空京

校長室

【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション

リアクション公開中!

【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション
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リアクション

 
「さあ、次の勝負の行方はいかに! 十二星華に挑む生徒は軒並み高配当!」
 ビーチバレー会場の横では、賑やかな戦いを目撃しようと多くの見学客が訪れていた。その者たちを相手に、ヨーゼフ・ケラー(よーぜふ・けらー)がトトカルチョを取り仕切っていた。普段の生真面目な雰囲気をそのままに、商売上手な面を垣間見せての企画であった。
「……そこのあなた、証拠は押さえましたわ。抵抗は無駄です」
 となると、どこにでもいる違法なノミ屋や予想屋が出て来るものだが、それは一般客を装って見回りをしていたエリス・メリベート(えりす・めりべーと)に取り押さえられる。会場外でも盛り上がりを見せる中、次の試合が行われようとしていた。
「セイニィ、俺が勝ったら魔法少女の衣装着て胸を触らせてくれ!」
「はぁぁ!? 何言ってんのよあんた、そんなこと出来るわけ――」
「あらセイニィ、受けないのかしら? ……もしかして、わたくしたちに姿を見られるのが恥ずかしいのかしら?」
「……あれでセイニィは恥ずかしがり屋だから」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)に条件を提示されたセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)が顔を赤くして反論しかけたところで、ティセラとパッフェルの何やら言いたげな視線、そして何故か胸を強調するスタイルを目の当たりにして言葉が止まる。
(協力感謝するぜ、ティセラ、パッフェル)
 繰り広げられる光景に、事前に『牙竜がセイニィにアタック出来るように根回しする』目的でティセラとパッフェルに近付いた閃崎 静麻(せんざき・しずま)がグッジョブとばかりに親指を立て、隣ではレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が静麻の企みを呆れながら見守っていた。
「……ま、まさか、そんなことあるはずないでしょう!? ……い、いいわよ。魔法少女だろうが何だろうがやってやろうじゃないの!」
 ぺたんこの胸を張って、セイニィが牙竜の条件をのむ。
「……そうか。それならば本気で行かせてもらうぞ!!」
 まさか受け入れられると思っていなかった牙竜が、俄然やる気を出し始めるのを、パートナーの重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)はどこか安心したような目付きで眺めていた。

「行くわよ! グレートキャッツ!」
 セイニィがグレートキャッツで打ったボールが、空中で突然軌道を変えてコートに突き刺さる。
「これでセイニィ選手の14連続ポイントだー!」
 小次郎の解説の中、既にボロボロな牙竜がそれでも立ち上がり、ボールを手にする。
「まだだ……まだ負けてはいない!」(胸を触るまでは負けられない!)
 何度でも勝負を挑む牙竜を見遣って、セイニィが一瞬、表情を和らげる。
(懲りないわね……ま、悪くないんじゃない。あんたのその性格、嫌いじゃないわ――)
 瞬間、何かがすり抜けた感触にセイニィが現実に返ると、しかし既にその身体には登山で使うような頑丈なロープが絡み付いていた。
「機動性が強みのようだが、ニンジャを舐めるなよ。これで機動性は奪った、後は――」
 加減を間違えたかどこかおかしい縛り方になってしまったのを厭わず、牙竜がセイニィに詰め寄る。しかし、牙竜の手がセイニィまであと少しというところで、ロープがズタズタに切り裂かれる。
「……あんたねぇ……!
 触りに来るなら堂々と触りに来なさいよーっ!!
 グレートキャッツの一撃を受けて、牙竜が吹き飛ばされる。が、振り抜いたグレートキャッツにボールが当たり、相手にチャンスボールとして跳ね返ってしまう。
「今です! マスターの行為、無駄にはしません!」
 リュウライザーの両肩から発射されたミサイルから、先端テクノロジーの賜物である何やら粘り気のある液体が噴出され、それはセイニィのいたコート全体を覆う。
「…………何よこれ……」
 白濁の液体――一応言っておくが接着剤である――を浴びて身動きの取れなくなったセイニィが、心底うんざりとした顔で嘆いた時、ボールがぽてん、とコートに落ちた。

「あら、似合ってるじゃない」
「……この機に新たな趣味に目覚めてみるのもいいかもね」
「ちょっとそこ、好き勝手なこと言わない! ……うぅ、恥ずかしいわね……」
 あの後色々ありつつも、結局勝負には負けたということで、セイニィが魔法少女の衣装に身を包んで現れる。
「……約束は約束よ。す、好きにしたらどう?」
 試合中にあのようなことを言った手前、退くに引けなくなったらしいセイニィがツン、とやはりぺたんこな胸を反らして牙竜を誘う。
「そ、そうか、では行くぞ……!」
 あからさまに緊張した素振りで牙竜が一歩、また一歩とセイニィに近付いていき、そして手がセイニィの胸へと伸びる直前――。

「私の娘に手を出すなら、この私を倒してからにしろー!」

 突如砂の中から、どこかで見たことのあるような気がする人物が姿を現す。
「あ、あれは……!!」
「知っているのかティセラ!」
「ええ……あの方はわたくしとパッフェル、セイニィの生みの親。わたくしたちはあの方には逆らえない……!」
 がくり、と膝を折るティセラとパッフェルを、静麻とレイナが支える。
 
「ヒーローをやめた貴様に、私の娘はやらーんっ!!」

 どこかで見たことのあるような気がする人物の渾身のアッパーを受けて、牙竜が吹き飛ばされ海へと沈んでいく。
 彼が再びヒーローとして立ち上がる時は来るのだろうか……?

