空京

校長室

【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション

リアクション公開中!

【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション
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リアクション

 
 さて、ビーチバレーは何も十二星華や五精霊に挑むだけではない。
 時には生徒たちも、交流のため、あるいは頂点を目指すため、戦いの場に足を踏み入れていた。

「さゆみ!」
 飛んできたボールが、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の生じさせた電撃の力で弾かれ、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)の上空にチャンスボールとして舞い上がる。
「全力で行くわよ!」
 爆炎と共に放たれたボールが、火の玉と化しながら相手のコートを襲う。
「強力な攻撃……だけど、来ると分かっていれば、対策のしようもある!」
 予め落下地点に控えていたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、さゆみの必殺アタックをかろうじて弾き返す。
「クセは読ませてもらったわ! これで決めるわよ!」
 それまで適当にやり過ごしていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の目がキュピーン、と光り、ジャンプからのアタックを見舞う。
(このアタックは外れる……術にも限りがあるし、ここは――)
「アデリーヌ!」
 一瞬の判断の遅れが、それぞれのペアの明暗を分けた。セレンフィリティの放ったアタックはラインギリギリ手前に落ち、最後のポイントをもたらしたのであった。
「ま、負けたわ……」
 力尽き、砂浜に膝をつくさゆみ、そこへセレンフィリティの手が伸びる。
「いい戦いだったわ。一歩間違えれば、あたしたちが負けていたかもしれない」
「……ありがとう。そう言ってくれて嬉しいわ」
 さゆみが手を取り、お互いが戦いぶりをたたえ合う。
「面白そうなことやってるじゃないの! あたしたちも混ぜなさいよ!」
 そこへ、氷見 雅(ひみ・みやび)タンタン・カスタネット(たんたん・かすたねっと)のペアが新たに勝負を申し込み、先程の勝負の勝者、セレンフィリティ・セレアナペアとの勝負が開始される。
「タンタン、行くわよ!」
「はいなのです。機晶姫にとって砂浜と潮風は脅威なのです。だからササッと終わらせるのです」
 言うが早いか、タンタンが相手のアタックに対して自らをパーツ単位でバラバラに分解し、それぞれがボールにぶつかって威力を弱める。
「いっけー、タンタンヘッドアタック!」
 トスを上げた雅の号令に従うように、タンタンの首からブースターが点火、ボールと共に相手のコートを襲う。
「くっ、何だ……このような攻撃、予測がつかない!?」
 相手のアタックに備えたセレアナが、予測外の事態に戸惑ったそれが、勝負の明暗を分けた。セレアナのガードをすり抜け、タンタンに押されたボールが砂浜を打つ。
「いよっしゃー、あたしたちの勝利ねっ! さあ、これで落書きしてあげるから覚悟しなさい!」
 言って雅が、水性ペンでセレンフィリティとセレアナの顔に西瓜模様を描き込む。趣味がタンタンの塗装とあってなかなか……とはお世辞にも言いがたい出来映えに、しかし雅は満足そうにペンを置く。
「さあ、次の挑戦者は誰かしら!?」
 まだまだ描き足りないといった様子の雅の前に、六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)イヒレーベ・ウィーレ(いひれーべ・うぃーれ)の急造ペアが勝負を挑む。
「ふふ……逆に恥ずかしい目に合わせてあげますよ」
「ヴェントは結局どっか行っちゃったし、こうなったらどんなボールでも食らいついてみせるわよ!」

「ふわぁ……ま、参加するのもアリっちゃアリだけど、眠いしねぇ……
 日光浴しながら寝不足解消といきますか……」
「……く、頭が痛くならないのをいいことに食っていたら、このザマか……!
 日に当たっていれば少しはよくなるだろうか……」
 雅・タンタンペアと鼎・イヒレーベペアの試合が行われているその場所より少し離れた所で、やっぱり面倒で抜け出してきたヴェント・デラモルテ(う゛ぇんと・だらもるて)が日光浴と称してうたた寝を始め、海の家でかき氷全種コンプリートを目指していたハロルド・メルヴィル(はろるど・めるう゛ぃる)が、9種類食べ切った所でお腹の不調を訴え、砂浜に仰向けに倒れこむように寝そべっていた。
 ちなみに試合の方は、鼎の必殺アタック『ミラージュスナイプ』とタンタンのパーツとの激しいぶつかり合いの末、弾数で優った鼎・イヒレーベペアの勝利となり、雅とタンタンはとても恥ずかしい落書きを施されたのであった。

