空京

校長室

【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション

リアクション公開中!

【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション
【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション 【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション 【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション 【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション 【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション 【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション 【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション 【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション

リアクション

 
 大食い選手権が終わっても、『あおふろ』には人が絶えず訪れていた。
 各地で行われている騎馬戦やビーチバレーでお腹を空かせた者たちが、休憩時間に大挙して訪れることもあった。
「さあ、今日はこの大きな鍋で、パエリアを皆さんに振る舞うよ」
 そうして訪れた生徒たちへ、エプロン姿がサマになっている本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が大きな鍋いっぱいにパエリアを広げ、一気に熱を通す。普段なかなか見ることのないパエリアの調理風景は、客寄せのパフォーマンスとしても効果を発揮していた。
「たまにはこういうのもいいですね、リバー」
「ああ、お前が楽しそうで嬉しいよ。……あ、これ甘くねーからフランシャード食って」
 海の家で二人穏やかな時を満喫していたフランシャード・ナギ(ふらんしゃーど・なぎ)の所へ、リバー・ミカエル(りばー・みかえる)が甘くないからとパエリアを渡す。
「美味しそうなのに……君の辞書には栄養バランスというものはないのですか?」
「今日一日くらいなんてことねーよ」
 構わずアイスにかぶりつくリバーにため息をついて、フランシャードが出来立てのパエリアに舌鼓を打つ。
「じゃあ、ボクは『あおふろ』オリジナルドリンクを作ろうかな。カップル用のメニューなんかあってもいいよね!」
 涼介の料理が好評を博する中、ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)の作った『マーメイドラバーズ』――レモンジュースとパインジュースにブルーハワイシロップを混ぜたもの――も生徒たちには好感触であった。
「ナギサくん、飲み物を持ってきたわ」
 そのジュースを受け取り、常磐城 静留(ときわぎ・しずる)が既に席に座っていた霧積 ナギサ(きりづみ・なぎさ)の前に腰を下ろす。折角の機会にとセクシーな水着を纏った静留は、本人の色っぽい容姿も手伝って海の家の生徒の視線を集めていた。
「こんな身近に契約者が大勢集まるなんて、興味深いね。……分かってるよ、今のボクと静留さんは恋人……でしょ?」
 その回答に満足した様子で、静留そしてナギサが一つのジュースに刺さったストローそれぞれに口をつける。

「……はい、承りました。少々お待ちくださいね」
 生徒から注文を受けた緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)がぺこりと頭を下げて、注文を伝えに厨房へ向かっていく。『ちぎのたくらみ』を使用して外見年齢11歳に変身した遙遠は、『ハルカちゃん』として普段から接客業のバイトに就いていたこともあり、その立ち振る舞いは堂に入っていた。
(はぁ……ハルカちゃんはやっぱり可愛いですね〜。可愛い水着もたくさん見られますし、幸せです〜♪)
 同じく接客に携わっていた紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)が、ハルカちゃんとうっとりと眺めて幸せそうな表情を浮かべる。
「海の家のカレーと言えば塩辛いことで有名だが、ひと泳ぎした後の身体にはそれも悪くないだろうな」
 テーブル席では、イルミンスールの男子公式水着に身を包んだ白砂 司(しらすな・つかさ)が、グダグダ言いつつもカレーを食べていた。
「そもそも猫は泳がないといつも言ってるじゃないですか……まったく」
 そしてテーブルの対面では、パートナーであるサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が不服そうな顔で、司を見ていた。
「おまたせしましたー、カキ氷二つです」
 店員が、青と赤のカキ氷を置いていく。それを見て、司が唸る。
「う〜む……カキ氷だって言うほど上等な食べ物ではないし、シロップも安いものだ。普段なら決して買わないようなものだが……こういうときには、こういうものにも風情があるものだな」
「司君の口は相変わらずですね。グダグダ言ってないで素直に楽しんじゃえばいいのに」
 サクラコは呆れた様子だった。
 テンションが対極にあるような二人だったが、カキ氷を食べ始めるのは全く同時だった。
「んぐぅ……!?」
「あ、痛たた……!?」
 ――そして、お約束のキーンが頭に来るのも同時だった。

(いやぁ……ここにも幼女、そして海にも幼女……海は良いなぁ……)
 窓辺の席を占領して、レフ・ゼーベック(れふ・ぜーべっく)が店内の様子と海の様子を交互に見比べて悦に浸っていた。手元にある双眼鏡は『誰かが溺れたら大変だから常に観察しているだけ』というのを建前に、ほとんどが幼女を映し出すためだけに利用されていた。
(おにーちゃんってば、エルが居るのに他の女の子ばっかり見てる、です……おにーちゃんにはエルだけでいいのに……)
 向かいに腰を下ろすエルミルミニョル・ミューテイト(えるみるみにょる・みゅーていと)が嫉妬心を滾らせているところへ、レフが先程注文しておいたかき氷が目の前に置かれる。
「……か、かき氷くらいじゃ……許してやらんのです……」
 ジト目を向けつつ、エルミルミニョルがかき氷を一口すくって口に入れる。
「……ちめたいっ!!」
 キーンとする頭を押さえるエルミルミニョル、先程までの妬みはすっかり吹き飛んでいた。

