空京

校長室

重層世界のフェアリーテイル

リアクション公開中!

重層世界のフェアリーテイル
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リアクション


・子供達と遊ぼう


「たまにこういうのもいいですね」
 お茶会でみんなが思い思いの時を過ごしている中、白木 恭也(しらき・きょうや)は花妖精の子供に花畑の紹介をしてもらっていた。
「アベルも、そんなむすっとしてないで」
「元々こういう顔だ」
 表情のないアベル・アランド(あべる・あらんど)へ目配せをする。さすがに、子供達が怖がったりすると申し訳ない気持ちになってしまう。
 無表情ながら、アベルがクッキーを花妖精へと手渡す。
「ほんと、綺麗な花ですよね。もし、大丈夫なら花の冠を作ってもいいですか?」
「こっちのはドロシーちゃんが大切にしてるからダメー。向こうの花壇の花なら、いいよ」
 その場所まで案内してもらう。
 昔何度教えてもらっても出来なかったため、花妖精達へのお礼も兼ねてリベンジしたかったのだ。
「あれ、やっぱり難しいな……」
「にーちゃん、ここはこうやるんだよー」
「こうですか」
 アドバイスをもらいながら、仕上げていった。
「お花の冠ですか〜?」
 ふと見ると、花妖精の子供達と一緒に花壇に水をやっている少女の姿があった。
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)だ。
「ええ、なかなか上手くいかなくて、この子達に教えてもらってるんですよ」
 苦笑しながら、恭也は答えた。
「ねーねー、さっきのお菓子、まだある?」
「あるですよ」
 ジョウロを置いて、ヴァーナーが子供達に妖精スイーツを振舞った。
「おひとついかがです?」
「では、頂きます」
 それを口に運びつつ、花を丁寧に編み込んでいく。
「出来た!」
 完成したそれを、作り方を教えてくれたバーベナの花の女の子へとプレゼントする。
「あ、よく似合ってかわいいです〜♪」
 ヴァーナーも顔をほころばせた。
 女の子の方も嬉しそうに、にこりと笑った。
 子供達を交え花壇の前に改めて座ると、ヴァーナーが、ドロシーからもらったハイ・ブラゼルのおとぎ話の絵本を読み聞かせ始めた。
 その頭には、ドロシーのとお揃いのヘッドドレスがある。
「それにしても、『大いなるもの』とはどんな存在なのでしょう。人の心から生まれたと聞くと闇龍を思い出しますわね」
 花妖精と戯れるヴァーナーの様子を眺めながら、セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)が呟いた。
 闇龍とは、「世界を滅ぼす闇」と言われた、実態のない不浄の魂の集合体であるとされる存在だ。実態がない故に、シャンバラ建国をめぐる戦い(建国の絆)で蘇った際も、「封印」という手段が取られており、もしかしたら「大いなるもの」はそれによく似たものなのかもしれない。
「『大いなるもの』がよみがえっても、このおはなしみたいにボクたちががんばるですよ〜」
「おー、おねーちゃんすごーい」
 意気込むヴァーナーに対し、子供達が目を輝かせていた。
「あれ、何だろう? あっちの人はどうして丸くなってるのかな?」
 一方で、子供の一人がその姿を発見した。
 笠岡 雅紀(かさおか・まさき)である。

「むぅ……ダメだよぉ、雅紀くん」
 高橋 咲夜(たかはし・さくや)は、困惑していた。
 有名な契約者みたいに目立ちたい、と思って一念発起した雅紀であったが、この調査団にそういった人達いると気付き、ショックを受けてしまったのだ。
「あうあう……花妖精に迷惑かけちゃーだめー。どうして花畑の前で体育座りしてずよーんとしてるのよぉ」
 負のオーラが流れ出ている雅紀へと駆け寄った。
「あれ、『だーくさいど』とかいうやつじゃない?」
「そうだー、『大いなるもの』だー」
 なんだか子供達が妙な方向へ盛り上がる。
「おにーちゃん、おねーちゃん、やっつけてー」
 おそらくごっこ遊びのようなノリだと思ってるのだろうが、本気で凹んでいる雅紀だからどうしようもない。
「なんだ!? オレの邪魔する奴はこの光条兵器で……出したことないから形は知らないけどな! 押さえつけてやる!」
「え……ちょっとぉー、こ、こんな所で光条兵器出そうとしちゃだめぇー」
 彼が胸を触ってきた。
「ちょ、何で……ここから出てくる? ……うそ!? ……出てきた」
「ってあれ?」
 ぽかんとする雅紀。
「これ……消火器……?」
 形状は、それだった。
「あぅぅ……知らないよぉ……私だって初めて光条兵器出したんだからー」
 咲夜は落ち込んだ。
「すっげー、身体から何か出てきたぞー、どうやったんだー?」
 しかし、手品のように見えたらしく、子供達にはうけていた。
 本人の意図とは違うが、目立つには目立っていたのであった。

* * *


「皆さん、こちらですよ」
 龍宮 乙姫(たつみや・おとひめ)が、子供達を呼び集めていた。
「さぁさぁ、今からそこのお兄さんが紙芝居を始めますよ。皆は見たことありますか?」
「『かみしばい』ってなにー?」
 知らないものには、興味津々な様子だ。
「今から始まるのは、日本という国にあった伝統のお芝居なのです。ふふ、紙芝居といえば、お菓子も忘れてはいけませんね。採れ立てのハーブやクッキーもいいですが、日本駄の菓子――水あめにミルク煎餅、酢イカも用意してみました。今から配りますので、見える場所に座って下さいね」
 子供達が腰を下ろしたところで、服部 止水(はっとり・しすい)は口上を始めた。
「地球とぱらみた。絆にて結ばれし二つの世界。その絆を断ち切らんと災い成す者うげんが現れた。一度は破りしうげんの野望……だがこれだけでは終わらない。
 彼が残した数億の超霊共が世界を破滅させんと暴走する。我らが尊きあいしゃ女王はうげんの妄執砕かんと、最後の女王器『ぞでぃあっく』に乗って立ち上がる。勇敢なる女王の決断に、契約者たちも奮い立つ!
 今、一つの終わりを巡る戦いの幕が上がる!」
 紙芝居をスライドすると、大きく「戦乱の絆」と書かれたタイトルが出てくる。
「尊きあいしゃ女王と契約者達の物語。はじまり、はじまり〜」
 おー、っと歓声と拍手が巻き起こった。

