ」
 未憂は頭を振って雑念を消し去ると、キメラと戦うことに専念した。

「大分近づいてきたな」
 も、マ・メール・ロアを見て言った。最前線付近にはフリューネの姿が見える。
「盾艦のルミナスヴァルキリーは、敵の最優先目標となるはずだ。攻撃はこれから更に激化すると予想される。あと一息、気を引き締めていくぞ」
「任せてくださいよ。私と司君の最強タッグで、連勝街道を突き進みましょう」
 両手にイーグルフェイクを装備した三毛猫獣人のサクラコは、小型飛空艇の上で軽快にシャドーボクシングをして見せる。
 二人は、予め艦の陰に隠れた司が甲板へ着陸しようとするキメラをギリギリで迎え撃ち、サクラコがキメラを挟み撃ちにするという作戦をとっていた。
「次が来たようだ。いくぞ」
 超感覚で黒狼の耳やしっぽを発現させた司は、新たな目標を定めて戦場に飛び出す。サクラコも意気揚々と後に続いた。
「前門の猫、後門の狼、ってーとこでしょーかねっ!」
 挟撃されたキメラが混乱しているところに、サクラコが実力行使で勝負を決めようとする。が、敵が蛇型キメラであると分かった途端、ぴたりとその動きを止めた。
「……へ、蛇?」
 サクラコは両腕を突き出して後退りする。体重計と爬虫類――特に蛇――は彼女の天敵なのだ。
「あわわわわ」
「サクラコ! ……仕方ない」
 蛇に睨まれた蛙ならぬ蛇に睨まれた猫状態のサクラコを見て、司は適者生存のスキルでキメラを威圧した。司は、萎縮したキメラに攻撃を加えようとする。そのとき、対空砲撃がキメラを直撃した。
「今のは?」
 ビーム砲の飛んできた方角を確認して、司は理解する。砲撃は、ポーラスターではなく、マ・メール・ロアによって行われたものだった。マ・メール・ロアからは引き続き無数のビームが発射されている。
「ここまで接近されて、見境なく砲撃してくるようになったか。キメラを撃たせるように立ち回れば、自滅を狙えるかもしれんな」
「それはいい考えですね」
 司のつぶやきを聞いて言ったのは、リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)だ。
「グロリア、援護をお願いします」
「分かったわ」
 リュースとパートナーのグロリア・リヒト(ぐろりあ・りひと)は、小型飛空艇でキメラの周囲を旋回する。リュースは探知系のスキルを総動員し、死角に注意を払った。グロリアはキメラに囲まれないよう警戒しつつ、轟雷閃や爆炎波でリュースの攻撃範囲までキメラを追い込んだ。
「今よ!」
 タイミングを見計らっていたグロリアが、ライトブレードを掲げてリュースに合図を出す。
「はっ」
 リュースは鬼眼を使い、キメラたちを怯ませた。一列になったキメラたちは、マ・メール・ロアの砲撃によって一掃された。
「成功ですね」
「この調子でいこう」
「あなたたちも一緒にお願いできますか」
 リュースたちは司たちと協力し、キメラ撃退に大きく貢献した。