「さぁ皆さん、常にスマイル! で盛り上げていこうじゃないですか!
 接客係の心得は、
 常にスマイル!
 周囲への気配りを忘れずに!
 お客様からの呼び出しには即対応!
 敬語・譲位語は基本!
 調理係や仲間とのアイコンタクトも大切!
 ですよ!」
 ルイ・フリード(るい・ふりーど)の朗々とした声が響き、『あおふろ』のスタッフが各所に散っていく。
(ルイ……まさかとは思っていたが、褌のまま接客なのか)
 少し離れたところでそれを目撃していたリア・リム(りあ・りむ)が、ルイの水着=褌姿にふぅ、とため息をつく。しかし当のルイは全く気にしておらず、それに彼自身があまりに堂々と着こなしているせいもあって、格好を咎める者は皆無であり、むしろ『海の男らしい』と高評判ですらあった。
(……まぁ、賑やかで楽しい雰囲気を壊さぬのであれば、よいか。……さて、これほど暑いと調理班も大変だろう。接客班にも休憩を取らせねばな)
 周囲を見渡していたリアの視界に、客からの注文を取り終えて厨房へ向かおうとする高峯 秋(たかみね・しゅう)エルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)の姿が映った。
「ああ君たち、済まないが調理班の者たちに冷えたドリンクを持っていってやってくれないか。それと接客続きで疲れただろう、休憩を取るといい」
「あっ、はい、分かりました! えっと、何でも頼んでいいんですか?」
「ああ、好きなものを作ってもらうといい」
「やったー! エル、何食べよっか? どれも美味しそうで目移りしちゃうなー」
「うん、悩んじゃうね。……こんなにいっぱいお客様がいるのを見たの、ボク初めてだよ!」
 ワイワイとはしゃぎながら歩き去っていく秋とエルを見送って、リアも笑みを浮かべて接客へ向かっていく。
 
「水上騎馬戦、ビーチバレー、おまけにスイカ割りか……いやぁ、何時までもこういう平和な世界であって欲しい物だねぇ……」
 黒雅岬 嘉応(くろがさき・かおう)は畳の間に座りながら、まったりと趣味の絵を描いていた。彼のスケッチブックには、ビーチで白熱する十二星華たちが明るいタッチで描きこまれている。
「あー、アンカティミナス。そこの画材取ってくれないか……って、ん?」
 嘉応がふと顔を上げると、そこにはパートナーのアンカティミナス・クトゥールク(あんかてぃみなす・くとぅーるく)のむくれた顔があった。
「……何むくれてんだお前?」
「元々そなたは戦いを好まぬ人柄だ。たまにはこういうゆっくりするのもいいかもしれん。とはいえ……何だそのだらしない顔は!?」
 アンカティミナスは、ビシッと嘉応の顔を指差した。
「他所の女達の水着姿に鼻の下を伸ばしおって、情けない! わ……我だって水着を着ているのだ! す、少し位、我を見てくれてもいいであろう……!」
 一息に叫んだアンカティミナスの頬は、太陽の熱以外で赤くなっているように見えた。
「……あぁ、はいはい。わかったわかった。俺が悪かった。だから、こっち来て座ってなって」
「や、やきもちではないぞっ!」
 この後、二人は寄り添いながら夕日が沈むまで海を眺めていたのだとか。
 
「予測通り、沢山の方がおいでになられましたわね。手際よく捌いていきませんと」
 人の流れが絶えない『あおふろ』の店内を、ルディ・バークレオ(るでぃ・ばーくれお)がエプロンをなびかせつつ動き回り、注文の承りから料理の運びを綺麗にこなしていく。彼女曰くホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)の代役とのことであったが、おそらくホイップ以上に働けているのではないだろうか。
「レオ、流石ですね。……あの、先程から男性が私をじっと見ているようなのですが」
 ルディ・スティーヴ(るでぃ・すてぃーぶ)がやって来てルディに小声で相談する、確かに彼女の背中へは、多数の男性の視線が浴びせられていた。
「大丈夫ですわ。そのままでいさえすれば、より一層オーダーを取ることが出来ます」
「そ、そういうものなんですか?」
 ルディの言葉に首をかしげつつ、そのまま注文の承りに戻っていく。すぐさま複数の手が上がり、休まる暇が無いほどであった。

「い、いらっしゃいませー!」
 メイド服とビキニを合わせたようなコスチュームに身を包み、超感覚で猫耳まで生やした瓜生 コウ(うりゅう・こう)は、引きつった笑顔で海の家に客を迎えた。
 彼女は、パートナーの最強の鍵ジョイン ジョイント’キィ(さいきょうのかぎじょいん・じょいんときぃ)に上手く乗せられて海の家でウェイトレスをしていたのだが、実際のところ、この『海の家』が何なのか知らなかった。アメリカでのお嬢様暮らしが長ければ当然のことだ。
 なので、ジョイント’キィに――
「この『ウミノイエ』って所は何をする場所なんだ?」
 と質問してみたのだが、ジョイント’キィも――
「『ウミノ=イエ』とは海でイエ。すなわち、かのクトゥルフ神話に記されている、大いなるCが眠るルルイエの館のことだ。そしておそらく、この場所はそこを模して建てられたのだろう」
 やはり海外出身のせいか、微妙に間違った方向に憶測してしまっている。
 そのせいなのか、皆をもてなそうと厨房に立った彼の料理は、何かが間違っていた。
「私の無限の記憶によれば、海の家のカレーは具が極めて少なく、ヤキソバはあたかもゴムのようであり、スイカはもちろん冷えておらず、カキ氷に至っては狂気じみて青いシロップがかけられているという」
 と言って作られていく数々の間違った料理たち。
「本当にこんな料理、出していいのか?」
「いいのだ。海の家とはそうしたものだ」
 この後、客たちは箸をポロリしてしまったとかしなかったとか。