(みんな凄いなー、どうしてあんなアタックとかブロックとか出来るんだろ……)
 そこかしこで繰り広げられるハチャメチャな試合を目の当たりにしながら、西野 百合子(にしの・ゆりこ)が飛んできたボールを打ち返す。
「今だシャッターチャンス! ……はぁ、百合子かわいいな〜」
 その瞬間を、少し離れたところで見物していた水嶋 一樹(みずしま・かずき)がカメラに収め、ディスプレイに映し出される横顔にうっとりとしていた。
(おにーちゃん写真撮ってる。気のせいかな、さっきからあたしばっかり写してる気が――)
 物思いに耽っていた百合子がはたと現実に返ると、自分の横をボールがすり抜けて砂浜を打ち、相手チームの勝利が確定したのであった。

「……な、なあ、俺今非常にヤバい雰囲気を感じてるんだが、気のせいだよな?」
「も、もちろんそうに決まってるだろ、この俺様がこんな所でやられてたまるかよ」
 コートの中で、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)新堂 祐司(しんどう・ゆうじ)が表情をこわばらせて呟くその向こうでは、エメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)に防御用のケープの調整を施してもらったティセラが、いっそ神々しいまでの姿を晒していた。
「できましたー。おつむは弱いですけどこういうのは得意なんですよー」
「ありがとう、エメネア。……申し訳ありませんが、とある方のたっての願いでもありますので……全力で行かせていただきますわ」
 微笑んだティセラがケープの力を解放すると、そこから四条の光が上空へと飛び出していった――。

「ね、ねえ、しーちゃん大丈夫かな? なんか凄いことになってるんだけど……」
「大丈夫です。あなたのパートナーは狙わないようにと頼んでおきました。……巻き添えを食らう可能性は否定できませんが」
 心配そうな表情を浮かべる東峰院 香奈(とうほういん・かな)に、岩沢 美月(いわさわ・みつき)が答える。快楽主義者であるがゆえに真っ当な行動を取らない祐司に対して殺意が湧きかけていたところへ、祐司がペアを組んでティセラとエメネアとビーチバレー勝負をするというのを聞き及び、二人に『パートナーを更生させたいんです。力を貸してくれませんか?』と頼んだのは、彼女であった。
(吹っ飛んでしまえばいいのです。姉さんや妹のためにも……)
 美月がそう願ったことで現実になったのかどうかは定かではないが、圧倒的な光の放射の直撃を受けて、祐司と忍は本日4つ目の昼間の星となったのであった。
「こ、この俺様がぁぁぁーっ!!」
「お、俺はただティセラとエメネアと友達になりたかっただけなのにーっ!」
 キラリ、と瞬いた二人を追って香奈がその場を後にし、美月が無表情ながら何か満たされたような顔を浮かべていた。
「ティセラさん、今の試合、見事でした! これ、僕たちが海の家で作ってるんですけど、いかがですか!?」
「あら、ありがとうございます。……『あおふろ』というのですね。ええ、では皆さんを誘ってお伺いしてみますわ」
 そして、勝負を終えたティセラの所へは、『あおふろ』の客寄せ班としてビーチバレー会場に足を運んでいた輝燐宮 文貴(きりんぐう・あやき)が飲み物を出しつつ、ちゃっかり『あおふろ』の宣伝を行っていた。
「あら〜、この子カワイイわね〜」
「ホント、かわいいわ〜」
「や、ヤメろテメェら、いい加減にしねぇと……ってうぉぉぉわっ!?」
 その横では、エメネアとよくバーゲンの時に一緒になるらしい、ビーチバレーでも大活躍なオバハン集団に囲まれて、羌 蚩尤(きょう・しゆう)がいいようにされていた。

 騎馬戦、もしくはビーチバレーでの激闘を終えた者たちは、涼を求め、あるいは空腹を満たすために、海の家へと向かっていくのであった――。