空京

校長室

【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション

リアクション公開中!

【十二星華&五精霊】サマーシーバケーション
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リアクション

 
「……えい」
 如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)の振り下ろした棒が、狙い違わずスイカを打ち、ぱかっ、とスイカが中の真っ赤な果肉をのぞかせる。
「ナイス、日奈々! じゃ、次行ってみよー!」
 日奈々がスイカを割りやすいように切り込みを入れて、冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)がスイカを足元に置き、日奈々に呼びかける。目隠しをされた状態の日奈々だが、その歩みに一切のブレはなく、ゆっくりとしながらも無駄のない動きでスイカへの道程を行き、切り込みが入った箇所を的確に打ってスイカを割っていく。
(……ま、日奈々だったら場所なんて教えてあげなくても大丈夫よね。でもま、教えてあげた方が雰囲気出るか。よーし、この調子で割りまくって目立ってやる!)
 普段から物が見えないという状況に慣れている日奈々にとって、目隠しをしてのスイカ割りなど造作も無い。しかし、そのことを知るのはこの場では千百合だけとあって、日奈々が一つのミスもなくスイカを割る度に、同じくスイカ割りに興じていた者たちから歓声が上がる。
「すごいのです! じゃわもまけていられないのですよー!」
「おやおや、他の方に迷惑をかけないように気をつけなさい」
 対抗心を燃やしている様子のあい じゃわ(あい・じゃわ)を窘めつつ、藍澤 黎(あいざわ・れい)がじゃわの歩数を計算に入れた誘導を行っていく。
(ふっふっふ……黎の声も確かに頼りですけど、じゃわはスイカさんと高さが同じなのです!)
 じゃわが目を閉じると、普通の背丈の生徒には感じられない、スイカの香りや気配、周囲を流れる風の変化がひしひしと伝わってくる。その本人にしか分かり得ない感覚を頼りにじゃわが歩を進め、そしてスイカの前に辿り着く。
「ここなのです!」
 じゃわが、黎が持たせてくれたじゃわ専用の棒をスイカに振るう……が、やはりじゃわ専用、当たりはしたもののスイカはびくともしない。
「むー、ここで諦めるようなじゃわではないです! あいじゃわあたっく!!
 じゃわが必殺技、『あいじゃわあたっく』を見舞うものの、中身の詰まったスイカは伊達じゃなく、見事に弾き返されて宙を舞う。
「にょわー!!」
「おやおや、これは大変だ」
 海の家の方へ飛ばされていったじゃわを追って、黎がその場を後にする。
(ああ……そこら中に血の匂いが満ちています。海といえばスイカ割り! 中身を抜いて干しますですよー♪)
 目隠しをして、一見それとは見えないよう布でぐるぐる巻きにした刀を手に、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が恍惚な表情を露にする。もう彼女の目にはスイカが人の首に、果肉が血と臓物にしか見えていないのであろう。
「うへへへへ、海! 水着ぃ! ちちしりふともも触り放題だぜぇ!」
 そして、先程からスイカではなく女の子ばかり追いかけている宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)の気配を捉えた優梨子が、自らの位置座標と相手の位置座標とを計算で特定し、刀を包んでいた布を一部解放して、狂気の笑みを深くする。
「……? 今、寒気がしたような……っと、お嬢はスイカ割りか。ま、お嬢にしちゃ無害な遊び……ん? 狙ってるのはスイカじゃない……? ってその手に持ってるのは刀じゃないっすかー!」
 蕪之進が異変に気づいた時には、優梨子の身体は加速に乗り、蕪之進の首と胴体を切り離す用意が既に整っていた。
「チ、畜生! まだロクにちちしりふとももを堪能してねぇってのに、こんな所で死んでたまるか!!」
 言うが早いか、蕪之進が本気の逃走を開始する。光学迷彩や情報撹乱といった自らが持つ技をフル活用して、何とか優梨子との距離を広げていく。
「ハァ、ハァ、ハァ……クソッ、とんだ目に合ったぜ――」
 しかし、災難はこれで終わりではなかった。
「もー、どうしてみんなこれを使ってくれないのかな? これだったら簡単にスイカが割れるのに。……うん、そうだね! だったら自分で使って、その効果を実際に証明すればいいよね! よーし、いっくぞー!」
 目隠しをした相沢 理恵(あいざわ・りえ)が意気込んで歩き出す、その手には周りの生徒が使っている棒ではなく、彼女が自作した釘バットが握られていた。
「あれ〜、結構難しいな〜。あそっか、パートナーの指示がないとスイカ割りじゃないよね。狐くーん!? 狐くんどこー!?」
 相棒であるフォックス・エイト(ふぉっくす・えいと)の名を呼びながら、しかし手には釘バットを持ちながら、理恵が蕪之進に近付いていく。
「お、おいやめろ来るな、あっち行け!」
「相沢殿、どうしたでござるか?」
 蕪之進の背後の木陰から、声が聞こえたとばかりにフォックスが声を飛ばす。
「あっ、狐くん! ねえねえ、ちょっと手伝ってよー!」
 フォックスの声を聞きつけた理恵が、たたっ、と駆け出す。
「だからこっち来るなっつんだろぉ!?」
 蕪之進も駆け出し、ちょうど理恵、蕪之進、フォックスが一直線上に並ぶ。フォックスは蕪之進に隠れる理恵の姿を目撃出来ないまま、声だけが近付いて来るのに首をかしげていた。
「狐くん、あたしはスイカ割りには釘バットが最適だと思うんだけど、狐くんもそう思うよね!」
「んなわけねぇだろが――あっ」
 フォックスの代わりに蕪之進が答えたところで、運悪く転がっていた丸太に躓き、フォックスの休んでいた木陰に頭から突っ込む。
「な、何でござるか!? ……あ、相沢殿!? て、手に何を持っているでござるか!?」
「えー? だから釘バット――あっ」
 ようやくフォックスが事情を理解したところで、理恵も丸太に躓き、蕪之進とフォックスに手にした釘バットを振り上げる形になる。
「こ、こっちに来てはだめでござる!」「く、来るな、来るなよー!」
 二人の必死な声は、ちょっと鈍い、それでいてどこか小気味良い音にかき消されていった――。

