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リアクション
<パラミタパビリオン>
パラミタパビリオンの癒しは【花と緑のパラミタ】。パラミタの様々な植物を紹介する展示だ。
それは小さな植物園のようになっており、歩いて見て回ることが出来た。各所には休憩用のベンチも置かれているため、植物に囲まれた空間を存分に楽しむことも出来る。
ティー・ティー(てぃー・てぃー)は客を先導しながら説明をしていた。
「こちらの花はツァンダの周辺によく咲いていて、街中でも見かけることが出来ます」
にこにこと話す彼女は、展示に訪れる客たちよりも楽しそうだ。
「こう見えても薬草の一種で、お茶にして飲むとリラックス効果があるんですよ」
万博の会場内にいるとは思えないほど、植物たちは自然に近い形で咲いていた。ティーの植物へ注がれる愛情もあってか、どれもが生き生きして見える。
出口付近には資料閲覧スペースがあり、そこでは自由にパラミタの植物について検索することが出来た。少しでも興味を持ってくれたなら、というティーの願いから設置されたものだ。
案内を終えたティーが客へ一輪の花を手渡すのを見て、源 鉄心(みなもと・てっしん)は口元を緩めた。
「ありがとうございました」
と、見送った後で新たな客を見つけて声をかけに行くティー。
「ようこそいらっしゃいませ、ご案内させていただいてもよろしいですか?」
* * *
全年齢対象であることを少し疑いたくなる【ランジェリー・ラボ】では、コルセットにTバック姿のナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が立っていた。義手義足を隠すために長手袋とニーソックスも着用しているが、それらが紫色のために娼婦のようだ。
「こちらはランジェリー・ラボ、どうぞ気軽に見ていって下さいね」
と、恥ずかしげもなく堂々と入り口付近を歩き回る。コンパニオンにしてはアダルティな匂いがするが、展示内容に即しているのも事実だ。
シンプルな白いブラジャーとショーツに、腰までの黒タイツを着た佐伯 梓(さえき・あずさ)は内心、戸惑っていた。以前まで肉体的性別が男だったため、女の身体としてどう振る舞うべきか分からないのだ。――でも恋人のナガンは普通にしているし、女は下着姿で人前に出ても大丈夫なものなんだろう。
「アズも立ってるだけじゃダメよ、口を動かさなきゃ」
ナガンに女言葉で注意され、梓ははっと頷いた。
「えー、えっと、こちらでは学校用の下着を展示してますー。規定に沿うよう、大人しめにデザインされたものらしいですー」
下着にもいろいろある。ナガンの衣装は戦闘用、梓は学校用だった。
展示内の別の場所では、いつもと変わりのないガーターベルトに網タイツとブラジャー、ショーツを着用したジグ ジャグ(じく・じゃぐ)が、勝負下着ともとれるセクシーな下着を着けたカリーチェ・サイフィード(かりーちぇ・さいふぃーど)と共に立っていた。
「こちらでは夜の性活用下着を展示していますわ」
ジグの言葉通り、そこは一際妖しいランジェリーが並べられていた。
しかし、客の視線は展示よりも『サイコキネシス』で無駄に胸を揺らすジグに釘付けだ。その隣で恥ずかしそうにしているカリーチェにもそれなりに注目が集まっている。
小さな胸を見られたくないカリーチェだが、客の視線は確実にそこへ向いていた。
「え、えっと、これは、最近販売をか、開始、したシリーズで……」
と、小さな声で必死に説明をするカリーチェだが、その様子がまた男心をくすぐってしまう。
「それで、い、いちびゃ、一番人気の色はこれで……」
カリーチェに突き刺さる飢えた男たちの視線。びくっとしたカリーチェは、とっさに助けを求めた。
「えーん、ジグさん助けてー!」
どうやら、この役は彼女には合わなかったようだ。
放っておいても人は集まるランジェリー・ラボ。しかし主催者である南 鮪(みなみ・まぐろ)は暴走――否、人集めに奔走していた。
「ヒャッハァー! そこの兄ちゃん、寄ってかねぇか? 見た目ほど悪い展示じゃないぜ?」
と、中へ入るのを躊躇っていた血獲狸射(チェリー)ボーイを拉致――否、案内していく鮪。
中ではナガンたちはもちろん、土器土器 はにわ茸(どきどき・はにわたけ)がこの上なく卑猥な動きをしながら歩き回っていた。耐性のない者が見たら一瞬のうちに顔を赤くしてしまうほどだ。
「さあ、好きなだけじっくり見ていってくれ! お嬢さんがたには試着コーナーなんかも用意してあるぜ!」
「……試着」
清良川 エリス(きよらかわ・えりす)の心が揺れた。
パートナーのティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)に連れてこられたエリスだが、いつの間にやら展示に見入っていた。そして鮪の一言ではっと目を覚ましたのだが……。