「ふぅ……みんなすごい技どんどん出してるよな。これじゃいくらあっても足りないだろ……」
 試合の合間、フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が用意したパラソルの下で和原 樹(なぎはら・いつき)が替えのビーチボールをせっせと膨らませていた。試合で用いるビーチボールは試合中こそ何をくらっても平然としているものの、試合が終わった途端破裂して使い物にならなくなってしまうため、樹の仕事は当分なくなりそうになかった。
「樹、無理はするな。この暑さだ、思う以上に疲労するはずだ」
 フォルクスが、冷えた飲み物を樹に渡す。ありがたくそれを受け取った樹が喉を潤し、氷術で冷やされたタオルで汗を拭う。
(ま、みんなが楽しんでくれてるなら、やりがいもある……よな)
 事実、これだけムチャクチャをやりながらそこそこ円滑に試合が進められているのは、樹のような裏方に徹している者たちの頑張りがあってこそである。
 休憩を終えた樹が、よし、と頷いて作業を再開した。

「やあリフル、試合、見させてもらったよ。凄いねえ……見てるこっちまで熱くなってくるよ」
 試合を終えたリフル・シルヴェリア(りふる・しるう゛ぇりあ)の所へ、シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)が飲み物を差し入れにやって来る。ありがたくそれを受け取ったリフルが喉を潤していると、ぐぅ、とお腹の音がなった。
「そういえば、海の家のラーメンを食べ損ねたって聞いたぞ。……じゃあ、こうしようリフル。君が一勝するごとに一杯、俺がラーメンを奢るよ!」
 シルヴィオの発言を耳にした瞬間、掴んでいた飲み物の容器がまるで紙コップのようにクシャリ、と丸められる。
「……今の発言、絶対忘れないでよ。もし忘れたらラーメンの海に沈めるから」
「ははは、そんなわけないだろ? じゃあ、次の試合も張り切ってくれ!」
 シルヴィオが笑顔を見せて立ち去っていく。既に豆粒ほどになっていた飲み物の容器――言っておくがれっきとした金属である――をちゃんとゴミ箱に捨てて、リフルは無表情の奥に闘志を滾らせる。

「シルヴィオ、あのような約束をしてよかったの? リフルさんが活躍なされるのはいいとしても、もしリフルさんや相手の方が怪我をなされるようでは……」
 見学席に戻ったシルヴィオを、日傘の奥からアイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)が出迎える。
「うーん、リフルに限ってそれはなさそうだけど、相手はちょっと運が悪かったかもしれないね。……っと、リフルの出番だ」
 シルヴィオが視線を向けた先では、諸葛 霊琳(つーげ・れいりん)アラン・エッジワース(あらん・えっじわーす)のペアがリフルに勝負を挑もうとしていた。
「勝てば言う事聞くアルね? じゃリフルさん、アランとワタシで一口ずつ血を飲ませて欲しいアルヨ」
 霊琳の言葉に、リフルは静かに首を横に振り、愛用のどんぶりを被る。
「……ラーメンは、最後の汁の一滴まで味わうもの。……私猫舌だけど」
「……霊琳さん、この方大丈夫ですの?」
「大丈夫アル。アレを被ってまともに動けるはずがない、これはチャンスアルよ」
 不安そうなアランを差し置いて、霊琳がボールを手にコートへ入る。
「え〜、前の実況が接着剤の直撃を受けて固まってしまったため、実況は私、アルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)がお送りいたします。……それにしても、今コートに立っているリフル選手、引き締まった肉体が素晴らしい! 胸から腰のラインはまるで神が生み出した芸術品!」
 実況席に座った途端、スケベ心丸出しで実況を開始するアルフレートに、音響調整の手伝いを買って出たアフィーナ・エリノス(あふぃーな・えりのす)がため息をつきつつ、アルフレートの言動を逐一チェックし、危険ワードは聞こえないようにマイクの音量を絞っていた。
「さあ、試合開始です! おーっと、霊琳選手とアラン選手、詠唱を始めたーっ!」
 高々と浮き上がったチャンスボールを見るや、霊琳とアランがほぼ同時に詠唱を始め、そしてほぼ同時に詠唱を終える。
「追いつけてよかったですわ。霊琳さん、参りましょう」
「合体魔法、『ライトニングバーン』アルよ!」
 火術と雷術が絡み合ったボールが、コートを突き抜けてリフルを襲う。
「……!」
 対するリフルは、どんぶりをボールに合わせるように首を傾け、防御の姿勢に入る。直撃を受けて炎と電撃がコートを駆け巡るが、それらが晴れた先には、無傷のリフルと上空に上がったボールがあった。
「な、何ィ!? あれだけの魔法を無傷アルか!?」
 狼狽える霊琳の前で、リフルが星鎌ディッグルビーを呼び出し振るう。
「……まずは醤油味」
 鎌を振るい終えたリフルが背を向けた背後では、コートに突き刺さったボールを中心として巻き起こった爆風に、霊琳とアランが吹き飛ばされていた。
「アイヤー!!」
「さ、流石は十二星華ですわ……」
 力尽き、救護所へ運ばれていく二人。
 その敗因はただ一つ、間が悪かったという他なかった――。