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リアクション
●海の家『あおふろ』、大賑わい中!
海といえばなくてはならないのが、海の家。
その海の家、『あおふろ』と描かれた看板が提げられたそこは、『あおふろ』を盛り上げようと働く者と訪れる者とでごった返していた。
「海の家あおふろ! 冷たい飲み物、美味しい食べ物、デザートありますよ〜!」
ワンピース水着にストローハット――『あおふろ』の宣伝が描かれていた――を被ったリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が、『あおふろ』を通りかかる生徒たちを呼び込むべく客寄せとして振る舞う。
(……ふむ、リリシアにあまり無理をさせてもよくないな、ここで休んでいくか)「リリシア、寄っていくぞ」
「はい、ヴァイスハルト様」(……ヴァイスハルト様、ワタシの水着、喜んでくださっているでしょうか?)
通りかかったヴァイスハルト・シュバルツシルト(う゛ぁいすはると・しゅばるつしると)がリリシア・フィルノート(りりしあ・ふぃるのーと)を連れて『あおふろ』へと足を踏み入れる。他、数人の生徒が入っていくように、超感覚の効果で生まれた長い尻尾、そして本人の容姿も手伝って、リアトリスはなかなかの注目を浴びていた。
が、それをさらに上回る注目を浴びていたのは、隣でモンキーダンスを披露するスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)であった。ニホンオオカミがモンキーダンスを踊るという組み合わせは誰も想像が付かなかった所に、本人が自信があると言っていただけのことはあるダンスのハマりっぷりが噛み合い、たちまち人だかりが出来ていた。
「ワン! ワンワン!」(ふっ、上々のようだな。恥ずかしくもあるが、『あおふろ』の成功を思えば……!)
気を良くしたスプリングロンドのダンス、そしてリアトリスの客寄せは、大きな効果を生み出しているようであった。
「そこのカッコいいお兄さ〜ん? この近くにいい海の家があるんだけど、どう?」
「そうですか、ではラヴィーナと行ってみようと思います」
「早く行こうよ、ボクもう倒れそうだよー」
声をかけられた御空 天泣(みそら・てんきゅう)が、暑さでまいりかけているラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち)を連れて『あおふろ』へ向かっていく。
「そこの可愛らしいお嬢さ〜ん、その綺麗な肌が焼けちゃう前に、海の家で休んでかない?」
「あら、でしたらわたくしは是非とも後ろのお兄さんに案内していただきたいですわ。いい事もして差し上げますわよ、代わりに血を頂きますけれど――」
「早速変な真似してんじゃないよ! ……あはは、ごめんねー、お詫びと言っちゃなんだけど、後で顔出してみるよ」
流れで血を吸おうと試みたエレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)を蜂の巣にして、葉月 エリィ(はづき・えりぃ)がパートナーを引きずりながら『あおふろ』へ向かっていく。
浜辺で思い思いの時間を過ごす生徒へ、天宮 春日(あまみや・かすが)が男と女とで見事に色目を使い分けながら客寄せを行っていた。
「ええ、あちらになります。ご来店お待ちしています」
その後ろを、『あおふろ』の場所が描かれた看板を持った空野 功(そらの・いさお)が付いていく。最初は春日の色目を使うのを黙認していた功だが、段々と春日の客寄せがエスカレートし始め、軽いボディタッチまで行うようになった所で、おもむろに春日に近付いていってその頭を叩く。
「春日いいかげんにしろ! やり過ぎはお客に迷惑だろ」
「痛った〜い! もう、叩かなくたっていいじゃん、ちゃんと客寄せしてるんだからさぁ」
反論する春日だが、険しい表情を崩さない功に折れて、自粛――あくまで本人はそう思っている――する。
