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リアクション
「料理の方はお任せ下さい。腕には少しだけ自信があります」
そう言ってクレイ・フェオリス(くれい・ふぇおりす)は厨房に立つと、手際よく料理を完成させていった。
「ピア、この料理とストレートティーを3番テーブルの方に運んでください」
「……わかった。ピア、料理と紅茶、運ぶ」
パートナーのピアル・アルレイン(ぴある・あるれいん)は、クレイから料理とグラスに入った冷たいストレートティーを受け取ると、指定されたテーブルへと運ぶ。
「料理と紅茶、渡す。言われた。食べて」
接客面には少し難があるようだったが、ピアルは一生懸命クレイの手伝いに励んでいた。
ところが――
「ど、どうしましたピア!? 大丈夫ですか?」
「太陽、眩しい……。ピア、溶けそう……」
吸血鬼にとって、この照りつける日差しの中で活動するのは無理だったようだ。ピアルはいつの間にかグッタリとしていた。
「これだと、しばらく隅で寝ていた方がいいでしょう。氷枕はいりますか?」
「……氷枕、ほしい」
そう言って、ピアルはしばらく休むこととなった。
その後のクレイは、料理とパートナーの心配で大忙しとなったのだった。
「もう……無理です」
御凪 真人(みなぎ・まこと)は、海の家でグッタリと寝込んでいた。
そしてその横では――
「真人もカキ氷食べる? 冷たくて美味しいわよ」
パートナーのセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が、シャクシャクとカキ氷を堪能していた。
実は先ほどまで、セルファが真人を強制的に連れ出して遠泳にでかけていたのだが……当然、普段から本の虫である真人は体力的に無理な話だった。
「食欲なんか有る訳無いじゃないですか……とりあえず、今は休ませてください。日ごろからインドアの俺に、遠泳とか普通に無理ですから」
「な、なによ! せっかく海に来たんだから、泳がないと損でしょ!? まったく……だらしないわね、ホント!」
真人とは対照的に、セルファはまだまだ余裕があるようだ。ガリガリとカキ氷を勢いよく食べていく。
「それにしても、セルファ」
「何よ?」
「さっきから、あきらかに食べすぎですよ。いくら夏を満喫したいからって……後で体重計に乗って悲鳴を上げないでくださいね」
「そそそ、そんなの大丈夫に決まってるでしょ!? 泳いでカロリーを消費してるから大丈夫よ! ……多分。そ、それに夏の前にちゃんとダイエットしたし!」
このあと真人は、カロリー消費のために再びセルファの遠泳に付き合わされてしまった。
だが、これからの世界では大変なことが起きるかもしれない。そう考えると真人は、今日くらいは羽目を外しても良いかと思うのであった。
「料理は任せて! 焼きそばだろうが、カレーだろうが何でも作っちゃうわよー」
そう言って厨房に立った白波 理沙(しらなみ・りさ)は、本当に何でも作っていった。
ところが、パートナーの愛海 華恋(あいかい・かれん)は何か納得がいかない様子だ。
「売って儲けるのも大事だけど、お客様へのサービスってのも大事だよねっ? と、いう訳で、注文してくれたお客様に何かサービス品を出そうよっ!」
そう提案する華恋。それに対し、理沙も案外乗り気のようだった。
「サービス品って……何を作ればいいのかしら? 私に作れる物だったら何でもいいけど」
「えっとー……じゃあ、豚汁なんでどう?」
「え? と、豚汁? 今日はこんなに暑いのに!? まぁ……作れって言うなら作るけどさ」
「大丈夫大丈夫、理沙の料理美味しいもん。きっと暑さに関係なく喜んでもらえるはずっ!」
はずっ! というのが気になるところだが、理沙は調理に取り掛かった。
そして完成した豚汁は――
「ふあ〜暖まる……」
海で泳ぎすぎたり、カキ氷で身体を冷やしすぎた客に評判となったのだった。
「うぅ……流石にもう無理だよ」
そう言って、小林 翔太(こばやし・しょうた)はその場に食い倒れてしまった。
「おや、翔太さん。流石にもう限界ですか?」
パートナーの佐々木 小次郎(ささき・こじろう)は、翔太のために厨房で作ってきた冷やし中華をテーブルに置くと、心配そうに背中をさすってあげた。
「小次郎……この海の家、絶対おかしいよ! どんなに注文しても一分以内に料理が出てくるし、どんだけ食べても食料が尽きないみたいだし……絶対変だよ!」
翔太は、朝からこの海の家で食べに食べまくっていた。彼の計画では、メニューを全制覇した後は、食料庫に忍び込んで食い倒れるまで食べる予定だった。
ところが、普通の店であれば彼の鉄の胃袋を満たせるなんてありえないはずなのに、食料庫に忍び込む前に彼の方が限界を迎えてしまったのだ。
「どうしてあんなに速く、カレーもラーメンも焼きそばもカキ氷も焼きトウモロコシもフランクフルトも豚汁も早く出てくるのさ!? 小次郎、厨房と食料庫はどうなってるの!?」
「いえ、それが……厨房内のことは他言無用と言われておりますので……」
小次郎は、どこか畏怖したような表情になっていた。それがますます海の家の謎を深める。