 御凪 真人(みなぎ・まこと)はルミナスヴァルキリーの下方で戦闘を繰り広げていた。いくらルミナスヴァルキリーが堅牢といえども、死角となる下方を集中攻撃されてはまずいと考えてのことだ。
 真人はフィアストームを展開し、面単位でキメラを攻撃していく。残った敵は――
「悪いけど、手加減する余裕なんてないわよ!」
 セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が、翼を狙った直接攻撃で倒していくという寸法だ。
 この場所には、五十嵐 理沙(いがらし・りさ)セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)の姿もあった。
「お互いの協力が大事ですからね」
 セレスティアは無理に深追いをせず、遠距離からの攻撃でキメラの注意を逸らし、セルファや理沙のサポートをしている。
「落とせば死んだと同じことよ!」
 一方、『攻撃は最大の防御』が信条の理沙は、キメラの翼に次々と斬りつけていた。
 こうしている間にも、ルミナスヴァルキリーはマ・メール・ロアとの距離を縮めていく。
「ある程度突破の目処が立ったようですね」
 やがて真人は、船を先に進ませ、今度は後方から追撃してくる敵の足止めと妨害を行おうと考えた。仲間に移動しようと言おうとしたところ、ちょうどティキ・ティキ(てぃき・てぃき)の声が聞こえてきた。
「これ貴様、こっちが手薄じゃ! 加勢するのじゃ!」
 ティキに呼ばれ、真人たちが彼女のもとに駆けつける。そこでは、高里 翼(たかさと・つばさ)が一匹のキメラと戦っていた。
「このキメラ、ずるいです!」
 一体今まで、どれだけのキメラが羽を攻撃されてむなしく散っていったことだろうか。そう、賢明な生徒たちは気がついてしまったのだ。飛行型キメラは、その飛行能力さえ奪ってしまえば恐くないことに。
 翼もその賢明な生徒の一人だった。しかし、人生そんなに甘くない。翼が相手をしているキメラは、他のキメラとはひと味違った。
 翼が戦っているのはカメ型キメラ。翼が大鎌で羽を斬ろうとすると……羽を甲羅の中へと器用にひっこめてしまうのだ。強固な甲羅に守られ、キメラはダメージを受けない。
「どうすればいいんですか」
 手間取る翼に、真人は何かを思いついて言った。
「もう一度、さっきと同じように攻撃してみてください」
「同じようにですか? 無駄だと思いますけど……」
 翼が大鎌を振りかぶる。キメラはやはり羽を甲羅に隠した。
「今です」
 真人はこのチャンスを見逃さず、配布されたフリューネコスチュームをキメラにかぶせた。衣装に圧迫されて、羽が出せない。キメラはなんとも恥ずかしい格好で雲海へと消えた。
 あのアイテムにこんな使い方があるとは。一同は、真人の判断に感心した。

 仲間のサポートのおかげで、フリューネたちはマ・メール・ロアに手の届きそうなところまでたどり着いていた。
「我が友の敵は我が眼前を死地と心得よっ!」
 野分を携えた風天は、受太刀でフリューネをキメラの攻撃から守り、抜刀術で攻撃に転ずる。
「おーおー、風天のやつ張り切っているじゃないか。友のために、か。悪くないぞ。私ももう一暴れしよう」
 セレナはファイアストームでキメラを丸焼きしにかかっていた。
「ありがとう、助かるわ」
 そう言うフリューネの顔にも、疲労の色が見える。そこに、ティキがやってきた。
「そろそろ突撃に備えた方がよいのではないか?」
「そうね、引き返しましょう」
 フリューネたちはルミナスヴァルキリーへと戻る準備をする。セレスティアも、生徒たちに退避するよう伝えて回った。
「お?」
 引き返す直前、セレナはエーファが対空砲をブライトクロスボウで破壊しているのを見た。
「対空砲には、それほどの強度はないようだな」
 セレナはまたまた置き土産に、サンダーブラストで対空砲を破壊しておいた。

「我らは前座に過ぎぬからな。主役が余計なことを考えずに済むようにしてやるのも、我らの役目じゃろうよ」
 フリューネたちに退避を促したティキは、空に残っていた。生徒たちがマ・メール・ロアに突入する際、ルミナスヴァルキリーを守るつもりだ。
「皆様が還る場所をお護りするのが、メイドの役目というものです」
 隣で翼も気合いを入れる。
 ティキたちの前方では、真人たちが最後の足止めを行っていた。
「ここは任せてください。後は頼みましたよ」
 真人はルミナスヴァルキリーを振り返って言う。
「みんな、存分に暴れてきてね?」
 珂慧は最後まで表情を変えず、
「全員無事に帰ってこなきゃひどいわよ!」
 セルファはそう声を響かせた。
 仲間たちに見送られ、ルミナスヴァルキリーはいよいよ突撃の時を迎えようとしていた。