(俺以外に色目を使うのが気に入らないんだがな……)
そんな功の心を知ってか知らずか、春日の計算された色目はなおも振りまかれていく。
「冷たいアイスや飲み物はいかがですかー?」
「ビーチボール観戦のお供に、飲み物などいかがでしょうか?」
白熱するビーチボール会場の傍で、五月葉 終夏(さつきば・おりが)と、パートナーのニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)がクーラーボックスを担いでジュースを売り歩いている。
「おーい! こっちに、コーラ一本売ってくれぇ!」
「はい。かしこまりました、ありがとうございます」
ビーチボールを観戦していた生徒から声が上がると、ニコラは見事な接客スマイルを見せた。
「フラメル。さっき氷術かけたばっかりだから、私のクーラーのが冷えてるよ?」
「なるほど。ならば終夏、コーラを一本たのむ」
「はい、どうぞ」
終夏は自分のクーラーボックスからキンキンに冷えたコーラを取り出しニコラに渡す。そして、彼は生徒にコーラを売ってきたのだった。
「ふっ。この私がいれば売り上げナンバー1は決まったというものだな!」
「でも、どんなに売り上げがよくても、私たちが売った物がゴミとして散らかってたら意味がないからね」
「人がいる、食べ物がある、という事はゴミも出て当然だ。ゴミの回収もやってこその商売なのだよ!」
二人はクーラーボックスと一緒にゴミ袋も持ってきていた。清掃面もこれでバッチリだ。
「それじゃ、これからもドンドン売っちゃお!」
「ゴミの方もドンドン拾っていくぞ!」
この後、二人のおかげで海は来たとき以上に綺麗になり、ビーチの管理者から感謝されたのだった。
「いらっしゃいませこんにちはー。海で遊んで小腹が減ってはいませんかー?
海の家あおふろではさまざまなメニューを取り揃えておりますよー!」
高峰 結和(たかみね・ゆうわ)も『あおふろ』の客寄せ班として、メニューの一部を詰めたカバンを提げながら砂浜を練り歩いていた。
「すみません、アイス2ついただけますか?」
姿を認めたシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)に頷いて、結和が後ろを看板とクーラーボックスを抱えて付いてきていたエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)にアイスを2つ取り出すように指示する。
「ありがとうございます。……あの、暑くないですか?」
シフの疑問はもっともで、エメリヤンは見るからに暑そうなマフラーを――本人はまったく暑くない――身に付けていた。
「シフー! どこ行ったのー!?」
波打ち際で遊んでいたミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)に呼ばれて、シフが一礼してその場を後にする。
「アイスの売れ行き好調だねぇ。こんなに暑いもんねー」
焦がすような陽射しを目を細めて見上げ呟く結和、その売上にエメリヤンの容姿が貢献していたことは気付く様子はなかった。
『あおふろ』に次々と寄せられる注文に対して、調理班として働く者たちはそれぞれの得意分野を生かした料理を振る舞っていた。
「ようエメニャー、どうよおつむの調子は。暑さで中身が溶けたりしてねぇよな?」
「失礼しちゃいますねー、もう溶けるものなんてありませんよー」
バンダナに腕まくりTシャツ姿がよく似合う東條 カガチ(とうじょう・かがち)が、様子を見に来たエメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)に挨拶代わりのからかいの手を入れれば、エメネアはもはや開き直った感のある返しで応える。
「焼きそばに焼き鳥……あれぇ? このお肉はなんですかぁ?」
「あーそれか……ま、海には神秘がいっぱいだよなあ」
カガチの清々しいまでのいい笑顔に、エメネアが? と首をかしげる。
「食の祭典、大食い選手権inパラミタへ皆さんようこそ!
