空京

校長室

重層世界のフェアリーテイル

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重層世界のフェアリーテイル
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リアクション


・調査報告


 花妖精の村にある小屋の一つ。
 そこには本棚があり、ドロシーが長年の間に書いたと思われる「おとぎばなし」の書物が収められている。
「『異郷より来たりし者、閉ざされた世界に光を照らさん』……か。先輩はどう思いますか?」
 その場所で、高円寺 海(こうえんじ・かい)が調査結果のまとめ作業を行っていた。テーブルには、大量の本が置かれている。
「『異郷より来たりし者』、ってのはただこの村の外から来た人のことじゃなさそうだ。俺は、契約者のことじゃないかと思う」
 海と視線が合い、匿名 某(とくな・なにがし)は答えた。
 文明の利器、テクノコンピューターを駆使して、海がまとめている情報の整理を行いながら、某もこの村の「おとぎばなし」や「大いなるもの」について考えを巡らせてみる。
「『異国からやって来た戦士達』がそうだと考えると、いろいろしっくりくる。パラミタと地球、二つの世界が繋がった時に契約者が誕生する。だが同時に、両方の世界が乱れるんだ。その影響が、五千年前にこの地域にも出ていたなら、今の俺達みたいにやってきてたって、何ら不思議じゃない」
 なるほど、といった様子で海が頷いた。
「そう考えると、『大いなるもの』が誕生したのは五千年前、ということになりますか。イコンの残骸があることを考えると、可能性は高そうですね」
 声を発したのは、某と同じようにノートパソコンを広げているロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)だ。
「シャンバラに限らず文明を滅亡させる『何か』が起こってるなら、この辺りでは『大いなるもの』がそれに当たる……のかもな」
 ただ、それと四つの異なる世界の関連性はどうにも見えてこない。
「それを封印したのが四人の賢者。それぞれが自分の能力に合った世界……というより、ハイ・ブラゼル地方のどこかの地域でしょうか。そこで封印したのか、それとも」
 封印を守るために張った結界が、四つの世界を形成したのか。
 シャロン・ヘルムズ(しゃろん・へるむず)が口にするものの、答えはまだ見えてこない。
「……とりあえず、今分かっていることを整理してみるか」
 某はコンピューターの隣に、ハイ・ブラゼルのおとぎ話の元となったという『異国の戦士と四人の賢者』を開きながら、キーボードに打ち込んだ。

・「大いなるもの」は人の心――負の感情から生まれた実態なき存在。
・四人の賢者が封印したが、その方法は不明。
・戦いの影響でこの辺りは荒地だったが、その当時を知るのはドロシーだけ。
・数百年かけて緑が蘇り、花妖精が生まれるようになって、今のような花妖精の村となった。
・予言の存在からすると、昔の人は五千年周期を知っていた?


「皆さん、お疲れ様です」
 そこへ、結崎 綾耶(ゆうざき・あや)がハーブティとクッキーを運んできた。
「お茶会の人達から分けてもらって、作ってみました。その辺りで、少し休んではいかがですか?」
 幸い、人数も多い。
 某達は一旦休憩を取ることにした。

* * *


 しばらく時間が過ぎ――。
「ほんと、散々な目に遭ったわ……」
 花妖精の村に戻ってきた雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)が、顔を出した。
「でも、向こうを出た時は夜だったのに、こっちはまだ陽が出てるのね」
 どうやら、ゲート先とこの村では時差が生じているらしい。
「ちょっと遺跡の方見てきたけど、各ゲートから少しずつ調査団が村に戻ってきてるよ。詳しくは後で報告があると思うけど、大まかには伝えておくね」
 平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)が、海達に報告した。
「しかし、一つ妙な点がある」
 イスカ・アレクサンドロス(いすか・あれくさんどろす)が言う。
「ゲートの向こうにこちらから行くことが出来る、ということはあちらからも来ることが出来る……と思ったのだが、どうやらあちらの世界の者は――人や幻獣といったものは、こちらへ来ることが出来ぬようだ」
 こちら側の世界にいる人間は自由に行き来出来るのに、ゲートの先の世界で暮らしている者達はそれが出来ない。
 そこ何らかの力が働いているのは、間違いないだろう。
「だから、この村が襲撃される心配はなさそうだけど……むしろ、片方だけしか自由が利かないっていうのは、もしかしたらゲートが不完全なせいかもしれない。この村の『おとぎばなし』とかで、そのあたりも調べた方がいいかも」
 その後に、各世界の状況をレオが伝えた。
「海くん、とりあえず各世界で重要な要素からまとめるのが良さそうですね」
 杜守 柚(ともり・ゆず)は、海と顔を合わせた。
「そうだな。まずはそれぞれで拠点になる場所と、環境の違いの確認からか」
 マッピングを行った人のデータをパソコンの中に取り込む。
「第一世界は幻獣が住んでいる世界で、辺境の村。第二世界は、魔法協会の本部がある『スプリブルーネ』っていう街。第三世界はアンドロイドがいる未来的な世界で、『オリュンズ』っていう都市。最後は、ガンマンや無法者がたくさんいる荒野の世界で、酒場のある町……こんな感じかな」
 クッキーをかじりながら、杜守 三月(ともり・みつき)が分類を行っていく。
「しかも、第三世界に至っては本当の『軍』ですね。こちらでいうイコンのようなものもありますが、向こうは可変機が主流みたいです。第二世界の魔法協会は、それ自体が政治機関としても機能するほど、魔法の力が強くなっています」
「第一世界は、聖域っていう厳かな場所があって、その中にたくさん幻獣がいるみたいだね。第四世界は市長主催のガンマン達の大会がある。ほんと、見事なくらいにバラバラなんだね」
 それは、封印による影響でそういう文明になったのか、それとも元々そうだったところに封印がなされたのか。
「ガンマン!?」
 驚いたように大きな声を上げたのは、雅羅だ。
「知っていればそっちに調査に行ったのに……」
「次からは行けばいいだろ?」
 海が彼女を促した。
 先祖が保安官である雅羅としては、第四世界こそが相応しいだろう。
「そうね。たとえ無法者が襲ってきても、このバントラインスペシャルでやっつけてやるわ」
 巻き込まれ体質である彼女だが、今度は自分の意志で飛び込んでいくことを決めた。

 その先に待ち受けている災厄――「異変」に否応なく巻き込まれるとも知らずに。