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リアクション
検討と改善(3)
設備や資産の話が出たから、という訳ではないが、「防衛問題」に続く次の議題は「学校の会計と予算」に関するものとなった。
「かなり予算を喰うだろうが、学生たちには何処に行っても通用する技術を身につけて貰わねばならんからな」
アルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)が説くはパソコンやらサーバーといった、いわゆる「ハイテク機器」の設置と意義だ。
現代建築においてコンピュータやロボットの活用は必須であり、もはや主流だ。そうした機器の導入はもちろんのこと、性能の良い機器を備えることが良き学びの環境を整えることに繋がると彼は主張した。
「もちろん私もできるだけ新しいタイプの方が良いとは思うんだけど……」
ラクシュミがチラリと、窺うように横目を向ける。これを受けて察した小松 帯刀(こまつ・たてわき)は、束ねた資料の中からその一枚を素早く見つけて、
「こちらに」と天璋院 篤子(てんしょういん・あつこ)に手渡した。
「ありがとう。え〜と、どうかな、と」
資料に目を通す篤子。二人は「学校の会計業務」を担っている。黒羊郷の岩城運営を軌道に乗せた実績が評価されての抜擢だった。
「各学部学科に最新モデルを導入するなんて予算は無いわ。って、当然よね」
「うっ……やっぱりですか」ラクシュミがっかり。
「各学部への予算配分は今後行うとして、それでも今のままでは中古品が並ぶことになるでしょうね」
篤子はあくまでも冷静に応えて言ったつもりだが、ラクシュミにはプレッシャーになったかもしれない。予算の無駄遣いはしていないつもりだろうが、それでも何かと嵩むのが費用だ。しかもゼロから学校を作るとなれば尚更だ。
「わかりました、各校へ「お願い」しましょう。より良い環境を目指すという理念は理解していただけると思いますし」
ニルヴァーナ校の予算および学校建設に必要な費用は全て、パラミタ各校が均一同額を「出資」という形で負担している。均一なのは覇権争いを生んだり、また発展するのを避けるためである。
「あの……ちょっといいかな」
そう言ったのは赤城 花音(あかぎ・かのん)、ちょっぴり小柄な歌姫だ。
「ニルヴァーナ校の運営財源に関してなんだけど、基金を設立してお手伝いしたいなと思ってるんだけど」
幼い顔で、実に堅実で献身的な意見を述べた。
「音楽科の特別カリキュラムとしてなんだけどね、生徒が創る音楽で利益を作って、それをニルヴァーナ校の運営に役立てる……って計画なんだけど」
「それは……良いんですか?」
素晴らしいと称賛しようとしてラクシュミは躊躇した。本来ならばそれは学校に還元すべき利益ではないからだ。
「もちろん強制はしないよ、同意してくれる人だけに参加してもらえれば良いんじゃないかな。ボクはボクの活動を社会貢献に役立てたいんだ」
「花音さん……」
その心意気にラクシュミはホロリと涙を浮かべた。
「でね? パラミタの各地で公演をしたりしたいんだけど、そうすると各校の同意と協力が必要でしょ? 資金面の話をするなら、その時に一緒に話して貰えないかな?」
なるほど、話がここで繋がった。なるほど確かに各校の代表者に打診するのであれば同じに話をするが効率はよい。
「諸計画をまとめた書類は僕が」
リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)が名乗り出る。彼は裏方としてこのプロジェクトに参加、各校との交渉や生徒たちのプロデュースも出来ればと考えているそうだ。大きな舞台への出演を目指しているという。
「分かりました、一緒に提案してみます」
音楽科には一体どんなアーティストが集まるのだろう。授業の開講に向けて、また一つ楽しみが増えた気がした。
アルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)の超短期出張。校長であるラクシュミの元へと出向き、またそこで行われていた議場にも出席した上で、ハイテク機器の調達と設置を嘆願した。
そんな彼が校舎3階、南廊下に戻ったとき、一番に彼を迎えたのはパートナーのアフィーナ・エリノス(あふぃーな・えりのす)だった。
「おかえりなさい。どうでしたか?」
「あぁ。悪くない」
意図は十分に伝わった、予算獲得のために動いてくれる事も約束してくれた。現時点で金額や規模は不明だが、そこはラクシュミの手腕を期待するとしよう
「予定通り、ソフトの選別を進めてくれ。リストアップしてしまって構わない」
「すでにここに」
アフィーナが手渡す。リストは建築学科に導入を提案する「コンピュータ・ソフト」のリストである。
「早いな」
「最新のソフトを探しただけですから。手抜きです」
「素直に言う辺りが君らしい」
ネット環境が整っていないニルヴァーナでは、ネット上からのダウンロードという調達方法が使えない。そのため必要なソフトを購入、または取り寄せる必要があるのだ。
「なるほど。厄介なのは予算が組まれてから、というわけか」
「はい。覚悟しておきますわ」
導入機種とソフトが授業の質を左右する。補給方法が限られている事もまた選別の難易度を上げているといえよう。
「報告なのですが」
エリス・メリベート(えりす・めりべーと)が「お疲れさま」と前置いてから続けた。
「校舎の一階と二階は、廊下とトイレ、それからエントランスや階段部分は大方作業を終えています。保護梱包材は付けたままにしてありますが」
また現在、彼女のパートナーであるヨーゼフ・ケラー(よーぜふ・けらー)が校舎二階廊下天井部の照明や教室の冷暖房器を取り付けるべく下見を行っているという。設計図も箱もほぼ完成していると言えるが、肝心の電気系統が今も整備されていないため、ここだけはどうにも作業が進まないという。
「オットー(オットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく))さんが発電施設に掛け合ってくれているそうなので、状況は後ほど判明するとは思います。そう言えばヘンリエッタ(ヘンリッタ・ツェーンリック(へんりった・つぇーんりっく))さんはご一緒ではないのですか?」
「あぁ、彼女はまだラクシュミの所だ。採掘機械の搬入許可と手続きをしているはずだ」
発電施設では機晶石発電を採用することが既に決まっている。ニルヴァーナ校の隅々まで安定して電力を送るためにも大量の機晶石を採掘する必要がある。シャンバラの機晶石採掘鉱山で使われている機械を至急送って貰えるように手配するのだという。
それらの機械も回廊を通せないようなら、分解して持ち込む予定だ。
発電システムの構築と同時に「変電所」や「送電網」の建設も順次行われる。少しずつではあるが確実に、この都市の下地は整いつつあるようだ。
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