「試着まで出来るなんて素敵ですわね。さあ、エリス」
ティアの目がエリスをじっと見つめる。
「そ、それは……」
嫌だと視線で訴えるも、ティアに逆らう術を彼女は持ち合わせていなかった。
促されるまま試着室へ向かうエリス。最近は和服でも下着を着用するのが普通なため、エリスの考えなどティアには容易く想像がついた。
「ほら、和服でもラインの出にくい下着も試せるそうですわよ?」
「……!!」
気になる。とっても気になる。
相変わらず動きを止めないはにわ茸の横を通り過ぎ、ティアは試着用の下着をエリスへ渡して試着室へ押し込んだ。
着替えを待つ間、ティアはふと展示物の中に他と少し違う物がまざっていることに気がついた。誰かの使用済み下着だ。
「な、なんどす、このフィット感と軽さは!?」
試着室からそんな声がして、ティアは断りもなく中を覗いた。
「もしかしなくても気に入った様子ですわね」
「っ……こ、こんなの初めてどす。まさか、この世にこんな物があるなんて」
ティアはさりげなくエリスの使用済み下着を取り上げ、何事もなかったように言う。
「では、その下着は買取ということでよろしいですわね? 話を付けてきますわ」
と、鮪の元へ向かう。
「少し話があるのですけれど……あちらにある下着コーナーにこれも飾ってはいただけませんか?」
「お、そういうことなら断れねぇな。で、それは誰の下着だ?」
と、客の手前、声を潜める鮪。ティアも小声で答えた。
「今、試着室に入っているあたしのパートナーのものですわ」
エリスが着用してきた下着の見当たらないことに気づくのは、ティアに促されて展示の外へ出てからだった――。
人出の多い時間帯になると、ランジェリーラボには行列が出来ていた。
『最後尾カード』を手にした国頭 武尊(くにがみ・たける)はその整理に追われていた。
「こちらが最後尾になっておりまーす。列を乱さず、行儀良く並んで下さーい」
ざわざわする人々をきちんと並ばせ、マナーを守らない人がいないか注意して目を凝らす。
「ランジェリーは逃げたりしませんよー、出来るだけ静かにお願いしまーす」
その光景だけでも人の目を引いていたが、それだけではなかった。
かわいい不良猫の猫井 又吉(ねこい・またきち)の客引きの方法だ。その姿だけならまだマシなものなのに、又吉はヘリウムガスを吸い込んで声を変えていた。
「やぁみんな、ランジェリー・ラボは楽しいところだよ。みんな見に来てよ」
見た目と相俟って微妙な感じだが、それが無邪気な子どもたちの注目を集めていた。
「最後尾はこちらでーす、割り込まないできちんと並んで下さーい」
パラミタパビリオンでは最も盛り上がっているかもしれない、ランジェリーラボ。
「この感触、描かないわけにはいかないな!」
土方 歳三(ひじかた・としぞう)は目の前の下着の何かに感動し、すごい勢いでスケッチブックに筆を走らせ始めた。
漫画家として、下着メーカーのセコールを取材しているという彼は、非公式にセコールの協賛を得たランジェリー・ラボも取材対象にしていた。
手で触って布の肌触りを確認し、筆を紙にぶつけ、じっと観察して再び作業へ戻る。
そんなことをずっと繰り返して離れないパートナーに日堂 真宵(にちどう・まよい)はドン引きだった。
そのため、真宵は中へ入らずにいたのだが、ふと目に付いた「300%増量」の文字に目を疑った。
「さ、三百……?」
「シリコン、で……?」
ふと隣で同じように同じ物を見ていた立川 るる(たちかわ・るる)に気がつく真宵。
「あっ」
「あ」
互いに顔を知っている人だと気づき、真宵もるるも気まずくなった。――まさか、自分がこんな胡散臭い物に目を奪われていたなんて……。
それでもそのブラジャーが気になって仕方ない真宵とるる。
どうしたものかと逡巡する間もなく、五芒星侯爵 デカラビア(ごぼうせいこうしゃく・でからびあ)が二人の前へ現われた。
「ついに見つけてしまったようだな。それは『魔法のシリコンブラ』、300%までの増量を約束する代物だ!」
分かってはいたけれど、二人とも同時に目を丸くしてしまう。
「ほ、ほほ、本当に……!?」
「これを着けたら300%……!?」
はっと実物に目を戻す。
……確かに、でかい。女として着けたくなる気持ちも沸いてきたが、相手がいる手前、言い出しにくかった。それに、そこまで胸に対してコンプレックスも……しかし、デカラビアの言葉が頭を離れない。
「どうだ? 素晴らしいだろう」
と、勝ち誇ったような笑みを浮かべるデカラビア。
じーっと『魔法のシリコンブラ』に見入るしかない真宵とるるだった。
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