「うぅ……来年こそ、もっともっと修行してリベンジしてやる!」
意外なところで世界の広さを知った翔太であった。
「ハァハァ……」
泉 望(いずみ・のぞむ)の荒い息遣いが聞こえる。原因は夏の日差しのせいでも、食べているラーメンが熱いせいでもないようだ。
「やっぱり、夏といえば水着の女だよなぁ! まるで天使だぜ!!」
望の視線は、ビーチバレーや水上騎馬戦に白熱する十二星華たちの肢体に注がれていた。
バレーボールを弾くたびに揺れる二つのボールも、乱戦になりもつれ合う乙女達も、全てが夏の日差しに照らされて輝いていた。
「あぁ! 海最高!!」
と、彼が思わず叫んだ瞬間――
「ぐふぁ!?」
高く結い上げた髪を背後から引っ張られた。
振り返ってみると、そこには海の家で手伝いに励んでいたパートナーのバゼラート・クリス(ばぜらーと・くりす)が、普段は見せない不機嫌な顔で立っていた。
「もぅ、女の子ばっかり見てないで少しは手伝ってよぉ」
「え? だって、店員は足りてるんだろ? それなら別に――」
「いいから、手伝ってよぉ!」
望は、髪を引っ張られたまま厨房に放り込まれると、そのままバゼラートの手伝いをさせられてしまったのだった。
「わぁ……色んなお客さんがいて面白いね、愚龍っ!」
厨房から客席を覗く宇佐川 抉子(うさがわ・えぐりこ)は、嬉しそうに声を上げた。
「見てみて、あの人とうとう食い倒れしちゃったみたいだよ? あ、あっちの人は何だか痴話喧嘩してる!」
客席で何か起きるたびに反応する抉子。
一方、パートナーの瞼寺 愚龍(まびでら・ぐりゅう)はというと――
「つーか、オマエ……働けよ!! 何で俺がオマエの分まで働かなくちゃいけねぇんだよ」
客席ウォッチングに忙しい抉子の分まで働いていた。
「で、でも、あたし不器用だからお皿とかすぐ割っちゃうし……」
実際、抉子は朝から十枚ほど皿を割ってしまっていた。
「ったく、めんどくせーなー!」
そう言いつつも、根がまじめな愚龍はテキパキと仕事をこなしていくのだった。
「あ、見て! あのお客さん――」
「あぁ、はいはい。わかったから、ちょっと声のボリューム落とせ! ったく!」
「面白そうだから海に来たけど、ミシェルは本当に泳がないのですか……?」
矢野 佑一(やの・ゆういち)は、ため息と共に横目で自分のパートナーを見た。
「泳ぐとかするつもりないよ? 嫌なんだから仕方ないじゃん」
さっきから、何度も泳ぎに誘っているのにミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)は頑なに拒否している。
「うーん……それじゃあ、海の家で何か食べませんか? お腹も空いてきましたし」
「あ、それは賛成。ボクもちょうどお腹減ってたし、さっきから食べ物のいい匂いがしてるからね」
やっと海らしいことができて、佑一はホッと安堵の息を漏らした。
「それじゃあ、何にしましょうか?」
「そうだね……ボクはおいしそうな見た目の物を選んで食べてみるよ。あ、カキ氷なんかいいね。色がキレイだし」
「じゃあ僕は、奇抜な見た目の料理を試してみます……っと言っても、ここだとイカの丸焼きぐらいしかないですね」
二人は注文をすませると、ほどなくして料理が運ばれてきた。
「う〜ん……見た目は綺麗だけど、味は普通だね。海の家らしいと言えばらしいのかもしれないけど」
「ん? このイカの丸焼き、見た目はグロテスクですけど、案外おいしいですよ?」
料理は見た目ではないということを、意外なところで学んだ二人だった。
「えぇと……それじゃあ、俺はブルーハワイで。イハさんは何味にしますか?」
蓬生 結(よもぎ・ゆい)は自分の注文を済ませると、向かいの席に座るパートナーのイハ・サジャラニルヴァータ(いは・さじゃらにるう゛ぁーた)に、写真つきのメニューを渡した。
「う〜ん……いろんな色があってカラフルですわね。私、カキ氷ってはじめてだから悩みますわ」
イハはしばらくメニューを眺めた後――
「それじゃあ、私はこの赤いイチゴ味のカキ氷にしますわ」
と、注文を決めたのだった。
「それにしても、結も子供らしく皆と海で泳いでくればよろしいのに。私はここで待っていますわ」
「い、いえ。ここでイハさんとカキ氷を食べてますよ」
カキ氷を待つ間、二人の会話は弾む。
そして、あっという間にカキ氷は運ばれてきた。
「海の家でカキ氷なんて、小さいころに家族で行った海水浴以来ですよ。いただきます」
「なんだか、ドキドキしますわね。いただきます」
二人同時にカキ氷をを口に運んだ。
結の感想は――
『この独特の人工甘味料の風味……こんなものどこが美味しいだろう!?』
と思わず心の中で叫んでしまうほどだった。
ところが、イハの方は違ったようだ。
「うん、冷たくてとても美味しいですわね。色によって味が違うのかしら? 結、一口ずつ交換してみましょう。はい、口を開けてくださいな。あ〜ん」
イハは、カキ氷の味が気に入ったようだった。
「……? どうしましたの、結? 美味しくないんですの?」
「い、いえ……とても美味しいですね。はい」
「よかったぁ。それじゃあ、あ〜ん」
「あ、あ〜ん……」
結局、結とイハは全種類のカキ氷を制覇したのだった。あ〜んで互いに食べさせあいながら。