「紙芝居……そういう手もあったのね」
 その光景を遠目に、蒼澄 雪香(あおすみ・せつか)は声を漏らした。
「さっきの、『イコン』に乗って戦う話、聞かせて」
 子供達と話すのは、シャンバラのことよりも、自分達の学校がある海京と、天御柱学院が中心だ。
「ねー、『海』ってどんな感じなの?」
「そうね、青くて、広くて……うーん、いざ説明するとなると難しいわね……」
 この村から出たことがないという子供達は、海を知らない。
「見てもらった方が早いわ。これよ」
 携帯電話を取り出し、海京の写真を花妖精達に見せる。
「すっげー!」
 地球でも最先端の科学が集う街だ。目を見開くのも当然だろう。海も、都市も彼らには未知のものである。
「普段の様子は、こんな感じ。この街自体は出来てから実は、そんなに経ってないわ」
 一年、と言っても、この村にはそういう単位としての時間がないと話している間に分かっているためあえて口には出さなかった。
「ほら、光からも……」
 後ろに隠れている蒼澄 光(あおすみ・ひかり)に目配せする。
(相手は子供よ。大丈夫だから)
(……でも、やっぱり怖いよぉ)
 花妖精の子供が相手でも、話すのは難しいようだ。
「もう、仕方ないわね」
 それでも、話はしてみたいようで、雪香が代弁する形で会話をすることになった。
「そういえば、先程『おとぎ話』の大まかなことは聞かせて頂きましたが、その続きはどのようなものでしょうか?」
 子供達に問いかけたのは、オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)だ。
「ドロシーねーちゃんが話したのは、多分『異国の戦士と四人の賢者』だから、続きって言ったら『樹の守り人』になるかなー?」
「それは、どんなお話でしょうか?」
「えーっとねぇ――」
 ドロシーが聞かせてくれる話でも珍しいものなのか、思い出しながら切り出しているようだった。
『むかしむかし、大きな戦いがありました。その戦いで、緑が豊かだったその地は、すっかり荒れ果ててしまいました。
 もうここには住めない、そう思った人達はその地を離れましたが、わずかな人達は再び緑を取り戻せると信じ、残ったのです』
 主な登場人物は機械仕掛けの少女と一人の青年、そして彼の子孫と、長い年月に渡る壮大なおとぎ話だった。
『そして、緑が再び戻った風景を見て、機械仕掛けの少女も眠りにつきました』
「その少女は、どうなったのですか?」
「それが、教えてくれないんだよー。このお話はここでお終い、って」
 ただ、それを話す時のドロシーは、どこか昔を懐かしむかのようだと言う。
「ドロシーさんの創作した、ただのおとぎ話……とは思えませんわね」
「歴史のページが積み重なり、事実は神話に、神話はおとぎ話になる。『おとぎばなし』として伝わる出来事の中には『真実の断片』が含まれているものよ。ほら吹き話もたくさんあるけれどね」
 英霊であるエカチェリーナ・アレクセーエヴナ(えかちぇりーな・あれくせーえうな)が口にすると、説得力があった。
「ありがとうございました。またお話を聞かせて下さいね」

 お茶会の最中ではあるが、決して座ってまったりしているばかりではない。
「子供は元気が一番! こんなこともあろうかと、サッカーボールを持ってきたのさ! さ、やりたい子は集まれ〜」
 エル・ウィンド(える・うぃんど)がサッカーボール片手に子供達に呼び掛けた。
「サッカーってなんだ? どうやって遊ぶんだ?」
「ん〜、ルールが分からない? な〜に、簡単さ。二組に分かれてボールを相手のゴールに入れる、これだけだからね。……っと、ゴールとコートはどうするかな?」
 庭園の前の広場はお茶会の会場となっている。
 やるならば、どこか探すしかない。
「遺跡に向かう途中に、広い場所があるよー」
「よし、じゃあ案内して欲しいな」
 子供達に誘われ、エルが走っていった。
「待って下さい、エル。ってもう聞こえてませんか」
 ホワイト・カラー(ほわいと・からー)はこの村で採れた薬草から作られた薬の入った、救急箱を持って追いかけた。
(うーん、エルったらかっこいいところを見せようとして大人気ないことしなければいいんですけどねっ。どうせすぐオチがついちゃうでしょうし)
「よし、まずは蹴る練習をしよう。よーく見てなよ!」
 張り切るエルの声が聞こえてきた。
(例えば、靴がすっぽ抜けて頭に当たったりとか)
「ゴールデンドライブシュートッ!」
 勢いよくボール――は飛ばずに空振り、そのまま転倒した。
 靴は宙を舞い、頭に落ちてきた。
「……ってほんとにそうなってますよっ」
 これにはくすりと笑わざるを得ない。
「今のは、ちょっと勢いあまっちゃっただけだよ! よし、今度こそ――」
 そう言って少し空回りしながらも、子供達と一緒に楽しんでいるのは微笑ましいものだった。