これよりルールの説明を始めたいと思います」
そこへ、『パラミタ大食い選手権』主催を務める天司 御空(あまつかさ・みそら)の声が響く。
「おっ、もうじき始まるか。稼ぎ時ってヤツだねぇ。なぎさん、そっちはどうよ?」
「頑張ってるよー! でも、なかなか硬くて……きゃあ!」
柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)の手から野菜が離脱を図り、それはエメネアの頭を直撃してカガチの手元に収まる。
「あうー、また中身が減りますぅ」
「もう残ってないなら変わりねぇさ。なぎさん、大食い競争の皆さんに料理を運んでやってくれい」
「あっ、うん、任せといて!」
エプロンをぱたぱたとなびかせながら、なぎこが調理班の作った料理を大食い選手権の面々や『あおふろ』を訪れた生徒たちへ運んでいく。
「では早速、用意はいいかな? レディー、ゴー!!」
ルールを説明し終えた御空の号令で、早速1皿目の料理が皆に振舞われる。最初だからなのか、その量はどれも妙に少ない。
「皆さん……もぐ、残さぬよう無理せぬよう食べてください……もぐ」
御空の隣にいた白滝 奏音(しらたき・かのん)が、時折口をもぐもぐとさせながら参加者を労う。
「奏音さん……つまみ食いは控えましょう」
「違います、これは誤解です。これはそう……スタッフとしてのお仕事です」
窘められつつも、隙あらばとばかりに手をそわそわさせる奏音に御空がため息をついた所で、料理を食べ終えた参加者が次の料理を注文し始める。
「俺はカレーを注文だ!」
「あたいは焼きそばを注文するよ」
大岡 永谷(おおおか・とと)と熊猫 福(くまねこ・はっぴー)の注文を受けて、『あおふろ』では楽園探索機 フロンティーガー(らくえんたんさくき・ふろんてぃーがー)と長谷川 真琴(はせがわ・まこと)が調理に取り掛かっていた。
(僕の料理をより多くの人に食べてもらえるチャンス……逃しはしませんよ!)
並々ならぬ意気込みを漂わせながら、フロンティーガーが自作し、『乙王朝名物料理』とまで謳われた『乙カレー』の調理を物凄い勢いで進めていく。キマク産パラミタトウモロコシをふんだんに放り込み、他の料理で余った肉や野菜まで放り込み、仕上げは激辛として煮込んでいく。
「な、なんでわらわも調理班に……? まぁ良い、食材を切るくらいなら出来る! 多分!」
ドロシー・プライムリー(どろしー・ぷらいむりー)の明らかに不慣れと分かる手つきから切り出された野菜や肉も放り込まれ、鍋からは何とも言えない香りが漂い始める。
「皆さん、凄い腕前ですね。私も皆さんの邪魔にならないよう、美味しく食べてもらえる料理を振る舞いたいです」
真琴が、水着の上に羽織ったTシャツとエプロンを汗で濡らしつつ、焼きそばの調理に取り掛かる。イロモノ感漂うフロンティーガーのと違い、こちらはごく正統派の仕上がりになりそうであった。
「真琴、麺と野菜、ここに置いとくよ!」
「うん、ありがとう、クリスチーナさん」
麺と野菜がギッシリ詰まった箱を2つ、真琴の傍に置いたクリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)が、一息ついて肩を回しながら周囲の様子に気を配る。担当は力仕事ながら、ただ闇雲に力を振るっているだけでは円滑に動かない。状況を見定め、的確な仕事をこなしていく必要があった。
(材料は……よし、足りてるな。思ったよりゴミの量が少ないのは……まぁいいか、多けりゃいいってモンでもないしな)
状況を確認したクリスチーナが裏方稼業に専念する中、ついにカレーライスと焼きそばが完成し、大食い選手権参加者を始めとして生徒たちへ振る舞われる。
「ねえ、大丈夫なの? このカレー、とても辛そうに見えるけど……」
「……だ、大丈夫! このくらいで諦めるオレじゃない! 食欲王になる、その時まで……!」
カレーと水を運んできた霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)が心配する横で、激辛カレーを真っ赤な顔で月谷 要(つきたに・かなめ)がかきこんでいく。
(……オレより多く食べそうな奴は……やはりリーズでしょうか。他の選手のことも見極めておかねば、オレが食べる分がなくなってしまいますからね)
一方、焼きそばを頬張りながらリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は、他の選手の動向チェックも怠らない。過去に大食いの実績を持つ彼は、今回の大食い選手権でもどこか余裕のある振る舞いで食を進めていた。
(リュースは食べ物のこととなると見境ないから、私が見ておかないとね。間違って人間食べようとしたり、とにかく危ないのよね)
そのリュースへ料理を運ぶグロリア・リヒト(ぐろりあ・りひと)が、過去に食べ比べ絡みでリュースがしでかした事柄を思い返しつつ、いざという時には自分が止めなければという使命感を抱きながら、勝負の行方を見守っていた。
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