「ふんっ!! ……ふむ、少し的はずれたが、まあこんなものか。自前の槍ならば一ミリのズレもなく貫けるはずだが……まあ、備え付けの棒ではこの程度だろう」
「ちょ、何冷静に解説してんのよっ! それスイカ割りじゃなくてスイカ突きだから! 貫かれて赤いものが飛び散るってビジュアル的にグロいですからっ!!」
 棒を槍のように構え、スイカを貫いて頷くコルセスカ・ラックスタイン(こるせすか・らっくすたいん)に、ルーシェン・イルミネス(るーしぇん・いるみねす)が青ざめた表情で文句を口にする。
 二人の目の前には、一点貫通する穴を開けられたスイカが、中の果肉を漏らしながら転がっていた――。

(うーん、どうしてこんなことになっちゃったんだろ?)
「早くするし! 僕とヨメの愛の力の前には、不可能なんてないし!」
 困った表情を浮かべる皆川 陽(みなかわ・よう)の視界の先には、スイカの隣に埋まった格好のテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)の姿があった。どうしてこうなったかといえば、テディの「スイカ割りは、割る役と誘導役との、ズバリ・愛! が試されるゲームだし!」発言が発端であった。
(ううーん、ボクは普通にスイカ割りを楽しみたかったのに……)
 強く言われると否定出来ない自らの性格を嘆きつつ、陽がどうしようか悩んでいるところに、怒った様子の声といたずらっぽい様子の声が届く。
「オイコラ待て、絶対わざとだろ!? 結構痛かったぞコンチクショウ!」
「あははー、ごめんごめーん、隣にあったから間違っちゃったよー!」
「隣とかいう距離じゃなかったろうが! だから待てって言ってんだろ!」
「ボクに追いつけるモンなら追いついてみなよー!」
 笑いながら逃げるレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)を、頭から一筋の血を流しながら高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が追う。
 彼らは別に愛を確かめ合うとかではなく、海に来て早々「だるい」と寝っ転がり、精霊がこの場で楽しめていることを見守っていた悠司を、せっかく海に来たのに動かないでいる悠司に運動をさせてやろうと、レティシアがスイカを叩くフリをして引っ叩いただけのことであった。
(……も、もしボクがテディを打ったら、やっぱり怒るよね……)
 今すぐにでも逃げ出したくなる気持ちになるのを、スイカの横でキラキラと目を輝かせているテディを見て何とかこらえて、意を決した陽が目隠しをし、テディの誘導の下ゆっくりと歩き出す。
「左、えっと右! ああ違うし、もっと右!」
「えっと、こっち? それともこっち?」
 あっちへふらふら、こっちへふらふらしながら、陽がスイカとテディの前へ辿り着く。
「そこで真っ直ぐ打てばいいし!」
 テディの声が、やや左から聞こえてきたことに陽は安堵のため息をつく。慎重に行けば、声の位置から大体の居場所が分かるので、少なくともテディの頭を打つことはないのである。
「……えいっ!」
 陽が棒を振り上げ、振り下ろす。テディの頭を打たなければいいやと思っていた一撃は、しかしこういう時に限りスイカにジャストミートし、勢いよく中の果肉が飛び散る。
「……うぇ。冷たいし、何かべとべとするし〜」
「……ああ! ご、ごめんテディ、当たるとは思わなかったよ」
 スイカまみれになったテディへ、目隠しを外した陽がペコペコと頭を下げて謝る。

「むぅ……これではまるで餓鬼ではないか」
 サミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)が「文和さん用に特別に用意してきまシタ!」と言って渡してきた水着――上下セパレートのへそ出し、子供用らしくひらひらしたのがついている――に身を包んだ賈 クが、全く起伏のない自らの胸に視線を落として不満げな表情を見せる。
「よく似合ってますヨ。じゃ、目隠ししましょうネ」
「……ちょっと待て! 何故私がスイカ割りなるものをせねばならん。貴様、私が武の心得がないことを知ってわざと焚きつけているのであろう?」
「そんなことありませんヨ。文和さんはできる子なのをよーく知ってるだけですヨ」
「む……そ、そうか。そういうことならまあ、付き合ってやらんでもない」
 サミュエルに煽てられる格好で、文和が目隠しをされ、棒を持たされていざ歩き出す……とすぐに、あっちへふらふら、こっちへふらふらし始める。棒を持つ手がぷるぷると震え、どうやら彼女には重かったようである。
「こ、こっちか? ……こっちなのか?」
 怯えた表情を見せる文和に、サミュエルの心に悪戯心が芽生え始める。
「文和さん右右! チガウ! もうちょっと左! ハイ、そこでポーズ!」
「右……少し左……ここでポーズ! ……ってするかあああぁぁぁ!!
 激昂した文和がサミュエルに棒を振り下ろすと、彼女の軍師としてのスキルの効果が見事に発揮され、サミュエルの――というより男性としての――弱点に棒がクリティカルヒットする。
「ふん! 私をおちょくった報いだ!」
 目隠しを外し、ぺたんこの胸を反らして言い放つ文和の足元では、弱点を痛打されたサミュエルがぴくぴく、と虫の息で震えていた。